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第十一章調査員派遣

第十一章第十九節(朝令暮改)

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                 十九

 錦州の火の粉がパリへ燃え移ろうとしかけた二十三日、そんな彼らの懸念を払しょくする電報が東京から届いた。

 「錦州方面への出動はあり得ない」

 幣原外相は、南次郎陸相と金谷範三参謀総長が意見調整した結果だから間違いないと請け合った。これを見た三大使は、ほっと胸をなでおろした。
 折よくチチハル方面からも撤退の知らせが届いた。二十四日に開かれた午餐会ごさんかいの席で、芳澤はその吉報をブリアン、セシル、レルーへ披露した。
 芳澤の報告を聞いた一同も心から喜んで、テーブルはふたたび和やかな談笑に包まれた。

 すっかり気をよくした芳澤は、日本代表部が事務所を置くコンコルド広場沿いのホテル・クリヨンへ意気揚々と戻ってきた。すると深刻な表情の沢田がこれを迎えた。
 これまでも幾度か味わった“嫌な予感”が走った。
 案の定、幣原外相から新しい電報が届いていた。

 東京は関内かんない(長城の南側)の張学良軍が十万を数え、錦州を中心とした遼西方面には二万人が駐留していると告げてきた。そして錦州政府はこれら部隊や馬賊を別動隊として満鉄沿線を攪乱するばかりでなく、付属地の日本軍の脅威となっていると言う。
 それはつい先だって、パリの「三大使」から東京へ注意喚起したことそのものではないか--。

 「やはり形勢はすこぶるひっ迫している。ついてはブリアンの助力を申し出よ」

 芳澤は目を疑った。昨日、錦州の脅威を“取り越し苦労”と払い去ってきた当の本人が、それと真逆のことを「さも当然」のように伝えてきたのだから--。
 すでに理事会幹部を前に「日本軍による錦州攻撃は事実無根だ」と胸を張ったばかりなのに……。いったい、あの電報は何だったのか。
 芳澤は先ず、「果たしてどの情報が本当なのか」を問いただす照会を打った。
 
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