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第十章昴々渓・チチハル
第十章第二十八節(旅団長失踪)
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二十八
旅団長を乗せた装甲車は、北極星を目印に全速力で北へ北へと急いだ。それでも四周は真っ暗闇で、行けども行けども友軍の姿は見えなかった。
そのうち北の空にかすかな明るみが見えた。
多分、あれがチチハルの市街なのであろう。
やっと安堵の息をついたのも束の間、車は三叉路に行き当たった。
果たしてどの道を選ぶべきか--?
それでもとにかく西へ西へと進めばチチハル=昴々渓街道へ出るはずだ。そう信じて、ひたすら西へと向かった。
突然、ドスン! と音がして、大きな衝撃とともに自動車が止まった。
運転手が外へ出てみると、装甲車は小さな溝に嵌っていた。しかもその衝撃で車軸が折れてしまっていた。
車中にいたのは伝令が一人と運転手二人のみである。
長谷部旅団長はつくづくついていないと苦笑いするしかなかった。
もしここで敵に出くわしたらとの恐れもあったが、最も気がかりなのは旅団の指揮を掌握できていないことだった。
偵察などの情報によれば、チチハルの南端には敵の強力な陣地があるという。もしそこで彼我の衝突が起こった場合、「旅団長の姿が見えない」では済まされない。
しかしこの晩の長谷部旅団長は、何度も捨てる神に捨てられ、拾う神に拾われた。今度も途方に暮れていたところ、向こうからかすかに人馬が近づいてくる音がした。
もちろん敵か味方かは分からないのだが……。
息を殺していると、それは幸い前衛部隊の小隊だった。彼らも味方からはぐれ、とぼとぼやってきたのだった。
それでも先ずは一個小隊を掌握し、再び北極星を目指して歩きだした。
それから二時間--。ようやく街道に行き当たった。
街道に沿って進むと、今度は四、五十メートル先に味方の歩兵を見つけた。聞けばそれは左翼追撃隊の先兵中隊だという。その中には大隊長もいて、大まかに次の情報を得た。
「ここにいるのは歩兵一個中隊のみで、聯隊主力がどこにいるのか分からない。師団司令部はこの先百メートル位のところを進んでいるが、ほかに友軍はいない。前方四百メートルのところには敵の陣地がある」
そんなこんなで取り敢えず、“旅団長失踪”の事態だけは避けられた。少将はホッと息をついた。しばらくして東南方面から乗馬した将校が数名現れた。今度は大島聯隊長の一団だった。
聯隊長も旅団長の無事を喜んだ。こうして夜間の追撃は難を逃れた。
旅団長を乗せた装甲車は、北極星を目印に全速力で北へ北へと急いだ。それでも四周は真っ暗闇で、行けども行けども友軍の姿は見えなかった。
そのうち北の空にかすかな明るみが見えた。
多分、あれがチチハルの市街なのであろう。
やっと安堵の息をついたのも束の間、車は三叉路に行き当たった。
果たしてどの道を選ぶべきか--?
それでもとにかく西へ西へと進めばチチハル=昴々渓街道へ出るはずだ。そう信じて、ひたすら西へと向かった。
突然、ドスン! と音がして、大きな衝撃とともに自動車が止まった。
運転手が外へ出てみると、装甲車は小さな溝に嵌っていた。しかもその衝撃で車軸が折れてしまっていた。
車中にいたのは伝令が一人と運転手二人のみである。
長谷部旅団長はつくづくついていないと苦笑いするしかなかった。
もしここで敵に出くわしたらとの恐れもあったが、最も気がかりなのは旅団の指揮を掌握できていないことだった。
偵察などの情報によれば、チチハルの南端には敵の強力な陣地があるという。もしそこで彼我の衝突が起こった場合、「旅団長の姿が見えない」では済まされない。
しかしこの晩の長谷部旅団長は、何度も捨てる神に捨てられ、拾う神に拾われた。今度も途方に暮れていたところ、向こうからかすかに人馬が近づいてくる音がした。
もちろん敵か味方かは分からないのだが……。
息を殺していると、それは幸い前衛部隊の小隊だった。彼らも味方からはぐれ、とぼとぼやってきたのだった。
それでも先ずは一個小隊を掌握し、再び北極星を目指して歩きだした。
それから二時間--。ようやく街道に行き当たった。
街道に沿って進むと、今度は四、五十メートル先に味方の歩兵を見つけた。聞けばそれは左翼追撃隊の先兵中隊だという。その中には大隊長もいて、大まかに次の情報を得た。
「ここにいるのは歩兵一個中隊のみで、聯隊主力がどこにいるのか分からない。師団司令部はこの先百メートル位のところを進んでいるが、ほかに友軍はいない。前方四百メートルのところには敵の陣地がある」
そんなこんなで取り敢えず、“旅団長失踪”の事態だけは避けられた。少将はホッと息をついた。しばらくして東南方面から乗馬した将校が数名現れた。今度は大島聯隊長の一団だった。
聯隊長も旅団長の無事を喜んだ。こうして夜間の追撃は難を逃れた。
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