210 / 466
第十章昴々渓・チチハル
第十章第十五節(敵襲2)
しおりを挟む
十五
向かいの屋根に機関銃が据えられ、猛烈に撃ち込んできた。
こちらも銃眼から短機関銃で応戦したが、敵の勢いは抑えられなかった。そうする間も迫撃弾は頭上から降ってくる。
「やられたっ!」
軽機関銃手の片桐が、右手を押さえてその場にひっくり返った。
手首から先が鮮血にまみれている。
「三郎、どこだ! 指か。下へ行って養生しとけ」
敵の弾は片桐の右指を吹き飛ばしていた。
装弾手の志田が叫ぶや銃を引き取った。片桐は徳三郎、志田は正三郎--。ともに新潟県三島郡の出だが、片桐は漁師町の寺泊、志田は山間部の生まれだから、いわば海彦と山彦である。同郷のよしみもあって、二人は互いを「三郎」と呼び合い普段から兄弟のように接してきた。
射撃不能に陥った片桐は干し草の山から下り、志田が代わって引き金を引き続けた。
ほどなくして敵弾が機関銃の二脚を破壊したので、仕方なく地物を使って銃身を支えながら射撃を続けた。小銃を持った者は盛んに遊底をスライドさせ、引き金を引く動作を繰り返した。
須藤工長は相変わらず手榴弾を投げつける。攻防は三、四十分続いたろうか。
敵との距離はジリジリ縮まってきた。
もはやこれまでかと思ったとき、上空彼方からエンジン音が聞こえた。屋内の守備隊は安堵の息を漏らした。
友軍機は敵の上空まで来ると急降下し爆弾を落とす。大きな地響きがして黒い煙と土砂が舞い上がる。屋内に「ワッ」と歓声が上がり、敵が右往左往するのが見えた。向かいの屋根の敵もいつの間にか姿をくらました。飛行機は再び旋回して近づいてくる。敵の銃先は監視隊がこもる家屋から上空へと転じられた。
取り留めのない小銃射撃が続くなか、友軍機は果敢に急降下してくる。敵の射撃が止まる。少ししてまた地響きがする。実に痛快だった。
向かいの屋根に機関銃が据えられ、猛烈に撃ち込んできた。
こちらも銃眼から短機関銃で応戦したが、敵の勢いは抑えられなかった。そうする間も迫撃弾は頭上から降ってくる。
「やられたっ!」
軽機関銃手の片桐が、右手を押さえてその場にひっくり返った。
手首から先が鮮血にまみれている。
「三郎、どこだ! 指か。下へ行って養生しとけ」
敵の弾は片桐の右指を吹き飛ばしていた。
装弾手の志田が叫ぶや銃を引き取った。片桐は徳三郎、志田は正三郎--。ともに新潟県三島郡の出だが、片桐は漁師町の寺泊、志田は山間部の生まれだから、いわば海彦と山彦である。同郷のよしみもあって、二人は互いを「三郎」と呼び合い普段から兄弟のように接してきた。
射撃不能に陥った片桐は干し草の山から下り、志田が代わって引き金を引き続けた。
ほどなくして敵弾が機関銃の二脚を破壊したので、仕方なく地物を使って銃身を支えながら射撃を続けた。小銃を持った者は盛んに遊底をスライドさせ、引き金を引く動作を繰り返した。
須藤工長は相変わらず手榴弾を投げつける。攻防は三、四十分続いたろうか。
敵との距離はジリジリ縮まってきた。
もはやこれまでかと思ったとき、上空彼方からエンジン音が聞こえた。屋内の守備隊は安堵の息を漏らした。
友軍機は敵の上空まで来ると急降下し爆弾を落とす。大きな地響きがして黒い煙と土砂が舞い上がる。屋内に「ワッ」と歓声が上がり、敵が右往左往するのが見えた。向かいの屋根の敵もいつの間にか姿をくらました。飛行機は再び旋回して近づいてくる。敵の銃先は監視隊がこもる家屋から上空へと転じられた。
取り留めのない小銃射撃が続くなか、友軍機は果敢に急降下してくる。敵の射撃が止まる。少ししてまた地響きがする。実に痛快だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
7
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる