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第十章昴々渓・チチハル
第十章第十四節(敵襲1)
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十四
「敵襲っ!」
水口主計一行が出発してから十分ほどすると、歩哨に立っていた布施一等兵が叫び声を上げた。
声と同時に敵弾がシューシューと空を切って飛んできて、家の土壁にボツボツっと鈍く突き刺さった。物資監視隊に緊張が走った。
各人は平野小隊長から与えられた指示の通り、それぞれの持ち場につこうとした。慌てて家屋の中へ飛び込もうとした布施一等兵が、戸口のところで倒れた。
腹部を押さえたまま苦しそうに唸っている。鮮血が防寒着の内側から滲み出て、みるみるうちに広がっていった。
中山と堀がすぐに駆け寄って布施を屋内へと収容した。
「傷は浅いぞ、しっかりしろ」
「すみません。大丈夫です」
応急手当で止血しようとする二人へ向けて、布施は真っ青な顔のまま努めて明るく振る舞った。
家の外周を囲んだ墻壁を盾に応戦していた仲林がひっくり返った。手薄になった防衛線へ敵弾が集中する。今度は猪浦三等主計が倒れた。
銃声を耳にした水口主計ら一行は急ぎ取って返し、各自の持ち場についた。
監視隊は家屋の北側に掘った塹壕一帯へ散開し、家屋の正面にあたる出口前と西北方に軽機関銃を据えて応射した。敵は村落の各出口を押さえて、盛んに銃弾を撃ち込んでくる。敵の弾は周囲の墻壁や土壁を突き抜け、刻々と監視隊を追い詰めた。
守備陣は当初、軽機関銃を家屋の正面に据えて敵に対応しようとしたが、正面の敵は意外に少なかった。このため、建物の西北角付近にあたる上壁の銃眼に移動して強大な敵に猛射を浴びせた。
ほどなくして水口主計は屋外の防衛線を諦め、全員を家屋内に集めた。塹壕から藤巻が戻ってきたが、金子と村山はダメだった。
敵は向かい側の家の屋根から撃ってき始めた。監視隊の家屋の中はその屋根から丸見えである。周囲を見渡すと興安龍騎兵が四百騎あまり、狙撃歩兵百名ほどが部落を取り囲んでいる。最前線に迫った敵との距離は十五メートルほどだ。須藤銃工長は窓から懸命に手榴弾を投げつけて敵の前進を阻んだ。
それだけでも多勢に無勢だというのに、敵は迫撃砲まで持ち出してきた。
上空からヒュルルルと気味悪く落ちてくる迫撃弾が屋根に当たって炸裂する。家屋全体が揺れて天井から土ぼこりがどさりと落ちてくる。
「この屋根、迫に堪えられるかな……?」
後藤一等兵が不安そうに見上げる。
「北満の家だ。寒さに耐えられるよう造りがしっかりしているから、かなり耐えられるだろう」
羽下二等主計が根拠もなく平気を装った。
「敵襲っ!」
水口主計一行が出発してから十分ほどすると、歩哨に立っていた布施一等兵が叫び声を上げた。
声と同時に敵弾がシューシューと空を切って飛んできて、家の土壁にボツボツっと鈍く突き刺さった。物資監視隊に緊張が走った。
各人は平野小隊長から与えられた指示の通り、それぞれの持ち場につこうとした。慌てて家屋の中へ飛び込もうとした布施一等兵が、戸口のところで倒れた。
腹部を押さえたまま苦しそうに唸っている。鮮血が防寒着の内側から滲み出て、みるみるうちに広がっていった。
中山と堀がすぐに駆け寄って布施を屋内へと収容した。
「傷は浅いぞ、しっかりしろ」
「すみません。大丈夫です」
応急手当で止血しようとする二人へ向けて、布施は真っ青な顔のまま努めて明るく振る舞った。
家の外周を囲んだ墻壁を盾に応戦していた仲林がひっくり返った。手薄になった防衛線へ敵弾が集中する。今度は猪浦三等主計が倒れた。
銃声を耳にした水口主計ら一行は急ぎ取って返し、各自の持ち場についた。
監視隊は家屋の北側に掘った塹壕一帯へ散開し、家屋の正面にあたる出口前と西北方に軽機関銃を据えて応射した。敵は村落の各出口を押さえて、盛んに銃弾を撃ち込んでくる。敵の弾は周囲の墻壁や土壁を突き抜け、刻々と監視隊を追い詰めた。
守備陣は当初、軽機関銃を家屋の正面に据えて敵に対応しようとしたが、正面の敵は意外に少なかった。このため、建物の西北角付近にあたる上壁の銃眼に移動して強大な敵に猛射を浴びせた。
ほどなくして水口主計は屋外の防衛線を諦め、全員を家屋内に集めた。塹壕から藤巻が戻ってきたが、金子と村山はダメだった。
敵は向かい側の家の屋根から撃ってき始めた。監視隊の家屋の中はその屋根から丸見えである。周囲を見渡すと興安龍騎兵が四百騎あまり、狙撃歩兵百名ほどが部落を取り囲んでいる。最前線に迫った敵との距離は十五メートルほどだ。須藤銃工長は窓から懸命に手榴弾を投げつけて敵の前進を阻んだ。
それだけでも多勢に無勢だというのに、敵は迫撃砲まで持ち出してきた。
上空からヒュルルルと気味悪く落ちてくる迫撃弾が屋根に当たって炸裂する。家屋全体が揺れて天井から土ぼこりがどさりと落ちてくる。
「この屋根、迫に堪えられるかな……?」
後藤一等兵が不安そうに見上げる。
「北満の家だ。寒さに耐えられるよう造りがしっかりしているから、かなり耐えられるだろう」
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