上 下
204 / 466
第十章昴々渓・チチハル

第十章第九節(不運)

しおりを挟む
                 九
 
 再び十七日、烏諾頭站うだくとうたんの宿営地--。
 トラック一台しかないとは言え、五時間も余裕があるのなら、何度かピストン輸送すればよい。ただし、あくまで敵に覚られずに……。

 このため、聯隊長と大隊長たちは鳩首きゅうしゅ会議を開いた。
「荷車がないのなら、トラックで持って行くしか仕方なかろう」
「いや、トラックでは敵にさとられ危険だ」
「ではどうする--?」

 結局、「兵隊には可哀相だが、ガタガタ音を立てて不利な状況を招くよりは良いではないか」ということに落ち着いた。それでも運びきれない分をトラックへ積み込み、ヘッドライトを消して隊列の最後尾から附いていくことにした。
 こうして聯隊の第一陣は午前二時頃、所定の場所へたどり着いた。なおもトラック四杯分の食糧弾薬が烏諾頭站うだくとうたんへ残された。
 若松騎兵隊も払暁までには作戦予定地へ移動せねばならない。坪井聯隊長は作戦開始までにできるだけの物資を運ぶよう水口主計に命じ、警備のために臨時編成の一個小隊を残した。

 この数日というもの、水口主計はとことんついてなかった。
 首尾よくトラックの第一便を運搬し終え、第二便へ向けて烏諾頭站うだくとうたんへ引き返す途中、さらなる悲劇が襲った。
 往路は敵を警戒しながらかなりの遠回りで聯隊についていったので、復路はできるだけ時間を節約しようと近道を選んだ。これがあだとなってトラックは途中、氷の張った沼に突っ込んでしまった。
 荷台は空だったが、人員は華人運転手と水口主計、ほかに兵卒三人がいたのみだ。力を尽くして引き上げようと試みたが、沼にはまったトラックはどうにもならない。そればかりか、みんなトラックを引き揚げようと沼に入ってびしょ濡れになってしまった。
「これではだめだ」
 一連の不幸を呪った水口主計だったが、致し方ないので運転手と兵卒を烏諾頭站うだくとうたんへ帰還させ、自分は何か別の手段がないか方々ほうぼう訪ね回った。しかし、友軍部隊はいずれも前線へ移動してしまった後で、どの集落ももぬけの殻となっていた。
しおりを挟む

処理中です...