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第六章(十月理事会)

第六章第二十二節(一対十三)

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                二十二

 たして理事会に出席する理事国と非加盟国は、同一の権利を持ち得るのか? 
 もしすべての非加盟国が理事会への参加を求めてきたら、これをどう扱うのか? 
 また承認に関する決議は“多数決”で行うのか、それとも“全会一致”とするのか? ちなみに今回の理事会招集の根拠となった「規約第十一条」は、“全会一致”による決議を前提としているが……。

 芳澤が提起する種々の疑問にブリアンとレディングが交互に答え、相手方からも手を換え品を換えて質問を浴びせてきた。もしここで一言ひとことでも間違えば、足元をすくわれ、すべての努力が水泡すいほうする。
 議論は三時間に及んだが、決着はつかない。そこでブリアン議長は強権きょうけんを発動し、この問題を多数決に持ち込んだ。もともと米国の参加に抵抗したのが日本ただ一国であったから、票決ひょうけつは“一対十三”であっさり可決した。

 聯盟側のこの強行採決に反発して、日本政府は即座に声明を発した。

 「米国政府が世界平和の維持に貢献しようと努力する点に、何ら疑いをはさむものではない。しかし、聯盟非加盟国が聯盟理事会に出席し、議事に参加するというのは前例がないばかりでなく、聯盟規約のどこにも見当たらない事項である。聯盟理事会の構成に|半跏はんかを及ぼす※ほど重要な事項の決定を、『単なる手続き上の問題』として過半数による採決にしたことにつき、帝国政府は重大な疑義ぎぎを有す」
 ※半跏を及ぼす=重要な作用を及ぼすこと。

 芳澤謙吉は昭和三十年代にちょした自叙伝の中で、当時のことを振り返った。聯盟代表理事としてくぐった数々の修羅場しゅらばの中で、最も緊張を強いられたのがこの局面だったという。

 「昭和八年の聯盟総会に松岡全権が出席して四十二対一の決議が行われた当時は、我が国がすで退であったから、我が代表部としてそれほど苦労はしなかったのであるが、米国の理事会参加の可否を決する昭和六年十月十五日の理事会に於いては、満洲事変勃発の直後であり、事変処理の方針も何等決定していないので、我が代表部の苦心は一方ひとかたならぬものがあった」 
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