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第六章(十月理事会)

第六章第三節(排日・排貨)

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                 三

 南京政府が言辞げんじろうして満洲への正規軍派遣をたくらんでいるのは間違いない。今のような状態で両国軍隊が入り混じれば、事態はなお一層混乱する。

 これまで日本政府は、国際儀礼にのっとって国際会議の舞台上で相手方を非難するようなことはせず、民国から売られたケンカにも常にの態度で応じてきた。だが聯盟理事会における両国の取っ組み合いは、すでに場外乱闘へともつれこんでいる。もはや宣伝戦に手加減は不要である。そもそもの原因は民国側の“排日はいにち”にこそあるのではないか!
 日本側はるいを将来へ及ぼすまいと、九日付で初めて相手方を非難する「抗議書」を作成した。
 
 「今回の満洲事変は、中華民国における長年の排日思想が我が軍隊に対する挑発的態度となり、我が軍が自衛的処置をったものであるから、責任は当然民国側にある」

 華人を相手の譲歩は禁物である。日本側が一歩譲れば彼らは必ず一歩前へと出てくる。関東軍が作戦を停止したにもかかわらず、今度は「軍隊が駐留していること自体が悪い」と難癖なんくせをつけ、排日はさらに全土へと広がった。なかでも上海を筆頭にした揚子江ようすこう沿岸の諸都市における排日活動は、ますます熾烈しれつを極めていった。

 「帝国政府は貴国における組織的排日運動に対し、何度も取り締まりを求めてきた半面、両国の親善をそこなわないよう、常に隠忍自制いんにんじせいの態度で事態の改善を期待してきた。しかし、上海その他の各地における反日会は、日本商品の売買および輸送の禁止はもちろん、既存契約の破棄や日本人との各種取引の禁止、日系商店・企業との雇用関係禁止などの対日経済断交だんこうを宣言したばかりか、検査抑留よくりゅうや脅迫、暴行などの手段を通じて国民にこれらの実効じっこうを強要している」

 日本政府が揚子江沿岸地域の排日・排貨はいか運動を取り締まるよう求めても、南京側は「政府には統制できない個人の自由意思によるものだ」といって取り合おうとしない。だが、かたちの上で「抗日救国委員会こうにちきゅうこくいいんかい」という隠れみのをまとっていようが、これらの活動が政府の母体である「国民党」の指揮下で行われているのは疑いない。排日・排貨運動はまぎれもなく彼らのとして行われているのだ。
 かり百歩譲ひゃっぽゆずってそんな事実はないとしよう。するとことはなお深刻になる。何故なら「私的団体に過ぎない反日会が個人に対して刑罰を課すのを政府が放置するなど、明らかに自国の国家権力を否認するものである」からだ。

 抗日会こうにちかいは邦人と商取引する華人商人や店員、日系の工場で働く従業員、さらには邦人宅の家政婦にいたるまで、およそ日本人とかかわるすべての自国民を脅迫し、嫌がらせを繰り返すことで対日経済活動を遮断しゃだんしようとしている。日本製品への不買運動はこれまでも度々たびたび起こってきたが、それこそ南京政府の言う「」によって徹底しなかった。
 ところが今度は、抗日会が張り巡らしたネットワークを通して相互監視そうごかんしの体制をつくり、彼らの方針に従わない者を「奸商かんしょう」としょうしてるし上げ、リンチにかけたり監禁したり、縛り上げて公衆にさらすなどの野蛮な行為を公然と行っている。警察ですらそうした行為を取り締まろうとせずに、むしろ「愛国的だ」などといって手助けするくらいなのだから、始末に負えない。

 「聯盟理事会で中華民国代表は、日本代表とともに事態の拡大を防止すると公約した。しかし、大陸各地で行われる排日が日本臣民による通商の自由と生命財産に脅威を与え、かつ中央政府がその取り締まりをしないのは、この公約に違反し事態を拡大するものと言わざるを得ない」

 まさに「武力によらない敵対行為」である。日本側もこうした事変の「背景」を徹底的に取り上げるつもりで次の理事会へ臨んだ。
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