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第一章第十二節(張作霖2)

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                十二

 果たして張作霖は親日か、排日かの議論は当時からあった。だが自己の保身栄達えいたつのため、常に日本と民国を両天秤にかけ、ある時は親日を装い日本の歓心かんしんを買ってみたり、あるいは排日を煽動したりと、情勢次第で巧みに両面作戦を使い分けていたというのが実像に近いだろう。大正バブルがはじけた後の日本経済の退潮たいちょうと外交の不振を抜け目なく見て取った梟勇きょうゆう張作霖が、排日にかじを切って自らの権威を内外に示そうとしたのも無理はない。
 作霖の死後、息子の学良が後を継ぐと、彼は「易幟えきし」を通じて国民党への帰依きえを表明した。作霖時代の日本とのパイプ役であった楊宇霆よううていと腹心の常陰槐じょういんかい将軍を謀殺し、先代の関東軍顧問の後任には英米人を充てるなど、露骨に日本との関係を断ち切った。このことはまた、満洲に国民党の勢力が入り込んでくることを意味した。排日侮日はいにちぶにちは組織的となり、ますます激化する。
 学良は学校教育制度もすべて米国式に改め、片や孫文の「三民主義」を声高に叫ぶかたわら、反日教育に心血を注ぐ。加えて、軍備を増強して一五〇万坪という広大な敷地を持つ「北大営ほくだいえい」を築き、軍隊の近代化を図った。チェコスロバキアのスコダ社と提携して兵器の改良や増産を進め、航空部隊を充実させるなど、飛行隊を持たない関東軍を圧倒する兵力を備えた。
 ちなみに満洲事変でデビューする軽機関銃の「ブルーノZB26」は、当時世界で最も高性能の携帯武器と称された。六年後に勃発する支那事変でも、「チェッコ機銃」の異名を取り散々日本兵を苦しめることになる。
 武力に自信を深めた学良は、先ず北部満洲を走る東支とうし鉄道を強制的に奪取しようと試みる。同鉄道は清国とロシアの合弁事業として始まったが、ロシア革命後にソ連邦側の経営力が弱まっていたのに乗じて、昭和四(一九二九)年七月全線を強行回収し、翌八月には国境に面した満洲里でソ連軍との武力衝突に発展する。ところがこの戦で奉天軍は赤子の手をひねるようにもろくも大敗し、満州西北部一帯はたちまちソ連軍に制圧される。ようやく十二月にハバロフスク議定書が結ばれ、東支鉄道は旧来の状態へと戻る。
 反ソ強行策にりた学良は、矛先を何をやっても手を出してこない日本へ向けてくる。以降、鉄道利権回収や日鮮人の東三省からの追い出しなど、日本のみを標的とした排外主義を加速させる。
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