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第一章第十節(青年聯盟)

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                 十

 公会堂はすし詰めで、熱気がムンムンしていた。大会の主催者は「満州青年連盟」。ほかに「在郷軍人会」や「満蒙研究会」、「國粋会」、「皇化会」、「全満日本人自主同盟」といった団体が名を連ねた。青年連盟の評判は、内地でも時折耳にした。たいていは悪評だ。とくに役人や満鉄関係者ほど、彼らをみ嫌った。その青年連盟が主催と聞いて、洸三郎の意欲はさらにがれた。
 青年連盟は昭和三年十一月の昭和天皇「即位の大礼」を記念して満州の地元紙『大連新聞』が打ち出した、紙面企画の「満州青年議会」を母体に結成された任意団体である。
 この企画は、満州各地から少壮の青年らを集め、模擬議会を開くというものだ。選出された「議員」が“仮政府”を構成し、彼らなりの満蒙政策を自由に討議する。「議員」は関東州と満鉄沿線の付属地を二十五の選挙区に分け、それぞれに定数を定めて在住邦人から候補者を募る。定員は九十。新聞に投票用紙を刷り込み、読者は自分の支持する候補者を新聞社宛に投票する。投票期間中は連日紙面上に候補者の主張を顔写真入りで掲載した。各候補の得票速報も一覧にして毎日掲載し、選挙を盛り上げた。街頭演説会なども新聞社が積極的に支援する。選挙が盛り上がれば部数も伸びるという目論見もくろみであった。
 企画は予想外の反響を呼んだ。九十人の定員に対し百三十人以上が立候補。候補者らは「空理空論の時代己に去る」、「世論を起こし満蒙諸懸案の解決に努力すべし」、「東洋の平和と幸福のめ満蒙のいしずえをかたく」、「満蒙をして新日本建設の淵源えんげんたらしめよ」など、高邁こうまいな理想を掲げて選挙へ臨んだ。
 候補者には女性もいた。大連から立った高橋當子氏は「帝国の危機と婦人の自覚」を訴え、旅順の南迫美香子氏は「僭越せんえつかと存じましたが此の天与てんよの機会に」を出馬の理由に掲げた。
 青年議会は同年五月と十一月の二回開かれた。大嘗祭だいじょうさいの翌日にあたる十一月十一日から三日間の日程で行われた第二回議会で「議会」を恒久的な組織へ衣替ころもがえすることとなり、それが「満洲青年聯盟」へと転じた。しかし、なぜ仮の議会を恒久的な組織に洗い替える必要があったのかについては、当時の記録を探ってもいまいち判然としない。どうも、「議会」がある種の党派性を帯びるようになり内部に対立が生じたことや、抽象的な議論には飽き足らないといった声が執行部から上がったようだ。それはともかく、青年連盟は設立から一年足らずで二十一支部、約三千人の会員をようする一大組織へと急成長した。

 それにしても、関東軍は何故兵を動かしたのか? 公会堂に集まった在満邦人は何故こうも熱狂するのか? そもそもどんな人間たちが会場へ詰め掛けたのか?
 ことここに至るには、二十数年に及ぶ歳月と複雑な事情があった。
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