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第四章

4-10☆

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 羞恥に逸らした視界の先で、暗闇が部屋を満たしたことを知って。美しい声が、控えめに、リオの名を呼ぶその瞬間を受け入れる。
 月の薄明りだけになった空間に勇気を得て、リオに覆い被さる彼に顔を向ければ、強く抱き締められて心臓が飛び跳ねた。

「……初めてですか?」

 前にもされた質問だ、答えなど解り切っているだろうに。微かな笑い声を含んだその問いに、リオは真っ赤に染まっているだろう顔色のことを自覚しつつ、小さく首を縦に振った。

「アルトくんは……あの、綺麗な女性にも。たくさん、触ったことがあるかもしれないけど」
「……お疑いですか?」

 声を立てずに、小さく苦笑した彼の瞳に。どこか悲しげな色を見たリオは狼狽えてしまう。

「以前にも、お聞き苦しい弁明をさせていただきましたが。私は断じて、不特定多数の方に手を出したことはありません。母譲りの魅惑の術で、甘い夢を見ていただいただだけです。……それでも、数多の方と褥を同じくした私を汚らわしいとお思いであれば、それは」
「そ、それはないよ!」

 慌てて、首を横に振る。アルトくんは綺麗だよ……! と。もはや恥も外聞も捻りもないストレートな叫びを上げてしまったリオの言葉に、呆気に取られたような彼が、目映い瞳で笑い出す。
 くすくす、と。部屋にあえかに響く、いつかのような笑い声に。またやってしまった、と。リオは赤くなった。

「……それに、あのね。どれくらい触ったかは。僕、気にしないよ」

 比べられれば、己の方が劣るだろうと。それだけがリオの気がかりだったけど。
 でも、そんなこと。彼に失礼だった。――彼はリオと、誰かを比べたりしない。今までも、これからも。

「だって。今、僕を選んでくれたのなら。……これからずっと、僕だけに、触ってくれるんでしょう?」
「……はい、リオ。私はあなた以外に触れたいとは思わないし、私以外に触れさせたくもない」

 ぎゅう、と。強い力で抱き寄せられながら囁かれた熱っぽい告白に、ぞくりと背筋が粟立った。背に絡む腕の艶めかしさ、耳元から首にかけて感じる吐息の温度や感触に、頭がくらくらとする。
 この綺麗な人が、こんなにも自分を求めてくれているのかと思うと、それだけで胸の奥が甘く疼いた。どきどきし過ぎて、なんだか少し苦しいくらいなのに、それが心地好くて堪らない。

「んっ……」

 そのまま唇を奪われて、思わず声が漏れてしまう。
 甘く、苦く、苦しかった。一度目の口づけとは様相を変えたそれは、とろりと甘いばかりで。知らず、身体が疼いてしまう。
 リオの反応に気をよくしたアルトは、何度も角度を変えて口付けを繰り返した。ちゅ、ちゅっ、と。可愛らしい音が響く度に、身体の芯に熱が灯り、背筋がぴくんと震えてしまう。

(あったかい……気持ちいい)

 アルトの体温を感じながら、抱き締められてキスをしていると、頭がふわふわしてくる。これだけでも、このまま溶けて混ざり合ってしまえそうなほど気持ちが良くて、心が満たされた。
 もっと、と。熱烈に求めてくるアルトに応えようと、リオも必死になって応じるのだが、中々どうして上手くいかない。回数を重ねる毎に翻弄され、息苦しさに頭がくらくらした。

「ん……ぁ、……はぁ……っ!」

 やがて、限界を迎えて。酸素を求めようとして開いた口から熱い舌を差し入れられ、口内を舐られる。ぴちゃり、と。唾液の混ざり合う水音に羞恥心を煽られた。
 歯列の裏をなぞられ、上顎を擦られて、びくりと身体が震える。舌同士を絡め合わせる度に生まれる快楽の火種に肌を内側から炙られて、リオは身悶えた。

「んむ……っ!?」

 不意に、腰から尻にかけてを撫で回してきた手に驚いて、リオはくぐもった悲鳴を上げた。服越しとはいえ、敏感な場所を撫で擦られる感覚は未知のもので、落ち着かない気分になる。
 何だか恥ずかしいな、と。そんな初心な気持ちでいられたのはその時が最後で――不意に、熱を帯びて敏感になった前面を撫で上げられて、ひゃっと変な声を出してしまった。

「……ふふ、よかった。きちんと反応してくれていますね」
「えっ!? あ、だ、だめ……!」
「どうしてですか?」

 取り乱した声を上げて、リオはアルトの手を押さえようとしたのだが。くすくすと美しい顔で笑うアルトは、その悪戯な手の動きを止めてくれない。
 リオの抵抗を掻いくぐって、服の下にまで潜り込んだ温かな手に性的な愛撫を加えられて、動転したリオが目を白黒させた。

「えっ? ひゃっ!? きゃっ!!」

 女の子みたいな声を出してしまったリオは慌てて口を押さえたが、むしろ嬉しそうに小さく笑ったアルトは、その場所を弄ぶのをやめてくれない。
 リオは、一応は王族として、性教育の基本くらいは受けている。だが、末の王子ともなれば、厳しく躾けられるのはみだりに身体を交えてはいけないと言う固い貞操観念くらいだった。
 具体的に何をどうすれば性交となり得るのか。まして男同士では、どうすればいいか、だなんて。肝心のその部分が今一つ曖昧なリオにとって、そこは排泄のための器官としての印象の方が強い。彼の手に擦られて、ぐちゃぐちゃ、と。今まで聞いたこともない淫らな音が鳴り出すのにも動転して、リオは頭を打ち振った。

「あっ、だっ、だめっ……! そん、そんなの、汚いから……っ!」
「あなたは隅々までお綺麗ですよ。……大丈夫、力を抜いて」
「ん、う……あ……っ」

 首筋に口付けられると、間髪入れず、ぬるり、と。生暖かい舌が首筋を撫でてくる。その感覚にぞくぞくと背筋を震わせたリオは、思わず蕩けた吐息を漏らしてしまった。
 抵抗する力が緩んだ隙を縫って、アルトがリオの濡れた性器を直接手で掴む。そのまま上下に緩く扱かれて、リオは喉を仰け反らせた。他人に触れられるという初めての刺激に、頭の芯が痺れていく。
 ちゅ、ちゅう、と。執拗に舐め吸われる首からもじわじわと込み上げ重なる快楽に、リオは喘いだ。

「やぁっ、それ……きもち、ぃ……」
「ふふ。気持ちいいなら良かったです」

 蕩けた声で素直に快楽を訴えれば、アルトが微笑んで頭を撫でてくれる。優しく髪をくしけずられる心地好さにうっとりしていると、再び熱を帯びた唇に口を塞がれた。
 同時に、先走りの蜜を指先に掬われて性器に塗り広げられながら、緩急をつけて本格的に扱かれ始める。一人で、稀に。嗜みとして慰めていた時とは比べ物にならない強烈な快感に、リオはたちまち虜になってしまった。

「あ……ん、う。アルト、くん……!」

 繰り返される口付けに、技巧をもって応える余裕もなく。されるがままに舌を絡め取られ、どちらの物とも知れない唾液を嚥下しながら、リオは熱に浮かされたような瞳でぼうっとアルトを見つめた。そうすれば、アルトは熱っぽい眼差しで見つめ返してくれる。それだけで、嬉しい気持ちが胸に溢れた。
 好きな人と触れ合うだけで、こんなにも心が満たされるなんて知らなかった。身体の奥底から湧き上がる衝動のままに、もっと深くアルトと触れ合いたいと思ったリオは腕を彼の背に回し、足も彼の腰に絡ませる。
 急にはしたなかっただろうかと心配したのは一瞬で、驚いたように目を見開いたアルトに激しく求められて、すぐに何も考えられなくなってしまう。

「あ……んんっ!」
「リオ……っ」

 噛み付くように口付けられ、追い詰めるように性急に性器を擦り上げられて。びくんっ、と。リオの身体が大きく跳ねた。まるで雷に打たれでもしたように断続的に痙攣する身体を、強烈な刺激が駆け抜けて、視界がチカチカと明滅する。
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