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第三章(出産編)
3-8※(授乳回)
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ジュゼの意識が朦朧としている間に、レーヴェは手際よく、諸々の体液でぐしゃぐしゃだったベッドをあっという間に綺麗にしてしまう。汗に濡れた全身と、粘液でぐちゃぐちゃの下半身を、温かな濡れタオルと清潔な薄布に拭われて。虚ろな意識の中にも感じる心地よさに、ジュゼは身体を弛緩させながら吐息を漏らした。
透き通るような薄物に袖を通してもらい、久し振りの衣服の感触に安心する。下着も何も付けていないので、傍目には裸とあまり変わらないのかもしれないが、その肌触りだけでも気持ちが良かった。魔術によって、一瞬で湿り気も汚れも取り払われたシーツは新品と同じで、こちらもさらさらと肌に優しい。帳の中に充満していた淫らな臭気も換気されて、呼吸がしやすくなった。
「この子も綺麗にしてきますね」
すぐに戻ってきますよ、と。落とされた口付けは夢のように優しくて、自由になった両手で縋り付けることが嬉しくて。朦朧としながらも、ジュゼはついレーヴェを抱き締めて引き留めてしまいたくなったが、泣かない赤子は気掛かりだ。
力の緩んだ腕を愛しげに撫で擦ると、レーヴェは赤子を包んだふかふかのタオルを大切そうに抱えて部屋から出て行ってしまった。
(赤ちゃん……)
本当に、自分が子供を産んでしまった衝撃と驚きが遅れて来て、視界がくらくらと回る。股関節がどうかしてしまったのか、身体は脱力しているのに股だけずっと緊張していて、脚がガクガクと震え出した。
下半身の感覚は曖昧だが、広がった穴は擦れてひりひりとする感触が残り、くぱくぱと収縮しているのが解る。内壁もきっと腫れているのだろう、体の内側が熱く痺れていて、それなのに――お腹が空っぽであることが不安で、寂しくて。急に悲しくなってしまったジュゼの視界が涙に滲んだ。
肌寒さと心細さと、一人ぼっちの不安にさめざめと涙が溢れる。
(寂しい……)
どうしてこんなに不安なのか解らないのに苦しくて、ひっくとしゃくり上げた声が外まで聞こえたのか。いつの間にか部屋に戻ってきていたらしいレーヴェが、珍しく慌ただしい足音を立てながら寝台に駆け寄った。
「ジュゼ? 大丈夫ですか」
どこかお辛いですか、と。取り乱したように尋ねられて、その優しい声に安堵が満ちる。レーヴェはジュゼの隣にタオルをそっと置くと、宝石よりもキラキラと眩い瞳で、気遣うようにジュゼの顔を覗き込んだ。
暖かい指に涙を拭われて、細く息を吐き出す。体の震えが止まって、涙も止まった。
「だい、じょうぶ……」
ごめんなさい、と。口にすれば、一人にしてしまってごめんなさい、と。逆に謝られてしまった。
そんなつもりはなかったジュゼは、留守番ができなかった子供のような気持ちになって、羞恥に目を伏せる。――物心ついた頃から、一人で誰かを待ち続けることなんて、慣れているはずだったのに。
優しく隣に置かれたタオルが、もぞもぞと拙く動いていることにふと気付いて、ジュゼはハッと身を竦ませる。
(あ……)
どきりと、胸が不穏に跳ねたのは一瞬だけで。タオルで厳重にくるまれたその子は、ジュゼが思っていたよりもずっと小さなお人形のようだった。生々しさを感じさせないその姿に、思わず安堵の吐息が漏れる。
器用にタオルで巻かれたその子はジュゼの腕の長さほどの大きさで、肌は白く、頬は薔薇色だった。相変わらず泣いてはいないが、その血色の良さに、気がかりが一つ晴れたジュゼの胸がじわりと温んだ。
すでに通った鼻筋と、半開きの小さな口元の他は、目までタオルで覆われていてよく見えなかった。恐る恐る手を伸ばせば、まだ眩しいのは苦手ですからね、と。優しい声で笑ったレーヴェが、向かう先を迷っていたジュゼの手を誘導して頬に触らせてくれる。温かく柔らかく指が沈んで、肌の感触は人の赤ちゃんと同じだと感じたジュゼは、もう一度ほっと息を吐いた。
「可愛いですか?」
「うん……」
産んでみてどうかと聞かれてしまえば、まだ途方もなさ過ぎて感情の整理がつかないが。ごく当たり前のように、小さくて可愛いと思えたジュゼは頷いて。頷いてしまったことが恥ずかしくて、顔色を赤に傾けた。
まだあまり力の入らない細い腕で、懸命に顔を隠そうとしても、ほとんど意味がない。くすくすと甘い笑い声を立てたレーヴェに手を取られて、指を絡めながら易々と寝台に押し付けられてしまった。
「ん……っ」
柔く暖かな唇が重なって、きゅう、と。絡んだ指に力が入る。レーヴェの唾液がとろりとジュゼの口内を伝って胃の腑に落ちて、疲弊した身体を優しく潤した。
緩やかに精気を流し込むようなその口付けに、過剰な催淫効果は含まれていないようだったが、すっかり淫蕩に躾けられた身体は否応なく反応してしまう。どうしようもなく込み上げる淫らな気持ちを抑えていられないジュゼは、触れられることを勝手に期待して尖る胸の飾りを固くしながら、疼いた腰を寝台に擦り付けた。
ほどなくして口付けから解放されても、火照った身体はそのままだ。まだ夢見心地の気分でぼうっとしている間に、レーヴェはジュゼの身体を横向きに整えて、肌に羽織った薄絹の胸元を大きく開かせる。赤く熟れた乳首を表にさらけ出す姿に、びくりと身体を跳ねさせたジュゼの腕の中に赤子を抱き寄せて、甘い声でレーヴェが笑った。
「さあ、飲ませてあげてくださいね」
「飲ま……」
かあ、っと。頭に血が上った。
顔も首も真っ赤に染めたまま、ジュゼが全く冷静になれないでいる内にも、ジュゼの懐に顔を埋めた表情の見えない小さな赤子は、あむあむと口を動かしながら乳首に近付いていく。
背後から抱き締められてしまっては逃げ場もないし、赤ちゃんにお乳が必要なことも解っている。出ると言われたからには、きっともう、出るようになっているのだろうとも思いつつ――この場所だけで、何度でも頂点まで追い詰められた記憶に顔色を赤くしたり青くしたりと混乱するジュゼの胸元で、小さな唇が遂に生みの親の乳首を食んだ。
「ん、んんっ」
幸いにして、気持ちよくなってしまうことはなかったが。レーヴェに幾度も施された愛撫とは異なる、拙い舌遣いでちゅっちゅと吸われるむず痒さとくすぐったさと恥ずかしさに、ジュゼは全身を固く緊張させて息を詰めた。
「ふふ、ジュゼ。もっと楽にしていていいんですよ」
「む、無理……」
じんじんと痺れるような、くすぐったいような、痛いような感覚に気を取られて、ちゃんとお乳が出ているのかも解らない。一心不乱にちゅうちゅうと音を立てている赤子には申し訳ないが、ジュゼには全く余裕というものがなかった。
固く身を強張らせ続けるジュゼを見かねてか、身を起こしたレーヴェが、ジュゼの体を仰向けにする。赤子の微かな重みを片胸に感じながら、落とさないようにと恐る恐る手を添えるジュゼの頬を、レーヴェの暖かな手が撫でた。
くすりと、悪戯めかした微笑みを落とされて、胸が跳ねる。まさか、と。思った次の瞬間には、空いている片胸に勢いよく吸い付かれて、脳に電撃が走ったジュゼは胸を反らして嬌声を上げた。
「んぅうっ♡ ひゃ、うぁ……っ!」
ぎゅう、と。赤子を支える手に力を入れてしまったジュゼは、慌てて腕の力を緩める。けれど、力を入れていなくては声も抑えられないような快感に、身をよじってしまうことを止められなかった。
「ふあ、ぁ……っ! な、なんで、ぇ♡ あぁ……っ」
「ふふ。勿体ないですからね」
私にもください、と。笑う吐息が濡れた乳首にかかって、ふるりと体が震える。明らかにジュゼを可愛がる意図を見せるレーヴェの舌は、当たり前だが赤子の舌遣いとは明らかに異なっていて。いやらしく刺激された乳頭から液体が噴き出る感覚を、否応なしに理解させられる。
出産までの三ヶ月、人の世にはあり得ない夢魔の媚薬を散々に塗り込められ、剥き出しの性器と変わらない感度にまで育てられた乳首から乳が迸る度に。男が精を放つときのそれに似た快楽が連続で溢れて、出産の衝撃を乗り越えたばかりの脳をぐちゃぐちゃに荒らしていった。
「だ、だめっ♡ ぁ、ああん♡ あ……!」
片方を可愛がられれば可愛がられるほど、反対の乳首からも同量の乳が噴射して、赤子の腹を満たしていく。連続の絶頂に髪を振り乱しても、あまりにも暴れては赤子を振り落としてしまう。空いた片手で寝台のシーツを握り締めて耐えるしかないジュゼの薄い胸元に吸い付いたレーヴェは吸い付きを緩めず、なおも激しく乳首を舌で虐め抜いてジュゼを悶えさせた。
甘い声で悶えれば悶えるほど、攻めはますます苛烈になるようで。刺激を加えれば加えるほど、素直な乳首は甘い乳を迸らせ、夢魔の赤子の健やかな成長を支える精気を潤沢に溢れさせた。赤子は口から溢れるほどの乳を喜んで、誕生に費やしたよりも少しでも多くの精気を得るために懸命に乳にしゃぶりつく。愛らしく無垢な授乳の音に紛れ聞こえる己の喘ぎが、一層淫らなものに感じられて。それでも、口付けに塞いでもらえない口からは甘く爛れた嬌声が溢れ続ける。
「れっ、レーヴェっ♡ あっ、お願い……!」
口を塞いでと、懸命に請う伴侶の愛らしい姿に、身を起こしたレーヴェが情愛の籠った眼差しを注いで微笑んだ。望みの通りに重ねられた唇から、自らの乳のふわふわと甘い味を、夫の唾液の蜜のような甘さと共に味わいながら、深い口付けの快楽に酔ってなおも乳を垂れ流す。吸われなくなった側の乳が脇を伝って寝台を濡らし、じっとりとしみ込んだ雌の匂いと混じり合って生々しい媚香が立ち昇った。
「ん……っ♡ ぁ、ふぁ……♡ んむ、ん、ん……♡」
口を塞がれたことでようやく安心したジュゼは、とろとろと脳を蕩かすような優しい口付けを受け入れながら、赤子に乳を与え続けた。随分と長い時間が経過して、唇が痺れてふやけてしまいそうになる頃、ようやく赤子の寝息が聞こえて、レーヴェもジュゼから身を離した。
赤子を抱き上げたレーヴェが、ジュゼの衣服を整えてくれるのをぼんやりと眺めながら、漠然と喉の渇きを感じていると。ふと、寝台の帳の外から声をかけられた。
「――若様」
ジュゼはびくりと身を竦ませたが、レーヴェに動じた様子はない。帳の外に立つ影の方へと身を乗り出すと、抱いた赤子を優しく帳の外に手渡した。おお……と、感極まったような呻きと啜り泣きを漏らして、影はそのまま部屋を出て行ったらしい。赤子の気配も遠ざかるのを感じて、ジュゼがようやくぴくりと指を動かせば、帳の中に戻ったレーヴェが優しくジュゼの身体を起こしてくれた。
「心配ですか? 大丈夫ですよ、あの子は皆の宝物ですからね」
脱力した体を抱き上げられて、膝の上に閉じ込められる。いつの間にか用意されていた、枕辺の水差しから溢れる冷たい水を口移しに与えられることに、ジュゼは何の疑問も抱かずに喉を潤して息をついた。
「これから一月は、ここでゆっくり静養して。無事に床上げが済んだら、領城に帰って、あなたのお披露目をしましょう」
楽しみですね、と。囁く声に、頷き返せたのかは解らない。
急激な眠気にことりと傾いだ頭をレーヴェの胸に預けて、うとうとと微睡みながら船を漕げば、お疲れ様でした、と。優しい声が夢うつつに耳を揺らした。
透き通るような薄物に袖を通してもらい、久し振りの衣服の感触に安心する。下着も何も付けていないので、傍目には裸とあまり変わらないのかもしれないが、その肌触りだけでも気持ちが良かった。魔術によって、一瞬で湿り気も汚れも取り払われたシーツは新品と同じで、こちらもさらさらと肌に優しい。帳の中に充満していた淫らな臭気も換気されて、呼吸がしやすくなった。
「この子も綺麗にしてきますね」
すぐに戻ってきますよ、と。落とされた口付けは夢のように優しくて、自由になった両手で縋り付けることが嬉しくて。朦朧としながらも、ジュゼはついレーヴェを抱き締めて引き留めてしまいたくなったが、泣かない赤子は気掛かりだ。
力の緩んだ腕を愛しげに撫で擦ると、レーヴェは赤子を包んだふかふかのタオルを大切そうに抱えて部屋から出て行ってしまった。
(赤ちゃん……)
本当に、自分が子供を産んでしまった衝撃と驚きが遅れて来て、視界がくらくらと回る。股関節がどうかしてしまったのか、身体は脱力しているのに股だけずっと緊張していて、脚がガクガクと震え出した。
下半身の感覚は曖昧だが、広がった穴は擦れてひりひりとする感触が残り、くぱくぱと収縮しているのが解る。内壁もきっと腫れているのだろう、体の内側が熱く痺れていて、それなのに――お腹が空っぽであることが不安で、寂しくて。急に悲しくなってしまったジュゼの視界が涙に滲んだ。
肌寒さと心細さと、一人ぼっちの不安にさめざめと涙が溢れる。
(寂しい……)
どうしてこんなに不安なのか解らないのに苦しくて、ひっくとしゃくり上げた声が外まで聞こえたのか。いつの間にか部屋に戻ってきていたらしいレーヴェが、珍しく慌ただしい足音を立てながら寝台に駆け寄った。
「ジュゼ? 大丈夫ですか」
どこかお辛いですか、と。取り乱したように尋ねられて、その優しい声に安堵が満ちる。レーヴェはジュゼの隣にタオルをそっと置くと、宝石よりもキラキラと眩い瞳で、気遣うようにジュゼの顔を覗き込んだ。
暖かい指に涙を拭われて、細く息を吐き出す。体の震えが止まって、涙も止まった。
「だい、じょうぶ……」
ごめんなさい、と。口にすれば、一人にしてしまってごめんなさい、と。逆に謝られてしまった。
そんなつもりはなかったジュゼは、留守番ができなかった子供のような気持ちになって、羞恥に目を伏せる。――物心ついた頃から、一人で誰かを待ち続けることなんて、慣れているはずだったのに。
優しく隣に置かれたタオルが、もぞもぞと拙く動いていることにふと気付いて、ジュゼはハッと身を竦ませる。
(あ……)
どきりと、胸が不穏に跳ねたのは一瞬だけで。タオルで厳重にくるまれたその子は、ジュゼが思っていたよりもずっと小さなお人形のようだった。生々しさを感じさせないその姿に、思わず安堵の吐息が漏れる。
器用にタオルで巻かれたその子はジュゼの腕の長さほどの大きさで、肌は白く、頬は薔薇色だった。相変わらず泣いてはいないが、その血色の良さに、気がかりが一つ晴れたジュゼの胸がじわりと温んだ。
すでに通った鼻筋と、半開きの小さな口元の他は、目までタオルで覆われていてよく見えなかった。恐る恐る手を伸ばせば、まだ眩しいのは苦手ですからね、と。優しい声で笑ったレーヴェが、向かう先を迷っていたジュゼの手を誘導して頬に触らせてくれる。温かく柔らかく指が沈んで、肌の感触は人の赤ちゃんと同じだと感じたジュゼは、もう一度ほっと息を吐いた。
「可愛いですか?」
「うん……」
産んでみてどうかと聞かれてしまえば、まだ途方もなさ過ぎて感情の整理がつかないが。ごく当たり前のように、小さくて可愛いと思えたジュゼは頷いて。頷いてしまったことが恥ずかしくて、顔色を赤に傾けた。
まだあまり力の入らない細い腕で、懸命に顔を隠そうとしても、ほとんど意味がない。くすくすと甘い笑い声を立てたレーヴェに手を取られて、指を絡めながら易々と寝台に押し付けられてしまった。
「ん……っ」
柔く暖かな唇が重なって、きゅう、と。絡んだ指に力が入る。レーヴェの唾液がとろりとジュゼの口内を伝って胃の腑に落ちて、疲弊した身体を優しく潤した。
緩やかに精気を流し込むようなその口付けに、過剰な催淫効果は含まれていないようだったが、すっかり淫蕩に躾けられた身体は否応なく反応してしまう。どうしようもなく込み上げる淫らな気持ちを抑えていられないジュゼは、触れられることを勝手に期待して尖る胸の飾りを固くしながら、疼いた腰を寝台に擦り付けた。
ほどなくして口付けから解放されても、火照った身体はそのままだ。まだ夢見心地の気分でぼうっとしている間に、レーヴェはジュゼの身体を横向きに整えて、肌に羽織った薄絹の胸元を大きく開かせる。赤く熟れた乳首を表にさらけ出す姿に、びくりと身体を跳ねさせたジュゼの腕の中に赤子を抱き寄せて、甘い声でレーヴェが笑った。
「さあ、飲ませてあげてくださいね」
「飲ま……」
かあ、っと。頭に血が上った。
顔も首も真っ赤に染めたまま、ジュゼが全く冷静になれないでいる内にも、ジュゼの懐に顔を埋めた表情の見えない小さな赤子は、あむあむと口を動かしながら乳首に近付いていく。
背後から抱き締められてしまっては逃げ場もないし、赤ちゃんにお乳が必要なことも解っている。出ると言われたからには、きっともう、出るようになっているのだろうとも思いつつ――この場所だけで、何度でも頂点まで追い詰められた記憶に顔色を赤くしたり青くしたりと混乱するジュゼの胸元で、小さな唇が遂に生みの親の乳首を食んだ。
「ん、んんっ」
幸いにして、気持ちよくなってしまうことはなかったが。レーヴェに幾度も施された愛撫とは異なる、拙い舌遣いでちゅっちゅと吸われるむず痒さとくすぐったさと恥ずかしさに、ジュゼは全身を固く緊張させて息を詰めた。
「ふふ、ジュゼ。もっと楽にしていていいんですよ」
「む、無理……」
じんじんと痺れるような、くすぐったいような、痛いような感覚に気を取られて、ちゃんとお乳が出ているのかも解らない。一心不乱にちゅうちゅうと音を立てている赤子には申し訳ないが、ジュゼには全く余裕というものがなかった。
固く身を強張らせ続けるジュゼを見かねてか、身を起こしたレーヴェが、ジュゼの体を仰向けにする。赤子の微かな重みを片胸に感じながら、落とさないようにと恐る恐る手を添えるジュゼの頬を、レーヴェの暖かな手が撫でた。
くすりと、悪戯めかした微笑みを落とされて、胸が跳ねる。まさか、と。思った次の瞬間には、空いている片胸に勢いよく吸い付かれて、脳に電撃が走ったジュゼは胸を反らして嬌声を上げた。
「んぅうっ♡ ひゃ、うぁ……っ!」
ぎゅう、と。赤子を支える手に力を入れてしまったジュゼは、慌てて腕の力を緩める。けれど、力を入れていなくては声も抑えられないような快感に、身をよじってしまうことを止められなかった。
「ふあ、ぁ……っ! な、なんで、ぇ♡ あぁ……っ」
「ふふ。勿体ないですからね」
私にもください、と。笑う吐息が濡れた乳首にかかって、ふるりと体が震える。明らかにジュゼを可愛がる意図を見せるレーヴェの舌は、当たり前だが赤子の舌遣いとは明らかに異なっていて。いやらしく刺激された乳頭から液体が噴き出る感覚を、否応なしに理解させられる。
出産までの三ヶ月、人の世にはあり得ない夢魔の媚薬を散々に塗り込められ、剥き出しの性器と変わらない感度にまで育てられた乳首から乳が迸る度に。男が精を放つときのそれに似た快楽が連続で溢れて、出産の衝撃を乗り越えたばかりの脳をぐちゃぐちゃに荒らしていった。
「だ、だめっ♡ ぁ、ああん♡ あ……!」
片方を可愛がられれば可愛がられるほど、反対の乳首からも同量の乳が噴射して、赤子の腹を満たしていく。連続の絶頂に髪を振り乱しても、あまりにも暴れては赤子を振り落としてしまう。空いた片手で寝台のシーツを握り締めて耐えるしかないジュゼの薄い胸元に吸い付いたレーヴェは吸い付きを緩めず、なおも激しく乳首を舌で虐め抜いてジュゼを悶えさせた。
甘い声で悶えれば悶えるほど、攻めはますます苛烈になるようで。刺激を加えれば加えるほど、素直な乳首は甘い乳を迸らせ、夢魔の赤子の健やかな成長を支える精気を潤沢に溢れさせた。赤子は口から溢れるほどの乳を喜んで、誕生に費やしたよりも少しでも多くの精気を得るために懸命に乳にしゃぶりつく。愛らしく無垢な授乳の音に紛れ聞こえる己の喘ぎが、一層淫らなものに感じられて。それでも、口付けに塞いでもらえない口からは甘く爛れた嬌声が溢れ続ける。
「れっ、レーヴェっ♡ あっ、お願い……!」
口を塞いでと、懸命に請う伴侶の愛らしい姿に、身を起こしたレーヴェが情愛の籠った眼差しを注いで微笑んだ。望みの通りに重ねられた唇から、自らの乳のふわふわと甘い味を、夫の唾液の蜜のような甘さと共に味わいながら、深い口付けの快楽に酔ってなおも乳を垂れ流す。吸われなくなった側の乳が脇を伝って寝台を濡らし、じっとりとしみ込んだ雌の匂いと混じり合って生々しい媚香が立ち昇った。
「ん……っ♡ ぁ、ふぁ……♡ んむ、ん、ん……♡」
口を塞がれたことでようやく安心したジュゼは、とろとろと脳を蕩かすような優しい口付けを受け入れながら、赤子に乳を与え続けた。随分と長い時間が経過して、唇が痺れてふやけてしまいそうになる頃、ようやく赤子の寝息が聞こえて、レーヴェもジュゼから身を離した。
赤子を抱き上げたレーヴェが、ジュゼの衣服を整えてくれるのをぼんやりと眺めながら、漠然と喉の渇きを感じていると。ふと、寝台の帳の外から声をかけられた。
「――若様」
ジュゼはびくりと身を竦ませたが、レーヴェに動じた様子はない。帳の外に立つ影の方へと身を乗り出すと、抱いた赤子を優しく帳の外に手渡した。おお……と、感極まったような呻きと啜り泣きを漏らして、影はそのまま部屋を出て行ったらしい。赤子の気配も遠ざかるのを感じて、ジュゼがようやくぴくりと指を動かせば、帳の中に戻ったレーヴェが優しくジュゼの身体を起こしてくれた。
「心配ですか? 大丈夫ですよ、あの子は皆の宝物ですからね」
脱力した体を抱き上げられて、膝の上に閉じ込められる。いつの間にか用意されていた、枕辺の水差しから溢れる冷たい水を口移しに与えられることに、ジュゼは何の疑問も抱かずに喉を潤して息をついた。
「これから一月は、ここでゆっくり静養して。無事に床上げが済んだら、領城に帰って、あなたのお披露目をしましょう」
楽しみですね、と。囁く声に、頷き返せたのかは解らない。
急激な眠気にことりと傾いだ頭をレーヴェの胸に預けて、うとうとと微睡みながら船を漕げば、お疲れ様でした、と。優しい声が夢うつつに耳を揺らした。
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