【完結】夢魔の花嫁

月城砂雪

文字の大きさ
上 下
29 / 80
第二章(受胎編)

2-13#

しおりを挟む
『――いらないのよ』

 いつも、ジュゼの心を、容易く海の底まで突き落としてしまう声。
 その声を、ジュゼは、教会の扉の隙間から聞いていた。

『ただで捨てちゃいけないと言うなら、大きい子供を代わりに一人ちょうだい。十を超えているなら、働けるでしょ』

 その声は、ジュゼを産んでくれた人の唇から、冷たい響きを伴ってこぼれていた。
 でも、それは仕方がないことなのだ。ジュゼが小さくて、働けなくて、役に立たないから。記憶をどんなに遡っても、父親のいない家は貧しくて寒々しくて、母親はいつも疲れていたから。
 だから、仕方ないのだ。

『子供なんて、どれだって一緒でしょう』

 そう言われても仕方がないくらい、ジュゼは本当に。誰の役に立つこともできない子供だったのだから。
 悲しい涙が、快楽の涙と入り混じって、眦を伝い落ちた。
 四肢から力が抜けて、細い腕が寝台の上にぱたりと落ちる。広げられたままの脚は突き込まれた性器に支えられて僅かに宙に浮いたまま、限界を超えた衝撃に小刻みに震えていた。はふはふと息を吐きながらしゃくり上げるジュゼの様子に気付いたレーヴェが顔を上げ、ちゅ、と。ねぎらうような口付けを眦に落として涙を拭う。

「お辛かったですか? ふふ、次は、あなたが楽なようにしましょうね」

 密着していた下半身が離れて、汗に濡れた身体に冷たい夜気が触れて肌が粟立った。離れてしまうのが寂しくて、抜けて行く性器を思わず食い締めてしまえば。くすりと笑った妖魔は穴から退いた後に改めてジュゼに覆い被さり、温かい腕に抱き締めてくれた。
 いい子ですね、大好きですよ、と。耳に囁き、唇をついばみ、濡れた髪を優しく撫でて。うっとりと蕩ける眼差しが語るのは、これまで誰も――マザーでさえ向けてくれなかった、深い愛情と愛着の感情だった。

『――あなただけが』

 私の花嫁で。あなただけが、私の子供を、と。愛執と共に囁かれた言葉たちが、脳裏に幾度も繰り返される。ジュゼ、と。甘い声が囁く己の名は、こんなにも美しかっただろうか。
 自分でも、理由の解らない涙が溢れて眦を伝う。本当はもう、知っていた。最初から解っていた。――この、綺麗な悪魔よりも。ジュゼを想ってくれる人間など、この世に在りはしないのだ。
 だめだめと、慄く心のすぐ傍に、どうして? と。首を傾げる子供がいる。だって彼は、暖かくて優しくて。ジュゼがずっと欲しかった、ジュゼのことを愛している瞳を向けてくれる。キスをしてくれて、抱き締めてくれて、気持ちいいことをいっぱい教えてくれるのだ。

(好き……)

 芽生えてしまった好意を胸の内に呟けば、俄に身の内に炎が灯って、ジュゼはわなないた。与えられた熱に蕩けた体を内側から炙る熱源に、吐き出す息が震える。
 未知の感覚を飲み込む前に、ジュゼの身体に巻き付いた手指が蠢いて、火照った肌を愛撫した。柔らかな肉を持たない身体はそれでも男の手に懐いて甘え、白い指に背をなぞられただけであんあんと咽ぶ声がこぼれてしまう。
 今は自由な両手で、その手を抑えるのではなくて。彼の背に縋り付きたがっている自分に気付いたジュゼは、きゅう、と。自らの指を握り締めて固く目を瞑った。

「う……あっ♡ ふ、ぅく、んっ! もう、ぼく……」

 疲れただろう脚を休ませてやるつもりで、うつ伏せになるよう促していたレーヴェが、ジュゼの訴えに首を傾げる。
 必死に身を捩りながら、レーヴェを見つめる涙の浮かんだ瞳。眉根を寄せ、苦しそうな表情を浮かべる上気した頬を優しく撫でながら、優しい声で問いかけた。

「どうしました、ジュゼ? まだ、お辛いですか」

 もう少しゆっくりにしますか? そう、続けるはずだった。人間のそれとは、多少基準は違ったけれど。レーヴェは決して、花嫁に無理をさせるつもりはなかったから。
 追い詰められたような顔をして、蕩けた青い瞳にいっぱいに涙を浮かべて。そうして、ジュゼが叫んだのは。――拒絶の言葉ではなかった。

「もう……もう、だめっ♡ すき、好きに、なっちゃ……あっ、あ♡ もっと、ぎゅって、ぇ――あがっ⁉ ひ、あひっ、ひぃあぁんっ♡♡♡」

 言葉の途中で、震えの止まらない脚を強引に持ち上げられ、尻をこれまでで一番乱暴に貫かれる。
 燃えるような瞳に飢えたような輝きを浮かべた悪魔の抽送は一層激しく、大きく出し入れをされる度に白く泡立った淫液が飛び散り、過たず急所を狙って殴打される薄い腹がぼこぼことうねった。
 今日までは知ることもなかった、胎の最奥にある唇に亀頭でキスをされる度に。頭の中が真っ白に塗り潰されるほどの快楽が走って、ジュゼが獣のような声で泣き叫ぶ。

「んぁっ、あっ、あぅっおぉんっ‼ だめ、らめ♡ こわれ、ちゃっ、あん♡ しゅご、しゅごぉ、い♡ らめぇっ♡」
「ふふ、ふふふ。あなたに、好いていただけたのが嬉しくて……♡」

 ジュゼ、と。感極まったような声に耳元で名を呼ばれて、きゅうんと締め付けられた胸から噴き上げた官能が神経を焼いた。
 終始穏やかだった美しい妖魔のその囁きは、どこか淫靡な興奮に上擦っている。そんなところにまで快楽を見出して、ぞくぞくと全身を走り抜ける甘美な疼きに悶えながら、ジュゼは懸命に力の入らない両腕を伸ばして、恋しい男に取り縋った。

「あっ♡ ああ~~~っ♡ だめ、だめなの♡ レーヴェ♡ レーヴェぇ♡ あっ、あっ、しゅき♡ おちんちん、あちゅ……ぃぎっ⁉ ひっ♡ あっ‼ はげしっ♡ んっ、んあっ、ぁんっ♡♡♡」
「ああ……! 嬉しいです、ジュゼ♡ 私を選んでよかったと、絶対にそう思わせてあげますからね……っ♡」

 情愛の籠った拙い求愛に、煽られた妖魔が激しく腰を打ち付ける。快楽だけを求める獣のような動きで、とろとろになった柔肉をペニスで叩きつけては、抉るように掻き回して。エラの張った部分で、襞を引きずり出すように擦って前立腺を押し潰せば、熟れた媚肉が喜んでペニスを舐めしゃぶる。

「ぁおっ⁉ ひぅうっ♡ ぁ、あんっ♡♡ あ~~~‼ しゅごいよぉっ♡」

 ジュゼの性器からはとぷとぷと粘液が溢れて、もはや止まることがない。レーヴェもまた、ぬかるんだ柔らかい粘膜に搾り取ろうとするように吸いつかれて、熱い快楽に瞳をぎらつかせた。
 もっと、もっと、己の伴侶が快楽に乱れ狂う様が見たい。情愛深きが些か過剰なほどの気質を持つレーヴェは、相手を愛すれば愛するほど、己の全てを注いで愛さずにはいられなかった。

「ジュゼ。ふふ、また、奥に、入れますよ……っ」
「や、やあぁ♡ だめ、あたま、おかしく♡ なっ、ぁんっ♡ あんっ♡ あんっ♡♡ あぁんっ♡♡♡」

 ちっぽけな反抗は、ばちゅばちゅと我が物顔に出入りを繰り返す肉槍に屈して、媚びた喘ぎに変わってしまう。雌の悦びを教え込まれた肉壁はジュゼの口先を簡単に裏切って、むしゃぶりつくように肉槍に吸いついて歓待した。ぷちゅ、ぷちゅ、じゅ、ちゅう、と。結腸の入口の肉輪さえ、自分から開いて雄を招き入れようとする有り様に、ジュゼは髪を振り乱してもがいたが、溢れる情愛に興奮した妖魔の攻めは少しも緩まない。

「ジュゼっ、ふ、ぅ……っく、」
「あんっ、あっ! だめぇ♡ っあぁん、ぁっ、ひぃっ♡ ひっ⁉ ひぐぅ♡」

 打ち付ける間隔が早くなり、粘った水音が際立つ。閾を越えた快楽に恐怖しながらも、心を明け渡したジュゼは自然と足を開いて尻をより突き上げる態勢になった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...