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第二章(受胎編)
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そんな悪魔たちの切望を、熱望を。時に泣き縋られ、時に脅迫に似た激しさで、日々ひたすらに訴えられていた夢魔の一族の所領内。領主の一族であるヴァルフォーレの城では、数多の優秀な夢魔たちが、数日前から東奔西走の一大事となっていた。
殺到する通信の対応に、あるいは、各地の当主直々の訪いに。当代当主を欠く一族は取り乱し、後手後手に回りながら懸命の説明作業に追われている。奥の間への取次ぎを担当とする一の間には次から次へと新たな情報が届けられ、その中心で対処に追われる乙女の顔色を見る間に蒼白に染めていった。
花のような髪を清楚に束ねた彼女は、屋敷の従僕に取り立ててもらったばかりの新米だ。蕩けるような魅惑を秘めた甘い瞳の色を見れば、彼女が優秀な夢魔であることは容易く知れる。だが、若く美しい身目を長く保つ夢魔の一族の中でも、一際年若く見える彼女に現状は負担が過ぎることもまた一目瞭然だった。
「シエラ様、ゴラムの一族が、郎党を率いて目通りをと」
「当主様に一目でもと、ヴァンピールの長老様まで」
来る客来る客、彼女よりも遥かに高位の悪魔ばかりで、面会に序列をつけるも追いつかない有様だ。序列をつけたところで、屋敷の使用人に過ぎないシエラが、その内の誰に対応できるというわけでもない。上司に指示を仰ごうにも、内線をつなぐ隙もなく客の訪いを告げられて、客をもてなした経験の少ないシエラはすっかり混乱していた。
不変の時代の客であれば、夢魔の館を訪れるものには、魅惑の悪魔の名に相応しいもてなしをしてやればいいだけだ。だが、この危急の時節の客人には、その肩書相応の重みがある。各々の一族の悲痛なまでの切望を携えて城を訪う上位種の悪魔たちのもたらす圧に、シエラはついによろめいて、その場に膝をついた。
シエラ様、と。心配そうに名を呼ばわり、支えてくれようとする部下の後ろからも、更なる来客を告げに扉を開ける者がいる。シエラよりもよほど倒れそうな有り様の青年の顔色からは、高位悪魔の随伴が予想できた。
後をお任せ頂いた身で非礼なれど――と。シエラは歯噛みしつつ、傍らの部下を振り仰いだ。
「やむを得ません。一度、レーヴェ様にご連絡を……」
「――やめておけ」
その声が響き渡るなり、騒然としていた部屋の空気が静まり返る。青褪めた案内役の青年の背後から姿を現した長身の美女の眼差しを受けて、それが同種の夢魔の気配と知ってなお、魂を抜かれたように魅入られるものも少なくなかった。
月を溶かした珊瑚の瞳に甘い魔性を、華やかな顔立ちに冷徹を浮かべたその美貌を一目見れば、誰も二度と忘れられはしないだろう。艶めく薔薇色の髪を一つに束ねて背に流し、麗しいドレスではなく騎士のような礼装に身を包む彼女が何者か。知らない者は、この魔界に居はしない。
当代魔王の永久の伴侶にして、夢魔の名門ヴァルフォーレの鬼子。争い事を得手としない夢魔の血族に生を受けながら、狂王に歯向かってなお一命を取り留めた、かつての四強の女将軍。――フランメ様、と。惚けたように呟かれた、誰ぞの声をきっかけに、部屋中の夢魔がその場に膝をついた。
ヴァルフォーレ家先代当主、フランメ・ヴァルフォーレ。
「あれがその気になったのを祝いこそすれ、部外者が今取り乱して何になる」
説明をして追い返せ、と。事も無げに言い放たれて、シエラは何か弁明をせねばと、震えながら顔を上げた。
「はい、しかし。花嫁様の御心の安堵のためとはいえ、おいでになる場所が城外では……せめて我らが手の届く場所に留まって頂かねば、皆様方のご不安を鎮めることは難しいかと」
「子を成せ、子を産め、赤子を寄こせと。そんな不躾な嘆願を、妻の耳に入れたい夫がどこにいる」
理知的で、理性的なその面差しに浮かんだ微かな不快に。己の失言を悟ったシエラは即座に頭を深く下げたが、こぼれてしまった言葉は取り戻せない。冷や汗を流すシエラの背に、確かな怒りを帯びた声が降り注いだ。
「それとも、お前は――己らが当主を、鎖でつないで繁殖させるか?」
しん、と。水を打ったように静まり返った部屋の中に、痛々しいほどの沈黙が落ちる。弁明をせねばと思いながらも、シエラの喉は恐怖と羞恥にぴたりと糊付けされて動かなかった。
いかなる言葉を重ねたところで、事実として。仕える主を軽んじるような発言を、この口の端に上らせてしまったことは覆せない。己の心得違いに声もないシエラの有り様を見かねてか、まるで助け船を出すように、場違いなほどに優しげな声が二人の間に割り入った。
「フランメ。お顔があまりに怖くてよ」
「……陛下」
美しい声が紡いだ敬称を耳に、思わず顔を上げたシエラの瞳に――透き通った水色の瞳を持つ、可憐な淑女の姿が映る。見る者を安堵させるように優しく微笑む彼女が誰であるのかを、正しく悟ったシエラの胸が早鐘を打った。
今は名実ともに魔界最強と呼ばれる女傑の隣に在って、怖じける気配の欠片もない彼女こそが、傷付いた魔界が頂く至宝。恩寵を振り撒く癒しの魔王、フォンテーヌ・フォルネウス。
「あなたの自慢の弟ですもの、心配になってしまうのは解るけれど。……ふふ、私の義弟を。獄につなげる悪魔が、この魔界のどこにいて?」
「……っ! そ、そのようなつもりは、決して……!」
見苦しいと知りながら、悲鳴のような声を上げてしまったシエラに慌てたように向き直って、解っていてよ、と。優しく宥める白い手指には、ヴァルフォーレの家名を刻んだ金の指輪が輝いている。
魔王の座を、己の家名で継いでなお。最愛の伴侶との永久の誓いの証を愛しげに指に輝かせる女王は、まるで人の世の聖女のような優しさに満ちた面差しで微笑み、ひれ伏す夢魔を見渡した。
「急いてしまう気持ちも、もちろん理解はできるけれど。あなた方にとっても、私たち悪魔全てにとっても、運命とは神聖なもの。……結ばれるべくして結ばれる二人に、他者が口を挟むのは愚かなことだわ」
そうでしょう? と。暖かな声に柔らかく咎められて、夢魔たちは皆、畏れと羞恥に項垂れた。
交わるだけなら老若男女も種族の別も問わずとも、子を生す相手となれば話は別だ。別ち難く魂を結ばれて、互いに心から永遠を誓えるほどに愛し合わなければ、夢魔は一人の子も生せない。先代魔王の統治下で、数を増やすために見境なく番えと命じられても――誰一人として、その命に従うことができなかったように。
再び静まり返った部屋の中に、ふふ、と。穏やかな声が優しく微笑んだ。
「と、いうことをね。分からず屋の方々に説明する、お手伝いに来たのよ」
急に来ちゃってごめんなさい、と。いっそ少女のように愛らしく恥ずかしげに囁くその姿に、突如として緊張を解かれた夢魔たちが軒並み腰を抜かした。
あまりに情けないその有り様を見回して、ため息をついたフランメが、シエラに目線を向ける。辛うじて惚けてはいなかったシエラは、陛下をご案内せよと言われてすぐに返事をし、立ち上がった。
「シエラ」
頭を下げて横をすり抜ける間に、名前を呼ばれ、しばし硬直する。名を覚えられていたことも、彼女にその名を呼ばれたことも、シエラには大きな衝撃だった。
非情の王の命に背いてなお、夢魔の一族が滅びることなく在れたのは――彼女一人で百軍に敵うとまで謳われた、この女将軍の功績の為せる業だった。美しい彼女が当主であった頃の館に引き取られたシエラは、大戦の孤児だ。親からは名前さえもらうことができなかった少女に、彼女が直々に名をくれた。
シエラはそのときからずっと、この身を尽くして、ヴァルフォーレのために働くと心に決めていた。
「よく働いてくれていることは知っている。……どんなときも、あれの味方になって欲しい」
「無論でございます……!」
冷え切っていた身体に、一瞬で喜びの血が巡る。己の単純に心から苦笑しつつ、シエラは扉に向かい、二人の露払いのために気を引き締めた。
そんなシエラの背を眺め、女王もゆったりと扉に向けて脚を向ける。すかさずエスコートをしてくれる伴侶の腕に腕を絡ませながら、小さな苦笑を浮かべた。
「……あんまり優しくしちゃダメよ」
「冷たくするのも駄目だと」
そうだけど、と。困ったように呟く女王が何故機嫌を損ねたのか解らなかったフランメは、優しくその背に手を添えて歩を進めながら、恭しく伴侶に言葉をかけた。
「わざわざあなたが足を運ばずとも、私が全員追い返しましたが」
「私があなたと一緒に行きたかったのよ」
ついでに一泊くらいお休みしたかったの、と。悪戯めかして笑ってみせる女王の瞳を見つめ返す美しい瞳が、愛しげに眇められる。
痛みにも、悲哀にも。色を変えない金朱の瞳に、溢れんばかりの情愛を浮かべて。冷徹を謳われる女将軍は微笑んだ。
「私の運命、愛しい方。あなたは、私との縁を後悔してはいないでしょうか」
「まあ……フランメ。あなたに花嫁に望まれるというのが、どういうことなのか。あなただけは知らないのね」
まだどこかあどけない、少女のように愛らしい面差しに驚きを湛えて瞬いた女王が、甘えるような仕草で腕を伸ばす。
望みの通りに抱き締めてくれた伴侶の暖かな腕の中、透き通った瞳にとろりと魔性を灯して、女王は甘く囁いた。
「あなたに抱かれない生涯なんて真っ平よ」
此度の花嫁も、きっと、そう思うことでしょうと。まるで予言をするように、美しい声が笑った。
殺到する通信の対応に、あるいは、各地の当主直々の訪いに。当代当主を欠く一族は取り乱し、後手後手に回りながら懸命の説明作業に追われている。奥の間への取次ぎを担当とする一の間には次から次へと新たな情報が届けられ、その中心で対処に追われる乙女の顔色を見る間に蒼白に染めていった。
花のような髪を清楚に束ねた彼女は、屋敷の従僕に取り立ててもらったばかりの新米だ。蕩けるような魅惑を秘めた甘い瞳の色を見れば、彼女が優秀な夢魔であることは容易く知れる。だが、若く美しい身目を長く保つ夢魔の一族の中でも、一際年若く見える彼女に現状は負担が過ぎることもまた一目瞭然だった。
「シエラ様、ゴラムの一族が、郎党を率いて目通りをと」
「当主様に一目でもと、ヴァンピールの長老様まで」
来る客来る客、彼女よりも遥かに高位の悪魔ばかりで、面会に序列をつけるも追いつかない有様だ。序列をつけたところで、屋敷の使用人に過ぎないシエラが、その内の誰に対応できるというわけでもない。上司に指示を仰ごうにも、内線をつなぐ隙もなく客の訪いを告げられて、客をもてなした経験の少ないシエラはすっかり混乱していた。
不変の時代の客であれば、夢魔の館を訪れるものには、魅惑の悪魔の名に相応しいもてなしをしてやればいいだけだ。だが、この危急の時節の客人には、その肩書相応の重みがある。各々の一族の悲痛なまでの切望を携えて城を訪う上位種の悪魔たちのもたらす圧に、シエラはついによろめいて、その場に膝をついた。
シエラ様、と。心配そうに名を呼ばわり、支えてくれようとする部下の後ろからも、更なる来客を告げに扉を開ける者がいる。シエラよりもよほど倒れそうな有り様の青年の顔色からは、高位悪魔の随伴が予想できた。
後をお任せ頂いた身で非礼なれど――と。シエラは歯噛みしつつ、傍らの部下を振り仰いだ。
「やむを得ません。一度、レーヴェ様にご連絡を……」
「――やめておけ」
その声が響き渡るなり、騒然としていた部屋の空気が静まり返る。青褪めた案内役の青年の背後から姿を現した長身の美女の眼差しを受けて、それが同種の夢魔の気配と知ってなお、魂を抜かれたように魅入られるものも少なくなかった。
月を溶かした珊瑚の瞳に甘い魔性を、華やかな顔立ちに冷徹を浮かべたその美貌を一目見れば、誰も二度と忘れられはしないだろう。艶めく薔薇色の髪を一つに束ねて背に流し、麗しいドレスではなく騎士のような礼装に身を包む彼女が何者か。知らない者は、この魔界に居はしない。
当代魔王の永久の伴侶にして、夢魔の名門ヴァルフォーレの鬼子。争い事を得手としない夢魔の血族に生を受けながら、狂王に歯向かってなお一命を取り留めた、かつての四強の女将軍。――フランメ様、と。惚けたように呟かれた、誰ぞの声をきっかけに、部屋中の夢魔がその場に膝をついた。
ヴァルフォーレ家先代当主、フランメ・ヴァルフォーレ。
「あれがその気になったのを祝いこそすれ、部外者が今取り乱して何になる」
説明をして追い返せ、と。事も無げに言い放たれて、シエラは何か弁明をせねばと、震えながら顔を上げた。
「はい、しかし。花嫁様の御心の安堵のためとはいえ、おいでになる場所が城外では……せめて我らが手の届く場所に留まって頂かねば、皆様方のご不安を鎮めることは難しいかと」
「子を成せ、子を産め、赤子を寄こせと。そんな不躾な嘆願を、妻の耳に入れたい夫がどこにいる」
理知的で、理性的なその面差しに浮かんだ微かな不快に。己の失言を悟ったシエラは即座に頭を深く下げたが、こぼれてしまった言葉は取り戻せない。冷や汗を流すシエラの背に、確かな怒りを帯びた声が降り注いだ。
「それとも、お前は――己らが当主を、鎖でつないで繁殖させるか?」
しん、と。水を打ったように静まり返った部屋の中に、痛々しいほどの沈黙が落ちる。弁明をせねばと思いながらも、シエラの喉は恐怖と羞恥にぴたりと糊付けされて動かなかった。
いかなる言葉を重ねたところで、事実として。仕える主を軽んじるような発言を、この口の端に上らせてしまったことは覆せない。己の心得違いに声もないシエラの有り様を見かねてか、まるで助け船を出すように、場違いなほどに優しげな声が二人の間に割り入った。
「フランメ。お顔があまりに怖くてよ」
「……陛下」
美しい声が紡いだ敬称を耳に、思わず顔を上げたシエラの瞳に――透き通った水色の瞳を持つ、可憐な淑女の姿が映る。見る者を安堵させるように優しく微笑む彼女が誰であるのかを、正しく悟ったシエラの胸が早鐘を打った。
今は名実ともに魔界最強と呼ばれる女傑の隣に在って、怖じける気配の欠片もない彼女こそが、傷付いた魔界が頂く至宝。恩寵を振り撒く癒しの魔王、フォンテーヌ・フォルネウス。
「あなたの自慢の弟ですもの、心配になってしまうのは解るけれど。……ふふ、私の義弟を。獄につなげる悪魔が、この魔界のどこにいて?」
「……っ! そ、そのようなつもりは、決して……!」
見苦しいと知りながら、悲鳴のような声を上げてしまったシエラに慌てたように向き直って、解っていてよ、と。優しく宥める白い手指には、ヴァルフォーレの家名を刻んだ金の指輪が輝いている。
魔王の座を、己の家名で継いでなお。最愛の伴侶との永久の誓いの証を愛しげに指に輝かせる女王は、まるで人の世の聖女のような優しさに満ちた面差しで微笑み、ひれ伏す夢魔を見渡した。
「急いてしまう気持ちも、もちろん理解はできるけれど。あなた方にとっても、私たち悪魔全てにとっても、運命とは神聖なもの。……結ばれるべくして結ばれる二人に、他者が口を挟むのは愚かなことだわ」
そうでしょう? と。暖かな声に柔らかく咎められて、夢魔たちは皆、畏れと羞恥に項垂れた。
交わるだけなら老若男女も種族の別も問わずとも、子を生す相手となれば話は別だ。別ち難く魂を結ばれて、互いに心から永遠を誓えるほどに愛し合わなければ、夢魔は一人の子も生せない。先代魔王の統治下で、数を増やすために見境なく番えと命じられても――誰一人として、その命に従うことができなかったように。
再び静まり返った部屋の中に、ふふ、と。穏やかな声が優しく微笑んだ。
「と、いうことをね。分からず屋の方々に説明する、お手伝いに来たのよ」
急に来ちゃってごめんなさい、と。いっそ少女のように愛らしく恥ずかしげに囁くその姿に、突如として緊張を解かれた夢魔たちが軒並み腰を抜かした。
あまりに情けないその有り様を見回して、ため息をついたフランメが、シエラに目線を向ける。辛うじて惚けてはいなかったシエラは、陛下をご案内せよと言われてすぐに返事をし、立ち上がった。
「シエラ」
頭を下げて横をすり抜ける間に、名前を呼ばれ、しばし硬直する。名を覚えられていたことも、彼女にその名を呼ばれたことも、シエラには大きな衝撃だった。
非情の王の命に背いてなお、夢魔の一族が滅びることなく在れたのは――彼女一人で百軍に敵うとまで謳われた、この女将軍の功績の為せる業だった。美しい彼女が当主であった頃の館に引き取られたシエラは、大戦の孤児だ。親からは名前さえもらうことができなかった少女に、彼女が直々に名をくれた。
シエラはそのときからずっと、この身を尽くして、ヴァルフォーレのために働くと心に決めていた。
「よく働いてくれていることは知っている。……どんなときも、あれの味方になって欲しい」
「無論でございます……!」
冷え切っていた身体に、一瞬で喜びの血が巡る。己の単純に心から苦笑しつつ、シエラは扉に向かい、二人の露払いのために気を引き締めた。
そんなシエラの背を眺め、女王もゆったりと扉に向けて脚を向ける。すかさずエスコートをしてくれる伴侶の腕に腕を絡ませながら、小さな苦笑を浮かべた。
「……あんまり優しくしちゃダメよ」
「冷たくするのも駄目だと」
そうだけど、と。困ったように呟く女王が何故機嫌を損ねたのか解らなかったフランメは、優しくその背に手を添えて歩を進めながら、恭しく伴侶に言葉をかけた。
「わざわざあなたが足を運ばずとも、私が全員追い返しましたが」
「私があなたと一緒に行きたかったのよ」
ついでに一泊くらいお休みしたかったの、と。悪戯めかして笑ってみせる女王の瞳を見つめ返す美しい瞳が、愛しげに眇められる。
痛みにも、悲哀にも。色を変えない金朱の瞳に、溢れんばかりの情愛を浮かべて。冷徹を謳われる女将軍は微笑んだ。
「私の運命、愛しい方。あなたは、私との縁を後悔してはいないでしょうか」
「まあ……フランメ。あなたに花嫁に望まれるというのが、どういうことなのか。あなただけは知らないのね」
まだどこかあどけない、少女のように愛らしい面差しに驚きを湛えて瞬いた女王が、甘えるような仕草で腕を伸ばす。
望みの通りに抱き締めてくれた伴侶の暖かな腕の中、透き通った瞳にとろりと魔性を灯して、女王は甘く囁いた。
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