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堕ちる世界に映る
棄てれられた日
しおりを挟む何度も何度も繰り返されるこの行為に何の意味が有るのだろう。
「──やはり貴様は、ッ絞まりが良い」
「ッンあ……ァア゙アッ……ぅ゙ヴっ」
果ての無い欲望の捌け先。ぐちゅぐちゅと卑猥な音が響き渡る室内。もう幾度と無く繰り返され、最初こそあった異物感とその疼きは今では感覚も朧気で何も無くただ泣き、呻き、心は重苦しく空虚なままで、ただただ苦痛の時間を堪え忍ぶ日々。
それすらももう今や何も感情の起伏も無くなり、その繰り返される行為を受け入れていた。決して拒絶をする事も逃げる事も許されないそんな世界だったから。
「だが、気に食わない声だッ!」
「ッ……ぁあ゙ッあ゙ッ」
また熱い飛沫を後ろの蕾の奥深くに注ぎ込まれるともう限界とばかりに身体はぐらりと前のめりに崩れ、その拍子にこぽりと抜けた男根と共に蕾から足にまで伝ってくる白濁にさえ、もう気付けない程に何もわからない。しかし、首に掛けられた隷属の印である首輪に繋がれた鎖を引っ張られ、倒れる事すら許されなかった。
「何、倒れようとしている奴隷の分際で!」
「ゔぅ……すみま、せ……ぐあッ!」
呻き声に謝罪の言葉は最後まで言わせて貰う事さえも無く、右頬を殴られれば、奴隷であり、ろくな食事も与えられず、ただの性処理奴隷の軟弱で痩せ細っている僕の身体は、鍛えてはいなくとも金持ちのお貴族で身体に贅沢を詰め込んでいる御人である主様のその息子の力であっても簡単に吹っ飛んだのは当然だった。
勢い余って、棚に置いて飾ってあったモノに激突し、ガシャンと大きく音を立て割れた。その物が何であるか、そんな事奴隷の自分が知る良しもなかった。痛みは不思議と感じなかったが、ぬるりと頭に生暖かいモノが流れた感触がして、頭を触るとぬるりと水っぽく、手を見れば赤黒くなっていた。
ただ青ざめた表情の主様の息子の顔を起き上がりに、ただ無感情なまでに無表情に黙って見据える僕の顔を見るなり、羞恥のあまりか怒りを露わにしたように叫んだ。
「貴様ァ! 何だ、その目は!! 奴隷の癖に私に反抗的な目を向けるなど、万死に値する! この奴隷はもう不要だ! 使用人今すぐ此奴をあの森に棄ててこい」
理不尽には慣れていた。何度も何度も繰り返される辛辣な言葉にも。何処でも同じだった。
そして、この場所は主と息子で二倍で、家だけ綺麗で苛烈な場所だった。
ああ、これでやっと死ねるとそう思った。足に伝っていた白濁は気付けば乾き、頭にも足にも、蕾の中にまとわりつく感触の煩わしさが酷く虚しく感じた。
────
雨が激しく打ち付ける。
急ぎ馬に乗せられ、草木生い茂る何処かの森に連れてこられた。首輪には鎖と手には手錠、薄汚れてボロボロの服をせめて着せられたのは温情かもしれない。だが、防寒には全く意味を為す事はある筈もなかった。打ち付ける雨は体温を急激に奪い、身体は馬に乗って走って動いてるのとは別にガチガチと震えていた。
「お前に恨みはないが、命令だ。悪く思うな」
そう言い残して、ある程度の森深くまで来ると放り投げられ物のように棄てられ、馬に乗った使用人はそのまま歩を返して消えて行った。
激しい雨の中、立ち上がると首輪に付いている長い鎖は地面まで届いていた。それを引き摺り、重い足取りで、暗闇の中、目は次第に慣れ、少し歩いて大きな木を見付けてはぐったりと背を預けて座り込んだ。
息は大分上がり、呼吸も浅くおかしい。
感覚も麻痺してもう訳もわからない。寒さも感じず、そう言えば頭を打って、血を流していたと今さっきに起きていた事なのに忘れていた。もうその感覚も無かった。
ただこのまま向かう先の死まで待つだけの僕は、時の流れがとてもゆっくりに感じられた。何処に行ったって変わらず、何をするにも同じで虐げられ、蔑まれ、壊されていくばかりだった。
無闇矢鱈の小さな希望も誰かの遊びで貶められ、たった一つの淡い情も崩された。否定も肯定も何も認められず、気付けば欲望の捌け口となり、罵声と暴力を幾度と浴びた。振りかざされた刃を何度も受け、その都度交わす行為は虚しく、それは何処に行っても似たようなものだった。
やり直せるならとか、生まれ変われるならなどとそんな淡い期待を三度目も願う気もなく、希望も欲も何も考えるのを止めたのはいつだったか。
不意にバシャリと身体が座るのにすら耐えられず、横に倒れ込んだ。そろそろかと死期を悟り、やっと、楽になれると、ゆっくり目を閉じていく。それでも、願ってしまうのは、やっぱり僕に心がある記憶が微かに残っているからだった。
「お──、誰……──か?」
「怪我──るぞ!!」
「人が倒れ……──!」
このまま深く永遠に眠りにつこうとした時、身体を揺すられ、意識がまた一瞬浮上し、重たい瞼を薄く開く。視界は白黒で声も遠くてハッキリしない。忙しなく、何かが動いているような、セピアの視界に誰かに抱えられたような浮遊感。
「確りしろ、もう大丈夫だから」
何が大丈夫なのかわからない。ただ酷く温かいような気がしてしまい、顔も判別出来ない誰かの服を力強く握ってしまっていた。
それに気付いたのか否か、その人はその手を包むように触れてくれ、誰かもわからないのに、頬に何か生理的なものが流れるのを感じて、思ってしまったんだ。どうしようも無く、こんな残酷な世界に放り込まれた僕は、もう望むのすら烏滸がましい。でも、ただ、ただ、普通に
「生き、た……ぃ……け」
空は少しずつ小雨に変わっていき、手に触れる誰かの感触だけは微か感じながら僕は意識を手離した。
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