【愛と感動】貴族家で冷遇され続けた少年、朽ち果てた剣から美少女を錬成してしまう ~追放された魔法使いの卵と悲劇の過去を背負う剣の物語

水城ゆき

文字の大きさ
上 下
22 / 42

ワンディ

しおりを挟む
朝靄が立ち込める中、レイとエステルはメリッサの塔を後にしていた。二人の背中には、長旅に必要な荷物が背負われている。
メリッサは塔の入り口に立ち、二人を見送っていた。「気をつけて行くのよ。ワンダラスト卿の気まぐれには要注意よ」

レイは振り返り、にっこりと笑う。「はい、気をつけます。メリッサさん、三日間の訓練ありがとうございました」
エステルも静かに頭を下げた。
メリッサは手を振りながら、「そうそう、忘れちゃいけないわ」と言って、小さな袋をレイに渡した。
レイが受け取ると、中には光る石が入っていた。
「これは?」
「通信用の魔石よ。何かあったら連絡してね」とメリッサがウインクする。

レイとエステルは感謝の言葉を述べ、再び歩き出した。朝日が徐々に霧を晴らし、前方の道を照らし始める。
「さて、どこへ向かえばいいんだ?」レイは地図を広げた。
エステルが地図を覗き込む。「メリッサさんの話では、ワンダラスト卿の屋敷は北西の森の奥にあるそうです」

二人は森に向かって歩き始めた。道中、レイは時折エステルを見つめては、ため息をつく。
「どうかしましたか?」エステルが首を傾げる。
「いや…」レイは少し言葉を濁す。「本当に大丈夫なのかなって。お前の正体をバラすような事して」

エステルは静かに微笑む。
「私は大丈夫です。それに、この旅で私自身のことも、もっと知ることができるかもしれません」
レイは頷き、少し安心したように肩の力を抜く。

森に入ると、木々の間から漏れる木漏れ日が二人を包み込んだ。鳥のさえずりと、風に揺れる葉の音が心地よい。
すると突然、道の先に人影が見えた。
「あれは……」レイが目を凝らす。
派手な服を着た、金髪の男が、大きな虫取り網を持って蝶を追いかけている。

男は二人に気づき、急に立ち止まった。そして、にっこりと笑顔を向ける。
「おや、こんな森を歩いているなんて!」男の声は意外にも朗らかだ。「君たち、虫取りをしに来たのかい?」
レイとエステルは困惑した表情で顔を見合わせる。
二人の返答も聞かず、男は大きく手を振る。「さあ、一緒に蝶を追いかけよう!」

レイは呆然としたまま、再びエステルを見る。エステルは静かに肩をすくめ、戸惑うような笑みを浮かべる。
「一緒に蝶を追いかけるって?」レイは困惑した表情で男に尋ねた。
金髪の男は大きく頷くと元気一杯に答えた。
「そうさ!この森には珍しい蝶がいるんだ。綺麗な青い羽を持つ『エーテルウィング』という種類がね」

男の熱意に圧倒されながらも、エステルが静かに口を開けた。「私たち実は、用事があるのですが……」
「いいじゃないか、いいじゃないか。今は蝶が大事!さあ、君たちも手伝ってくれ」
「いや、あんたには大事かもしれないが……」レイは困惑しながらも、エステルと顔を見合わせた。この奇妙な状況にどう対応すべきかと。

「あの…」レイが恐る恐る言う。「一応お名前を伺ってもいいですか?」
男は大きな虫取り網を振りながら答えた。「僕?ああ、ワンディって呼んでくれ。みんなそう呼んでるからね」
レイとエステルは再び顔を見合わせた。
まさか、この男はワンダラスト卿なのか?という疑問がレイの頭をよぎった。

「さあ、行くぞ!」ワンディは勢いよく森の奥へと歩き始めた。
レイとエステルは、どうすべきか迷いながらも、この奇妙な男についていくことにした。
森の中を歩きながら、ワンディは熱心に蝶や植物について語り続けた。その博識ぶりに、レイとエステルは次第に引き込まれていく。

エステルが静かに尋ねた。「そのエーテルウィングは、そんなに珍しいのですか?」
「ああ、とてもね」ワンディの目が輝いた。「伝説では、エーテルウィングの粉は強力な魔法の触媒になるんだ。でも、滅多に姿を現さない」
レイは興味深そうに聞いていたが、突然立ち止まった。

「あれは…」指を差した方角の木の枝に、青く輝く羽を持つ蝶が止まっている。
「エーテルウィングだ!」ワンディが興奮して叫んだ。
しかし、彼が網を振り上げた瞬間、蝶は飛び立った。
「あっ!」ワンディは蝶を追いかけて走り出す。

レイとエステルは、予想外の展開に驚きながらもワンディを追いかけた。森の奥へと入っていくにつれ、木々が徐々に開け、そこに大きな屋敷が姿を現す。
するとワンディは蝶を追いかけたまま、屋敷の敷地へと駆け込んでいく。
レイとエステルは立ち止まった。

「おいおい。大丈夫か?」レイが呟く。
エステルも静かに頷いた。「あの方、普通に敷地に入っていきましたね」
そのとき、屋敷の扉が開いた。そして何故かワンディが顔を出す。

「おや?なぜ外で立ち尽くしているんだい?君達のおかげで蝶はつかまえたよ。さあ、中へ入りたまえ!」
「うそだろ?」
レイは開いた口が塞がらない。
さすがに、これで屋敷の人間じゃない事はないだろう、やはり彼がワンダラスト卿なのだろうと、二人は招かれるまま屋敷の中へと足を踏み入れた。

豪華な屋敷で玄関ホールは予想以上に広く、天井まで届きそうな巨大な柱が立ち並んでいる。
壁には見たこともないような生き物の剥製や、奇妙な形の美術品が所狭しと飾られていた。

「さあ、こっちだよ!」ワンディの声が廊下の奥から聞こえてくる。
二人は声の方へと進んだ。通り過ぎる部屋ごとに、さらに奇妙な収集品が目に入る。光る石、動く植物、見たこともない機械……。
「すごい...」レイが息を呑む。「これが全部、ワンダラスト卿のコレクション?」
エステルは静かに頷いた。「膨大な量ですね」

そのとき、ワンディの声が再び響いた。「ここだよ、早く来たまえ!」
二人が声のする部屋に入ると、そこは広大な書斎だった。壁一面が本棚で埋め尽くされ、中央には大きな机が置かれている。机の上には、先ほど捕まえたらしい青い蝶が、ガラスの容器に入れられていた。

ワンディは興奮した様子で蝶を覗き込んでいる。「見たまえ!エーテルウィングだよ。本当に美しいだろう?」
レイとエステルは、蝶の神秘的な輝きに見入ってしまう。
「さて」ワンディが突然振り返った。
「私がここの主、ワンダラスト。君たちは私に用事があるのだろ?珍しいものでも持ってきたのかい?」

全てお見通しとばかりのワンディの言葉に、レイは一瞬たじろぐ。その後、深呼吸をして決意を固めた。「はい、お見せします。エステル……」
エステルが静かに頷く。レイは魔力を操作し始め、エステルの体が光に包まれた。
ワンディは目を見開いて見つめている。「おや?これは……」

光が収まると、エステルの姿は消え、代わりに美しい銀の剣がレイの手の中に現れた。
「なんと!」ワンディが声を上げる。「これは…人が剣に?いや、剣が人に?」
レイは緊張しながらも、説明を始める。「はい、実はさっきまでそこにいた銀髪の少女は剣だったのです」

ワンディは興奮した様子で剣に近づいてきた。「信じられない!こんなものは見たことがない!」
彼は剣をじっと見つめ、そっと手を伸ばす。「触っても大丈夫かな?」
レイは少し躊躇したが、「はい…大丈夫です」と答えた。

ワンディが剣に触れる「おお!確かに剣だ」
彼は目を輝かせながら、レイを見つめた。「ところで君たち、どこから来たんだい?そして、これは何処で手に入れた?」
レイは頷き答える。「実は、私たちはメリッサという女性に紹介されて……」

「メリッサ?」ワンディの表情が変わった。
「あの魔女か……」一瞬、怪訝な顔を見せた彼だが、にっこりと笑うと大きな椅子に腰掛け、続ける。
「まぁいい。さあ、話をしよう。君たちの話を、すべて聞かせてくれないか?」
レイは剣のエステルを抱え、彼女との出会いについて話始めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~

秋鷺 照
ファンタジー
 強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...