【愛と感動】貴族家で冷遇され続けた少年、朽ち果てた剣から美少女を錬成してしまう ~追放された魔法使いの卵と悲劇の過去を背負う剣の物語

水城ゆき

文字の大きさ
上 下
21 / 42

メリッサの提案

しおりを挟む
旅に出ると聞くなり、メリッサは意味深な笑みを浮かべてレイに擦り寄ってきた。
何か企むような彼女の顔に、「な、なんですか?」とレイは少し身を引く。
「なんでもないわよ。ただ、あなた達。これからの旅の資金はどうするつもり?」

レイは思わず顔をしかめる。「そうですね……正直、きついですね」
「でしょうね」メリッサはくすりと笑う。「私から良い提案があるのだけど、聞いてみる?」
エステルが静かに興味を見せる。「どんな話でしょうか?」
「ある変わり者の貴族のことよ。ルーパート・フィッツロイ・ワンダラストって言うんだけど……」
そして、メリッサは語り始めた。

ルーパートは、この辺りで有名な代々続く貴族の家系だが、若い頃から世界中を旅して珍品収集に没頭している。その過程で様々な珍しい魔法アイテムも収集していた。
収集品を展示する私設博物館も所有しており、時々一般公開もするほどだ。
とにかく常に〝珍しいもの〟を探し求めているが、すぐに興味を失い、次を求める。その結果……

「ルーバートは面白いものを見せれば大金を払うのよ」
「つまり?」レイの目が大きく開かれた。
「エステルを見せるだけでいいの」
エステルは無表情のまま、しかし目に興味の色を宿して聞いていた。
「でも……」と、メリッサは指を立てる。「ただ見せるだけじゃダメよね。彼女は見た目、普通の少女だし」
どこか楽しそうな魔女の言葉に、レイのテンションが下がりはじめる。
「嫌な予感がしますけど?」

メリッサが微笑む。「簡単よ。あなたが意図的に魔力をコントロールして、エステルを剣の姿に戻せばいいの」
「やっぱり」レイはため息混じりに続けた。「でも、それはあまりに危険すぎると思いますが?」

メリッサは真剣な表情で続けた。「レイ、あなたの魔力は膨大だけど、全くコントロールできていないでしょう?ドラゴンとの戦いで、殆ど魔法が通用しなかったって言ってたわよね」
「それは……まぁ」
「血を使えば強力だけど、それは危険すぎる。だからこそ、もっと魔力をコントロールする練習をしなきゃ」

エステルが静かに口を開いた。「以前にも旅の途中で、私が剣に戻りそうになったこと、ありましたね」
レイは当時を思い返した。
「山岳地帯で雪崩に巻き込まれそうになった時か……確かに」
すかさずメリッサが言う。「ほら、そういうことよ。何かあった時に慌てるより、今のうちから性質を理解しておいた方がいいでしょう?」

レイは困惑した表情でエステルを見て、そして恐る恐るメリッサに尋ねた。
「でも、失敗したらどうなるんだ?」
メリッサは急に深刻そうな顔をした。「さあ、最悪エステルが永遠に包丁くらいの大きさになるかもね」
「冗談きついですよ!」とレイが叫ぶと、エステルが冷静に言う。
「包丁なら、料理で役立てるかもしれません」
「お前な。包丁にかけて切れ味鋭い返しをするんじゃない」

メリッサは笑いをこらえながら「冗談よ、冗談。私が監督するから、そんな大失敗はさせないわ」
レイは少し考え、諦めるようにため息をついた。「分かりました。やってみます」
エステルが静かにレイの肩に手を置く。「頑張りましょう。私も……人間でいたいです」
その言葉に「そうだな」とレイの表情は和らいだ。

二人を見て、メリッサは満足げに頷く。
「よし、決まりね。それじゃ、特訓を始めましょう」

三人で朝露が輝く庭へと移動すると、メリッサは深呼吸をして二人に向き直った。
「さて、始めましょうか。レイ、まずはエステルへの魔力を弱めるイメージからよ」
レイは不安げにエステルを見つめる。「大丈夫かな」
エステルは静かに頷いた。「私は大丈夫です。レイを信じています」
その言葉に、レイは覚悟を決める。目を閉じ、深呼吸を始めた。

「エステルへの魔力を弱める……か。どうすれば?」
メリッサが優しく諭す。「まるで蛇口をゆっくり閉めるように。エステルとの繋がりを、少しずつ細くしていくのよ」
レイが集中し始めると、エステルの体が微かに光り始めた。その光は、朝日の中でさらに輝きを増す。
「その調子よ。ゆっくりと…焦らずに」
レイの額には汗が浮かび、眉間にしわが寄る。
突然、エステルの右腕が剣に変化した。

「うわっ!」レイが目を見開く。エステルの腕が、鋭い刃となって輝いている。
エステルは冷静に腕を見つめる。「興味深い感覚です。これなら私は、剣を持つ必要がないのでは……」

メリッサはくすくすと笑う。「まあ、初日としては上出来ね。レイ、焦らないで。ゆっくりと元に戻してみて」
レイは深呼吸をし、再び集中する。ゆっくりと、エステルの腕が人間の姿に戻った。
メリッサは満足げに頷く。「初日としては十分よ。明日はもっと上手くいくわ」

翌日。昼下がりの陽光が強く降り注ぐ中、三人は再び庭に集まる。メリッサが宣言した。
「今日は完全に剣に戻すことを目指すわよ」
レイは緊張した面持ちでエステルを見つめると、エステルは静かに頷いた。「心配ありません。むしろ、懐かしい感じがします」

レイが魔力を操作し始めると、エステルの体が徐々に光に包まれた。その光は、まるで銀色の炎のようだ。
「そう、ゆっくり……」メリッサが見守る。「エステルの人間としての形を、少しずつ解いていくのよ」
レイの額には汗が滲み、手が微かに震えている。エステルの姿が徐々に溶けていくように見えた。

光が収まると、そこには美しい銀の剣が横たわっていた。刃には繊細な模様が刻まれ、柄には宝石が埋め込まれている。
「やった!」レイが歓喜の声を上げる。
しかし次の瞬間、剣が揺れ始めた。
「え?どうしたんだ?」レイの声に焦りが混じる。
メリッサも慌てていた。「ほら落ち着いて!剣に魔力を!彼女の顔を思い浮かべて!」

レイが必死に集中するが、剣は激しく震え続ける。その様子は、まるでエステルが苦しんでいるかのようだった。
「ごめん、エステル!どうすれば……」レイの声が震える。
すると、剣から微かな声が聞こえた。「レイ、私はここにいます。怖がらないで。落ち着いて」
その声に導かれるように、レイは深呼吸をした。再び魔力を操作する。彼は目を閉じ、最近見たエステルの笑顔を思い浮かべた。

ゆっくりと光に包まれ、剣の形が人の輪郭へと変化していく。そして、エステルが人間の姿に戻った。
メリッサはため息をつく。「ヒヤヒヤしたわね。でも、よくやったわ」

そして三日目。夕暮れ時、空が赤く染まる中、三人は更なる訓練に臨んでいた。
メリッサが宣言する。「次は、人間と剣をスムーズに切り替えられるようになりましょう」
レイは自信なさげに頷く。「分かりました。……うまくいくかな」
エステルが優しく微笑む。「私たちなら、できますよ。この三日間で、私たちの繋がりはもっと強くなった気がします」

その言葉に勇気づけられ、レイは魔力の操作を始める。
最初は少しぎこちなかったが、徐々にエステルの姿が剣へ、そして人間へと、スムーズに変化していく。
メリッサが指示を出す。「そう、もっとリズムよく。エステルの本質は変わらないのよ。形が変わるだけ」

レイとエステルの息が次第に合っていく。エステルが剣になると、レイがそれを握り、再び人間に戻す。その一連の動きはスムーズだった。
「素晴らしい!」とメリッサが拍手する。「見事な連携ね」
最後の変化が終わると、レイは疲れ切った様子で地面に座り込んだ。額には汗が滴り、呼吸が荒いが顔には安堵の笑みを浮かぶ。

エステルがその隣に座り、静かに頭を寄せる。
「これで私は、よりあなたの役に立てそうです」
メリッサは満足げに二人を見つめた。「よくやったわ。これでルーパート……いえ、ワンダラスト卿に会いに行けるわね」

レイとエステルは静かに頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

半神の守護者

ぴっさま
ファンタジー
ロッドは何の力も無い少年だったが、異世界の創造神の血縁者だった。 超能力を手に入れたロッドは前世のペット、忠実な従者をお供に世界の守護者として邪神に立ち向かう。 〜概要〜 臨時パーティーにオークの群れの中に取り残されたロッドは、不思議な生き物に助けられこの世界の神と出会う。 実は神の遠い血縁者でこの世界の守護を頼まれたロッドは承諾し、通常では得られない超能力を得る。 そして魂の絆で結ばれたユニークモンスターのペット、従者のホムンクルスの少女を供にした旅が始まる。 ■注記 本作品のメインはファンタジー世界においての超能力の行使になります。 他サイトにも投稿中

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~

秋鷺 照
ファンタジー
 強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)

処理中です...