【愛と感動】貴族家で冷遇され続けた少年、朽ち果てた剣から美少女を錬成してしまう ~追放された魔法使いの卵と悲劇の過去を背負う剣の物語

水城ゆき

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失われた剣と疑わしき死

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レイの脳裏に一つの剣が浮かんでいた。忘却の淵に沈んでいた記憶が、突如として鮮やかによみがえる。「やはりあの剣……返してもらおう」
レイの声は、決意と諦めが入り混じった奇妙な響きを帯びていた。それは、置き去りにされた思い出の断片。ベルモント家の前当主アルビオンから贈られた、レイ専用の剣。

突如の追放劇。慌ただしく屋敷を後にする中で、剣を持ち出す余裕などなかった。今もなお、ベルモント家の屋敷のどこかで、埃を被って眠っているに違いなかった。
レイの目に、過去の光景が走馬灯のように駆け巡る。孤児だった自分を、アルビオンが養子に迎え入れた日。
「これは君のものだ。大切に使うんだぞ」
その言葉とともに、自分には荷が重いと感じるほどの立派な剣が手渡された瞬間。レイには剣術の才など微塵もなかったが、それでも当時はその剣を宝物のように大切にしていた。

レイは物思いに沈みながら、エステルに向き直る。
「よし、剣が欲しいならついてこい」
エステルは、レイの決意を感じ取ったかのように、無言で頷いた。こうして二人は、あの屋敷への道を歩み始めた。
道中、レイの心は前当主との思い出に浸っていた。厳しくも優しかった彼は、レイを認め、剣の才能を見出して養子に迎えてくれた。しかし、途中からレイは気づいていた。自分に剣術の才能など、微塵もないことを。

前当主がレイに剣の才能があると言ったのは、単なる方便だったのだ。そうでもしなければ、あのような名家にレイのような人間を迎え入れることなど、できなかったのだから。

やがて二人は、屋敷の前に立っていた。最終的には辛い思い出ばかりが積み重なったベルモント家。しかし、レイは今一度決意を新たに、その扉を叩く。 
扉が開き、硬い表情の使用人が姿を現した。その目は、レイを見下すように冷たい。

「すみません、御主人に会わせてください。大事な用件があるんです」
そんなレイの懇願は、使用人の冷徹な態度にはじかれた。
「当主様は、お前のような追放された者に会う義理はないとさ。もう諦めろ」
容赦ない言葉がレイの胸に刺さる。しかし、諦めるわけにはいかない。何度も頼み込み、話を聞いてもらえるよう懇願し続けた。

やがて、しつこさに根負けしたのか、使用人の一人が舌打ちしながら屋敷の中へ消えていった。待つこと数分。屋敷から現れたのは、ベルモント家の次男、アルカディアだった。
「何の用だ?」
その声音には、レイを見下すような尊大さが滲んでいた。過去の仕打ちの記憶が蘇る。それでもレイは、感情を抑え込んで説明を始めた。前当主から頂いた大事な剣だけでも返してほしいと。

しかし次男は、冷笑するばかり。
「お前はもう、この家の人間ではない。なぜその剣を返す必要があるのだ?あれはベルモント家の者に与えられた物だろ」
「それは……」
アルカディアの言葉は、痛烈な正論だった。いや、これは本当に正論と言えるのだろうか?レイの中で疑問が渦巻く。

しかし、そう言い放たれては反論の余地もない。剣を受け取る正当な理由が、今のレイにはなかった。「そうですか」
失意のレイは、重い足取りでその場を後にした。少し離れた場所で待つエステルの元へ戻る。彼女の前に立ったレイは、言葉を絞り出した。
「わるいな、お前に俺の剣をやりたがったんだが。取り戻すことができそうにないんだ……」
エステルは、何のことかと首を傾げる。

その時、レイは人の気配に気づいた。屋敷の豪華な庭を取り囲む植木の影から、一人の幼い少女が覗いている。
よく見れば、それはベルモント家の末っ子、オリンピアだった。
レイはエステルを連れて再度屋敷に近づき、庭を取り囲む植木越しに話しかけようと試みる。
まるで禁じられた恋に手を出してるロリコンみたいじゃないか、とレイは戸惑いながらも、僅かな可能性にも賭けた。

「久しぶりだね、オリンピア」
「剣を取りにきたの?」
随分と話が早い。おそらく玄関先での話を聞いていたのだろう。レイは、もはや何度目かの同じ話をした。
すると彼女はあっさりと答える。「いいよ。私が持ってきてあげる。少し待っていてね」
オリンピアは屋敷の中へ消えていった。

良かったと言えばそうだが、つい先程「お前に権利は無い」と言われたばかりだ。なんとも言えない罪悪感と共に、幼い少女を共犯にしてしまったのでは?などとレイは考えていた。 
時が止まったかのような静寂。レイの胸の鼓動だけが、その沈黙を破るように響く。

やがて、オリンピアが戻ってきた。しかし、その小さな手に剣はない。
「どうしたんだ?」レイの声が、風に乗って届く。
オリンピアの表情が曇った。「剣が置いてあるっぽい部屋が、封鎖されているの。だから、取りに行けなかったわ」
「そうか。しかし部屋を封鎖って、悪魔でも閉じ込めたのか?」レイは笑いを誘おうとしたが、しかし空振りに終わった。

オリンピアは、無視するかのように、深刻な顔で話を続ける。「少し前にお城から騎士団の人が来て、調査が終わるまで入っちゃダメってなってるの。だから……」
レイとエステルは、顔を見合わせた。
騎士団の調査?一体何の調査なのか。レイの胸に、不安が芽生える。

「騎士団は、何を調べているんだ?」レイの声に、切迫感が混じる。
オリンピアは、周りを気にするように声を潜めると。「これは話しちゃダメって言われてるんだけど。おじいちゃんの病気について、何か調べるって。屋敷で噂になってる。あん……さつ?……の可能性があるとか」
「あんさつ──暗殺か!?」レイの声が、思わず高くなる。

前当主アルビオンが暗殺された可能性。レイの脳裏に、再び彼との思い出が蘇る。最も世話になった人物の死が、ただの病ではなく暗殺だったとしたら?
決意が、レイの中で燃え上がった。「俺も調べてみるよ。そして真相を明らかにする。手伝ってくれるか?オリンピア」
「私に出来る事なら」小さな声で、しかし力強く言う。

「すまないエステル。ちょっと剣どころじゃなくなった!お前には悪いが……」
「では手伝いましょう」エステルの声は、いつもと変わらぬ無機質さ。
「いいのか?」
エステルは、黙って頷く。その無表情な顔を、オリンピアがじっと見つめていた。

突如、オリンピアの声が響く。「お願い、お姉ちゃん。本当の事を調べて。私もおじいちゃんの事大好きだったから」
無表情なエステルに、なぜ彼女が声をかけたのか。レイには理解できなかった。
ただ、エステルは答えた。「はい。暗殺の可能性があるなら、私が現当主を切れば真相が明らかになるかもしれません」
「おい、やめろ。そういうのは〝とっておき〟と言うんだ」レイの声に、焦りが混じる。

エステルに剣を持たせるのは危険かもしれない。レイは自分の甘さに頭を抱えた。やはり剣に人の感情なんてないのだと。その冷たい事実が、より一層レイの心に鮮明に刻まれた。
ただ、今は剣を取り戻すこと以上に重要な使命が、立ちはだかっている。アルビオンの死の真相。それを明らかにすることが、今のレイにできる唯一の恩返しなのかもしれなかった。
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