【愛と感動】貴族家で冷遇され続けた少年、朽ち果てた剣から美少女を錬成してしまう ~追放された魔法使いの卵と悲劇の過去を背負う剣の物語

水城ゆき

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導き手

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少女に従いしばらく歩くと、レイは深い緑の木々に包まれた森の中に足を踏み入れることになった。静まり返った森の中では、少女の白い姿が一際目立っている。

「大丈夫だよ。おじさん、私といっしょにいれば大丈夫」

少女の声が、夜の静寂を優しく破る。その声には、不思議な安心感があった。守り神か、それとも死神か。どちらでもいい。今のレイには、誰かに導かれることが必要だった。
森の奥へ、奥へと歩を進める。

木々のざわめきが、レイの耳に不吉な予感を囁く。
頭上では枝がこすれ合い、まるで警告するかのような音を立てる。それでも、レイは少女の後ろ姿だけを見つめて進む。
レイの足元で枯れ葉が音を立てる。その音が、静寂を破る鈴の音のように鋭く響く。

少女の白い姿が、まるで森の中を漂う霧のように、ふわりと揺れる。月明かりが木々の間から漏れ、その姿をより幻想的に見せていた。

「ねえ、おじさん。どうして私についてきたの?」

少女の問いかけに、レイは言葉を詰まらせる。「それは……俺にもわからない」本当は、死にたかったのかもしれない。
屋敷での屈辱、絶望、そのすべてから逃れたかった。
自分の存在価値すら見出せない日々から、ただ逃げ出したかった。

レイは少女に問う。「君は...人間なのか?」
少女はくすりと笑う。その笑い声は、夜の森に不思議な温かさを与えた。
「さあ、どうかな。私にもよくわからないの」
その言葉に、不思議と安堵を覚える。二人とも、自分が何者なのかわからない。その共通点が、レイの心を少し和ませた。

突如、静寂が破られた。獰猛な唸り声が、レイの背後から迫ってきたのだ。
その音は、森全体を震わせるほどの迫力があった。振り返れば、そこには獣のような巨大な怪物の姿。垂涎を垂らしながら、鋭い眼光でレイを狙っていた。
月明かりに照らされた魔物の姿は、悪夢そのものだった。
鋭い牙、赤く光る目、そして巨大な体。全てが、レイに絶望を叩きつける。

「危ない!」

レイは咄嗟に少女を庇おうとしたが、彼女の姿はなかった。やはり幻覚だったのか?その代わりに、魔物の牙がレイめがけて迫っていた。
「ごほぁっ...!」避ける間もなく、魔物の牙がレイの肩を貫いた。鋭い痛みが全身を走り、レイの意識が一瞬白くなる。傷口から血が吹き出し、その温かさが恐怖を一層増幅させた。

激しい痛みに悲鳴が漏れる。だが魔物は容赦なく、レイの体を引っ掻き、獰猛な攻撃を続けた。
鋭い爪が肉を裂く音が、夜の森に不気味に響く。レイの悲鳴が、木々にこだまする。
痛みで視界が歪む。意識が遠のきそうになる中、レイの脳裏に屋敷での日々が蘇った。

嘲笑、侮蔑、そして絶望。それらの記憶が、現実の痛みと混ざり合い、レイを苦しめる。「このまま死ぬのか……」
その思いが、レイの心を締め付けた。
死への恐怖と、生への執着が、レイの中で激しく渦巻く。
しかし、次の瞬間。

レイの中で、何かが目覚めたように体が熱く、そして眩しく輝き始める。まるで、体の中から光が溢れ出すかのように。
その光は、レイの傷口を包み込み、痛みを和らげていく。魔物が驚いたように後ずさった。その目には、初めて恐怖の色が宿っていた。

すると突如レイの手から光の波動が放たれた。
轟音と共に、魔物の体が宙を舞う。光の波動は、魔物を直撃し、その巨体を簡単に貫く。
木々を何本も薙ぎ倒し、魔物の体は地面に叩きつけられた。森全体が揺れ、木々が軋む音が響き渡る。
魔物の断末魔の叫びが、夜空に消えていった。

絶命した魔物の姿を、レイは呆然と見つめる。
自分の手から放たれた光の残像が、まだ網膜に焼き付いている。
信じられない光景に、レイは自分の手をじっと見つめる。「この感じ……これって、本当か?」

驚きと戸惑いが入り混じる中、レイは魔物の死骸の中に何かを見つけた。月明かりに照らされ、何かが金属的な輝きを放っている。
血に塗れて錆びた、刃物の破片のようだった。
レイが破片に触れた瞬間、導かれるような不思議な感覚が全身を包み込んだ。

まるで破片が呼びかけているかのように、ふと気がつくと、茂みの奥にいなくなった少女の仕草が見え隠れしていた。
「おい、もう騙されないからな」とレイは声をかける。幻覚に話しかける姿は、ヤバい奴そのものだと思ったが、今のレイには恥ずかしさなど無い。ここは見てる者もいない深い森の奥なのだ。

とりあえず確かめてみるか……と何となく、気になってレイは茂みの奥を覗き込んだ。
導かれるように、レイは小さな洞窟を見つけた。入り口は狭く、中は暗闇に包まれている。
月明かりさえ届かない、漆黒の闇が口を開けている。

躊躇する気持ちを押し殺し、レイは一歩を踏み出す。
洞窟は、それほど深くなかった。目が闇に慣れるにつれ、周囲の様子が少しずつ見えてくる。そんな洞窟の奥に一本の朽ち果てた長剣が横たわっていた。
刃は錆び付き、柄は朽ち果てている。

しかし、その姿には威厳が漂っていた。
時の流れに耐え、今もなお存在感を放つその剣に、レイは引き寄せられるのを感じて、恐る恐る、その剣に手を伸ばし。手にした瞬間、強烈な光が放たれた。
まばゆい光が洞窟内を満たす。
その輝きは、闇を一瞬にして払拭し、洞窟全体を昼のように明るく照らし出す。

「なんだよ!」レイは反射的に目を閉じた。するとその瞬間、無数の映像が脳裏を駆け巡った。戦場なのか、炎に包まれた村、そして悲鳴。
それらの映像が、まるで走馬灯のように流れていく。
喜び、悲しみ、怒り、恐怖。様々な感情が、レイの心を駆け巡った。

「これは……!」思わず剣を投げ捨てる。しかしその光は、一層激しさを増した。目を覆いたくなるほどの輝きの中、その光が形を創り始めた。
まるで彫刻家が粘土を形作るかのように、少しずつ人の形が現れ始める。

最初は輪郭だけだったものが、徐々に詳細な姿を現していく。
まず現れたのは、しなやかな腕。続いて、優美な首筋、そして豊かな髪が宙を舞う。女性の上半身が、徐々に空中に具現化されていった。

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