【愛と感動】貴族家で冷遇され続けた少年、朽ち果てた剣から美少女を錬成してしまう ~追放された魔法使いの卵と悲劇の過去を背負う剣の物語

水城ゆき

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追放された雑種の誓い

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その日の昼頃、屋敷の窓辺で、レイは縋るように祈りを捧げていた。昨夜、突然病死した家主への最期の敬意を払うように。かつて温情を注いでくれた家主【アルビオン・ドゥ・ベルモンド】は、レイにとって希有な存在だった。
何を思ってか、親無き孤児だったレイを養子として屋敷に招きいれたのだから。

しかし周りの視線はその逆で、いつも"いらぬ口を開くなり"と冷たい目で睨まれてきた。レイが養子に入った家は、代々王国の騎士長を任されるほど剣術の才優れた者がいる家系だった。
アルビオンの息子で、次代の当主になるだろう【カレドニア】と、その三人の子供達も、全員が歳相応を遙か凌駕した腕前だった。

レイはというと、ただでさえ余所者な上に一緒な訓練を受けても彼らの爪の先程も上達しなかった。
それでもアルビオンがいれば、少しは寛大に扱われた。だが彼の死によってレイは本当に"いらぬ存在"になってしまったのだ。

すぐ側を通り過ぎた次の当主カレドニアの夫人にも、わざと背中を向けられた。
「ふん。それでもなんとかしのげよ」とレイは自嘲気味に自分に言い聞かせる。屋敷では、次期当主の就任を祝う饗宴が控えていた。その準備などでレイは年端もいかぬ使用人として、重労働を課される予定だ。

「しっかりしろ、この雑種が」

宵の明ける中庭で、酷く働かされていたレイの背中を、他の使用人が無造作に鞭で打つ。レイは痛みに顔をしかめるが、抵抗する素振りは見せない。
前当主の死去でレイの立場が大きく揺らぎ、それが口実となって彼は次々と過酷な仕打ちを受けるようになった。

それは気まぐれなもので、理不尽な扱いでしかなかった。
「俺たちの主従関係はな、この雑種野郎には理解できんだろうよ」と他の使用人から投げつけられる侮辱の言葉にレイは黙り込む。血統が良くないと蔑まれ、親もわからぬ自分に誇れるものは何一つなかった。

しかし、それでも屋敷に尽くすくらいの良心は残されていた。亡くなった前当主への忠義であり。それがレイを縛り付ける理由でもあったのだ。

祝宴の夜がくると〝もはや人手は足りている〟とばかりにレイは地下の物置に閉じ込められた。新当主のカレドニアに忌み嫌われ、その仇討ちのさながらに屈辱的な仕打ちを受けたのだ。その後も解放される事はなく、足りぬ食料と水につられ、レイはとうとう飢えと渇きに体を痩せさせていった。
しっとりと肌から水分が失われ、ガリガリに衰弱した姿は見るに堪えなかった。

「もう早く逝ってくれぇ。気でも狂って自殺でもしてくれよ」

嘲笑しながら現れたベルモント家の次男坊【アルカディア】が投げ入れた足りない水を、レイは喉を鳴らしながら必死で口に運んだ。
「頼む、もう出してくれよ」と嗄れた声でレイは呟いたが、希望は視界からだんだんと遠ざかっていった。

数日の間、放置されたレイの体は衰弱の極に達した。死期を常に意識するようになり、もはや絶望の淵に沈んでいく一方だった。
奈落に落ちてしまう直前、扉が開き、明かりが差した。現れたのはベルモント家の末っ娘【オリンピア】だった。まだ十歳の少女は憐れむような瞳をレンに向けると無言で、少ない食料をそっと置いた。

なんとか一命を繋ぐレイの元に暫くして、晴れて新当主となったカレドニアがやってきた。僅かな期待も寄せてはいなかったが、それはレイにとってある種の転機だったのだ。

「こら雑種野郎!いつまで生きてんだ」とレイは唾を吐きかけられ、踏みにじられた。理不尽な仕打ちにも、もはや免疫を持っていた。

「聞けやこの雑種が!屋敷から今すぐ出ていけっ!」

彼はレイを掴み上げ、外に投げ捨てたのだ。そのまま門扉が閉ざされ、一人取り残されたレイはたった一人、立ち尽くすしかなかった。
流れる涙さえ枯れ果てた彼には、表情を顕わす資格すらなかった。屋敷の門扉へ、レイは血で絞り出したような声で呟いた。

「生きる。生きてやる……」

そうして行くあてもなく薄暗い路地辺りを彷徨うレイの視界に、突如白装束の少女が現れた。幻なのか現実なのか、見分けがつかない状態だった。
「おじさん、こっちへおいで」と少女は優しげな口調で、レイを誘う仕草をする。

おじさん……だと?と、まだ十五歳のレイには少し引っ掛かる物言いだったが。少女の容姿はレイより遥かに若い。ならばそんなもんなのかと黙って、その儚げな微笑みに惹かれるように、半ば無意識で少女について行った。

雑踏を抜けて行く先は、どこかよく分からない場所だった。周りの光景が次第にぼやけ、遠くに森の樹々が見え始める。

「ねえ、森に行こう?おじさんを守ってあげる」

もはや極限状態だったレイは少女の言葉に促されるまま首を縦に振り、その後に付いて行った。すでに周りの現実が捉えられなくなってしまっていた。


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