23 / 26
第22話
しおりを挟む
私が会社に戻ったのは、和也さんが地方へ発つ3日前だった。オフィスに足を踏み入れた瞬間、懐かしさと緊張が胸に押し寄せる。
同僚たちは驚いた顔で私を見つめていたが、すぐに温かい言葉をかけてくれた。
「おかえりなさい、紡木さん」
佐藤さんが笑顔で近づいてきた。その表情には、以前のような躊躇いはない。
「ありがとう、佐藤さん」
私は静かに自分のデスクに向かった。天道くんの席はもうなかった。彼の姿を見つけられないことに、複雑な思いを抱く。
その日の夕方、私は和也さんと会う約束をしていた。駅前の小さな公園で待っていると、遠くから彼の姿が見えた。
「詩織、来てくれてありがとう」
彼の声には、少し寂しさが混じっていた。
「私こそ、わざわざ時間を作ってくれて」
二人は並んでベンチに座り、しばらく沈黙が続いた。やがて彼が口を開く。
「詩織、君の決断は正しいと思う。君には、ここでやるべきことがあるんだろう」
私は黙って頷いた。彼の言葉に、胸が熱くなる。
「でも、私たち...終わりじゃないよね?」声が少し震えた。
彼は優しく私の手を握る。
「もちろん。距離は離れても、僕たちの絆は変わらない。そう信じてる」
その言葉に、私の目に涙が浮かぶ。
「和也さん、私...必ず全てを解決するから」
彼は私をそっと抱きしめた。
「待ってるよ。どんなに時間がかかっても」
そして別れの日、私は和也さんを駅まで見送った。新幹線のホームで彼と抱擁を交わす。
「詩織、約束だよ。必ず、また会おう」
私は涙を堪えながら大きく手を振った。
「絶対に!」
新幹線に乗り込む直前。彼が突然戻ってきて、私にキスをした。長いようで短い時間。凄く貴重な時間なのに私は呆然としてしまった。
その後、彼は照れたように新幹線に飲み込んだ。それが走り去った後も、私は長い間ホームに立ち尽くしていた。
胸の中で、様々な感情が渦巻いている。幸せと同時に寂しさ、不安、そして決意。
その日から、私の新たな日々が始まった。会社では、天道くんの失踪に関する情報を少しずつ集め始めた。能力は依然として不安定だったが、時折垣間見える運命の糸を頼りに、手掛かりを追っていく。
夜遅くまで資料を調べ、休日には天道くんが最後に目撃された場所を訪れた。全てが手探りの状態だったが諦めなかった。
ある日、佐藤さんが私のデスクに近づいてきた。
「紡木さん、これ見て」
囁くような声と共に差し出された一枚の写真。そこには見覚えのある男性の後ろ姿が写っている。
「これは...天道くん?」
詩織の声が震えた。写真は一週間前、隣町で撮影されたものだという。
「天道くん、まだこの近くにいるのかも」
佐藤さんの言葉に、私は深く頷いた。これが大きな手掛かりになるかもしれない。
その夜、私は久しぶりに和也さんに電話をかけた。
「和也さん、少し進展があったの......」
電話越しに和也の声が響く。
「それは良かった。詩織、無理はしないでね」
「うん、大丈夫。和也さんは?仕事は順調?」
「ああ、なんとかやってるよ。でも、やっぱり君がいないのは寂しいな」
その言葉に、胸が締め付けられる。でも、今は前を向くしかない。
「私も寂しい、けど...必ず、また会えるよね」
「ああ、約束だ」
彼の声に力強さが感じられた。
電話を切った後、私は窓の外を見つめる。満月が夜空に輝いている。その光に照らされて、私の決意はさらに強くなった。
天道くんを見つけ出し、彼を正す。そして、和也さんのもとへ戻るんだ。
「待っていて」
私は小さくつぶやいた。
私が天道くんの写真を手に入れてから1ヶ月が過ぎた。その間、仕事の合間を縫って調査を続けていたが、決定的な手がかりは見つからないままだった。
ある金曜日の夜、残業を終えた私は疲れた足取りで帰路についた。駅に向かう道すがら、ふと立ち止まる。目の前の路地に、かすかに光る金色の糸が見えた気がした。
私は思わず路地に足を踏み入れる。薄暗い路地を進むにつれ、金色の糸はより鮮明に見えてくる。そして路地の突き当たり、古びた倉庫の前で、その糸は途切れていた。
心臓の鼓動が早くなる。深呼吸をして、ゆっくりとドアを開けた。
「よく来たね、紡木さん」
薄暗い倉庫の中央に、天道くんが立っていた。その表情には冷たい笑みが浮かんでいる。
「天道くん...」
「きっと来ると分かってたよ。驚いた?僕はずっと、この日を待っていたんだ」
天道くんの声には、憎しみと怒りが滲んでいた。
「あなたのせいで、僕の人生は台無しになった。能力も薄れ、地位も、全て失った!」
「天道くん、私は...」
「黙れ!」天道くんが叫ぶ。「今日こそ、全てに決着をつける」
彼の目は赤く充血し、髪もボサボサでかつての雰囲気は微塵も感じられなかった。
「お願い、冷静になって。私たちの能力は人々を幸せにするためにあったはず」
「甘いよ、紡木さん」天道くんは冷笑を浮かべた。「能力は力だ。その力を使って、僕は必ず復讐を果たす」
「そんな...」
「次に会う時は、もっと面白い状況になっているはずだよ」
そう言い残すと、天道くんは倉庫の奥へと消えていった。私は彼を追いかけようとしたが、足が震えて動けなかった。
倉庫を出て、夜の街を当てもなく歩いた。頭の中は混乱していた。天道くんの憎しみに満ちた目、そして復讐を誓った言葉が、頭から離れない。
迷った末に和也さんに電話をかける。
「もしもし、詩織?こんな遅くにどうしたの?」
「和也さん...天道くんに会ったの」
「え?大丈夫か?」
私は天道くんとの対峙の様子を彼に話した。彼は心配そうな声で言った。
「詩織、もう関わらない方がいい。危険すぎる」
「でも...このまま天道くんを放っておけない。まだ彼にも能力はある。今の彼は何をするか分からない」
「分かるけど...君の身が心配だ」
深く、深く、息を吐いた。
「ごめんね、和也さん。でも、この問題は私が終わらせないと」
電話を切った後、私は両手でパンッと顔を叩く。
「天道くん...あなたの事も、私は救うから」
私は深呼吸をして、家路を歩いた。
同僚たちは驚いた顔で私を見つめていたが、すぐに温かい言葉をかけてくれた。
「おかえりなさい、紡木さん」
佐藤さんが笑顔で近づいてきた。その表情には、以前のような躊躇いはない。
「ありがとう、佐藤さん」
私は静かに自分のデスクに向かった。天道くんの席はもうなかった。彼の姿を見つけられないことに、複雑な思いを抱く。
その日の夕方、私は和也さんと会う約束をしていた。駅前の小さな公園で待っていると、遠くから彼の姿が見えた。
「詩織、来てくれてありがとう」
彼の声には、少し寂しさが混じっていた。
「私こそ、わざわざ時間を作ってくれて」
二人は並んでベンチに座り、しばらく沈黙が続いた。やがて彼が口を開く。
「詩織、君の決断は正しいと思う。君には、ここでやるべきことがあるんだろう」
私は黙って頷いた。彼の言葉に、胸が熱くなる。
「でも、私たち...終わりじゃないよね?」声が少し震えた。
彼は優しく私の手を握る。
「もちろん。距離は離れても、僕たちの絆は変わらない。そう信じてる」
その言葉に、私の目に涙が浮かぶ。
「和也さん、私...必ず全てを解決するから」
彼は私をそっと抱きしめた。
「待ってるよ。どんなに時間がかかっても」
そして別れの日、私は和也さんを駅まで見送った。新幹線のホームで彼と抱擁を交わす。
「詩織、約束だよ。必ず、また会おう」
私は涙を堪えながら大きく手を振った。
「絶対に!」
新幹線に乗り込む直前。彼が突然戻ってきて、私にキスをした。長いようで短い時間。凄く貴重な時間なのに私は呆然としてしまった。
その後、彼は照れたように新幹線に飲み込んだ。それが走り去った後も、私は長い間ホームに立ち尽くしていた。
胸の中で、様々な感情が渦巻いている。幸せと同時に寂しさ、不安、そして決意。
その日から、私の新たな日々が始まった。会社では、天道くんの失踪に関する情報を少しずつ集め始めた。能力は依然として不安定だったが、時折垣間見える運命の糸を頼りに、手掛かりを追っていく。
夜遅くまで資料を調べ、休日には天道くんが最後に目撃された場所を訪れた。全てが手探りの状態だったが諦めなかった。
ある日、佐藤さんが私のデスクに近づいてきた。
「紡木さん、これ見て」
囁くような声と共に差し出された一枚の写真。そこには見覚えのある男性の後ろ姿が写っている。
「これは...天道くん?」
詩織の声が震えた。写真は一週間前、隣町で撮影されたものだという。
「天道くん、まだこの近くにいるのかも」
佐藤さんの言葉に、私は深く頷いた。これが大きな手掛かりになるかもしれない。
その夜、私は久しぶりに和也さんに電話をかけた。
「和也さん、少し進展があったの......」
電話越しに和也の声が響く。
「それは良かった。詩織、無理はしないでね」
「うん、大丈夫。和也さんは?仕事は順調?」
「ああ、なんとかやってるよ。でも、やっぱり君がいないのは寂しいな」
その言葉に、胸が締め付けられる。でも、今は前を向くしかない。
「私も寂しい、けど...必ず、また会えるよね」
「ああ、約束だ」
彼の声に力強さが感じられた。
電話を切った後、私は窓の外を見つめる。満月が夜空に輝いている。その光に照らされて、私の決意はさらに強くなった。
天道くんを見つけ出し、彼を正す。そして、和也さんのもとへ戻るんだ。
「待っていて」
私は小さくつぶやいた。
私が天道くんの写真を手に入れてから1ヶ月が過ぎた。その間、仕事の合間を縫って調査を続けていたが、決定的な手がかりは見つからないままだった。
ある金曜日の夜、残業を終えた私は疲れた足取りで帰路についた。駅に向かう道すがら、ふと立ち止まる。目の前の路地に、かすかに光る金色の糸が見えた気がした。
私は思わず路地に足を踏み入れる。薄暗い路地を進むにつれ、金色の糸はより鮮明に見えてくる。そして路地の突き当たり、古びた倉庫の前で、その糸は途切れていた。
心臓の鼓動が早くなる。深呼吸をして、ゆっくりとドアを開けた。
「よく来たね、紡木さん」
薄暗い倉庫の中央に、天道くんが立っていた。その表情には冷たい笑みが浮かんでいる。
「天道くん...」
「きっと来ると分かってたよ。驚いた?僕はずっと、この日を待っていたんだ」
天道くんの声には、憎しみと怒りが滲んでいた。
「あなたのせいで、僕の人生は台無しになった。能力も薄れ、地位も、全て失った!」
「天道くん、私は...」
「黙れ!」天道くんが叫ぶ。「今日こそ、全てに決着をつける」
彼の目は赤く充血し、髪もボサボサでかつての雰囲気は微塵も感じられなかった。
「お願い、冷静になって。私たちの能力は人々を幸せにするためにあったはず」
「甘いよ、紡木さん」天道くんは冷笑を浮かべた。「能力は力だ。その力を使って、僕は必ず復讐を果たす」
「そんな...」
「次に会う時は、もっと面白い状況になっているはずだよ」
そう言い残すと、天道くんは倉庫の奥へと消えていった。私は彼を追いかけようとしたが、足が震えて動けなかった。
倉庫を出て、夜の街を当てもなく歩いた。頭の中は混乱していた。天道くんの憎しみに満ちた目、そして復讐を誓った言葉が、頭から離れない。
迷った末に和也さんに電話をかける。
「もしもし、詩織?こんな遅くにどうしたの?」
「和也さん...天道くんに会ったの」
「え?大丈夫か?」
私は天道くんとの対峙の様子を彼に話した。彼は心配そうな声で言った。
「詩織、もう関わらない方がいい。危険すぎる」
「でも...このまま天道くんを放っておけない。まだ彼にも能力はある。今の彼は何をするか分からない」
「分かるけど...君の身が心配だ」
深く、深く、息を吐いた。
「ごめんね、和也さん。でも、この問題は私が終わらせないと」
電話を切った後、私は両手でパンッと顔を叩く。
「天道くん...あなたの事も、私は救うから」
私は深呼吸をして、家路を歩いた。
4
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
王太子殿下の執着が怖いので、とりあえず寝ます。【完結】
霙アルカ。
恋愛
王太子殿下がところ構わず愛を囁いてくるので困ってます。
辞めてと言っても辞めてくれないので、とりあえず寝ます。
王太子アスランは愛しいルディリアナに執着し、彼女を部屋に閉じ込めるが、アスランには他の女がいて、ルディリアナの心は壊れていく。
8月4日
完結しました。
【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと
暁
恋愛
陽も沈み始めた森の中。
獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。
それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。
何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。
※
・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。
・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。
次の案件は、クライアントが元カレでした。
矢凪來果
恋愛
広告会社で働く紗恵子は、元彼で人気ロックバンドのボーカルacheのソロ活動のプロモーションチームに入れられてしまう。
彼が好きすぎて傷つけてしまった自分が嫌いで、もう好きになりたくないのに、絵画のように綺麗な顔が今日も私の名前を呼びながら無防備に近づいてくる。
メンヘラには懲りたから出てったんじゃないの!?
お願いだからこれ以上私を惑わすな!
「でも、紗恵子がいないと俺はだめだよ。」
「くっ…私がいつまでもその顔に弱いと思うなよ…!」
【ロックバンドのボーカル(クライアント)兼元カレ×拗らせ社畜の元カノ】
いまだに元カレの声と、顔と、全てに弱い女の奮闘記。
※カクヨムでも掲載しています。
【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。
猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。
『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』
一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。
【完結】親に売られたお飾り令嬢は変態公爵に溺愛される
堀 和三盆
恋愛
貧乏な伯爵家の長女として産まれた私。売れる物はすべて売り払い、いよいよ爵位を手放すか――というギリギリのところで、長女の私が変態相手に売られることが決まった。
『変態』相手と聞いて娼婦になることすら覚悟していたけれど、連れて来られた先は意外にも訳アリの公爵家。病弱だという公爵様は少し瘦せてはいるものの、おしゃれで背も高く顔もいい。
これはお前を愛することはない……とか言われちゃういわゆる『お飾り妻』かと予想したけれど、初夜から普通に愛された。それからも公爵様は面倒見が良くとっても優しい。
……けれど。
「あんたなんて、ただのお飾りのお人形のクセに。だいたい気持ち悪いのよ」
自分は愛されていると誤解をしそうになった頃、メイドからそんな風にないがしろにされるようになってしまった。
暴言を吐かれ暴力を振るわれ、公爵様が居ないときには入浴は疎か食事すら出して貰えない。
そのうえ、段々と留守じゃないときでもひどい扱いを受けるようになってしまって……。
そんなある日。私のすぐ目の前で、お仕着せを脱いだ美人メイドが公爵様に迫る姿を見てしまう。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる