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第22話
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私が会社に戻ったのは、和也さんが地方へ発つ3日前だった。オフィスに足を踏み入れた瞬間、懐かしさと緊張が胸に押し寄せる。
同僚たちは驚いた顔で私を見つめていたが、すぐに温かい言葉をかけてくれた。
「おかえりなさい、紡木さん」
佐藤さんが笑顔で近づいてきた。その表情には、以前のような躊躇いはない。
「ありがとう、佐藤さん」
私は静かに自分のデスクに向かった。天道くんの席はもうなかった。彼の姿を見つけられないことに、複雑な思いを抱く。
その日の夕方、私は和也さんと会う約束をしていた。駅前の小さな公園で待っていると、遠くから彼の姿が見えた。
「詩織、来てくれてありがとう」
彼の声には、少し寂しさが混じっていた。
「私こそ、わざわざ時間を作ってくれて」
二人は並んでベンチに座り、しばらく沈黙が続いた。やがて彼が口を開く。
「詩織、君の決断は正しいと思う。君には、ここでやるべきことがあるんだろう」
私は黙って頷いた。彼の言葉に、胸が熱くなる。
「でも、私たち...終わりじゃないよね?」声が少し震えた。
彼は優しく私の手を握る。
「もちろん。距離は離れても、僕たちの絆は変わらない。そう信じてる」
その言葉に、私の目に涙が浮かぶ。
「和也さん、私...必ず全てを解決するから」
彼は私をそっと抱きしめた。
「待ってるよ。どんなに時間がかかっても」
そして別れの日、私は和也さんを駅まで見送った。新幹線のホームで彼と抱擁を交わす。
「詩織、約束だよ。必ず、また会おう」
私は涙を堪えながら大きく手を振った。
「絶対に!」
新幹線に乗り込む直前。彼が突然戻ってきて、私にキスをした。長いようで短い時間。凄く貴重な時間なのに私は呆然としてしまった。
その後、彼は照れたように新幹線に飲み込んだ。それが走り去った後も、私は長い間ホームに立ち尽くしていた。
胸の中で、様々な感情が渦巻いている。幸せと同時に寂しさ、不安、そして決意。
その日から、私の新たな日々が始まった。会社では、天道くんの失踪に関する情報を少しずつ集め始めた。能力は依然として不安定だったが、時折垣間見える運命の糸を頼りに、手掛かりを追っていく。
夜遅くまで資料を調べ、休日には天道くんが最後に目撃された場所を訪れた。全てが手探りの状態だったが諦めなかった。
ある日、佐藤さんが私のデスクに近づいてきた。
「紡木さん、これ見て」
囁くような声と共に差し出された一枚の写真。そこには見覚えのある男性の後ろ姿が写っている。
「これは...天道くん?」
詩織の声が震えた。写真は一週間前、隣町で撮影されたものだという。
「天道くん、まだこの近くにいるのかも」
佐藤さんの言葉に、私は深く頷いた。これが大きな手掛かりになるかもしれない。
その夜、私は久しぶりに和也さんに電話をかけた。
「和也さん、少し進展があったの......」
電話越しに和也の声が響く。
「それは良かった。詩織、無理はしないでね」
「うん、大丈夫。和也さんは?仕事は順調?」
「ああ、なんとかやってるよ。でも、やっぱり君がいないのは寂しいな」
その言葉に、胸が締め付けられる。でも、今は前を向くしかない。
「私も寂しい、けど...必ず、また会えるよね」
「ああ、約束だ」
彼の声に力強さが感じられた。
電話を切った後、私は窓の外を見つめる。満月が夜空に輝いている。その光に照らされて、私の決意はさらに強くなった。
天道くんを見つけ出し、彼を正す。そして、和也さんのもとへ戻るんだ。
「待っていて」
私は小さくつぶやいた。
私が天道くんの写真を手に入れてから1ヶ月が過ぎた。その間、仕事の合間を縫って調査を続けていたが、決定的な手がかりは見つからないままだった。
ある金曜日の夜、残業を終えた私は疲れた足取りで帰路についた。駅に向かう道すがら、ふと立ち止まる。目の前の路地に、かすかに光る金色の糸が見えた気がした。
私は思わず路地に足を踏み入れる。薄暗い路地を進むにつれ、金色の糸はより鮮明に見えてくる。そして路地の突き当たり、古びた倉庫の前で、その糸は途切れていた。
心臓の鼓動が早くなる。深呼吸をして、ゆっくりとドアを開けた。
「よく来たね、紡木さん」
薄暗い倉庫の中央に、天道くんが立っていた。その表情には冷たい笑みが浮かんでいる。
「天道くん...」
「きっと来ると分かってたよ。驚いた?僕はずっと、この日を待っていたんだ」
天道くんの声には、憎しみと怒りが滲んでいた。
「あなたのせいで、僕の人生は台無しになった。能力も薄れ、地位も、全て失った!」
「天道くん、私は...」
「黙れ!」天道くんが叫ぶ。「今日こそ、全てに決着をつける」
彼の目は赤く充血し、髪もボサボサでかつての雰囲気は微塵も感じられなかった。
「お願い、冷静になって。私たちの能力は人々を幸せにするためにあったはず」
「甘いよ、紡木さん」天道くんは冷笑を浮かべた。「能力は力だ。その力を使って、僕は必ず復讐を果たす」
「そんな...」
「次に会う時は、もっと面白い状況になっているはずだよ」
そう言い残すと、天道くんは倉庫の奥へと消えていった。私は彼を追いかけようとしたが、足が震えて動けなかった。
倉庫を出て、夜の街を当てもなく歩いた。頭の中は混乱していた。天道くんの憎しみに満ちた目、そして復讐を誓った言葉が、頭から離れない。
迷った末に和也さんに電話をかける。
「もしもし、詩織?こんな遅くにどうしたの?」
「和也さん...天道くんに会ったの」
「え?大丈夫か?」
私は天道くんとの対峙の様子を彼に話した。彼は心配そうな声で言った。
「詩織、もう関わらない方がいい。危険すぎる」
「でも...このまま天道くんを放っておけない。まだ彼にも能力はある。今の彼は何をするか分からない」
「分かるけど...君の身が心配だ」
深く、深く、息を吐いた。
「ごめんね、和也さん。でも、この問題は私が終わらせないと」
電話を切った後、私は両手でパンッと顔を叩く。
「天道くん...あなたの事も、私は救うから」
私は深呼吸をして、家路を歩いた。
同僚たちは驚いた顔で私を見つめていたが、すぐに温かい言葉をかけてくれた。
「おかえりなさい、紡木さん」
佐藤さんが笑顔で近づいてきた。その表情には、以前のような躊躇いはない。
「ありがとう、佐藤さん」
私は静かに自分のデスクに向かった。天道くんの席はもうなかった。彼の姿を見つけられないことに、複雑な思いを抱く。
その日の夕方、私は和也さんと会う約束をしていた。駅前の小さな公園で待っていると、遠くから彼の姿が見えた。
「詩織、来てくれてありがとう」
彼の声には、少し寂しさが混じっていた。
「私こそ、わざわざ時間を作ってくれて」
二人は並んでベンチに座り、しばらく沈黙が続いた。やがて彼が口を開く。
「詩織、君の決断は正しいと思う。君には、ここでやるべきことがあるんだろう」
私は黙って頷いた。彼の言葉に、胸が熱くなる。
「でも、私たち...終わりじゃないよね?」声が少し震えた。
彼は優しく私の手を握る。
「もちろん。距離は離れても、僕たちの絆は変わらない。そう信じてる」
その言葉に、私の目に涙が浮かぶ。
「和也さん、私...必ず全てを解決するから」
彼は私をそっと抱きしめた。
「待ってるよ。どんなに時間がかかっても」
そして別れの日、私は和也さんを駅まで見送った。新幹線のホームで彼と抱擁を交わす。
「詩織、約束だよ。必ず、また会おう」
私は涙を堪えながら大きく手を振った。
「絶対に!」
新幹線に乗り込む直前。彼が突然戻ってきて、私にキスをした。長いようで短い時間。凄く貴重な時間なのに私は呆然としてしまった。
その後、彼は照れたように新幹線に飲み込んだ。それが走り去った後も、私は長い間ホームに立ち尽くしていた。
胸の中で、様々な感情が渦巻いている。幸せと同時に寂しさ、不安、そして決意。
その日から、私の新たな日々が始まった。会社では、天道くんの失踪に関する情報を少しずつ集め始めた。能力は依然として不安定だったが、時折垣間見える運命の糸を頼りに、手掛かりを追っていく。
夜遅くまで資料を調べ、休日には天道くんが最後に目撃された場所を訪れた。全てが手探りの状態だったが諦めなかった。
ある日、佐藤さんが私のデスクに近づいてきた。
「紡木さん、これ見て」
囁くような声と共に差し出された一枚の写真。そこには見覚えのある男性の後ろ姿が写っている。
「これは...天道くん?」
詩織の声が震えた。写真は一週間前、隣町で撮影されたものだという。
「天道くん、まだこの近くにいるのかも」
佐藤さんの言葉に、私は深く頷いた。これが大きな手掛かりになるかもしれない。
その夜、私は久しぶりに和也さんに電話をかけた。
「和也さん、少し進展があったの......」
電話越しに和也の声が響く。
「それは良かった。詩織、無理はしないでね」
「うん、大丈夫。和也さんは?仕事は順調?」
「ああ、なんとかやってるよ。でも、やっぱり君がいないのは寂しいな」
その言葉に、胸が締め付けられる。でも、今は前を向くしかない。
「私も寂しい、けど...必ず、また会えるよね」
「ああ、約束だ」
彼の声に力強さが感じられた。
電話を切った後、私は窓の外を見つめる。満月が夜空に輝いている。その光に照らされて、私の決意はさらに強くなった。
天道くんを見つけ出し、彼を正す。そして、和也さんのもとへ戻るんだ。
「待っていて」
私は小さくつぶやいた。
私が天道くんの写真を手に入れてから1ヶ月が過ぎた。その間、仕事の合間を縫って調査を続けていたが、決定的な手がかりは見つからないままだった。
ある金曜日の夜、残業を終えた私は疲れた足取りで帰路についた。駅に向かう道すがら、ふと立ち止まる。目の前の路地に、かすかに光る金色の糸が見えた気がした。
私は思わず路地に足を踏み入れる。薄暗い路地を進むにつれ、金色の糸はより鮮明に見えてくる。そして路地の突き当たり、古びた倉庫の前で、その糸は途切れていた。
心臓の鼓動が早くなる。深呼吸をして、ゆっくりとドアを開けた。
「よく来たね、紡木さん」
薄暗い倉庫の中央に、天道くんが立っていた。その表情には冷たい笑みが浮かんでいる。
「天道くん...」
「きっと来ると分かってたよ。驚いた?僕はずっと、この日を待っていたんだ」
天道くんの声には、憎しみと怒りが滲んでいた。
「あなたのせいで、僕の人生は台無しになった。能力も薄れ、地位も、全て失った!」
「天道くん、私は...」
「黙れ!」天道くんが叫ぶ。「今日こそ、全てに決着をつける」
彼の目は赤く充血し、髪もボサボサでかつての雰囲気は微塵も感じられなかった。
「お願い、冷静になって。私たちの能力は人々を幸せにするためにあったはず」
「甘いよ、紡木さん」天道くんは冷笑を浮かべた。「能力は力だ。その力を使って、僕は必ず復讐を果たす」
「そんな...」
「次に会う時は、もっと面白い状況になっているはずだよ」
そう言い残すと、天道くんは倉庫の奥へと消えていった。私は彼を追いかけようとしたが、足が震えて動けなかった。
倉庫を出て、夜の街を当てもなく歩いた。頭の中は混乱していた。天道くんの憎しみに満ちた目、そして復讐を誓った言葉が、頭から離れない。
迷った末に和也さんに電話をかける。
「もしもし、詩織?こんな遅くにどうしたの?」
「和也さん...天道くんに会ったの」
「え?大丈夫か?」
私は天道くんとの対峙の様子を彼に話した。彼は心配そうな声で言った。
「詩織、もう関わらない方がいい。危険すぎる」
「でも...このまま天道くんを放っておけない。まだ彼にも能力はある。今の彼は何をするか分からない」
「分かるけど...君の身が心配だ」
深く、深く、息を吐いた。
「ごめんね、和也さん。でも、この問題は私が終わらせないと」
電話を切った後、私は両手でパンッと顔を叩く。
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