運命の糸が見えてしまう彼女が、他者を幸せへと導きながら、自分の恋を実らせるまで......

水城ゆき

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第15話

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    佐藤さんと天道くんの関係が気になっていた私。実は、天道くんが彼女を口説いているのではないか?と疑い始めていた。
    そんな事はないと思いたいのだけれど。
    
    その夜、いつものように月光堂でバイトをしていると、思いがけない来客があった。
「よろしくお願いします」
    その声に顔を上げると、そこには渦中の人、天道くんが立っていた。私は慌てて声を変える。本当ここは会社の人間がよく来る。バイト、変えたほうがいいかも。

「いらっしゃいませ。ご相談はなんでしょうか?」
「実は...職場の先輩に好意を持たれているみたいで、どうしようか悩んでいるんです」
    その言葉に驚きつつ、私は心がザワついた。彼が誘ってるわけではないようだが、佐藤さんに心境の変化が起きている事にだ。

「そうですか。では、手を見せて頂けますか?」
    私は彼の手を取り、運命の糸を見ようとした。佐藤さんとの糸が確かに絡んでいるが、仕事の付き合いもあるし気にする程でもない。
「とりあえず、その方とは距離を置いた方が......」
    言いかけた時、彼が突然被せてくる。
「ひょっとして紡木さん、ですか?」
   突然の問いに、私は言葉を失った。

「え?何の話でしょうか...」
「紡木さんですよね。手を見れば分かりますし、声を変えても気づきますよ」
    天道くんは優しく微笑んでいる。どれだけ鋭い観察眼なのか。やはり仕事出来る者は細かい所もよく見てるという事だろうか?
    私は観念して白状することにした。

「はあ。よくわかりましたね。あの、この事は誰にも...」
「もちろんですよ。すこし意外でしたけど」
    天道くんは真剣な表情で約束してくれた。その後少し雑談を交わし、私は本題に入る。
「それで、佐藤さんのことなんですが...」
「ああ、そのことですか。紡木さんが心配してくれているのは嬉しいですね。でも大丈夫ですよ。僕には好きな人がいるので」
    その言葉に、私は少し安心した。

「そうですか。仕事の関係上、突き放すのは良くないでしょうけど。佐藤さんには彼氏もいるので、上手く距離を保ってあげてください」
「分かりました。大丈夫ですよ」
    天道くんは笑顔で頷いた。

    バイトを終え、家に帰る道すがら、私は複雑な思いに包まれていた。天道くんは私の秘密を知ってしまった。でも、彼は信頼できる人っぽい。
    そう思いながらも、なぜか胸の奥に引っかかるものが残っていた。

    翌日、会社に着くと思いがけないニュースが飛び込んできた。
「天道くんが昇格したんだって!」
    佐藤さんの興奮した声と、同時に何故か少しガッカリしたような感じも見られた。

「おめでとう、天道くん」
    私が声をかけると、彼は謙虚な笑顔を見せた。
「ありがとうございます。紡木さんのおかげです」
「いや、別に私は何も。それより、ちょうど距離とれて良かったですね」
    そう。昇格により、天道くんは佐藤さんのサポート役から離れることになったのだ。だから佐藤さんは少しガッカリしたのだろう。
    ただ、これで佐藤さんと天道くんとの距離は自然に保てるだろうと安心した。

    しかし、その日の夕方、さらに予想外の展開が待っていた。
「紡木さん、少しお時間よろしいでしょうか」
    天道くんに呼び出され、私は軽い気持ちで応じた。
「どうしたんですか?」
    人気のない会議室で、彼は真剣な表情で私を見つめる。不浄にも、そのイケメン具合にドキっとした。

「紡木さん、僕はあなたが好きです」
「え?」突然の告白に、私は言葉を失った。
「でも、昨日...」
「昨日言った好きな人、それは紡木さんのことです」
    私は困惑した。こんな展開は全く予想していない。どうした私!モテ期なのか?
「ありがとう。でも、私には彼氏がいるんで。だから天道くんとは...」
「分かっています。でも、僕は諦めません」
    天道くんの目は真剣そのもの、爽やかな見た目とは違い、けっこう肉食系のようだ。

「きっとあなたは僕と結ばれる。そう確信しています」
    私は戸惑いを隠せなかった。本当に自信家だ。ある意味羨ましい。
「考えておきます...」
   考えないけど。そう言って私は、その場を去った。

   家に帰る道中、私は和也のことを考えていた。明日はデートの約束がある。この出来事を話そうか、それとも黙っているべきか...。
    モヤモヤした気持ちを抱えながらも、和也との時間を思い浮かべると、少し心が落ち着いた。きっと明日は楽しい一日になるはずだから。

    翌朝、目覚めると同時に昨日の出来事が頭をよぎった。天道くんの告白は驚いた。でもあれを隠すのは、そのうち誤解を招きそうだ。
    着替えながら、私は和也さんに全てを話そうと決意した。彼なら、きっと理解してくれる。

     朝食を済ませ、メイクをしていると、突然携帯が鳴った。和也さんだった。高揚した気持ちで電話をとる。
「もしもし、和也さん?」
「おはよう、詩織。悪いんだけど...」
    彼の声には申し訳なさが滲んでいた。
「今日のデート、キャンセルさせてもらえないかな。急な仕事が入っちゃって...」
    その言葉に、私の心は沈んだ。

「そう...仕事なら仕方ないよね。頑張ってね」
「ごめん。必ず埋め合わせするから」
    電話を切った後、私は鏡に映る自分を見つめた。せっかく決意したのに。こんなに会いたかったのだと、自分の気持ちを実感してしまった。

    気持ちを切り替えようと、私は深呼吸する。仕事だってたくさんある。今日は家でゆっくりしよう。
    しかし、家にいても落ち着かないので。結局、私は外出することにした。
    そして街を歩いていて、ふと目に入った占い店の看板に思わず足を止める。

「こんにちは」
    店に入ると、年配の女性が優しく迎えてくれた。
「悩み事でもあるのかしら?」
「はい。大袈裟な話なんですけど、これからどう生きていくべきか悩んでまして」
    悩みは人に打ち明けると楽になるものだと、私はよく知っている。いつもは聞き役だが、たまには良い。

    私は自分の能力のことを考えていた。他人の運命は黙ってても見えるのに、自分の運命は正直フワフワしている。まったく皮肉な話だ。
「あなたは、大きな選択の岐路に立っているわ」
    占い師の言葉に、私は息を呑んだ。
「でも、恐れることはないわ。あなたの中に答えはある」
    ありきたりな言葉だが、いざ言われると不思議とそうなんだなぁと思ってしまう。

    店を出た後、私は公園のベンチに腰掛けた。空を見上げると、雲が流れていく。
    ふと、携帯に目をやる。和也からのメッセージはない。代わりに、知らない番号からのメッセージがあった。

    ──紡木さん、今日は何か予定ありますか?良ければお茶でもどうかと連絡しました。天道より──

    私は深いため息をついた。本当に積極的な人だ。きっと彼みたいなタイプは運命なんて関係ないのだろう。そう思いながら、私はメッセージを返した。

    ──今日は彼氏とデートです。──
    本当に。自分で打ってて、虚しくなる。
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