37 / 37
エピローグ
第37話 これからも
しおりを挟む
「ちょっと三人とも、遅い!」
扉を開けると、拗ねた顔の雪さんが待っていた。授業が長引いたせいで、今日は部室にくるのが遅れてしまったのだ。
「ごめんごめん。雪ちゃん、俺が遅くて寂しかった?」
にやにやしながら、早瀬くん……ではなく、怜音くんが雪さんの隣に座る。
早瀬くんの時も怜音くんの時も、デレデレしっぱなしなのは変わんないな。
「別に。それより今日は、みんなで大富豪大会するって約束でしょ」
テーブルの上には既にトランプが用意されている。それだけでなく、こっそり持ち込んでいるお菓子も並べてあった。
雪さん、すごく楽しみにしてくれてたんだ。
「まあまあ、落ち着いて。まだ十分、時間はあるよ」
蓮さんが爽やかな笑みを浮かべる。ふわり、と香る柑橘系の匂いは、最近買ったというお気に入りの香水だ。
最近、姫乃はほとんど毎日教室で過ごしている。たまに保健室で過ごしている時もあるけれど、このまま順調にいけば無事高等部へ進学できるそうだ。
「それにしても、最近暑いね。ここって、冷房つくの?」
言いながら、天井のエアコンを見つめる。電気がつく以上、壊れていなければ冷房も使えるはずだ。
とはいえかなり古い上に薄汚れているエアコンは、かなり効果が薄そうではある。
「どうだろう。さすがについてくれないと、いろいろと厳しそうだね」
蓮さんが顔を顰めた。
真夏に冷房が使えないなんて、かなりきつい。けれどそれ以上に、変身部の私たちにとっては汗をかくことが大問題だ。
だって、メイクが落ちちゃうから!
「あ、そうだ! 俺、いいこと思いついたんだけど!」
怜音くんが笑いながら両手を叩く。すぐに反応するのは雪さんで、なんだか、そんな二人の様子が微笑ましい。
「夏休み、変身部で合宿するっていうのはどう? 修学旅行は雪ちゃん、一緒に行けないし」
「それ、すっごくいい!」
考えるより先に、私は頷いていた。
この四人で合宿なんて、そんなの、絶対に楽しいに決まってる。
「でしょ? 俺、絶対雪ちゃんと同部屋がいい」
「それはおいといて、私も合宿は賛成」
「えー、おいとかないでよ。俺と雪ちゃんの仲じゃん」
「まだそんな仲じゃないでしょ」
「うんうん、そうだね、まだ、ね」
「あー、もう……!」
うるさい! なんて怒りながらも、雪さんは楽しそうだ。
前はもっと物静かでクールな雰囲気だったけれど、今はだいぶ違う。でもそれを、雪さんも楽しんでいる気がする。
理想だって、日々変化していい。ここは、自由な場所だから。
「蓮さんはどう思う?」
「そうだね……」
少しだけ考え込んだ後、蓮さんは優雅に微笑んで言った。
「海辺でバーベキュー、なんてどうかな?」
「大賛成!」
想像するだけで楽しくなってくる。こんなに夏休みが楽しみなのは、生まれて初めてかもしれない。
天使ももとしても、天野望結としても、今年の夏は最大限に楽しみたい。
変身部は私にとって、本当に大好きな場所。
日常の中にある、ちょっとした非日常。
これからもずっと、ここで過ごす時間が続きますように。
扉を開けると、拗ねた顔の雪さんが待っていた。授業が長引いたせいで、今日は部室にくるのが遅れてしまったのだ。
「ごめんごめん。雪ちゃん、俺が遅くて寂しかった?」
にやにやしながら、早瀬くん……ではなく、怜音くんが雪さんの隣に座る。
早瀬くんの時も怜音くんの時も、デレデレしっぱなしなのは変わんないな。
「別に。それより今日は、みんなで大富豪大会するって約束でしょ」
テーブルの上には既にトランプが用意されている。それだけでなく、こっそり持ち込んでいるお菓子も並べてあった。
雪さん、すごく楽しみにしてくれてたんだ。
「まあまあ、落ち着いて。まだ十分、時間はあるよ」
蓮さんが爽やかな笑みを浮かべる。ふわり、と香る柑橘系の匂いは、最近買ったというお気に入りの香水だ。
最近、姫乃はほとんど毎日教室で過ごしている。たまに保健室で過ごしている時もあるけれど、このまま順調にいけば無事高等部へ進学できるそうだ。
「それにしても、最近暑いね。ここって、冷房つくの?」
言いながら、天井のエアコンを見つめる。電気がつく以上、壊れていなければ冷房も使えるはずだ。
とはいえかなり古い上に薄汚れているエアコンは、かなり効果が薄そうではある。
「どうだろう。さすがについてくれないと、いろいろと厳しそうだね」
蓮さんが顔を顰めた。
真夏に冷房が使えないなんて、かなりきつい。けれどそれ以上に、変身部の私たちにとっては汗をかくことが大問題だ。
だって、メイクが落ちちゃうから!
「あ、そうだ! 俺、いいこと思いついたんだけど!」
怜音くんが笑いながら両手を叩く。すぐに反応するのは雪さんで、なんだか、そんな二人の様子が微笑ましい。
「夏休み、変身部で合宿するっていうのはどう? 修学旅行は雪ちゃん、一緒に行けないし」
「それ、すっごくいい!」
考えるより先に、私は頷いていた。
この四人で合宿なんて、そんなの、絶対に楽しいに決まってる。
「でしょ? 俺、絶対雪ちゃんと同部屋がいい」
「それはおいといて、私も合宿は賛成」
「えー、おいとかないでよ。俺と雪ちゃんの仲じゃん」
「まだそんな仲じゃないでしょ」
「うんうん、そうだね、まだ、ね」
「あー、もう……!」
うるさい! なんて怒りながらも、雪さんは楽しそうだ。
前はもっと物静かでクールな雰囲気だったけれど、今はだいぶ違う。でもそれを、雪さんも楽しんでいる気がする。
理想だって、日々変化していい。ここは、自由な場所だから。
「蓮さんはどう思う?」
「そうだね……」
少しだけ考え込んだ後、蓮さんは優雅に微笑んで言った。
「海辺でバーベキュー、なんてどうかな?」
「大賛成!」
想像するだけで楽しくなってくる。こんなに夏休みが楽しみなのは、生まれて初めてかもしれない。
天使ももとしても、天野望結としても、今年の夏は最大限に楽しみたい。
変身部は私にとって、本当に大好きな場所。
日常の中にある、ちょっとした非日常。
これからもずっと、ここで過ごす時間が続きますように。
13
お気に入りに追加
22
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(5件)
あなたにおすすめの小説
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
俺、メイド始めました
雨宮照
恋愛
ある日、とある理由でメイド喫茶に行った主人公・栄田瑛介は学校でバイトが禁止されているにもかかわらず、同級生の倉橋芽依がメイドとして働いていることを知ってしまう。
秘密を知られた倉橋は、瑛介をバックヤードに連れて行き……男の瑛介をメイドにしようとしてきた!?
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
お兄ちゃんは今日からいもうと!
沼米 さくら
ライト文芸
大倉京介、十八歳、高卒。女子小学生始めました。
親の再婚で新しくできた妹。けれど、彼女のせいで僕は、体はそのまま、他者から「女子小学生」と認識されるようになってしまった。
トイレに行けないからおもらししちゃったり、おむつをさせられたり、友達を作ったり。
身の回りで少しずつ不可思議な出来事が巻き起こっていくなか、僕は少女に染まっていく。
果たして男に戻る日はやってくるのだろうか。
強制女児女装万歳。
毎週木曜と日曜更新です。
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
2章拝読しました!
部活ネームいいですね。ぐっと親密感が出てきましたね。こういうルールがあると秘密を共有している感じしますよね。
望結の悩む姿を見て、私も悩みました。なりたい自分ってどんな感じでしょうね。改めてそう聞かれると難しいです。
スケッチブックに書いたり、ウィッグやカラコンをどうしようか悩む姿が可愛らしいですね。
一緒に買い物につきあってくれる蓮さんは優しい・かっこいいですね。こんな王子様みたいな先輩いたらつい巻き込まれそうです。ウィッグなどを買いに来たときの描写はまるで見てきたのかと思わせる描写でした。さすがこはくさんです。
案外早くウィッグ決まりましたね。意外でした。でもカラコンはやっぱり迷いましたね。
改めて放課後変身部に入りましたね! よかったです。これからどうなるのでしょう?
2章も読んでくださりありがとうございます!
部活ネーム、いいですよね! 読者さんが名前が多くて困らないかも悩んだのですが、せっかくなのでやっぱり名前もつけました!!
ありがとうございます!私はあまり上手く使いこなせなかったんですが、ウィッグは持ってます!
ピンク髪!というのはやっぱり可愛くて憧れなので、一目惚れ!のイメージです。カラコンって目に入れると印象も違うので、悩むだろうと……!!
これからの展開も楽しんでくれると嬉しいです♪
一章読み終わりました!!
そうかな、とは思いましたが委員長無事に変身部に入りましたね!
お願いした時に断られるかなとも思ってドキドキしたのですが、拍手で迎え入れられて私も嬉しくなりました。
読んでくださりありがとうございます!
嬉しくなってくれて嬉しいです。自分から入部すると言えたことは大きな進歩かなと思っております!
1-3まで拝読しました。
すごく雰囲気があって楽しいです。変身部というユニークな名前と活動。それを知ってしまった優等生委員長が憂鬱になるところなど、実際にこんな子はいそうだなと感じました。自分を変えるってドキドキしますよね。そんな緊張感もあって素敵です。
お読みくださりありがとうございます!
自分を変える話、好きなんですよね……!!褒めてくださって嬉しいです!!