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第6章 化学反応
第29話 時には
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「ありがとう、雪ちゃん。大好き!」
怜音くんは飛び上がって大喜びした。なんだか、人懐っこい大型犬みたいだ。
見た目は全然違うけど、中身はいつもの早瀬くんみたい。
見た目と違って、まだ中身を変えることに慣れていないのかもしれない。あるいは、中身は変えなくてもいいと思っているのかもしれない。
どっちでもいいよね。ここは、自分が好きな自分になる場所だから。
「なんやかんや相性よさそうだよね、あの二人」
蓮さんが近づいてきて、私の耳元で囁いた。
「確かに、そうみたいだね」
怜音くんが全力で雪さんを褒め、雪さんもまんざらでもなさそうな対応をしている。
雪さんは褒められるのが好きなタイプだし、相性はかなりいいのかもしれない。
「変身部も、賑やかになったね」
「まあ、怜音くん、すっごく賑やかだもんね」
「そうだけど、それだけじゃないよ」
蓮さんが私の手を握った。翡翠色の瞳に正面から射抜かれて、慣れているはずなのに鼓動が速くなる。
やっぱり蓮さんって、すっごく格好いいんだよね……。
「最初は二人だけだった変身部を変えてくれたのは、ももさんだからね」
「蓮さん……」
「改めて言わせてほしい。変身部に入ってくれてありがとう、ももさん」
蓮さんの瞳は、ちょっとだけ潤んでいた。それに手も、ほんの少しだけ震えている。
「こっちこそ、ありがとう。変身部に入れてくれて」
私たちは見つめ合い、そして、同時に笑った。一緒にいる時間が長くなったからか、こういうタイミングが合うようになってきたのが嬉しい。
怜音くんはまだ、大声で雪さんを褒めちぎっている。そして雪さんも、嬉しそうな顔で怜音くんの話を聞いている。
私やっぱり、この場所が大好きだ。
心の底から、そう思えた。
◆
「委員長、おはよう!」
教室に入ってきた早瀬くんは、今すぐに踊り出しても不思議じゃないくらい上機嫌だ。
おはよう、と私が返すと、あのさあ、と食い気味に話し始める。
「実は昨日の夜、俺、雪ちゃんと長電話したんだよね」
「えっ?」
「そのせいで俺、今日寝不足なんだ。授業中寝ちゃうかも」
困ったなあ、なんて言いながら、早瀬くんはすごく幸せそうだ。
「なんで電話を?」
一応、小声で聞いてみる。さっきから早瀬くんが女の子の名前を出したせいで、クラスの子からの視線が痛い。
そりゃあそうだよね。今まで早瀬くんが特定の女の子の話をすることなんてなかったし。
雪って誰? なんて騒ぎになっても困る。私の考えを察してくれたのか、早瀬くんも小声になった。
「電話したいって、誘ったら、5分だけならって言ってくれたんだ」
「積極的だね……」
「そりゃあそうでしょ。待っててもきてくれないし」
本当にすごい。そう分かっていても、なかなか積極的にいけない人が多いだろうに。
早瀬くんが頼み込んで二人は連絡先を交換していたけれど、夜遅くまで電話をするほど仲良くなっているとは気がつかなかった。
「なんの話をしてたの?」
「雪ちゃんが好きなアニメの話。おすすめしてたから見たよって言ったら、いっぱい喋ってくれて」
「なるほど……」
優斗くんはかなりオタク気質なところがある。
自分の作品を他人と共有するのが好きで、私もいろんなアニメをおすすめされた。
嬉しいし、私もいくつか見た。とはいえ、時間の都合もあるし、すぐに見られるとは限らない。
「雪ちゃんともっと話したいから、いろいろ勉強しないと。今日も、おすすめの小説を借りることになってるんだ」
いいでしょ、と自慢げに笑う早瀬くんに、たぶん私もそれ借りましたよ、なんて野暮なことは言わない。
それにしても、早瀬くんと優斗くん、かなり仲良くなったんだな。
正体がバレた時、ややこしくならないといいけど……。
「そういえば、如月さんって今日も教室こないの?」
「え? うん、たぶん」
如月さんはまだ、教室にはきていない。保健室登校の頻度は、少しずつ上がっているみたいだけれど。
「委員長とめっちゃ仲いいし、俺とももう友達じゃん? 二人も友達いるんだから、結構きやすいんじゃないのかな」
「……私と如月さんって、めっちゃ仲良しに見える?」
「見えるっていうか、実際そうでしょ」
そっか。私と如月さんって、そんな風に見えるんだ。
「っていうか、委員長は言わないの? 教室こない? って」
簡単に言わないでよ、そう言おうとしてやめた。
私があれこれと考えすぎているだけかもしれない、と思ったから。
嫌われるのも、傷つけるのも嫌で、如月さんを教室に誘えていない。本当は、如月さんにきてほしいのに。
早瀬くんみたいな直球さが、時には必要なのかな。
怜音くんは飛び上がって大喜びした。なんだか、人懐っこい大型犬みたいだ。
見た目は全然違うけど、中身はいつもの早瀬くんみたい。
見た目と違って、まだ中身を変えることに慣れていないのかもしれない。あるいは、中身は変えなくてもいいと思っているのかもしれない。
どっちでもいいよね。ここは、自分が好きな自分になる場所だから。
「なんやかんや相性よさそうだよね、あの二人」
蓮さんが近づいてきて、私の耳元で囁いた。
「確かに、そうみたいだね」
怜音くんが全力で雪さんを褒め、雪さんもまんざらでもなさそうな対応をしている。
雪さんは褒められるのが好きなタイプだし、相性はかなりいいのかもしれない。
「変身部も、賑やかになったね」
「まあ、怜音くん、すっごく賑やかだもんね」
「そうだけど、それだけじゃないよ」
蓮さんが私の手を握った。翡翠色の瞳に正面から射抜かれて、慣れているはずなのに鼓動が速くなる。
やっぱり蓮さんって、すっごく格好いいんだよね……。
「最初は二人だけだった変身部を変えてくれたのは、ももさんだからね」
「蓮さん……」
「改めて言わせてほしい。変身部に入ってくれてありがとう、ももさん」
蓮さんの瞳は、ちょっとだけ潤んでいた。それに手も、ほんの少しだけ震えている。
「こっちこそ、ありがとう。変身部に入れてくれて」
私たちは見つめ合い、そして、同時に笑った。一緒にいる時間が長くなったからか、こういうタイミングが合うようになってきたのが嬉しい。
怜音くんはまだ、大声で雪さんを褒めちぎっている。そして雪さんも、嬉しそうな顔で怜音くんの話を聞いている。
私やっぱり、この場所が大好きだ。
心の底から、そう思えた。
◆
「委員長、おはよう!」
教室に入ってきた早瀬くんは、今すぐに踊り出しても不思議じゃないくらい上機嫌だ。
おはよう、と私が返すと、あのさあ、と食い気味に話し始める。
「実は昨日の夜、俺、雪ちゃんと長電話したんだよね」
「えっ?」
「そのせいで俺、今日寝不足なんだ。授業中寝ちゃうかも」
困ったなあ、なんて言いながら、早瀬くんはすごく幸せそうだ。
「なんで電話を?」
一応、小声で聞いてみる。さっきから早瀬くんが女の子の名前を出したせいで、クラスの子からの視線が痛い。
そりゃあそうだよね。今まで早瀬くんが特定の女の子の話をすることなんてなかったし。
雪って誰? なんて騒ぎになっても困る。私の考えを察してくれたのか、早瀬くんも小声になった。
「電話したいって、誘ったら、5分だけならって言ってくれたんだ」
「積極的だね……」
「そりゃあそうでしょ。待っててもきてくれないし」
本当にすごい。そう分かっていても、なかなか積極的にいけない人が多いだろうに。
早瀬くんが頼み込んで二人は連絡先を交換していたけれど、夜遅くまで電話をするほど仲良くなっているとは気がつかなかった。
「なんの話をしてたの?」
「雪ちゃんが好きなアニメの話。おすすめしてたから見たよって言ったら、いっぱい喋ってくれて」
「なるほど……」
優斗くんはかなりオタク気質なところがある。
自分の作品を他人と共有するのが好きで、私もいろんなアニメをおすすめされた。
嬉しいし、私もいくつか見た。とはいえ、時間の都合もあるし、すぐに見られるとは限らない。
「雪ちゃんともっと話したいから、いろいろ勉強しないと。今日も、おすすめの小説を借りることになってるんだ」
いいでしょ、と自慢げに笑う早瀬くんに、たぶん私もそれ借りましたよ、なんて野暮なことは言わない。
それにしても、早瀬くんと優斗くん、かなり仲良くなったんだな。
正体がバレた時、ややこしくならないといいけど……。
「そういえば、如月さんって今日も教室こないの?」
「え? うん、たぶん」
如月さんはまだ、教室にはきていない。保健室登校の頻度は、少しずつ上がっているみたいだけれど。
「委員長とめっちゃ仲いいし、俺とももう友達じゃん? 二人も友達いるんだから、結構きやすいんじゃないのかな」
「……私と如月さんって、めっちゃ仲良しに見える?」
「見えるっていうか、実際そうでしょ」
そっか。私と如月さんって、そんな風に見えるんだ。
「っていうか、委員長は言わないの? 教室こない? って」
簡単に言わないでよ、そう言おうとしてやめた。
私があれこれと考えすぎているだけかもしれない、と思ったから。
嫌われるのも、傷つけるのも嫌で、如月さんを教室に誘えていない。本当は、如月さんにきてほしいのに。
早瀬くんみたいな直球さが、時には必要なのかな。
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