25 / 37
第5章 トラブルは恋と共に
第25話 タイプじゃないんです
しおりを挟む
早瀬くんと雪さんの待ち合わせ場所は、もちろん旧部室棟だ。
変身部の部室じゃなくて、近くの空き教室。掃除をしていないからすごく汚れているし、ちょっとでも動けば埃が舞う。
早瀬くんと雪さんを二人で会わせるという約束だから、私と如月さんは教卓の下に隠れている。
だって、本当に二人きりにして、トラブルが起きちゃったら困るし。
それに……単純に、どんな感じになるのか気になる。
「も、もうすぐかな」
如月さんが小声で言った。二人で教卓の下に隠れているから、かなり狭い。
如月さんとこんなに近い距離にいるのは初めてだ。
「……たぶん」
目だけで会話する。お互い、緊張しているのが伝わってきた。
今日は、私も如月さんも変身していない。時間がなかったし、隠れる以上、派手な格好をするのは避けたかったから。
雪さんはもう、教室の真ん中で早瀬くんを待っている。時間になれば、早瀬くんもやってくるだろう。
◆
ガタッ、と扉が開く音がした。隙間からこっそり確認すると、早瀬くんが緊張した顔で教室に入ってきた。
「あ、あの!」
早瀬くんの声は震えている。それでも真っ直ぐに雪さんを見つめ、ゆっくりと雪さんに近づいていく。
「今日は、きてくれてありがとう。俺は、二年生で、早瀬葵っていうんだけど」
「……知ってる」
雪さんの声がいつもより高い。男だということがバレないように、警戒しているからだろう。
早瀬くんが一歩近づくと、その分雪さんは一歩後ろに下がる。
しかし早瀬くんがどんどん近づくせいで、雪さんは壁際に追い込まれてしまった。
「雪ちゃん!」
大声で早瀬くんが叫ぶ。びくっ、と雪さんが身体を震わせた。
「一目惚れしました。俺と付き合ってください!」
えっ!? いきなり告白!?
突然のことに驚いて目を見開く。全く同じ表情の如月さんと目が合った。
早瀬くんは耳まで真っ赤だ。冗談なんかじゃなく、これが本気の告白だってことは一目で分かる。
いやでも、それにしたって、いきなり告白する?
まずは友達として仲良く……とか、そういうんじゃないの?
「その、えっと……もし振られても、変身部のことを人にバラしたりはしないから。雪ちゃんが嫌がることは絶対にしない。約束する」
意外といい人なんだ……と如月さんが囁くような声で呟いた。
如月さん、早瀬くんのことどんな人だと思ってたんだろ。
「話したこともないのに? とか、顔だけ? とか思うかもしれないけど……本当に好きなんだ。雪ちゃんのこと、もっとたくさん知りたい」
雪さん、どう答えるんだろう?
振られても変身部の秘密をばらすつもりはない、という早瀬くんの言葉は、信じてもいい気がする。
そう安心したとたんに、二人の恋模様にどぎまぎしてきた。
だって、人が告白するところも、されるところも見たことないし。
「……ごめんなさい」
そう言って、雪さんは頭を丁寧に下げた。
まあ、やっぱりそうなるよね。女の子のふりをして付き合うのは無理、って言ってたし。
仕方ないけど……早瀬くん、ちょっと気の毒かも。
「ど、どうして?」
早瀬くんはかなり動揺している。いきなりの告白だったけれど、かなり自信があったのだろうか。
まあ、早瀬くんってモテるもんね。
「えっと……」
雪さんは黙ってしまった。
たぶん突然告白されるなんて思っていなかっただろうから、振る理由なんて用意していないのだろう。
「その、だから……タイプじゃないの! ごめんなさい!」
雪さんはそれだけ言うと、走って教室を出ていってしまった。これ以上、早瀬くんと二人きりで会話を続けることは無理だと判断したのだろう。
それに、変身部の秘密を守るっていう目的は、達成できそうだし。
「ううっ……!」
早瀬くんは両手で頭を抱え、地面に座り込んでしまった。しかも、すすり泣く声まで聞こえてくる。
うわ……どうしよう。
あんなにはっきり言わなくてもよかったのに、と如月さんの目が語っている。確かに、その気持ちも分かる。
だけど、どうせ断るなら、変に希望を持たれるより、はっきり断った方がいいのかも。
「なんで……雪ちゃん……」
好きな人に告白して、タイプじゃないからと振られたのだ。早瀬くんの心境を想像するだけで胸が痛い。
如月さんと目を合わせ、無言のまま頷き合う。早瀬くんが教室を出ていくまで、ここでおとなしくしていよう。
と、思っていたのだが。
「……ねえ、いるんでしょ」
早瀬くんは立ち上がると、いきなり私たちの目の前にやってきた。
嘘。ここに隠れてたの、バレてたの……!?
「ひっ!」
如月さんが悲鳴を上げ、私の腕をぎゅっと握った。
どう考えても私たちが悪い。二人きりで会わせると約束したのに、のぞき見をして、告白現場を見てしまったのだから。
どうしよう。怒った早瀬くんが、やっぱり変身部のことをばらすなんて言ったら。
「ねえ、二人とも」
すう、と早瀬くんが大きく息を意を吸い込んだ。
そして、叫ぶ。
「俺のこと、変身部に入れて!」
「「え!?」」
私と如月さんの声が重なった。
「俺を、雪ちゃん好みの男にして!!」
変身部の部室じゃなくて、近くの空き教室。掃除をしていないからすごく汚れているし、ちょっとでも動けば埃が舞う。
早瀬くんと雪さんを二人で会わせるという約束だから、私と如月さんは教卓の下に隠れている。
だって、本当に二人きりにして、トラブルが起きちゃったら困るし。
それに……単純に、どんな感じになるのか気になる。
「も、もうすぐかな」
如月さんが小声で言った。二人で教卓の下に隠れているから、かなり狭い。
如月さんとこんなに近い距離にいるのは初めてだ。
「……たぶん」
目だけで会話する。お互い、緊張しているのが伝わってきた。
今日は、私も如月さんも変身していない。時間がなかったし、隠れる以上、派手な格好をするのは避けたかったから。
雪さんはもう、教室の真ん中で早瀬くんを待っている。時間になれば、早瀬くんもやってくるだろう。
◆
ガタッ、と扉が開く音がした。隙間からこっそり確認すると、早瀬くんが緊張した顔で教室に入ってきた。
「あ、あの!」
早瀬くんの声は震えている。それでも真っ直ぐに雪さんを見つめ、ゆっくりと雪さんに近づいていく。
「今日は、きてくれてありがとう。俺は、二年生で、早瀬葵っていうんだけど」
「……知ってる」
雪さんの声がいつもより高い。男だということがバレないように、警戒しているからだろう。
早瀬くんが一歩近づくと、その分雪さんは一歩後ろに下がる。
しかし早瀬くんがどんどん近づくせいで、雪さんは壁際に追い込まれてしまった。
「雪ちゃん!」
大声で早瀬くんが叫ぶ。びくっ、と雪さんが身体を震わせた。
「一目惚れしました。俺と付き合ってください!」
えっ!? いきなり告白!?
突然のことに驚いて目を見開く。全く同じ表情の如月さんと目が合った。
早瀬くんは耳まで真っ赤だ。冗談なんかじゃなく、これが本気の告白だってことは一目で分かる。
いやでも、それにしたって、いきなり告白する?
まずは友達として仲良く……とか、そういうんじゃないの?
「その、えっと……もし振られても、変身部のことを人にバラしたりはしないから。雪ちゃんが嫌がることは絶対にしない。約束する」
意外といい人なんだ……と如月さんが囁くような声で呟いた。
如月さん、早瀬くんのことどんな人だと思ってたんだろ。
「話したこともないのに? とか、顔だけ? とか思うかもしれないけど……本当に好きなんだ。雪ちゃんのこと、もっとたくさん知りたい」
雪さん、どう答えるんだろう?
振られても変身部の秘密をばらすつもりはない、という早瀬くんの言葉は、信じてもいい気がする。
そう安心したとたんに、二人の恋模様にどぎまぎしてきた。
だって、人が告白するところも、されるところも見たことないし。
「……ごめんなさい」
そう言って、雪さんは頭を丁寧に下げた。
まあ、やっぱりそうなるよね。女の子のふりをして付き合うのは無理、って言ってたし。
仕方ないけど……早瀬くん、ちょっと気の毒かも。
「ど、どうして?」
早瀬くんはかなり動揺している。いきなりの告白だったけれど、かなり自信があったのだろうか。
まあ、早瀬くんってモテるもんね。
「えっと……」
雪さんは黙ってしまった。
たぶん突然告白されるなんて思っていなかっただろうから、振る理由なんて用意していないのだろう。
「その、だから……タイプじゃないの! ごめんなさい!」
雪さんはそれだけ言うと、走って教室を出ていってしまった。これ以上、早瀬くんと二人きりで会話を続けることは無理だと判断したのだろう。
それに、変身部の秘密を守るっていう目的は、達成できそうだし。
「ううっ……!」
早瀬くんは両手で頭を抱え、地面に座り込んでしまった。しかも、すすり泣く声まで聞こえてくる。
うわ……どうしよう。
あんなにはっきり言わなくてもよかったのに、と如月さんの目が語っている。確かに、その気持ちも分かる。
だけど、どうせ断るなら、変に希望を持たれるより、はっきり断った方がいいのかも。
「なんで……雪ちゃん……」
好きな人に告白して、タイプじゃないからと振られたのだ。早瀬くんの心境を想像するだけで胸が痛い。
如月さんと目を合わせ、無言のまま頷き合う。早瀬くんが教室を出ていくまで、ここでおとなしくしていよう。
と、思っていたのだが。
「……ねえ、いるんでしょ」
早瀬くんは立ち上がると、いきなり私たちの目の前にやってきた。
嘘。ここに隠れてたの、バレてたの……!?
「ひっ!」
如月さんが悲鳴を上げ、私の腕をぎゅっと握った。
どう考えても私たちが悪い。二人きりで会わせると約束したのに、のぞき見をして、告白現場を見てしまったのだから。
どうしよう。怒った早瀬くんが、やっぱり変身部のことをばらすなんて言ったら。
「ねえ、二人とも」
すう、と早瀬くんが大きく息を意を吸い込んだ。
そして、叫ぶ。
「俺のこと、変身部に入れて!」
「「え!?」」
私と如月さんの声が重なった。
「俺を、雪ちゃん好みの男にして!!」
10
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
君は僕の番じゃないから
椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。
「君は僕の番じゃないから」
エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが
エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。
すると
「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる
イケメンが登場してーーー!?
___________________________
動機。
暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります
なので明るい話になります←
深く考えて読む話ではありません
※マーク編:3話+エピローグ
※超絶短編です
※さくっと読めるはず
※番の設定はゆるゆるです
※世界観としては割と近代チック
※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい
※マーク編は明るいです
卒業パーティーで冤罪をかけられた宝石が趣味の公爵令嬢は即興で男爵令嬢に冤罪をかけ返す。素人趣味が身を助けるとは思ってもいませんでしたわ
竹井ゴールド
恋愛
卒業パーティーで公爵令嬢は婚約者に冤罪をかけられてしまう。
本当に身に覚えがないのに、婚約破棄を宣言して断罪を始める婚約者と、その横で嘘泣きを始める男爵令嬢。
この女、もう許しませんわよ。
思い知らせてやりますわ。
怒髪天にきた公爵令嬢はありもしない盗難事件をその場で捏造して男爵令嬢に冤罪をかけ返すのだった。
【2022/9/2、出版申請、9/14、慰めメール】
【2022/9/4、24hポイント1万1700pt突破】
【2024/9/16、出版申請(2回目)】
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」
まほりろ
恋愛
【完結】
「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」
イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。
対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。
レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。
「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ!」
レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。
「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」
私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。
全31話、約43,000文字、完結済み。
他サイトにもアップしています。
小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位!
pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。
アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。
2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
第15回恋愛小説大賞にエントリーしてます。
もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~
ゆるり
ファンタジー
ようやくこの日がやってきた。自由度が最高と噂されてたフルダイブ型VRMMOのサービス開始日だよ。
最初の種族選択でガチャをしたらびっくり。希少種のもふもふが当たったみたい。
この幸運に全力で乗っかって、マイペースにゲームを楽しもう!
……もぐもぐ。この世界、ご飯美味しすぎでは?
***
ゲーム生活をのんびり楽しむ話。
バトルもありますが、基本はスローライフ。
主人公は羽のあるうさぎになって、愛嬌を振りまきながら、あっちへこっちへフラフラと、異世界のようなゲーム世界を満喫します。
カクヨム様にて先行公開しております。
不遇天職と不遇スキルは組み合わせると最強です! ~モノマネ士×定着で何にでもなれちゃいました~
渡琉兎
ファンタジー
ガゼルヴィード騎士爵家の五男として生を受けたアリウスは、家族から冷遇されていた。
父親が騎士職の天職、母親が占い職の天職を授かっており、他の兄妹たちも騎士職や占い職を授かっている中で、アリウスだけが【モノマネ士】という不遇職の天職を授かってしまう。
さらに、天職と合わせて授かるスキルも【定着】というモノマネ士では扱いにくいスキルだったことも冷遇に拍車をかけていた。
しかし、冷遇されているはずのアリウスはそんなことなど気にすることなく、むしろ冷遇を逆手にとって自由に生活を送っていた。
そのおかげもあり、アリウスは【モノマネ士】×【定着】の予想外な使い方を発見してしまう!
家を飛び出したアリウスは、【天職】×【スキル】、さらに努力から手に入れた力を駆使して大活躍するのだった!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる