24 / 37
第5章 トラブルは恋と共に
第24話 どうなっちゃうんだろ
しおりを挟む
「お願い、委員長! 俺に、雪さんを紹介してください!」
早瀬くんは深々と頭を下げた。こんなに深いお辞儀を見たのは初めてかもしれない。
どうしよう。これ、すっごくまずいんじゃ……?
「本当にお願い。一目惚れなんて俺、人生で初めてで。でも昨日からずっと、あの子のことが頭から離れないし……」
どうしよう。本当に、どうしよう。
雪さんの正体は優斗くん。つまり、男だ。でもきっと、早瀬くんはそのことに気づいていない。雪さんのことを、本当の女の子だと思っている。
「あの、早瀬くん……雪さんも、普段は昨日とは違う姿なの」
「そんなの関係ない。だってもう、好きになっちゃったんだから」
曇りのない、真っ直ぐな眼差し。
こんな目で見つめられたら、私、断れないんだけど……!?
「紹介してくれるだけでいいんだ。会わせてくれるだけでいい。デートにきてほしいとか、そんな無理を頼むつもりはないから」
「早瀬くん……」
雪さんは実は男なの、とは言えない。勝手に雪さんの秘密をばらすわけにはいかないからだ。
それに、がっかりした早瀬くんが、腹いせに変身部の秘密をばらすなんて言い出したら困るし。
「委員長、お願い。この通り!」
とうとう、早瀬くんは土下座した。頭を床にこすりつけ、お願い! と何度も繰り返す。
早瀬くんって、こんなことする人だったんだ!?
今の姿をクラスの女子たちが見たら、あまりの必死さに幻滅してしまいそうだ。
「雪さんのこと、本気で好きなんだ」
ああ、まずい。状況的にも、心理的にも、もう私は断れない。
「えーっと……」
早瀬くんはイケメンだし、すごくモテる。きっと、誰を好きになっても上手くいくだろう。相手が女の子であれば。
「委員長……!」
早瀬くんの声が、徐々に震え始める。そして遠くから、誰かの足音と話し声が聞こえてきた。
時計を確認すると、もうすぐ他の子たちが教室にやってくる時間だ。
こんなところを見られたら、なにがあったのかを詮索されてしまう。
「……分かった」
「本当!?」
ぱあっ、と早瀬くんの顔が輝く。
「うん。……でも、紹介するだけ。それ以上のことはできないから」
「ありがとう、委員長! それで十分。あとは、自分で頑張るから!」
そう言って、早瀬くんは自信満々に笑った。
◆
「……ということで、優斗くんには、雪さんとして早瀬くんに会ってほしくて……」
私が今朝あったことを話すと、優斗くんは深い溜息を吐いた。隣に座っている如月さんは、口元に手を当てて笑いをこらえている。
よかった。
昨日の如月さんと比べて、自然体な姿にほっとする。早瀬くんが変身部の秘密をばらす気がないという話を聞いて、安心したのだろう。
私たちは今日、いつもの姿で変身部の部室に集まった。早瀬くんのことを話し合わなければならず、着替える時間がなかったからだ。
「……俺の美しさも、罪ってわけか」
まったく、と言いながら優斗くんが足を組む。
普段の優斗くんを見るのは初めてだ。メイクもしていない今は、雪さんの時とかなり印象が違う。
一言で表すと、地味。
切れ長の綺麗な瞳は少し印象的だけれど、それ以外に目立つパーツはない。だからこそ、メイクでがらっと印象が変わるのだろう。
「会ってくれる?」
「会うだけなら、別にいいけど……会ってどうするんだ」
「……だよね」
心配しているのは、雪さんとの恋愛が上手くいかなかったり、雪さんが男だと気づいた時に、早瀬くんがどんな態度に出るかだ。
悪い人じゃないと思うけれど、恋は人を変える。
早瀬くんが真剣だからこそ、どんなことをしてくるか読めない。
「あ、あのさ、優斗」
如月さんが口を開いた。
「女の子のふりをして早瀬くんと付き合うとかは……」
「さすがに無理だわ」
「だ、だよね……」
分かってた、と言いつつ、如月さんは落ち込んでいるように見える。
そんな如月さんを見て、優斗くんは気まずそうな顔をした。
「そんなことしたら、バレた時にやばいだろ。それに、騙すのも気分が悪い」
分かってるよ、と如月さんはちょっと拗ねたように言った。甘えたような態度なのは、優斗くんが従兄だからだろう。
「優斗くん。明日の放課後、会うってことでいい? できる限り早く、って早瀬くんが言ってたから」
「分かった。先延ばしにしても、ずっと気にしてなきゃいけないしな」
覚悟を決めたように、優斗くんが頷いた。
……どうなっちゃうんだろ、これ。
早瀬くんは深々と頭を下げた。こんなに深いお辞儀を見たのは初めてかもしれない。
どうしよう。これ、すっごくまずいんじゃ……?
「本当にお願い。一目惚れなんて俺、人生で初めてで。でも昨日からずっと、あの子のことが頭から離れないし……」
どうしよう。本当に、どうしよう。
雪さんの正体は優斗くん。つまり、男だ。でもきっと、早瀬くんはそのことに気づいていない。雪さんのことを、本当の女の子だと思っている。
「あの、早瀬くん……雪さんも、普段は昨日とは違う姿なの」
「そんなの関係ない。だってもう、好きになっちゃったんだから」
曇りのない、真っ直ぐな眼差し。
こんな目で見つめられたら、私、断れないんだけど……!?
「紹介してくれるだけでいいんだ。会わせてくれるだけでいい。デートにきてほしいとか、そんな無理を頼むつもりはないから」
「早瀬くん……」
雪さんは実は男なの、とは言えない。勝手に雪さんの秘密をばらすわけにはいかないからだ。
それに、がっかりした早瀬くんが、腹いせに変身部の秘密をばらすなんて言い出したら困るし。
「委員長、お願い。この通り!」
とうとう、早瀬くんは土下座した。頭を床にこすりつけ、お願い! と何度も繰り返す。
早瀬くんって、こんなことする人だったんだ!?
今の姿をクラスの女子たちが見たら、あまりの必死さに幻滅してしまいそうだ。
「雪さんのこと、本気で好きなんだ」
ああ、まずい。状況的にも、心理的にも、もう私は断れない。
「えーっと……」
早瀬くんはイケメンだし、すごくモテる。きっと、誰を好きになっても上手くいくだろう。相手が女の子であれば。
「委員長……!」
早瀬くんの声が、徐々に震え始める。そして遠くから、誰かの足音と話し声が聞こえてきた。
時計を確認すると、もうすぐ他の子たちが教室にやってくる時間だ。
こんなところを見られたら、なにがあったのかを詮索されてしまう。
「……分かった」
「本当!?」
ぱあっ、と早瀬くんの顔が輝く。
「うん。……でも、紹介するだけ。それ以上のことはできないから」
「ありがとう、委員長! それで十分。あとは、自分で頑張るから!」
そう言って、早瀬くんは自信満々に笑った。
◆
「……ということで、優斗くんには、雪さんとして早瀬くんに会ってほしくて……」
私が今朝あったことを話すと、優斗くんは深い溜息を吐いた。隣に座っている如月さんは、口元に手を当てて笑いをこらえている。
よかった。
昨日の如月さんと比べて、自然体な姿にほっとする。早瀬くんが変身部の秘密をばらす気がないという話を聞いて、安心したのだろう。
私たちは今日、いつもの姿で変身部の部室に集まった。早瀬くんのことを話し合わなければならず、着替える時間がなかったからだ。
「……俺の美しさも、罪ってわけか」
まったく、と言いながら優斗くんが足を組む。
普段の優斗くんを見るのは初めてだ。メイクもしていない今は、雪さんの時とかなり印象が違う。
一言で表すと、地味。
切れ長の綺麗な瞳は少し印象的だけれど、それ以外に目立つパーツはない。だからこそ、メイクでがらっと印象が変わるのだろう。
「会ってくれる?」
「会うだけなら、別にいいけど……会ってどうするんだ」
「……だよね」
心配しているのは、雪さんとの恋愛が上手くいかなかったり、雪さんが男だと気づいた時に、早瀬くんがどんな態度に出るかだ。
悪い人じゃないと思うけれど、恋は人を変える。
早瀬くんが真剣だからこそ、どんなことをしてくるか読めない。
「あ、あのさ、優斗」
如月さんが口を開いた。
「女の子のふりをして早瀬くんと付き合うとかは……」
「さすがに無理だわ」
「だ、だよね……」
分かってた、と言いつつ、如月さんは落ち込んでいるように見える。
そんな如月さんを見て、優斗くんは気まずそうな顔をした。
「そんなことしたら、バレた時にやばいだろ。それに、騙すのも気分が悪い」
分かってるよ、と如月さんはちょっと拗ねたように言った。甘えたような態度なのは、優斗くんが従兄だからだろう。
「優斗くん。明日の放課後、会うってことでいい? できる限り早く、って早瀬くんが言ってたから」
「分かった。先延ばしにしても、ずっと気にしてなきゃいけないしな」
覚悟を決めたように、優斗くんが頷いた。
……どうなっちゃうんだろ、これ。
14
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
クラスの仲良かったオタクに調教と豊胸をされて好みの嫁にされたオタクに優しいギャル男
湊戸アサギリ
BL
※メス化、男の娘化、シーメール化要素があります。オタクくんと付き合ったギャル男がメスにされています。手術で豊胸した描写があります。これをBLって呼んでいいのかわからないです
いわゆるオタクに優しいギャル男の話になります。色々ご想像にお任せします。本番はありませんが下ネタ言ってますのでR15です
閲覧ありがとうございます。他の作品もよろしくお願いします
女子に間違えられました、、
夜碧ひな
青春
1:文化祭で女装コンテストに強制的に出場させられた有川 日向。コンテスト終了後、日向を可愛い女子だと間違えた1年先輩の朝日 滉太から告白を受ける。猛アピールをしてくる滉太に仕方なくOKしてしまう日向。
果たして2人の運命とは?
2:そこから数ヶ月。また新たなスタートをきった日向たち。が、そこに新たな人物が!?
そして周りの人物達が引き起こすハチャメチャストーリーとは!
ちょっと不思議なヒューマンラブコメディー。
※この物語はフィクション作品です。個名、団体などは現実世界において一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる