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第5章 トラブルは恋と共に

第22話 絶対、守るから

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「旧部室って基本、立ち入り禁止だよね? ここって綺麗だけど、いつも掃除とかしてるの?」

 私たちの重たい空気を無視し、早瀬くんは明るい声でそんなことを言った。
 無遠慮に部室全体を見回した後、空いている椅子に座る。
 蓮さん……いや、如月さんは顔面蒼白だ。きっと、早瀬くんみたいな人気者は苦手なんだろう。保健室でも、賑やかな声がすると苦しそうな顔をするし。
 本当にどうしよう?
 ちら、と雪さんを見る。雪さんは無言で俯いて、スカートをぎゅっと握っていた。その手が、小刻みに震えている気がする。
 雪さんの正体は……優斗くん。男子だ。その正体を知られるのが怖いのかもしれない。
 それにそもそも、これは後をつけられてしまった私の責任だ。
 だから、私がどうにかしなきゃ!

「あ、あの、早瀬く……」
「ごめんごめん。急に部外者がきたら、困っちゃうよね」

 勇気を振り絞って口を開いたとたんに、早瀬くんは笑ってそう言った。

「混乱させちゃって、ごめんね」

 早瀬くんの視線は、俯いた雪さんに向けられている。

「俺、今日は帰るよ。今日のところは、ね」

 爽やかな笑顔と、どこか意味深な台詞。
 早瀬くんって、一筋縄じゃいかないタイプかも……!

「あのっ!」

 早瀬くんが帰ってしまうように、ちゃんとこれだけは言わないと。

「このこと、他の人には言わないで!」

 ここは、私にとってとても大事な居場所だ。壊されたくない。ずっとずっと、大事にしていきたい。

「分かった。とりあえず、今日は言わない」
「え?」
「明日からのことは、明日考えようよ」

 ね、と早瀬くんが甘い笑顔で笑う。私が何も言えないでいる間に、じゃあね、と手を振って部室を出ていってしまった。
 なに、今の……?
 早瀬くん、なにを考えてるの? 全然分かんない。
 早瀬くんはみんなの人気者で、爽やかなイケメン。隣の席になってからはよく話すようになったけれど、仲がいいわけじゃない。
 つまり、私は早瀬くんのことを全然知らない。
 軽音部でボーカルをやってる、ってことは知ってるけど……。

「ど、どうしよう……っ!」

 如月さんがそう言って、床に座り込んだ。蓮さんの姿をしているだけで、完全に如月さんだ。

「い、委員長、どうしよう。わ、わた、私、私のこと、みんなにバレちゃったら……!」

 如月さんの声は震えていて、呼吸も乱れている。

「落ち着いて、如月さん!」

 とっさに如月さんを抱き締め、背中をさする。如月さんは私の肩に顔をうずめて、泣き出してしまった。
 もし、変身部の存在がみんなに知られてしまったら、如月さんはどうなっちゃうんだろう。
 教室にこないクラスメートが、放課後にこっそり男装している。きっと、馬鹿にしたり、ネタにする人だっているはずだ。
 如月さんのことを知りもしない人が、如月さんを傷つけることだってあるかもしれない。
 そんなの、絶対にだめだ。

「如月さん」

 ここは、なりたい自分になれる場所。
 自分の好きを叶えられる場所。
 日常のしがらみから逃げられる場所。

「安心して。私が絶対、変身部を守るから」

 そんな居場所を、絶対に失いたくない。





「とはいえ、どうしたらいいんだろ……」

 ベッドに寝転がり、天井を見ながら、何度目かも分からない言葉を呟く。
 いろいろと考えてはみたけれど、これといった対処法は見つかっていない。
 早瀬くん、どうするつもりなんだろう。
 早瀬くんみたいな人気者が変身部の話をすれば、きっと一日で学校中に話が広まってしまう。
 そうすればすぐ、旧部室棟に大勢が押し寄せるだろう。

「明日からのことは、また明日考えよう、なんて言ってたけど……」

 どういう意味なのだろう。
 私たちの反応を面白がってる? それともなにか、明日話したい理由でもあるの?
 ああもう、ぜんっぜん分かんない!

 プルルルル!

 いきなり着信音が鳴り響いて、慌ててスマホを手にとった。
 画面には、如月優斗、と表示されている。

「……優斗くん?」

 連絡先は交換したが、今まで電話がかかってきたことは一度もない。

「もしもし?」
『いきなりごめん。今日のこと、気になって眠れなくて』
「……私も」
『あいつって、人にばらすようなタイプなのか?』
「正直、分からなくて」

 早瀬くんが他人の秘密をどう扱うかなんて、考えたこともない。
 ただのクラスメートの私には、早瀬くんの行動を推測するのは困難だ。

『そうか……』

 優斗くんは深い溜息を吐いた。
 私のせいだ。私が後をつけられなかったら、こんなことにはならなかった。

「ごめんなさい。私のせいで」
『いや、謝らなくていい。パニックになった姫乃をなだめてくれて、ありがとうな』

 優斗くんは優しい。だからこそよけいに、申し訳なくなってしまう。

『俺に協力できることがあったら、なんでもやる。だから、ばらさないよう、あいつに頼んでみてくれないか?』
「……うん。明日、改めて話してみるつもり」

 明日からのことは、明日話すと早瀬くんも言っていた。
 正直、怖い。でも、ちゃんと向き合わなきゃ。

『それとな、悩んだけど、お前には一個言っておきたいことがあって……』
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