22 / 37
第5章 トラブルは恋と共に
第22話 絶対、守るから
しおりを挟む
「旧部室って基本、立ち入り禁止だよね? ここって綺麗だけど、いつも掃除とかしてるの?」
私たちの重たい空気を無視し、早瀬くんは明るい声でそんなことを言った。
無遠慮に部室全体を見回した後、空いている椅子に座る。
蓮さん……いや、如月さんは顔面蒼白だ。きっと、早瀬くんみたいな人気者は苦手なんだろう。保健室でも、賑やかな声がすると苦しそうな顔をするし。
本当にどうしよう?
ちら、と雪さんを見る。雪さんは無言で俯いて、スカートをぎゅっと握っていた。その手が、小刻みに震えている気がする。
雪さんの正体は……優斗くん。男子だ。その正体を知られるのが怖いのかもしれない。
それにそもそも、これは後をつけられてしまった私の責任だ。
だから、私がどうにかしなきゃ!
「あ、あの、早瀬く……」
「ごめんごめん。急に部外者がきたら、困っちゃうよね」
勇気を振り絞って口を開いたとたんに、早瀬くんは笑ってそう言った。
「混乱させちゃって、ごめんね」
早瀬くんの視線は、俯いた雪さんに向けられている。
「俺、今日は帰るよ。今日のところは、ね」
爽やかな笑顔と、どこか意味深な台詞。
早瀬くんって、一筋縄じゃいかないタイプかも……!
「あのっ!」
早瀬くんが帰ってしまうように、ちゃんとこれだけは言わないと。
「このこと、他の人には言わないで!」
ここは、私にとってとても大事な居場所だ。壊されたくない。ずっとずっと、大事にしていきたい。
「分かった。とりあえず、今日は言わない」
「え?」
「明日からのことは、明日考えようよ」
ね、と早瀬くんが甘い笑顔で笑う。私が何も言えないでいる間に、じゃあね、と手を振って部室を出ていってしまった。
なに、今の……?
早瀬くん、なにを考えてるの? 全然分かんない。
早瀬くんはみんなの人気者で、爽やかなイケメン。隣の席になってからはよく話すようになったけれど、仲がいいわけじゃない。
つまり、私は早瀬くんのことを全然知らない。
軽音部でボーカルをやってる、ってことは知ってるけど……。
「ど、どうしよう……っ!」
如月さんがそう言って、床に座り込んだ。蓮さんの姿をしているだけで、完全に如月さんだ。
「い、委員長、どうしよう。わ、わた、私、私のこと、みんなにバレちゃったら……!」
如月さんの声は震えていて、呼吸も乱れている。
「落ち着いて、如月さん!」
とっさに如月さんを抱き締め、背中をさする。如月さんは私の肩に顔をうずめて、泣き出してしまった。
もし、変身部の存在がみんなに知られてしまったら、如月さんはどうなっちゃうんだろう。
教室にこないクラスメートが、放課後にこっそり男装している。きっと、馬鹿にしたり、ネタにする人だっているはずだ。
如月さんのことを知りもしない人が、如月さんを傷つけることだってあるかもしれない。
そんなの、絶対にだめだ。
「如月さん」
ここは、なりたい自分になれる場所。
自分の好きを叶えられる場所。
日常のしがらみから逃げられる場所。
「安心して。私が絶対、変身部を守るから」
そんな居場所を、絶対に失いたくない。
◆
「とはいえ、どうしたらいいんだろ……」
ベッドに寝転がり、天井を見ながら、何度目かも分からない言葉を呟く。
いろいろと考えてはみたけれど、これといった対処法は見つかっていない。
早瀬くん、どうするつもりなんだろう。
早瀬くんみたいな人気者が変身部の話をすれば、きっと一日で学校中に話が広まってしまう。
そうすればすぐ、旧部室棟に大勢が押し寄せるだろう。
「明日からのことは、また明日考えよう、なんて言ってたけど……」
どういう意味なのだろう。
私たちの反応を面白がってる? それともなにか、明日話したい理由でもあるの?
ああもう、ぜんっぜん分かんない!
プルルルル!
いきなり着信音が鳴り響いて、慌ててスマホを手にとった。
画面には、如月優斗、と表示されている。
「……優斗くん?」
連絡先は交換したが、今まで電話がかかってきたことは一度もない。
「もしもし?」
『いきなりごめん。今日のこと、気になって眠れなくて』
「……私も」
『あいつって、人にばらすようなタイプなのか?』
「正直、分からなくて」
早瀬くんが他人の秘密をどう扱うかなんて、考えたこともない。
ただのクラスメートの私には、早瀬くんの行動を推測するのは困難だ。
『そうか……』
優斗くんは深い溜息を吐いた。
私のせいだ。私が後をつけられなかったら、こんなことにはならなかった。
「ごめんなさい。私のせいで」
『いや、謝らなくていい。パニックになった姫乃をなだめてくれて、ありがとうな』
優斗くんは優しい。だからこそよけいに、申し訳なくなってしまう。
『俺に協力できることがあったら、なんでもやる。だから、ばらさないよう、あいつに頼んでみてくれないか?』
「……うん。明日、改めて話してみるつもり」
明日からのことは、明日話すと早瀬くんも言っていた。
正直、怖い。でも、ちゃんと向き合わなきゃ。
『それとな、悩んだけど、お前には一個言っておきたいことがあって……』
私たちの重たい空気を無視し、早瀬くんは明るい声でそんなことを言った。
無遠慮に部室全体を見回した後、空いている椅子に座る。
蓮さん……いや、如月さんは顔面蒼白だ。きっと、早瀬くんみたいな人気者は苦手なんだろう。保健室でも、賑やかな声がすると苦しそうな顔をするし。
本当にどうしよう?
ちら、と雪さんを見る。雪さんは無言で俯いて、スカートをぎゅっと握っていた。その手が、小刻みに震えている気がする。
雪さんの正体は……優斗くん。男子だ。その正体を知られるのが怖いのかもしれない。
それにそもそも、これは後をつけられてしまった私の責任だ。
だから、私がどうにかしなきゃ!
「あ、あの、早瀬く……」
「ごめんごめん。急に部外者がきたら、困っちゃうよね」
勇気を振り絞って口を開いたとたんに、早瀬くんは笑ってそう言った。
「混乱させちゃって、ごめんね」
早瀬くんの視線は、俯いた雪さんに向けられている。
「俺、今日は帰るよ。今日のところは、ね」
爽やかな笑顔と、どこか意味深な台詞。
早瀬くんって、一筋縄じゃいかないタイプかも……!
「あのっ!」
早瀬くんが帰ってしまうように、ちゃんとこれだけは言わないと。
「このこと、他の人には言わないで!」
ここは、私にとってとても大事な居場所だ。壊されたくない。ずっとずっと、大事にしていきたい。
「分かった。とりあえず、今日は言わない」
「え?」
「明日からのことは、明日考えようよ」
ね、と早瀬くんが甘い笑顔で笑う。私が何も言えないでいる間に、じゃあね、と手を振って部室を出ていってしまった。
なに、今の……?
早瀬くん、なにを考えてるの? 全然分かんない。
早瀬くんはみんなの人気者で、爽やかなイケメン。隣の席になってからはよく話すようになったけれど、仲がいいわけじゃない。
つまり、私は早瀬くんのことを全然知らない。
軽音部でボーカルをやってる、ってことは知ってるけど……。
「ど、どうしよう……っ!」
如月さんがそう言って、床に座り込んだ。蓮さんの姿をしているだけで、完全に如月さんだ。
「い、委員長、どうしよう。わ、わた、私、私のこと、みんなにバレちゃったら……!」
如月さんの声は震えていて、呼吸も乱れている。
「落ち着いて、如月さん!」
とっさに如月さんを抱き締め、背中をさする。如月さんは私の肩に顔をうずめて、泣き出してしまった。
もし、変身部の存在がみんなに知られてしまったら、如月さんはどうなっちゃうんだろう。
教室にこないクラスメートが、放課後にこっそり男装している。きっと、馬鹿にしたり、ネタにする人だっているはずだ。
如月さんのことを知りもしない人が、如月さんを傷つけることだってあるかもしれない。
そんなの、絶対にだめだ。
「如月さん」
ここは、なりたい自分になれる場所。
自分の好きを叶えられる場所。
日常のしがらみから逃げられる場所。
「安心して。私が絶対、変身部を守るから」
そんな居場所を、絶対に失いたくない。
◆
「とはいえ、どうしたらいいんだろ……」
ベッドに寝転がり、天井を見ながら、何度目かも分からない言葉を呟く。
いろいろと考えてはみたけれど、これといった対処法は見つかっていない。
早瀬くん、どうするつもりなんだろう。
早瀬くんみたいな人気者が変身部の話をすれば、きっと一日で学校中に話が広まってしまう。
そうすればすぐ、旧部室棟に大勢が押し寄せるだろう。
「明日からのことは、また明日考えよう、なんて言ってたけど……」
どういう意味なのだろう。
私たちの反応を面白がってる? それともなにか、明日話したい理由でもあるの?
ああもう、ぜんっぜん分かんない!
プルルルル!
いきなり着信音が鳴り響いて、慌ててスマホを手にとった。
画面には、如月優斗、と表示されている。
「……優斗くん?」
連絡先は交換したが、今まで電話がかかってきたことは一度もない。
「もしもし?」
『いきなりごめん。今日のこと、気になって眠れなくて』
「……私も」
『あいつって、人にばらすようなタイプなのか?』
「正直、分からなくて」
早瀬くんが他人の秘密をどう扱うかなんて、考えたこともない。
ただのクラスメートの私には、早瀬くんの行動を推測するのは困難だ。
『そうか……』
優斗くんは深い溜息を吐いた。
私のせいだ。私が後をつけられなかったら、こんなことにはならなかった。
「ごめんなさい。私のせいで」
『いや、謝らなくていい。パニックになった姫乃をなだめてくれて、ありがとうな』
優斗くんは優しい。だからこそよけいに、申し訳なくなってしまう。
『俺に協力できることがあったら、なんでもやる。だから、ばらさないよう、あいつに頼んでみてくれないか?』
「……うん。明日、改めて話してみるつもり」
明日からのことは、明日話すと早瀬くんも言っていた。
正直、怖い。でも、ちゃんと向き合わなきゃ。
『それとな、悩んだけど、お前には一個言っておきたいことがあって……』
24
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
おねしょゆうれい
ケンタシノリ
児童書・童話
べんじょの中にいるゆうれいは、ぼうやをこわがらせておねしょをさせるのが大すきです。今日も、夜中にやってきたのは……。
※この作品で使用する漢字は、小学2年生までに習う漢字を使用しています。
湖の民
影燈
児童書・童話
沼無国(ぬまぬこ)の統治下にある、儺楼湖(なろこ)の里。
そこに暮らす令は寺子屋に通う12歳の男の子。
優しい先生や友だちに囲まれ、楽しい日々を送っていた。
だがそんなある日。
里に、伝染病が発生、里は封鎖されてしまい、母も病にかかってしまう。
母を助けるため、幻の薬草を探しにいく令だったが――
ターシャと落ちこぼれのお星さま
黒星★チーコ
児童書・童話
流れ星がなぜ落ちるのか知っていますか?
これはどこか遠くの、寒い国の流れ星のお話です。
※全4話。1話につき1~2枚の挿絵付きです。
※小説家になろうにも投稿しています。
『ハタオト!~働くオトナの保健室~(産業医と保健師のカルテ)』→“走るオトナの保健室、あなたの会社にもお伺いします。”
かまくらはじめ
経済・企業
現代日本で、今日も一生懸命働いている、「働く大人」の皆様へ。
こちらの小説作品は、働く人の健康を守る医療職、「産業保健師」の足立里菜を主人公にしたヒューマンドラマ小説です。
働いている人の「あるある」や、働くうえでお役に立つかもしれない知識、そして何より、健康や命の大切さを知ってほしくて書きました。恋愛要素もちょっとアリ。基本的には各Episodeで読み切りです。
☆★☆★☆【Episode① 産業保健ってなあに】26歳の看護師、足立里菜。勤め先の病院からクビを宣告されて意気消沈していたところで、地下鉄内で急病人に遭遇……! その人を助けたことがきっかけで、エリートサラリーマン風の医師・産業医の鈴木風寿とペアになって働き始める。初めての出動先は『サクラマス化学株式会社』。ところが訪問初日に、労災と社員のクーデターが発生!?
☆★☆★☆【Episode② 港区ラプソディ】友人のトモコに誘われて、六本木の超高級カラオケに行った里菜。そこで出会ったメンズは、国会議員、会社社長、成功した投資家という豪華メンバー。その後、投資ファンド『ジュリー・マリー・キャピタル』社員のメンタル不調について相談依頼を受け、会社に向かうことに……!
☆★☆★☆【Episode③ 魂の居場所】産業保健師足立里菜、初めての保健指導! でも鈴木先生と訪れた『エイチアイ石鹸株式会社』では、過去に何か事件があったようで……??
☆★☆★☆【Episode④ 最後の一滴】ハウスメーカー『シューシンハウス株式会社』で、アルコール依存症の社員に生活指導とサポートを行うことになった新人産業保健師、足立里菜。でも、思わぬ大失敗をしてしまって、鈴木先生と初めてのケンカに……!!?
できるだけ定期的に更新するよう心掛けます。ご意見・ご感想などがございましたら、是非お気軽にコメント下さい。Twitterもやっています(https://twitter.com/@Goto_Kamakura)。もしもこの作品を好きになって下さったら、「ブックマーク」「レビュー」頂けると泣いて喜びます。
※この物語は完全なるフィクションです。
「カクヨム」「小説家になろう」と重複投稿しています。
各Episodeでいったん完結しますが、連作として【Episode⑩】くらいまで書き続ける予定です。
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる