偏屈な辺境伯爵のメイドに転生しましたが、前世が秋葉原ナンバーワンメイドなので問題ありません

八星 こはく

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第66話 元メイド、永遠の愛を誓う

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 今日は、待ちに待った結婚式だ。
 招待客が会場に到着するまではまだ時間があるけれど、準備にかかる時間を考えたらのんびりしている暇なんてない。

「アリスお嬢様、最後に髪を整えましょう」

 グレースさんがそう言って、優しく私の髪に触れた。
 ランスロット様が、わざわざグレースさんを王都から呼んでくれたのだ。

 特注のウェディングドレスに、目がくらむほど豪華な装飾品。そして、グレースさんによる完璧な着こなし。
 今日の私は、間違いなく完璧だ。

「お嬢様とお呼びするのは、今日で最後ですね」

 目が合うと、グレースさんはくすっと笑った。

「式が終われば、奥方様と呼びしましょうか」
「あんまり、緊張するようなこと言わないでくださいよ」

 さすがの私も、めちゃくちゃ緊張している。
 大勢の人がやってくるし、今日から私は伯爵夫人になるのだ。





「アリス」

 部屋に入ってきたランスロット様が、私を見つめて甘く笑った。
 笑顔を見るとどきどきするけれど、それと同時にものすごく落ち着く。

 今日のランスロット様は、真っ白のタキシードを着ている。スタイルのよさが強調されていて、物語から飛び出てきた王子様みたいに格好いい。

 まあ、実際、ランスロット様は王子様なんだけど。

「今日のお前は、いつも以上に可愛いな」

 ランスロット様が私の頬に手を伸ばす。コホン、とグレースさんが咳払いし、お化粧が落ちてしまいます、とランスロット様を諌めた。

 残念そうに手を引っ込めたランスロット様が、私の手をぎゅっと握る。

「緊張しなくていい。俺の妻として、堂々としていればいいんだから」
「ランスロット様……」
「もう馬車がきた。行こう」
「はい」

 結婚式場は広場だ。屋敷からは近いが、今日の服装では歩けないため、馬車にのって向かう。

「ランスロット様」
「なんだ?」
「絶対、最高の式にしましょうね!」

 結婚式は、人生で一度だけ。
 これから先、きっと何度も今日のことを思い出す。そのたびに、最高だったと笑い合いたい。





 可愛い私は天の神様にも好かれているのか、頭上には雲一つない青空が広がっている。
 馬車の窓から、そっと広場の様子を窺った。

 貴族のパーティーでは、身分が高い人が最後に登場する。
 だが、さすがに結婚式は例外で、主役である新郎新婦が最後に登場するのだという。

 そのため、既に広場には国王陛下を含めた全員がきている。

「緊張しますか、ランスロット様」
「……さすがにな」

 ランスロット様は大きく深呼吸をし、私の手を握った。

「行こう」

 ランスロット様が馬車の扉を開く。歓声に包まれながら、私たちは馬車を下りた。





 背筋をピンと伸ばし、真っ直ぐに歩く。
 今日のために、何時間もウォーキングの練習をした。ちゃんと、貴族の淑女らしい歩き方になっているはず。

 正直、ウォーキングやマナーの練習は面倒くさかった。
 元々、私はそういうのは好きじゃないし。

 でも、ランスロット様の妻として生きると決めたのだから、苦手なことからだってもう逃げない。

 招待客の前で立ち止まり、ゆっくりと参列者たちの顔を見つめる。
 最前列に座っているのは、もちろん国王陛下とスカーレット様だ。

 二人の距離はかなり近く、仲睦まじい夫婦のように見える。
 もちろん、真実を知らない人が見たら、仲のいい兄妹にしか見えないのだろうけれど。

 目が合うと、スカーレット様は泣きそうな顔で笑ってくれた。

「お二方」

 私たちの前に立ったのは、教会から呼んだ牧師ではなく、牧師に扮したヴァレンティンさんである。

 料理を作った後にすぐ牧師役なんて、ヴァレンティンさんも大忙しよね。

 ヴァレンティンさんに牧師役を依頼したい、と言い出したのはランスロット様だ。
 誰かに愛を誓うなら、ヴァレンティンさんがいいのだと言っていた。

 それが一番、偽りのない言葉になるだろうと。

 事情があって両親と暮らせなかったランスロット様にとって、ヴァレンティンさんは家族のような存在なのだ。

 私だって、もちろん大賛成だ。
 牧師役になってくれたら、一番近くで私たちを見てもらえるから。

 招待客の誰より、ヴァレンティンさんにはお世話になった。
 けれど身分のせいで、ヴァレンティンさんを最前列に座らせることはできない。

 でも、牧師なら別物だもの。

「病める時も、健やかなる時も、二人で支え合い、永遠に互いを愛することを誓いますか?」

 ヴァレンティンさんの言葉に、私とランスロット様は同じタイミングで頷く。

 いきなりこの世界にきて、ランスロット様のメイドになって、混乱したこともたくさんある。
 けれどもう、ランスロット様の隣で生きることに、何の迷いもない。

「では、誓いのキスを」

 アリス、と小さく名前を呼ばれる。
 ランスロット様がそっと私の肩に手を置いて、膝をかがめた。

 そして、ゆっくりランスロット様の顔が近づいてくる。目を閉じて、ランスロット様のキスを待った。

 軽く触れた唇は、すぐに離れてしまった。

 目を開ける。すると、頬を真っ赤にしたランスロット様と目が合った。

「ランスロット様」

 一歩近づいて、他の人には聞こえないように名前を呼ぶ。
 そして、私史上、最も可愛い笑みを浮かべた。

「アリスは永遠に、ランスロット様が大好きですよ」
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