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第66話 元メイド、永遠の愛を誓う
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今日は、待ちに待った結婚式だ。
招待客が会場に到着するまではまだ時間があるけれど、準備にかかる時間を考えたらのんびりしている暇なんてない。
「アリスお嬢様、最後に髪を整えましょう」
グレースさんがそう言って、優しく私の髪に触れた。
ランスロット様が、わざわざグレースさんを王都から呼んでくれたのだ。
特注のウェディングドレスに、目がくらむほど豪華な装飾品。そして、グレースさんによる完璧な着こなし。
今日の私は、間違いなく完璧だ。
「お嬢様とお呼びするのは、今日で最後ですね」
目が合うと、グレースさんはくすっと笑った。
「式が終われば、奥方様と呼びしましょうか」
「あんまり、緊張するようなこと言わないでくださいよ」
さすがの私も、めちゃくちゃ緊張している。
大勢の人がやってくるし、今日から私は伯爵夫人になるのだ。
◆
「アリス」
部屋に入ってきたランスロット様が、私を見つめて甘く笑った。
笑顔を見るとどきどきするけれど、それと同時にものすごく落ち着く。
今日のランスロット様は、真っ白のタキシードを着ている。スタイルのよさが強調されていて、物語から飛び出てきた王子様みたいに格好いい。
まあ、実際、ランスロット様は王子様なんだけど。
「今日のお前は、いつも以上に可愛いな」
ランスロット様が私の頬に手を伸ばす。コホン、とグレースさんが咳払いし、お化粧が落ちてしまいます、とランスロット様を諌めた。
残念そうに手を引っ込めたランスロット様が、私の手をぎゅっと握る。
「緊張しなくていい。俺の妻として、堂々としていればいいんだから」
「ランスロット様……」
「もう馬車がきた。行こう」
「はい」
結婚式場は広場だ。屋敷からは近いが、今日の服装では歩けないため、馬車にのって向かう。
「ランスロット様」
「なんだ?」
「絶対、最高の式にしましょうね!」
結婚式は、人生で一度だけ。
これから先、きっと何度も今日のことを思い出す。そのたびに、最高だったと笑い合いたい。
◆
可愛い私は天の神様にも好かれているのか、頭上には雲一つない青空が広がっている。
馬車の窓から、そっと広場の様子を窺った。
貴族のパーティーでは、身分が高い人が最後に登場する。
だが、さすがに結婚式は例外で、主役である新郎新婦が最後に登場するのだという。
そのため、既に広場には国王陛下を含めた全員がきている。
「緊張しますか、ランスロット様」
「……さすがにな」
ランスロット様は大きく深呼吸をし、私の手を握った。
「行こう」
ランスロット様が馬車の扉を開く。歓声に包まれながら、私たちは馬車を下りた。
◆
背筋をピンと伸ばし、真っ直ぐに歩く。
今日のために、何時間もウォーキングの練習をした。ちゃんと、貴族の淑女らしい歩き方になっているはず。
正直、ウォーキングやマナーの練習は面倒くさかった。
元々、私はそういうのは好きじゃないし。
でも、ランスロット様の妻として生きると決めたのだから、苦手なことからだってもう逃げない。
招待客の前で立ち止まり、ゆっくりと参列者たちの顔を見つめる。
最前列に座っているのは、もちろん国王陛下とスカーレット様だ。
二人の距離はかなり近く、仲睦まじい夫婦のように見える。
もちろん、真実を知らない人が見たら、仲のいい兄妹にしか見えないのだろうけれど。
目が合うと、スカーレット様は泣きそうな顔で笑ってくれた。
「お二方」
私たちの前に立ったのは、教会から呼んだ牧師ではなく、牧師に扮したヴァレンティンさんである。
料理を作った後にすぐ牧師役なんて、ヴァレンティンさんも大忙しよね。
ヴァレンティンさんに牧師役を依頼したい、と言い出したのはランスロット様だ。
誰かに愛を誓うなら、ヴァレンティンさんがいいのだと言っていた。
それが一番、偽りのない言葉になるだろうと。
事情があって両親と暮らせなかったランスロット様にとって、ヴァレンティンさんは家族のような存在なのだ。
私だって、もちろん大賛成だ。
牧師役になってくれたら、一番近くで私たちを見てもらえるから。
招待客の誰より、ヴァレンティンさんにはお世話になった。
けれど身分のせいで、ヴァレンティンさんを最前列に座らせることはできない。
でも、牧師なら別物だもの。
「病める時も、健やかなる時も、二人で支え合い、永遠に互いを愛することを誓いますか?」
ヴァレンティンさんの言葉に、私とランスロット様は同じタイミングで頷く。
いきなりこの世界にきて、ランスロット様のメイドになって、混乱したこともたくさんある。
けれどもう、ランスロット様の隣で生きることに、何の迷いもない。
「では、誓いのキスを」
アリス、と小さく名前を呼ばれる。
ランスロット様がそっと私の肩に手を置いて、膝をかがめた。
そして、ゆっくりランスロット様の顔が近づいてくる。目を閉じて、ランスロット様のキスを待った。
軽く触れた唇は、すぐに離れてしまった。
目を開ける。すると、頬を真っ赤にしたランスロット様と目が合った。
「ランスロット様」
一歩近づいて、他の人には聞こえないように名前を呼ぶ。
そして、私史上、最も可愛い笑みを浮かべた。
「アリスは永遠に、ランスロット様が大好きですよ」
招待客が会場に到着するまではまだ時間があるけれど、準備にかかる時間を考えたらのんびりしている暇なんてない。
「アリスお嬢様、最後に髪を整えましょう」
グレースさんがそう言って、優しく私の髪に触れた。
ランスロット様が、わざわざグレースさんを王都から呼んでくれたのだ。
特注のウェディングドレスに、目がくらむほど豪華な装飾品。そして、グレースさんによる完璧な着こなし。
今日の私は、間違いなく完璧だ。
「お嬢様とお呼びするのは、今日で最後ですね」
目が合うと、グレースさんはくすっと笑った。
「式が終われば、奥方様と呼びしましょうか」
「あんまり、緊張するようなこと言わないでくださいよ」
さすがの私も、めちゃくちゃ緊張している。
大勢の人がやってくるし、今日から私は伯爵夫人になるのだ。
◆
「アリス」
部屋に入ってきたランスロット様が、私を見つめて甘く笑った。
笑顔を見るとどきどきするけれど、それと同時にものすごく落ち着く。
今日のランスロット様は、真っ白のタキシードを着ている。スタイルのよさが強調されていて、物語から飛び出てきた王子様みたいに格好いい。
まあ、実際、ランスロット様は王子様なんだけど。
「今日のお前は、いつも以上に可愛いな」
ランスロット様が私の頬に手を伸ばす。コホン、とグレースさんが咳払いし、お化粧が落ちてしまいます、とランスロット様を諌めた。
残念そうに手を引っ込めたランスロット様が、私の手をぎゅっと握る。
「緊張しなくていい。俺の妻として、堂々としていればいいんだから」
「ランスロット様……」
「もう馬車がきた。行こう」
「はい」
結婚式場は広場だ。屋敷からは近いが、今日の服装では歩けないため、馬車にのって向かう。
「ランスロット様」
「なんだ?」
「絶対、最高の式にしましょうね!」
結婚式は、人生で一度だけ。
これから先、きっと何度も今日のことを思い出す。そのたびに、最高だったと笑い合いたい。
◆
可愛い私は天の神様にも好かれているのか、頭上には雲一つない青空が広がっている。
馬車の窓から、そっと広場の様子を窺った。
貴族のパーティーでは、身分が高い人が最後に登場する。
だが、さすがに結婚式は例外で、主役である新郎新婦が最後に登場するのだという。
そのため、既に広場には国王陛下を含めた全員がきている。
「緊張しますか、ランスロット様」
「……さすがにな」
ランスロット様は大きく深呼吸をし、私の手を握った。
「行こう」
ランスロット様が馬車の扉を開く。歓声に包まれながら、私たちは馬車を下りた。
◆
背筋をピンと伸ばし、真っ直ぐに歩く。
今日のために、何時間もウォーキングの練習をした。ちゃんと、貴族の淑女らしい歩き方になっているはず。
正直、ウォーキングやマナーの練習は面倒くさかった。
元々、私はそういうのは好きじゃないし。
でも、ランスロット様の妻として生きると決めたのだから、苦手なことからだってもう逃げない。
招待客の前で立ち止まり、ゆっくりと参列者たちの顔を見つめる。
最前列に座っているのは、もちろん国王陛下とスカーレット様だ。
二人の距離はかなり近く、仲睦まじい夫婦のように見える。
もちろん、真実を知らない人が見たら、仲のいい兄妹にしか見えないのだろうけれど。
目が合うと、スカーレット様は泣きそうな顔で笑ってくれた。
「お二方」
私たちの前に立ったのは、教会から呼んだ牧師ではなく、牧師に扮したヴァレンティンさんである。
料理を作った後にすぐ牧師役なんて、ヴァレンティンさんも大忙しよね。
ヴァレンティンさんに牧師役を依頼したい、と言い出したのはランスロット様だ。
誰かに愛を誓うなら、ヴァレンティンさんがいいのだと言っていた。
それが一番、偽りのない言葉になるだろうと。
事情があって両親と暮らせなかったランスロット様にとって、ヴァレンティンさんは家族のような存在なのだ。
私だって、もちろん大賛成だ。
牧師役になってくれたら、一番近くで私たちを見てもらえるから。
招待客の誰より、ヴァレンティンさんにはお世話になった。
けれど身分のせいで、ヴァレンティンさんを最前列に座らせることはできない。
でも、牧師なら別物だもの。
「病める時も、健やかなる時も、二人で支え合い、永遠に互いを愛することを誓いますか?」
ヴァレンティンさんの言葉に、私とランスロット様は同じタイミングで頷く。
いきなりこの世界にきて、ランスロット様のメイドになって、混乱したこともたくさんある。
けれどもう、ランスロット様の隣で生きることに、何の迷いもない。
「では、誓いのキスを」
アリス、と小さく名前を呼ばれる。
ランスロット様がそっと私の肩に手を置いて、膝をかがめた。
そして、ゆっくりランスロット様の顔が近づいてくる。目を閉じて、ランスロット様のキスを待った。
軽く触れた唇は、すぐに離れてしまった。
目を開ける。すると、頬を真っ赤にしたランスロット様と目が合った。
「ランスロット様」
一歩近づいて、他の人には聞こえないように名前を呼ぶ。
そして、私史上、最も可愛い笑みを浮かべた。
「アリスは永遠に、ランスロット様が大好きですよ」
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