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第65話 メイド、結婚式の準備をする
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「もう少し派手にしたらどうだ?」
「……さすがにもう、これ以上派手にはなりませんって!」
ランスロット様の言葉を聞いて、仕立て屋も苦笑している。
しかし、ランスロット様本人は真面目な表情のままだ。
「だが、お前は派手な物が好きだろう。白一色は地味じゃないのか」
「結婚式だけは、真っ白がいいんです!」
領地に戻ってすぐ、ランスロット様は結婚式の準備を始めてくれた。
結婚式を開催するのはサリヴァン伯領で、野外に結婚式用のスペースを設けて開催するらしい。
まあ、現代日本的に言えば、ガーデンウェディングっていうやつよね。
外で結婚式を開催することで、領民たちにも式の様子を見せることができる。
そして式が終了した後、屋敷に招待客を招き、改めてパーティーを開催する予定だ。
「なら、せめて派手な装飾品を用意するか」
ランスロット様が顎に手を当て、真剣な様子で考え始めた。
「せっかくの結婚式だ。最高のものにしたいからな」
「私はもう、ランスロット様が一緒なら、それだけで最高の気分ですけどね」
ランスロット様は照れたのか、両手で口元を隠した。
◆
「ヴァレンティンさん、すいません、全然手伝えなくて」
厨房に入ると、ヴァレンティンさんが笑顔で首を横に振った。
もうすぐ夕飯の支度が終わるのか、とてもいい匂いがする。
「いえいえ、アリスさんは今とてもお忙しいでしょうし。
それに、奥方様に手伝っていただくなんてできませんよ」
「奥方様だなんて! もう、ヴァレンティンさんったら、もっと言ってくださいね」
私が笑いかけると、ヴァレンティンさんも楽しそうに笑ってくれた。
ここ最近は結婚式の準備でバタバタしていて、メイドとしての仕事はほとんどできていない。
そのため、仕事はヴァレンティンさんにまかせっきりだ。
申し訳ないとは思ってるんだけど……。
もうメイドとしての仕事をする必要はないとランスロット様から言われている。
正直私は仕事が好きじゃないから、そう言われた時は嬉しかった。
でも、代わりの使用人がここへくるのは嫌なんだよね。
私とランスロット様とヴァレンティンさん。
三人でのこじんまりとした生活が、私はやっぱり好きなのだ。
ヴァレンティンさんも年をとるし、私もどんどん伯爵夫人として忙しくなるだろうから、いずれは誰かを迎え入れないといけないのかもしれない。
けれどまだしばらくは、このまま三人で暮らしていたい。
「結婚式の料理も、私に任せていただいて、ありがとうございます」
「こちらこそ、引き受けてくれてありがとうございます」
さすがに、招待客全員の料理をヴァレンティンさんが作ることはできない。
だが、メニューを決め、王都から呼び寄せた料理人たちの指揮をとるのはヴァレンティンさんの仕事だ。
「私が責任を持って、素敵な料理を作りますから」
ヴァレンティンさんほど信頼できる料理人なんていない。
きっと、招待客全員が満足する料理ができるはずだ。
◆
「そろそろ、招待客が確定しそうだな」
大量に届いた手紙を見ながら、ランスロット様が呟く。
一月ほど前、結婚式の招待状を送った。その返事が、もうほとんど届いているのだ。
ちなみに、真っ先に返事をくれたのはスカーレット様である。
「はい。思っていたより、かなり多くなりそうですね」
「ああ、屋敷には入りきらないから、一部を除いて宿をとってもらうことになるな」
サリヴァン伯爵家の屋敷は、貴族の屋敷にしてはかなり小さい。
ここに泊まれる客はほとんどいないだろう。
「まさか、国王陛下まで参列なさるとは」
「まあ、一応、ランスロット様の父親ということになっていますから」
実際は本当に父親なんだけどね。
国王陛下とスカーレット様は、旅行の一環という建前で私たちの結婚式に参加するそうだ。
「だが、数カ月前まで、こんなことは想像もしていなかった。辺境に追いやった庶子の結婚式に、陛下が自らやってくるなんてな」
「実際は、スカーレット様同様、陛下もランスロット様のことを気にしていらっしゃるんですよ」
スカーレット様は、ランスロット様が社交界に顔を出したことをきっかけに、ランスロット様に接触をはかるようになった。
きっと、ずっとタイミングを窺っていたのだろう。
スカーレット様が望めば、強引にでもランスロット様と会うことができたはず。
それをしなかったのは、やっぱりスカーレット様が、ランスロット様を大切に思っているからだわ。
「そうみたいだな。まあ、陛下からしたら甥だから、気にかけてくださるのかもしれない」
ランスロット様は、陛下が父親だということを知らない。
真実を知れば、陛下をどんな風に思うのだろう。
なんて、考えてみるだけ。本人に伝えない方がいいことくらい、ちゃんと分かってるもん。
「アリス。結婚式は楽しみか?」
「当たり前じゃないですか!」
結婚式といえば、女の子の憧れだ。
しかも大好きなランスロット様の妻になれるのだから、これほど嬉しいことはない。
「ランスロット様はどうなんです?」
「俺も楽しみだ。その後のことも含めて、な」
からかうような笑みを浮かべ、ランスロット様は私の頭を撫でた。
結婚式のその後、つまり初夜のことである。
婚約者とはいえ、私たちはまだ結婚していない。だから、まだ寝室は別だ。
そして式が終われば、私はランスロット様と同じ寝室で眠ることになる。
つまり、まあ、そういうことよね。
「今から、可愛いお前を見るのが楽しみだ」
「ちょっと、私は常に可愛いですけど!」
抗議するように頬を膨らませる。ランスロット様は笑って、私の頬をつついた。
「……さすがにもう、これ以上派手にはなりませんって!」
ランスロット様の言葉を聞いて、仕立て屋も苦笑している。
しかし、ランスロット様本人は真面目な表情のままだ。
「だが、お前は派手な物が好きだろう。白一色は地味じゃないのか」
「結婚式だけは、真っ白がいいんです!」
領地に戻ってすぐ、ランスロット様は結婚式の準備を始めてくれた。
結婚式を開催するのはサリヴァン伯領で、野外に結婚式用のスペースを設けて開催するらしい。
まあ、現代日本的に言えば、ガーデンウェディングっていうやつよね。
外で結婚式を開催することで、領民たちにも式の様子を見せることができる。
そして式が終了した後、屋敷に招待客を招き、改めてパーティーを開催する予定だ。
「なら、せめて派手な装飾品を用意するか」
ランスロット様が顎に手を当て、真剣な様子で考え始めた。
「せっかくの結婚式だ。最高のものにしたいからな」
「私はもう、ランスロット様が一緒なら、それだけで最高の気分ですけどね」
ランスロット様は照れたのか、両手で口元を隠した。
◆
「ヴァレンティンさん、すいません、全然手伝えなくて」
厨房に入ると、ヴァレンティンさんが笑顔で首を横に振った。
もうすぐ夕飯の支度が終わるのか、とてもいい匂いがする。
「いえいえ、アリスさんは今とてもお忙しいでしょうし。
それに、奥方様に手伝っていただくなんてできませんよ」
「奥方様だなんて! もう、ヴァレンティンさんったら、もっと言ってくださいね」
私が笑いかけると、ヴァレンティンさんも楽しそうに笑ってくれた。
ここ最近は結婚式の準備でバタバタしていて、メイドとしての仕事はほとんどできていない。
そのため、仕事はヴァレンティンさんにまかせっきりだ。
申し訳ないとは思ってるんだけど……。
もうメイドとしての仕事をする必要はないとランスロット様から言われている。
正直私は仕事が好きじゃないから、そう言われた時は嬉しかった。
でも、代わりの使用人がここへくるのは嫌なんだよね。
私とランスロット様とヴァレンティンさん。
三人でのこじんまりとした生活が、私はやっぱり好きなのだ。
ヴァレンティンさんも年をとるし、私もどんどん伯爵夫人として忙しくなるだろうから、いずれは誰かを迎え入れないといけないのかもしれない。
けれどまだしばらくは、このまま三人で暮らしていたい。
「結婚式の料理も、私に任せていただいて、ありがとうございます」
「こちらこそ、引き受けてくれてありがとうございます」
さすがに、招待客全員の料理をヴァレンティンさんが作ることはできない。
だが、メニューを決め、王都から呼び寄せた料理人たちの指揮をとるのはヴァレンティンさんの仕事だ。
「私が責任を持って、素敵な料理を作りますから」
ヴァレンティンさんほど信頼できる料理人なんていない。
きっと、招待客全員が満足する料理ができるはずだ。
◆
「そろそろ、招待客が確定しそうだな」
大量に届いた手紙を見ながら、ランスロット様が呟く。
一月ほど前、結婚式の招待状を送った。その返事が、もうほとんど届いているのだ。
ちなみに、真っ先に返事をくれたのはスカーレット様である。
「はい。思っていたより、かなり多くなりそうですね」
「ああ、屋敷には入りきらないから、一部を除いて宿をとってもらうことになるな」
サリヴァン伯爵家の屋敷は、貴族の屋敷にしてはかなり小さい。
ここに泊まれる客はほとんどいないだろう。
「まさか、国王陛下まで参列なさるとは」
「まあ、一応、ランスロット様の父親ということになっていますから」
実際は本当に父親なんだけどね。
国王陛下とスカーレット様は、旅行の一環という建前で私たちの結婚式に参加するそうだ。
「だが、数カ月前まで、こんなことは想像もしていなかった。辺境に追いやった庶子の結婚式に、陛下が自らやってくるなんてな」
「実際は、スカーレット様同様、陛下もランスロット様のことを気にしていらっしゃるんですよ」
スカーレット様は、ランスロット様が社交界に顔を出したことをきっかけに、ランスロット様に接触をはかるようになった。
きっと、ずっとタイミングを窺っていたのだろう。
スカーレット様が望めば、強引にでもランスロット様と会うことができたはず。
それをしなかったのは、やっぱりスカーレット様が、ランスロット様を大切に思っているからだわ。
「そうみたいだな。まあ、陛下からしたら甥だから、気にかけてくださるのかもしれない」
ランスロット様は、陛下が父親だということを知らない。
真実を知れば、陛下をどんな風に思うのだろう。
なんて、考えてみるだけ。本人に伝えない方がいいことくらい、ちゃんと分かってるもん。
「アリス。結婚式は楽しみか?」
「当たり前じゃないですか!」
結婚式といえば、女の子の憧れだ。
しかも大好きなランスロット様の妻になれるのだから、これほど嬉しいことはない。
「ランスロット様はどうなんです?」
「俺も楽しみだ。その後のことも含めて、な」
からかうような笑みを浮かべ、ランスロット様は私の頭を撫でた。
結婚式のその後、つまり初夜のことである。
婚約者とはいえ、私たちはまだ結婚していない。だから、まだ寝室は別だ。
そして式が終われば、私はランスロット様と同じ寝室で眠ることになる。
つまり、まあ、そういうことよね。
「今から、可愛いお前を見るのが楽しみだ」
「ちょっと、私は常に可愛いですけど!」
抗議するように頬を膨らませる。ランスロット様は笑って、私の頬をつついた。
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