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第52話 メイド、プチ家出をする
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なぜか、いつもよりやたらと早く目が覚めた。
二度寝をする気にもなれず、ベッドを下りて窓の外を眺める。
まだ外は薄暗い。でも、ほんの少しだけ太陽が顔を覗かせている。
きっとランスロット様なら、この景色も美しく描くに違いない。
「……どうしよう」
仕事を始めるには早い。おそらく、まだヴァレンティンさんだって起きていないだろう。
「散歩でもしようかな」
普段なら、こんな早朝に外へ行こうなんて思わない。
でも今日は、いつもと違うことがしたい。
クローゼットを開ける。ランスロット様が服をプレゼントしてくれたおかげで、かなり充実した。
そんなクローゼットの中から、私はぼろい麻のワンピースを取り出した。
アリスの実家から持ってきたものだ。
「これ一枚じゃ、きっと寒いわよね」
クローゼットの中には、温かい外套も入っている。寒くなってきたからと、ランスロット様がくれたものだ。
これを羽織れば、この時間に外へ出ても大丈夫だろう。
「……でも、なんか、そんな気分じゃないな」
ランスロット様からもらった物に身を包んで、楽しく散歩できるような気分じゃない。
結局私は、寒いと分かっていながら、麻のワンピース一枚で外へ出ることにした。
◆
「あり得ないくらい寒いんだけどっ……!?」
風が吹くたびに、こんな格好で家を出てきたことを後悔しそうになる。
というかそもそも、散歩なんてせず、温かいベッドで二度寝を楽しめばよかったのだ。
でも、今さら屋敷へ帰る気にはなれない。
気づくと私は、サイモンさんと初めて出会った木陰にきていた。
「あの時は、ランスロット様が迎えにきてくれたのよね」
木に背を預けて座り、ぎゅっと膝を抱え込む。
寂しくて、涙が出てきそうだ。
こんなところにくるなんて、結局、ランスロット様に気づいてほしいだけなのかもしれない。
傷ついていることに気づいてほしくて、甘い言葉で助けてほしいだけなのかもしれない。
面倒くさい上に、狡い女だと自分でも思う。
でも、どうしようもない。
「……少ししたら、帰ろ」
仕事が始まる前に、ちゃんと屋敷へ戻ろう。
そして、いつも通り笑顔で仕事をする。
だから今だけは、悲しみに浸ることを許してほしい。
溜息を吐いて、私は膝に顔をうずめた。
◆
「あの、あの……っ!」
肩を揺さぶられ、慌てて顔を上げる。
どうやら、私はいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「アリスさん、大丈夫ですか!?」
「サイモンさん……?」
「こんな時間にこんなところで寝てるなんて、なにがあったんですか?」
言いながら、サイモンさんは自分が着ていた外套を脱いで、そっと私の肩にかけてくれた。
「それと、またここで会いましたね」
サイモンさんが私の隣に腰を下ろす。
なんとなく顔を見ることができなくて、私は俯いたまま頷いた。
「領主様じゃなくて、がっかりしましたか?」
「えっ?」
予想外の言葉に顔を上げると、サイモンさんに笑われてしまった。
「領主様に迎えにきてほしいから、ここにきたんでしょう?
僕としては、僕に会いたかったから……だと嬉しいんですけどね」
冗談っぽくサイモンさんは言ったが、眼差しは真剣だ。
だからこそ、なにも言えなくなってしまう。
もし、私がサイモンさんを好きになれば、きっと悩むことなんてなかったわよね。
サイモンさんは次期村長ではあるけど、私と同じ平民なわけだし。
そんなことを考え、考えてしまった自分に嫌気がさす。
サイモンさんは本当に私のことが好きなのに、こんなことを考えてしまうなんて失礼だわ。
「また、領主様に怒られちゃいました? それとも、喧嘩したとか?」
「……どっちでもないんです。私がただ、いろいろ考えちゃってるだけで」
見合いをする、とランスロット様から直接言われたわけじゃない。
聞くのが怖い私が、一人でうじうじと悩んでいるだけだ。
「思ってること、全部言っちゃえばいいのに」
「え?」
「正直、アリスさんがそんなに遠慮するなんて、意外ですよ」
「意外って……私、どういう風に見えてるんですか?」
こんな時ですら、わざとらしく頬を膨らませてしまう。
体に染みついた癖みたいなものだ。
私だって、いろいろ考えたりするんだから。
明るくて可愛いだけじゃないの。そのキャラだって、いろいろ考えた上で作ったんだもん。
まあ、ランスロット様は、遠慮しなくていい、って言ってくれたけど。
「すいません。でも、領主様だってきっと、アリスさんに遠慮してほしいなんて思ってませんよ」
「それは……そうかもしれません、けど」
「だって領主様は、店にアリスさんのあだ名をつけるほど、アリスさんを大事にしてるんでしょう?」
サイモンさんの言う通りだ。
ランスロット様は私を大事にしてくれている。それだけじゃなくて、きっと私のことが好きだと思う。
分かっている。分かっているけれど、ランスロット様のことを考えると悩んでしまうのだ。
私が正直になることが、ランスロット様にとってもいいことなのかな。
「ほら、アリスさん」
サイモンさんが、私の肩をとんとん、と軽く叩いた。
「アリスさんが大事だから、領主様が迎えにきたんじゃないですか?」
慌てて後ろを向く。
「アリス!」
そう叫んで、ランスロット様が駆け寄ってくれた。
二度寝をする気にもなれず、ベッドを下りて窓の外を眺める。
まだ外は薄暗い。でも、ほんの少しだけ太陽が顔を覗かせている。
きっとランスロット様なら、この景色も美しく描くに違いない。
「……どうしよう」
仕事を始めるには早い。おそらく、まだヴァレンティンさんだって起きていないだろう。
「散歩でもしようかな」
普段なら、こんな早朝に外へ行こうなんて思わない。
でも今日は、いつもと違うことがしたい。
クローゼットを開ける。ランスロット様が服をプレゼントしてくれたおかげで、かなり充実した。
そんなクローゼットの中から、私はぼろい麻のワンピースを取り出した。
アリスの実家から持ってきたものだ。
「これ一枚じゃ、きっと寒いわよね」
クローゼットの中には、温かい外套も入っている。寒くなってきたからと、ランスロット様がくれたものだ。
これを羽織れば、この時間に外へ出ても大丈夫だろう。
「……でも、なんか、そんな気分じゃないな」
ランスロット様からもらった物に身を包んで、楽しく散歩できるような気分じゃない。
結局私は、寒いと分かっていながら、麻のワンピース一枚で外へ出ることにした。
◆
「あり得ないくらい寒いんだけどっ……!?」
風が吹くたびに、こんな格好で家を出てきたことを後悔しそうになる。
というかそもそも、散歩なんてせず、温かいベッドで二度寝を楽しめばよかったのだ。
でも、今さら屋敷へ帰る気にはなれない。
気づくと私は、サイモンさんと初めて出会った木陰にきていた。
「あの時は、ランスロット様が迎えにきてくれたのよね」
木に背を預けて座り、ぎゅっと膝を抱え込む。
寂しくて、涙が出てきそうだ。
こんなところにくるなんて、結局、ランスロット様に気づいてほしいだけなのかもしれない。
傷ついていることに気づいてほしくて、甘い言葉で助けてほしいだけなのかもしれない。
面倒くさい上に、狡い女だと自分でも思う。
でも、どうしようもない。
「……少ししたら、帰ろ」
仕事が始まる前に、ちゃんと屋敷へ戻ろう。
そして、いつも通り笑顔で仕事をする。
だから今だけは、悲しみに浸ることを許してほしい。
溜息を吐いて、私は膝に顔をうずめた。
◆
「あの、あの……っ!」
肩を揺さぶられ、慌てて顔を上げる。
どうやら、私はいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「アリスさん、大丈夫ですか!?」
「サイモンさん……?」
「こんな時間にこんなところで寝てるなんて、なにがあったんですか?」
言いながら、サイモンさんは自分が着ていた外套を脱いで、そっと私の肩にかけてくれた。
「それと、またここで会いましたね」
サイモンさんが私の隣に腰を下ろす。
なんとなく顔を見ることができなくて、私は俯いたまま頷いた。
「領主様じゃなくて、がっかりしましたか?」
「えっ?」
予想外の言葉に顔を上げると、サイモンさんに笑われてしまった。
「領主様に迎えにきてほしいから、ここにきたんでしょう?
僕としては、僕に会いたかったから……だと嬉しいんですけどね」
冗談っぽくサイモンさんは言ったが、眼差しは真剣だ。
だからこそ、なにも言えなくなってしまう。
もし、私がサイモンさんを好きになれば、きっと悩むことなんてなかったわよね。
サイモンさんは次期村長ではあるけど、私と同じ平民なわけだし。
そんなことを考え、考えてしまった自分に嫌気がさす。
サイモンさんは本当に私のことが好きなのに、こんなことを考えてしまうなんて失礼だわ。
「また、領主様に怒られちゃいました? それとも、喧嘩したとか?」
「……どっちでもないんです。私がただ、いろいろ考えちゃってるだけで」
見合いをする、とランスロット様から直接言われたわけじゃない。
聞くのが怖い私が、一人でうじうじと悩んでいるだけだ。
「思ってること、全部言っちゃえばいいのに」
「え?」
「正直、アリスさんがそんなに遠慮するなんて、意外ですよ」
「意外って……私、どういう風に見えてるんですか?」
こんな時ですら、わざとらしく頬を膨らませてしまう。
体に染みついた癖みたいなものだ。
私だって、いろいろ考えたりするんだから。
明るくて可愛いだけじゃないの。そのキャラだって、いろいろ考えた上で作ったんだもん。
まあ、ランスロット様は、遠慮しなくていい、って言ってくれたけど。
「すいません。でも、領主様だってきっと、アリスさんに遠慮してほしいなんて思ってませんよ」
「それは……そうかもしれません、けど」
「だって領主様は、店にアリスさんのあだ名をつけるほど、アリスさんを大事にしてるんでしょう?」
サイモンさんの言う通りだ。
ランスロット様は私を大事にしてくれている。それだけじゃなくて、きっと私のことが好きだと思う。
分かっている。分かっているけれど、ランスロット様のことを考えると悩んでしまうのだ。
私が正直になることが、ランスロット様にとってもいいことなのかな。
「ほら、アリスさん」
サイモンさんが、私の肩をとんとん、と軽く叩いた。
「アリスさんが大事だから、領主様が迎えにきたんじゃないですか?」
慌てて後ろを向く。
「アリス!」
そう叫んで、ランスロット様が駆け寄ってくれた。
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