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第44話 メイド、ご主人様の今後に思いを馳せる
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少し休んでいくといい、というランスロット様の誘いを丁寧に断り、アルバートさんは早々に領地へ戻っていった。
一刻も早く、主人に予約がとれたことを報告したいそうだ。
そして、予約日は四日後。平日である。
「ランスロット様、予約が入って本当によかったですね」
アルバートさんと同時に、サイモンさんもヴァレンティンさんを連れて去っていった。
開店に向けて、いろいろと料理の準備をしたいそうだ。
「ああ。これで、ようやく店を開けるな」
「はい。それに、エヴァンズ男爵っていうのは、よい方なんですよね?」
アルバートさんの前だから、というのもあるだろうけれど、先程ランスロット様はかなりエヴァンズ男爵のことを褒めていた。
正直、ランスロット様が他人をあんな風に褒めるなんて、めちゃくちゃ意外だったわ。
「そうだな、悪い噂は聞いたことがない。
音楽、美術……ありとあらゆる芸術を愛し、支援しているそうだ。
そのせいか顔も広いし、エヴァンズ男爵の支援を受けた芸術家は、社交界ではかなり歓迎されるらしい」
「じゃあ、かなり影響力がある人なんですよね?」
そんな人がもしエリーを気に入ってくれたら、エリーは大繁盛間違いなしだ。
しかも、ランスロット様が画家として認められる可能性だってある。
「絶対、大満足してもらいましょう!」
「ああ。……正直、下心もあって、アルバートの前で男爵をやたらと褒めたんだ」
ランスロット様は溜息を吐くと、慣れないことをした、と苦笑する。
ちょっとくたびれた笑顔も、色気があって素敵……じゃなくて!
らしくないことをしてでも、レストラン経営を成功させようとしてくれたのよね。
「それに、エヴァンズ男爵なら安心だ」
「安心って?」
「俺と関わり合いたくない貴族も多いだろうからな。国王の庶子なんて厄介だろう。
だが、エヴァンズ男爵は身分関係なく気に入った相手であれば交流するような人だ。
俺を理由に店が嫌いになるようなこともないだろう。
まあ、実際には、俺は国王の子ではないが」
自嘲気味に笑うランスロット様はとてもセクシーだけれど、この表情はあまり好きじゃない。
笑うことで、痛みに気づかないふりをしているみたいだから。
「ランスロット様と直接会えば、みんな気持ちが変わりますよ。
だって、ランスロット様はこんなに素敵な方なんですから!」
ランスロット様に本当の笑みを浮かべてほしくて、笑顔でそう言う。
私にできるのは、こうしてランスロット様に笑いかけることだけだ。
「そんな風に言ってくれるのは、お前だけだ」
「きっと違いますし、もし私だけだとしたら、不満なんですか?」
わざとらしく頬を膨らませ、拗ねた顔をしてみせる。
するとランスロット様は楽しそうに笑って、そんなことはない、と首を横に振った。
ランスロット様が笑ってくれるなら、私、いくらでもあざといことをしてみせるわ。
それが、私の一番の武器なんだもん。
「エヴァンズ男爵がくるなら、俺も挨拶しないとな。
アリス、当日は給仕係をやってくれるか?」
エリーの給仕係は、サイモンさんの友人たちに依頼してある。
しかし初めての客が貴族というのは、さすがに荷が重いだろう。
それに比べて私は領主様のメイド。
貴族の相手をするのには慣れている。
それに私には、どり~みんかふぇで培った接客スキルだってあるのだ。
「ええ、任せてください。絶対、エヴァンズ男爵を夢中にさせてみせます!」
「……アリス」
ランスロット様は怖い顔で私の両肩を掴んだ。
「店員として、丁寧に接客するだけでいい。分かったな?」
「目が怖いですよ、ご主人様」
「分かったら返事」
「……はーい」
要するに、私を好きにさせて店に通ってもらおう、って作戦はだめってことよね。
本領発揮できないのはちょっと残念だけど、頑張るしかない。
◆
「それにしても、芸術好きの男爵様か……」
ベッドに寝そべって、エヴァンズ男爵のことを考える。
顔も知らない相手のことを、こんなに考えるのは初めてかもしれない。
どんな人なんだろう。アルバートさんを見る限り、使用人にも好かれる優しい人よね。
芸術家への支援もしていると言っていたし、若い才能が好きなのかな。
「ランスロット様のこと、きっと気に入るだろうな」
私は絵画のことなんて分からないけれど、ランスロット様の絵は必ず評価されるはず。
それに加えて、ランスロット様は芸術家にしてはまだ若いだろう。
才能を見出したいタイプの人にとって、ランスロット様はかなり魅力的に違いない。
もしランスロット様がエヴァンズ男爵に気に入られたら、どうなるのだろう。
画家として賞賛されるだけではなく、社交界にも誘われるようになるのだろうか。
元々、ランスロット様は伯爵なのだ。そうなったとしても、何もおかしくない。
でもなんか、ちょっと寂しいかも。
ランスロット様には画家として有名になってほしい。
社交界に居場所ができるのも、ランスロット様にとっていいことだと思う。
だけど私はこの屋敷で、ランスロット様とヴァレンティンさんと、三人で暮らす今の日常が大好きなのだ。
日常が変わってしまうのは、怖い。
あー、もう、考えたって意味ないのに!
ぎゅっと目を閉じて、布団を頭の上までかぶった。
とりあえず寝よう。朝になればまた、ランスロット様の笑顔を見られるのだから。
一刻も早く、主人に予約がとれたことを報告したいそうだ。
そして、予約日は四日後。平日である。
「ランスロット様、予約が入って本当によかったですね」
アルバートさんと同時に、サイモンさんもヴァレンティンさんを連れて去っていった。
開店に向けて、いろいろと料理の準備をしたいそうだ。
「ああ。これで、ようやく店を開けるな」
「はい。それに、エヴァンズ男爵っていうのは、よい方なんですよね?」
アルバートさんの前だから、というのもあるだろうけれど、先程ランスロット様はかなりエヴァンズ男爵のことを褒めていた。
正直、ランスロット様が他人をあんな風に褒めるなんて、めちゃくちゃ意外だったわ。
「そうだな、悪い噂は聞いたことがない。
音楽、美術……ありとあらゆる芸術を愛し、支援しているそうだ。
そのせいか顔も広いし、エヴァンズ男爵の支援を受けた芸術家は、社交界ではかなり歓迎されるらしい」
「じゃあ、かなり影響力がある人なんですよね?」
そんな人がもしエリーを気に入ってくれたら、エリーは大繁盛間違いなしだ。
しかも、ランスロット様が画家として認められる可能性だってある。
「絶対、大満足してもらいましょう!」
「ああ。……正直、下心もあって、アルバートの前で男爵をやたらと褒めたんだ」
ランスロット様は溜息を吐くと、慣れないことをした、と苦笑する。
ちょっとくたびれた笑顔も、色気があって素敵……じゃなくて!
らしくないことをしてでも、レストラン経営を成功させようとしてくれたのよね。
「それに、エヴァンズ男爵なら安心だ」
「安心って?」
「俺と関わり合いたくない貴族も多いだろうからな。国王の庶子なんて厄介だろう。
だが、エヴァンズ男爵は身分関係なく気に入った相手であれば交流するような人だ。
俺を理由に店が嫌いになるようなこともないだろう。
まあ、実際には、俺は国王の子ではないが」
自嘲気味に笑うランスロット様はとてもセクシーだけれど、この表情はあまり好きじゃない。
笑うことで、痛みに気づかないふりをしているみたいだから。
「ランスロット様と直接会えば、みんな気持ちが変わりますよ。
だって、ランスロット様はこんなに素敵な方なんですから!」
ランスロット様に本当の笑みを浮かべてほしくて、笑顔でそう言う。
私にできるのは、こうしてランスロット様に笑いかけることだけだ。
「そんな風に言ってくれるのは、お前だけだ」
「きっと違いますし、もし私だけだとしたら、不満なんですか?」
わざとらしく頬を膨らませ、拗ねた顔をしてみせる。
するとランスロット様は楽しそうに笑って、そんなことはない、と首を横に振った。
ランスロット様が笑ってくれるなら、私、いくらでもあざといことをしてみせるわ。
それが、私の一番の武器なんだもん。
「エヴァンズ男爵がくるなら、俺も挨拶しないとな。
アリス、当日は給仕係をやってくれるか?」
エリーの給仕係は、サイモンさんの友人たちに依頼してある。
しかし初めての客が貴族というのは、さすがに荷が重いだろう。
それに比べて私は領主様のメイド。
貴族の相手をするのには慣れている。
それに私には、どり~みんかふぇで培った接客スキルだってあるのだ。
「ええ、任せてください。絶対、エヴァンズ男爵を夢中にさせてみせます!」
「……アリス」
ランスロット様は怖い顔で私の両肩を掴んだ。
「店員として、丁寧に接客するだけでいい。分かったな?」
「目が怖いですよ、ご主人様」
「分かったら返事」
「……はーい」
要するに、私を好きにさせて店に通ってもらおう、って作戦はだめってことよね。
本領発揮できないのはちょっと残念だけど、頑張るしかない。
◆
「それにしても、芸術好きの男爵様か……」
ベッドに寝そべって、エヴァンズ男爵のことを考える。
顔も知らない相手のことを、こんなに考えるのは初めてかもしれない。
どんな人なんだろう。アルバートさんを見る限り、使用人にも好かれる優しい人よね。
芸術家への支援もしていると言っていたし、若い才能が好きなのかな。
「ランスロット様のこと、きっと気に入るだろうな」
私は絵画のことなんて分からないけれど、ランスロット様の絵は必ず評価されるはず。
それに加えて、ランスロット様は芸術家にしてはまだ若いだろう。
才能を見出したいタイプの人にとって、ランスロット様はかなり魅力的に違いない。
もしランスロット様がエヴァンズ男爵に気に入られたら、どうなるのだろう。
画家として賞賛されるだけではなく、社交界にも誘われるようになるのだろうか。
元々、ランスロット様は伯爵なのだ。そうなったとしても、何もおかしくない。
でもなんか、ちょっと寂しいかも。
ランスロット様には画家として有名になってほしい。
社交界に居場所ができるのも、ランスロット様にとっていいことだと思う。
だけど私はこの屋敷で、ランスロット様とヴァレンティンさんと、三人で暮らす今の日常が大好きなのだ。
日常が変わってしまうのは、怖い。
あー、もう、考えたって意味ないのに!
ぎゅっと目を閉じて、布団を頭の上までかぶった。
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