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第41話 メイド、ご主人様の変化を感じる
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「アリス」
厨房で皿洗いをしていると、ランスロット様に声をかけられた。
「どうかしましたか?」
「先程、領民がやってきたんだが」
「あ、私、気づかなくてすいません!」
皿を洗うのに夢中になっていて、玄関の扉をノックされたことに気づかなかった。
ご主人様に客人対応をさせてしまうなんて、メイドとしてはかなりのミスだ。
「いや、いい。サイモンだったからな」
それ、サイモンさんとは話してほしくない、ってことよね。
本当に嫉妬深くて可愛いご主人様だ。
「空き家の掃除が終わったそうだ」
「え! もうですか?」
レストランとして使用するため、空き家の掃除を始めたのは一週間ほど前である。
ランスロット様が給料を用意したことで村の若者が集まったとは聞いていたが、あまりにも早い。
みんな、早くレストランをオープンさせたいのね。
「まあ、まだいろいろとやることはあるが……行ってみるか?」
「いいんですか!?」
「ああ。そのつもりで誘いにきた。ヴァレンティンはもう準備できてるぞ」
ランスロット様の背後から、ひょこ、とヴァレンティンさんが顔を出した。
「行きましょう、アリスさん」
ヴァレンティンさんの瞳はきらきらと輝いていて、今にも屋敷を飛び出していきそうだ。
こんなにわくわくしているヴァレンティンさんなんて、初めて見たわ。
ヴァレンティンさんはサイモンさんと共に、レストランで料理を担当することになっている。
要するにこのレストランは、ヴァレンティンさんの店でもあるのだ。
わくわくするな、という方が無理だろう。
「はい!」
気づいたら、私も思いっきり笑っていた。
もちろん、わざと作った笑顔なんかじゃない。楽しくてしょうがないっていう、本気の笑顔だ。
◆
「ここだ」
ランスロット様が足を止めたのは、古い一軒家の前だった。
こじんまりとした平屋である。しかし外装に関しても掃除が行き届いている。古いものの、みすぼらしい印象はない。
なんていうか、趣がある……って感じだわ!
ランスロット様が扉をノックする。すると、中にいたサイモンさんが扉を開けてくれた。
彼の後ろには、見慣れない村の若者たちがいる。
「領主様! まさか、こんなにすぐきていただけるとは」
それなら案内すればよかったですね、とサイモンさんが苦笑する。
確かに彼の知らせを受けてすぐきたのだから、彼もここへ戻ってきたばかりだろう。
ランスロット様がすぐに行くって言わなかったの、絶対わざとよね?
少しでも私とサイモンさんの話す機会を減らしたかったに違いない。ランスロット様はそういう人だ。
「わ、領主様、初めまして……!」
「こんなに近くで領主様を見たの、初めてだ……!」
サイモンさんの背後にいた青年たちはみんな、ランスロット様を凝視している。
無礼ともとれる行為だが、悪意がないことは明らかだ。
「お前たちが、この家を片付けてくれたんだな」
ランスロット様に声をかけられ、青年たちは姿勢を正した。
「礼を言う。ありがとう」
ランスロット様の微笑みに、青年たちは感嘆の息を漏らした。
見たこともなかった領主様が、まさか自分たちに礼を言うなんて、と驚いているに違いない。
そうよ。ランスロット様って、とっても素敵な方なの。
なんだか、私が誇らしくなってしまう。
「中を見てもいいか?」
「ぜひ! いくらでも!」
青年たちに案内され、ランスロット様が屋敷の中を進む。
「領主様が気に入ってくれて、よかったです」
そっと私の耳元で囁いたのはサイモンさんだ。
立ち止まると、爽やかな笑顔を向けられる。
格好いい。……だけど、ランスロット様の視線が痛いわ。
いつの間にかこちらを向いていたランスロット様が、アリス、と私の名前を呼ぶ。
はーい、と返事をして、私はランスロット様の隣に並んだ。
◆
レストランとして使うことを想定しているのは、一番大きな部屋だ。
といっても一般的な家庭の居間サイズで、それほど大きいわけじゃない。
「たぶん、多くても客の数は8名程度かと」
サイモンさんの言葉にランスロット様も頷く。
今は何も物がないためもう少し入りそうに見えるが、テーブルや椅子を置くことを考えればそんなものだろう。
室内もきちんと掃除されており、あとは家具を置けばなんとかなりそうだ。
「サイモンさん、厨房も確認したいのですが」
ヴァレンティンさんがそう言うと、サイモンさんは慌ててヴァレンティンさんの前へ行った。
「そうですよね! こっちです。その、やはりあまり広くはないんですが、極力物を減らしたことで……」
サイモンさんは説明しながら、ヴァレンティンさんを連れて廊下に消えた。
居間に残されたのは私とランスロット様と、掃除を手伝ってくれた青年たちである。
「あ、あの、ここに、領主様の絵も飾るんですよね?」
年長者に見える青年が口を開いた。
ああ、とランスロット様が頷く。
「食事中も絵が目に入りやすいように、目線と同じ高さに飾るのはどうか、という意見が出たんです。
ですから、高さのある椅子とテーブルにしてはどうかと……」
この人たちは、給料が出るから、とただ掃除をしてくれただけじゃない。
空き家を片付けながら、どうすればここが素敵なレストランになるのかを考えてくれていたのだ。
ありがたいことだわ、本当に。
「なるほど。確かに、食事中も目に入る方がいいな」
ランスロット様が頷くと、青年たちは瞳を輝かせた。
彼らにとって、ランスロット様はちゃんとした領主様なのだ。
お飾りの主、なんて言っていたのが、遠い昔のことみたいだわ。
「ご主人様。きっと、素敵なお店になりますね」
「ああ。素敵な店にするんだ」
そう言いきったランスロット様の声は力強い。
生気に満ちた表情が、出会った頃のランスロット様とは別人みたいだ。
きっとこれからも、ランスロット様は日々変わっていくんだろう。
ずっと傍で変化を見ていたい。だって私は、ランスロット様が大好きだから。
厨房で皿洗いをしていると、ランスロット様に声をかけられた。
「どうかしましたか?」
「先程、領民がやってきたんだが」
「あ、私、気づかなくてすいません!」
皿を洗うのに夢中になっていて、玄関の扉をノックされたことに気づかなかった。
ご主人様に客人対応をさせてしまうなんて、メイドとしてはかなりのミスだ。
「いや、いい。サイモンだったからな」
それ、サイモンさんとは話してほしくない、ってことよね。
本当に嫉妬深くて可愛いご主人様だ。
「空き家の掃除が終わったそうだ」
「え! もうですか?」
レストランとして使用するため、空き家の掃除を始めたのは一週間ほど前である。
ランスロット様が給料を用意したことで村の若者が集まったとは聞いていたが、あまりにも早い。
みんな、早くレストランをオープンさせたいのね。
「まあ、まだいろいろとやることはあるが……行ってみるか?」
「いいんですか!?」
「ああ。そのつもりで誘いにきた。ヴァレンティンはもう準備できてるぞ」
ランスロット様の背後から、ひょこ、とヴァレンティンさんが顔を出した。
「行きましょう、アリスさん」
ヴァレンティンさんの瞳はきらきらと輝いていて、今にも屋敷を飛び出していきそうだ。
こんなにわくわくしているヴァレンティンさんなんて、初めて見たわ。
ヴァレンティンさんはサイモンさんと共に、レストランで料理を担当することになっている。
要するにこのレストランは、ヴァレンティンさんの店でもあるのだ。
わくわくするな、という方が無理だろう。
「はい!」
気づいたら、私も思いっきり笑っていた。
もちろん、わざと作った笑顔なんかじゃない。楽しくてしょうがないっていう、本気の笑顔だ。
◆
「ここだ」
ランスロット様が足を止めたのは、古い一軒家の前だった。
こじんまりとした平屋である。しかし外装に関しても掃除が行き届いている。古いものの、みすぼらしい印象はない。
なんていうか、趣がある……って感じだわ!
ランスロット様が扉をノックする。すると、中にいたサイモンさんが扉を開けてくれた。
彼の後ろには、見慣れない村の若者たちがいる。
「領主様! まさか、こんなにすぐきていただけるとは」
それなら案内すればよかったですね、とサイモンさんが苦笑する。
確かに彼の知らせを受けてすぐきたのだから、彼もここへ戻ってきたばかりだろう。
ランスロット様がすぐに行くって言わなかったの、絶対わざとよね?
少しでも私とサイモンさんの話す機会を減らしたかったに違いない。ランスロット様はそういう人だ。
「わ、領主様、初めまして……!」
「こんなに近くで領主様を見たの、初めてだ……!」
サイモンさんの背後にいた青年たちはみんな、ランスロット様を凝視している。
無礼ともとれる行為だが、悪意がないことは明らかだ。
「お前たちが、この家を片付けてくれたんだな」
ランスロット様に声をかけられ、青年たちは姿勢を正した。
「礼を言う。ありがとう」
ランスロット様の微笑みに、青年たちは感嘆の息を漏らした。
見たこともなかった領主様が、まさか自分たちに礼を言うなんて、と驚いているに違いない。
そうよ。ランスロット様って、とっても素敵な方なの。
なんだか、私が誇らしくなってしまう。
「中を見てもいいか?」
「ぜひ! いくらでも!」
青年たちに案内され、ランスロット様が屋敷の中を進む。
「領主様が気に入ってくれて、よかったです」
そっと私の耳元で囁いたのはサイモンさんだ。
立ち止まると、爽やかな笑顔を向けられる。
格好いい。……だけど、ランスロット様の視線が痛いわ。
いつの間にかこちらを向いていたランスロット様が、アリス、と私の名前を呼ぶ。
はーい、と返事をして、私はランスロット様の隣に並んだ。
◆
レストランとして使うことを想定しているのは、一番大きな部屋だ。
といっても一般的な家庭の居間サイズで、それほど大きいわけじゃない。
「たぶん、多くても客の数は8名程度かと」
サイモンさんの言葉にランスロット様も頷く。
今は何も物がないためもう少し入りそうに見えるが、テーブルや椅子を置くことを考えればそんなものだろう。
室内もきちんと掃除されており、あとは家具を置けばなんとかなりそうだ。
「サイモンさん、厨房も確認したいのですが」
ヴァレンティンさんがそう言うと、サイモンさんは慌ててヴァレンティンさんの前へ行った。
「そうですよね! こっちです。その、やはりあまり広くはないんですが、極力物を減らしたことで……」
サイモンさんは説明しながら、ヴァレンティンさんを連れて廊下に消えた。
居間に残されたのは私とランスロット様と、掃除を手伝ってくれた青年たちである。
「あ、あの、ここに、領主様の絵も飾るんですよね?」
年長者に見える青年が口を開いた。
ああ、とランスロット様が頷く。
「食事中も絵が目に入りやすいように、目線と同じ高さに飾るのはどうか、という意見が出たんです。
ですから、高さのある椅子とテーブルにしてはどうかと……」
この人たちは、給料が出るから、とただ掃除をしてくれただけじゃない。
空き家を片付けながら、どうすればここが素敵なレストランになるのかを考えてくれていたのだ。
ありがたいことだわ、本当に。
「なるほど。確かに、食事中も目に入る方がいいな」
ランスロット様が頷くと、青年たちは瞳を輝かせた。
彼らにとって、ランスロット様はちゃんとした領主様なのだ。
お飾りの主、なんて言っていたのが、遠い昔のことみたいだわ。
「ご主人様。きっと、素敵なお店になりますね」
「ああ。素敵な店にするんだ」
そう言いきったランスロット様の声は力強い。
生気に満ちた表情が、出会った頃のランスロット様とは別人みたいだ。
きっとこれからも、ランスロット様は日々変わっていくんだろう。
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