偏屈な辺境伯爵のメイドに転生しましたが、前世が秋葉原ナンバーワンメイドなので問題ありません

八星 こはく

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第32話 メイド、領地の発展について考える

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「この村で店を開く……なんて、考えたこともありませんでした」

 呟いて、サイモンさんはグラスをテーブルに置いた。
 私を見る瞳はきらきらと輝いている。

「夢を捨てるか、この村を捨てるか、どちらかだと思っていましたから。
 アリスさんは、どうしてそんなこと思いついたんです?」
「え?」

 どうして、なんて言われても困る。
 店を開きたいし、この村が好きだからこの村にいたい。
 希望を両方叶えるためには、この村で店を開く以外の選択肢はないのに。

「まあ、自然と……」

 そう言うしかない。サイモンさんはいまいち納得していなそうだが、それでも笑顔で頷いてくれた。

「確かに、この村で店を開けたら、一番いいですよね」

 サイモンさんは何度も頷くと、ランスロット様に視線を向けた。

「領主様はどう思われますか?」

 もしかして、新しい店を開くためには領主の許可がいるのだろうか。

「反対はしない。だが、こんなところに客がくるのか?」

 ランスロット様の言葉に、サイモンさんを含めた全員の表情が暗くなる。

「アリスはどう思う?」

 しかしランスロット様だけはいつもと変わらない顔で私を見た。

「そうですね。いろんな考え方ができると思います。
 敵になるような飲食店がないから繁盛する、とも考えられますし、客が少ないから上手くいかない、とも考えられますよね」

 新宿や池袋などの繁華街ほど、頻繁に店が潰れ、新しい店ができていたのを覚えている。
 だからきっと、人が多ければ店が成功する、なんて単純な話ではないはずだ。

 まあ、客がいなかったらそもそも商売にはならないけど、田舎に人気のレストランがあったりしたしね。

「それに、もし人気のお店ができれば、きっと観光客でこの村も賑わいますよ」
「この村が、観光客でか?」
「はい」

 今、この村には何もない。
 交通の便も悪いし、わざわざ遠くからやってきてくれる観光客なんていない。

「ここだからこそ食べられる美味しい自然の味! なんて売り出せば、案外流行るかもしれませんよ?」
「……悪くない考えだな」

 ランスロット様が感心したような目で私を見てくる。
 なんだか、すごく気分がいい。

「そして、もし観光客が増えたら、宿を作っても儲かりますし、他のお店を作ってもいいですよね。
 それがさらに観光客増加に繋がったらもう、どんどんこの村は人気になりますよ!」

 さすがにちょっと言い過ぎかも。
 でも、可能性としてはあり得る話だと思う。

 なにかをきっかけにすごく人気になった観光地って、やっぱりあるもん。
 それに正直、観光客を集める以外で、この村が発展するとも思えないし。

「観光地としてこの村を発展させる、か。みんなはどう思う?」

 ランスロット様の問いかけに、一人、また一人と招待客が頷いていく。

「全員、賛成だそうだぞ」
「そう言われましても……」

 私は思いついたことをただ言っただけだ。
 それに、具体的にどうやって観光地として発展させていくのかは思いつかない。

 人気の店ができれば可能性はあると思うけど、どうすれば店が流行るかなんて、私にはさっぱりだ。

「共通の目的ができただけでも、今日のパーティーには意義があったな」

 ランスロット様がそう言って、グラスに残っていたワインを飲み干した。
 先日の反省からか、今日は招待客がいるからか、まだ一杯目だ。

「アリス、ワインをくれ」
「分かりました」

 いいんですか、と目だけで聞きながらワインをグラスにそそぐ。
 ああ、とランスロット様は頷いた。

「皆で乾杯しよう。素晴らしいことを思いついた、我がメイドに」

 我が、というところをやたらと強調し、ランスロット様が言う。
 招待客はかなり酔っているのか、おおー! なんて歓声を上げた。





「……大盛り上がりでしたね、今日のパーティーは」

 招待客が帰る頃には、外はすっかり暗くなっていた。
 そして、私はかなり疲れた。

 あれから酔っぱらった客たちにアリスちゃんアリスちゃんともてはやされ、その相手をしていたのである。
 おじさんの相手には慣れているが、疲れないわけじゃない。

「アリスのおかげだな」
「さすがに今日は否定しませんよ」
「お前はいつも否定しないだろう」

 そうでしたっけ? なんてとぼけた表情をしてみせれば、ランスロット様が優しく笑う。
 疲れがとれてしまいそうなほど、甘い笑顔だ。

「お前はいつも、俺にはない発想をするな」
「……そうでしょうか」

 それはきっと、私が転生しているからだ。
 今まで、みんなとは違う世界で生きてきたから。

「この村が有名になれば、俺を辺境送りにした連中は後悔するかもしれないな。
 それほどよい地なら、自分の物にすればよかったと」
「……ランスロット様は、その人たちを見返したいんですか?」

 私の問いかけに、ランスロット様はすぐには答えてくれなかった。
 もしかしたら、ランスロット様の中に明確な答えがあるわけではないのかもしれない。

 見返してやるって気持ちが原動力になるのなら、それはそれでいいと思う。
 だけど……。

「それより私と一緒に、大好きなここを、もっと素敵な場所にすることを考えましょうよ」
「アリス……」
「私だって、やれることは全力で頑張りますから!」

 ぎゅ、とランスロット様の手を握る。
 ランスロット様も、私の手を握り返してくれた。
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