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第26話 メイド、すっぴんを見られる
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「よし、今日はこれで終わり!」
掃除道具を片付け、部屋へ戻る。
さっさと眠ってしまいたいけれど、さすがに風呂には入らないといけない。
臭いなんて思われたら、溺愛への道が遠のくもの。
それに、仕事終わりにゆっくり風呂に入る時間は好きだ。
タオルと着替えを持って、私は浴室へ向かった。
◆
「遅かったな」
「……え?」
入浴を終えて部屋へ戻ると、私の部屋の前にランスロット様が立っていた。
遅い時間だから、当然寝巻姿である。
「ど、どうかしましたか?」
とっさに俯きながら問いかける。入浴を済ませたせいで、化粧が完全に落ちてしまっているのだ。
「どうして顔を隠す?」
ランスロット様がどんどん近づいてくる。
それでも私は顔を上げられない。
だって、すっぴん、見られたくないんだもん!
別にすっぴんとメイク後が別人ってわけじゃない。
今の私は若いから肌も綺麗だし、メイクをしてなくたって可愛い。
でもそれと、好きな人に見られてもいいかっていうのは別でしょ?
「前に話した通り、酒とつまみを持ってきたんだが」
「えっ!?」
思わず顔を上げると、にやっと笑ったランスロット様と目が合ってしまった。
ランスロット様の左手には高級そうなワインのボトルが、右手にはおそらくヴァレンティンさん特製のおつまみがのった皿がある。
「一緒に飲まないか?」
狡い。こんな風に誘われて、私が断れるはずないのに。
「……なんで、お風呂に入る前に言ってくれないんですか」
「酒を飲んだ後に入浴するのは危ないだろう」
正論である。そう言われてしまうと、私としては何も反論できない。
「素顔を見られるのがそんなに嫌だったのか?」
「ご主人様には、可愛い女の子の乙女心なんて分かりませんよ」
ぷく、とわざと頬を膨らませてみせる。
とっさにすっぴんを見られても可愛さを忘れないなんて、やっぱり私は可愛い。
「どんなものかと思ったが、たいして変わらないな」
「え?」
「わざわざ時間をかけて毎日する必要はないだろう」
ランスロット様は褒め言葉のつもりで言ってくれたのかもしれない。
だけど。
「本当、ご主人様って乙女心が分かってませんよ!」
確かに、毎日化粧をするのは面倒だ。メイクしなければその分長く眠っていられるのだから。
だけど、そういうわけにはいかないし、私はメイクが好きなのだ。
「たとえすっぴんでも可愛いとしても、より可愛くなりたいのが女の子なんです!」
今日は瞼にどんな色をのせてみようかな、とか。
いつもよりラメをのせてキラキラにしちゃおうかな、とか。
鏡を見ながら、どんな風に可愛くなるかを考えるだけでわくわくする。
もちろん毎日やっていれば面倒だとも思うけれど。
「お前は、なんでそんなに可愛くなりたいんだ?」
「そんなの、可愛いのが好きだからに決まってるじゃないですか!」
なぜか、ランスロット様が急に笑い出した。
理由が分からなくて戸惑っていると、お前はそういう奴だったな、とランスロット様が呟く。
「で、可愛いお前は酒を飲むのか、飲まないのか?」
「飲みます。私は可愛いものも、お酒も大好きなので」
お酒は本当に久しぶりだし、ランスロット様が用意してくれたワインは高級そうだ。
それに、ヴァレンティンさん特製のおつまみも気になる。
干し肉に味付けしてあるみたいだけど、ちょっと赤いから辛いのかも。
私、辛いのって結構好きなんだよね。
「こい」
「えっ? 居間で飲まないんですか?」
ランスロット様が階段を下りようとせず、ランスロット様の部屋に向かって歩き出したため、私は慌てて尋ねた。
「居間がいいのか?」
「えーっと、それは……」
部屋に二人きりになってお酒を飲むってどうなの?
しかも、もう夜だし。
もしなにか間違いが起きたら……いや、私としては別に困らないな。
っていうか、間違いじゃなくて正解だし、それ。
「いえ、ご主人様のお部屋で大丈夫です!」
「……さすがに警戒心がなさすぎるぞ」
自分から誘っておいて、ランスロット様は呆れたように溜息を吐いた。
面倒くさい人だな。居間がいいって言ってたら、それはそれで文句を言っていただろうに。
「ご主人様以外だったら、ちゃんと警戒しますけどね」
「……そうか」
ランスロット様はそう呟いて、口元を手で覆った。
とっさに上を向いて顔を隠したけれど、にやけていることくらい分かる。
今の感じが、ランスロット様に刺さるのね。
やっぱりこの人、だいぶ独占欲が強いタイプなんだ。
独占欲が強い男なんて、大歓迎だ。もちろん、好きになった相手以外なら厄介なことこの上ないけれど。
「じゃあご主人様の部屋、行きましょうか」
「……ああ」
「グラス、厨房から持ってきます?」
「もう部屋に用意してある」
そういえばランスロット様、私が風呂から戻ってくるのを部屋の前で待ってたのよね。
私のこと、どれくらい待ってたんだろう。
私とお酒を飲むのが楽しみで、そわそわしてたのかな。
あー、もう、本当に、ランスロット様は沼すぎる。
掃除道具を片付け、部屋へ戻る。
さっさと眠ってしまいたいけれど、さすがに風呂には入らないといけない。
臭いなんて思われたら、溺愛への道が遠のくもの。
それに、仕事終わりにゆっくり風呂に入る時間は好きだ。
タオルと着替えを持って、私は浴室へ向かった。
◆
「遅かったな」
「……え?」
入浴を終えて部屋へ戻ると、私の部屋の前にランスロット様が立っていた。
遅い時間だから、当然寝巻姿である。
「ど、どうかしましたか?」
とっさに俯きながら問いかける。入浴を済ませたせいで、化粧が完全に落ちてしまっているのだ。
「どうして顔を隠す?」
ランスロット様がどんどん近づいてくる。
それでも私は顔を上げられない。
だって、すっぴん、見られたくないんだもん!
別にすっぴんとメイク後が別人ってわけじゃない。
今の私は若いから肌も綺麗だし、メイクをしてなくたって可愛い。
でもそれと、好きな人に見られてもいいかっていうのは別でしょ?
「前に話した通り、酒とつまみを持ってきたんだが」
「えっ!?」
思わず顔を上げると、にやっと笑ったランスロット様と目が合ってしまった。
ランスロット様の左手には高級そうなワインのボトルが、右手にはおそらくヴァレンティンさん特製のおつまみがのった皿がある。
「一緒に飲まないか?」
狡い。こんな風に誘われて、私が断れるはずないのに。
「……なんで、お風呂に入る前に言ってくれないんですか」
「酒を飲んだ後に入浴するのは危ないだろう」
正論である。そう言われてしまうと、私としては何も反論できない。
「素顔を見られるのがそんなに嫌だったのか?」
「ご主人様には、可愛い女の子の乙女心なんて分かりませんよ」
ぷく、とわざと頬を膨らませてみせる。
とっさにすっぴんを見られても可愛さを忘れないなんて、やっぱり私は可愛い。
「どんなものかと思ったが、たいして変わらないな」
「え?」
「わざわざ時間をかけて毎日する必要はないだろう」
ランスロット様は褒め言葉のつもりで言ってくれたのかもしれない。
だけど。
「本当、ご主人様って乙女心が分かってませんよ!」
確かに、毎日化粧をするのは面倒だ。メイクしなければその分長く眠っていられるのだから。
だけど、そういうわけにはいかないし、私はメイクが好きなのだ。
「たとえすっぴんでも可愛いとしても、より可愛くなりたいのが女の子なんです!」
今日は瞼にどんな色をのせてみようかな、とか。
いつもよりラメをのせてキラキラにしちゃおうかな、とか。
鏡を見ながら、どんな風に可愛くなるかを考えるだけでわくわくする。
もちろん毎日やっていれば面倒だとも思うけれど。
「お前は、なんでそんなに可愛くなりたいんだ?」
「そんなの、可愛いのが好きだからに決まってるじゃないですか!」
なぜか、ランスロット様が急に笑い出した。
理由が分からなくて戸惑っていると、お前はそういう奴だったな、とランスロット様が呟く。
「で、可愛いお前は酒を飲むのか、飲まないのか?」
「飲みます。私は可愛いものも、お酒も大好きなので」
お酒は本当に久しぶりだし、ランスロット様が用意してくれたワインは高級そうだ。
それに、ヴァレンティンさん特製のおつまみも気になる。
干し肉に味付けしてあるみたいだけど、ちょっと赤いから辛いのかも。
私、辛いのって結構好きなんだよね。
「こい」
「えっ? 居間で飲まないんですか?」
ランスロット様が階段を下りようとせず、ランスロット様の部屋に向かって歩き出したため、私は慌てて尋ねた。
「居間がいいのか?」
「えーっと、それは……」
部屋に二人きりになってお酒を飲むってどうなの?
しかも、もう夜だし。
もしなにか間違いが起きたら……いや、私としては別に困らないな。
っていうか、間違いじゃなくて正解だし、それ。
「いえ、ご主人様のお部屋で大丈夫です!」
「……さすがに警戒心がなさすぎるぞ」
自分から誘っておいて、ランスロット様は呆れたように溜息を吐いた。
面倒くさい人だな。居間がいいって言ってたら、それはそれで文句を言っていただろうに。
「ご主人様以外だったら、ちゃんと警戒しますけどね」
「……そうか」
ランスロット様はそう呟いて、口元を手で覆った。
とっさに上を向いて顔を隠したけれど、にやけていることくらい分かる。
今の感じが、ランスロット様に刺さるのね。
やっぱりこの人、だいぶ独占欲が強いタイプなんだ。
独占欲が強い男なんて、大歓迎だ。もちろん、好きになった相手以外なら厄介なことこの上ないけれど。
「じゃあご主人様の部屋、行きましょうか」
「……ああ」
「グラス、厨房から持ってきます?」
「もう部屋に用意してある」
そういえばランスロット様、私が風呂から戻ってくるのを部屋の前で待ってたのよね。
私のこと、どれくらい待ってたんだろう。
私とお酒を飲むのが楽しみで、そわそわしてたのかな。
あー、もう、本当に、ランスロット様は沼すぎる。
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