偏屈な辺境伯爵のメイドに転生しましたが、前世が秋葉原ナンバーワンメイドなので問題ありません

八星 こはく

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第20話 メイド、招待客をお迎えする

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 いらっしゃいませ、いらっしゃいませ……と頭の中で何度も繰り返す。
 本当にもうすぐ、招待客たちがやってくるだろうから。

 ランスロット様は居間で待機中だ。

 先程、居間にランスロット様の絵を飾った。少し前に描き終えたばかりの風景画である。

 あれを見て、少しはお客さんもランスロット様に親近感を覚えてくれるといいんだけど。

 結局、今日の招待客は11人だ。村長であるマティスさんを中心に、主だった役人を招待したのである。

 そういえば、サイモンさんもくるのよね。
 ランスロット様はかなり嫌がってたけど。

 マティスの息子・サイモン。私が村で出会った爽やかイケメンである。

 サイモンさん自身も、役人としてちょっとした役についているという。
 ほとんど雑用係みたいなものらしいと、ヴァレンティンさんが教えてくれたけれど。

 ヴァレンティンさんは屋敷を出て買い物もするし、村の人との関りがそれなりにあるそうだ。

 コンコン、と玄関の扉がノックされた。
 どうやら、客がやってきたようだ。

 すう、と大きく息を吸い込み、気合を入れて扉を開ける。
 するとそこには、招待客がずらりと並んでいた。

「いらっしゃいませ、皆さん」

 笑顔でそう言いつつ、並んでいる人数を確認する。
 ちょうど11人いた。どうやら、事前に待ち合わせて全員でやってきたらしい。

 みんなでやってくるってことは、それほどここへくるハードルが高いってことよね。

 予想通り、領民とランスロット様の間にある心理的な壁は高そうだ。

「アリスさん」

 先頭に立っていたサイモンさんが私を見て嬉しそうに笑う。
 私も笑顔を返すと、照れくさそうな顔で頷いてくれた。

「皆さん、ご主人様がお待ちですよ。今日は楽しんでいってくださいね」

 私が元気いっぱいに笑うと、招待客の顔が一斉に緩んだ。
 役人を務めているという彼らは、サイモンさん以外の全員がおじさんなのである。

 おじさんの接客なんて、私の得意分野だ。

「あっ、申し遅れました。私はアリス。ランスロット様に仕えるメイドです。
 まだここにきたばかりなので、皆さんいろいろ教えてくださいね」

 11人、一人ひとりの目を順番に見ていく。
 一番奥に控えている黒髪の男がおそらくマティスさんだろう。
 息子同様整った顔立ちをしているが、爽やかな印象はない。やや気難しそうだ。
 そして、綺麗に整えられた髭が年相応の色気を醸し出している。

「そうだ。実は、こうしてお客様をお招きするのは初めてで……もし失敗しちゃったらごめんなさいっ! 一生懸命頑張るので!」

 両手で拳を作り、可愛らしさを前面に押し出す。

 うん。掴みはこれくらいでオッケーね。
 そろそろ居間へ案内しなきゃ。

「では皆さん、こちらへどうぞ」

 みんなはランスロット様に対して緊張しているはずだ。
 そしてランスロット様はみんなの緊張をすぐに解せるような、朗らかで明るいタイプではない。

 だからこそ私が明るい雰囲気を作って、パーティーを盛り上げないと。





「こちらへどうぞ」

 居間の扉を開くと、マティスさんから順に居間へ入っていった。
 私は最後に居間へ入り、そっと扉を閉める。

 いつもと違って長テーブルが設置されており、椅子も人数分置かれている。
 もちろん今日は、私とヴァレンティンさんは一緒に食事はしない。

 上座に座ったランスロット様はむすっとした表情をしている。
 緊張しているのだろうが、これでは不機嫌だと勘違いされても仕方がない。

「皆さんお好きな席へどうぞ」

 私がそう言うと、招待客は役職順に上座から座った。
 ランスロット様のすぐ近くに座ったマティスさんは、目を合わせないように視線をテーブルへ向けている。

 これ、もしかしてまずい?

 こういうのってたぶん、偉い立場の人……ランスロット様が積極的に話を振ってあげるものよね?
 伯爵様相手に、気軽に雑談できる人なんていないだろうし。
 でもランスロット様、絶対そういうのできないでしょ!

「アリス」
「はいっ!」

 思わずいつもより大きい声が出てしまった。
 そんな私を見て、ランスロット様が軽く笑う。

 その瞬間、居間の空気が柔らかくなった。
 招待客が驚いたような表情でランスロット様を見ると、ランスロット様は気まずそうに目を逸らす。

 そうよね。
 きっとこの人たちは、ランスロット様がメイド相手に笑うなんて思っていなかっただろうから。

 私とランスロット様の様子を見せることで、みんなが安心するかもしれないわ。

「食事を運んできてくれ」
「分かりました。ただいま!」





「アリスさん、坊ちゃんはどうですか?」

 厨房に入った瞬間、心配そうな顔をしたヴァレンティンさんに詰め寄られた。
 なんだか、顔色も悪い気がする。

「ちゃんと喋れてますか? 坊ちゃん、人見知りな上に緊張しやすいですから。ああ、もう、心配で心配で……」
「落ち着いてください、ヴァレンティンさん」

 厨房には、ヴァレンティンさんが用意してくれた料理がたくさん並んでいる。
 村で手に入らなかったものを除けば、材料はこの村で生産されたものだという。

 いつもはトレイで料理を運ぶが、人数が多い今日はワゴンを使う。

「じゃあとりあえずこれ、持っていきますね」
「お願いします。私はメインの仕上げをしておきますから」

 それにしても今日の料理って、いつも以上に美味しそう。
 パーティーが終われば、余った分をもらえることになっているから、それも楽しみだ。

 居間の扉を開けると、すぐにランスロット様と目が合った。
 そして、ランスロット様がほっとしたような表情になる。

 もしかして気まずいから、私がくるのを待ってたの?
 だからずっと、扉の方を見てたの?
 なんかもう、可愛すぎない?

「料理をお持ちしました!」

 皿を並べていると、ランスロット様が口を開いた。

「……今日の材料は、ほとんどこの村で作られたものだ。サラダに使われている野菜は、ほぼジャックの家で作られたものだな」

 そう言って、ランスロット様は端の方に座っていた小太りの男を見た。

「あ、ありがとうございます。うちの野菜を使ってくださるなんて……」
「お前の家の野菜は美味いと、いつも使用人が言っている」

 褒めるにしては、ぶっきらぼうな声と表情だ。
 でも、言葉に嘘がないことは分かる。

 ランスロット様も、精一杯みんなとコミュニケーションをとろうとしているのだ。

 私は心の中で、頑張れ! と大きく叫んだ。
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