偏屈な辺境伯爵のメイドに転生しましたが、前世が秋葉原ナンバーワンメイドなので問題ありません

八星 こはく

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第10話 メイド、完全武装する

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「よし、今日の私、超絶可愛い!」

 鏡を見て、満面の笑みを浮かべる。
 鏡に映る私は、最高に可愛い。

 ヴァレンティンさんが用意してくれた特製メイド服は予想通り私にぴったりだ。
 今まではピンクや水色を選びがちだったけれど、どうやら私は黄色も似合ってしまうらしい。

 そして今日の髪形は、耳の上のツインテール。

「25歳になって、そろそろきついかなって思ってたけど」

 今の私は、なにせ17歳なのだ。

 ツインテールの位置を調整し、毛先だけ縦巻きにする。
 ヘッドドレスとのバランスも確認すれば、もう完璧だ。

「なんか、懐かしい気分かも」

 今の私は、すうぃ~とふぉ~むかふぇ時代のアリスみたいだ。
 秋葉原ナンバーワンメイドとまで呼ばれ、雑誌やテレビの取材を受けたことだってある。
 可愛さなら、誰にも負けない。

「よし!」

 そろそろ仕事の時間だ。立ち上がって、私は自分の部屋を後にした。





「お似合いですね、アリスさん」

 厨房へ行った瞬間、ヴァレンティンさんに微笑まれる。
 ここ最近、ランスロット様の食事を運ぶのは私の仕事だ。
 美味しくなる魔法も、もちろん毎日かけている。今のところ、ランスロット様が一緒にやってくれたことは一度もないけれど。

「ありがとうございます、ヴァレンティンさん」
「きっと坊ちゃんも褒めてくれるはずです」

 メイド服を作るにあたって、ヴァレンティンさんはランスロット様の好みも反映してくれると言っていた。
 それが事実なら、さすがにランスロット様もなにかしらの反応を見せてくれるはず。

 だって私、超可愛いもん。
 こんな私を見ても無反応とか、さすがにおかしいって。

「じゃあこれ、運びますね!」
「ええ、お願いします」

 いつもなら朝は眠いはずなのに、今日はやけに意識が冴えている。
 今日はなんだか、仕事まで上手くいってしまいそうだ。





「おはようございます、ご主人様!」

 居間の扉を開けて、いつも以上に大きい声で挨拶する。
 目が合うと、ランスロット様は分かりやすく動揺した顔になった。

「……その格好はなんだ?」
「新しいメイド服です! どうですか?」

 テーブルの上に朝食を置き、ゆっくりとその場で一周してみせる。ランスロット様は、じっと私の新しいメイド服を観察していた。

「……ヴァレンティンが作ったのか」
「はい。ありがたいことに!」

 ランスロット様はとんでもなく長い溜息を吐いた。

「……仕事着は、着飾るためのものではないが」

 眉根を寄せ、責めるような眼差しを向けてくる。

 相変わらずな反応だけど、ここで落ち込んだって、どうにもならない。

「ですが、着飾ってやる気が出るなら、それはそれでいいじゃないですか?」

 にっこりと笑ってそう言うと、ランスロット様は何も言わなくなった。

「それより私、可愛くないですか? これ、超可愛いと思うんですけど?」

 そうですよね、と言いながらどんどん近づいていく。
 最初は無表情だったランスロット様も、あまりにも距離が近くなると、焦ったように後ろへ下がった。

 ぎりぎりまで近づくのは得意なの。
 接触ギリギリのチェキ、何枚も撮ってきたんだから。

 すうぃ~とふぉ~むかふぇでは、お客さんとメイドの接触は禁止されていた。
 そのため、チェキ撮影時は接触ギリギリのラインを狙っていたのである。

 それにしてもランスロット様、近くで見ても非の打ちどころのない美形ね……。

「近いぞ」
「ごめんなさい。つい、可愛い私を近くで見てほしくて」

 思いっきりぶりっ子っぽく笑ってみせると、ランスロット様はまた溜息を吐いた。

 メイドカフェには、個性豊かなたくさんの女の子たちがいた。
 その中で目立つためには、際立ったキャラクターを作るのも重要なのだ。

 そして私が採用していたキャラクターが、『超絶ぶりっ子の可愛いアリス』である。

 まあ、私が可愛いのは、キャラでもなんでもないんだけど。

「ねえ、どうです? 私、ご主人様に褒められるの、楽しみにしてたんですけど」

 さっとテーブルの上に置いていたフォークを遠ざける。
 ちゃんと褒めるまで、食事の邪魔をするつもりだ。
 それがランスロット様にも伝わったのだろう、諦めたように頷いた。

「……前のよりは、似合っているな。お前の騒がしい感じが、よく出ている」
「なんですか、その言い方!」

 私がわざとらしく頬を膨らませると、ランスロット様はくすっと笑った。
 馬鹿にしたような笑みでも、からかうような笑みでもない。
 小さいけれど、楽しそうな笑顔だ。

「お前は本当に変な奴だな。見ていて飽きない」

 可愛い、という言葉をもらえたわけでもないのに、心臓がうるさい。
 ランスロット様は立ち上がると、私が遠ざけていたフォークを手にとった。
 ちょうどそのタイミングで、ヴァレンティンさんが居間に入ってくる。

「あ、えっと……とりあえず、失礼します!」

 これ以上このままここにいたら、きっと、素の私が出てしまう。
 だから、私は一旦居間を出た。戦略的撤退というやつである。
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