機械少女と霞んだ宝石達~The Mechanical Girl and the hazy Gemstones~

綿飴ルナ

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Episode 7 【結縁のチャームローゼ】

#55

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 ルナのお説教タイムが始まっていくつかの時間が過ぎた頃、黒斗とあおは今も帰路に着いている最中だ。
 移動中に言葉を交わさない事はそれなりにあるが、先程のように精神が削られるような出来事があると気まずい空気が漂う。
 黒斗があおを見やると、ムスッとしたまま黒斗の腕を掴んで何処かを見ている。


「……あのさ」

「……」

あお

「………」


 呼びかけても反応がない。いつもの周りが見えていない状態だ。
 黒斗はあおの頬を人差し指でつつくと、そこでようやっと反応が返ってきた。


「さっきはありがとう。怖かっただろ」

「怖かったのは私よりも黒斗の方じゃ……」

「確かにちょっと怖かったけど平気だよ。あおが居てくれたからさ」

「ふぇぇ!? う、うん……」


 あおは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
 ――本当に、支えられてばっかなんだよな……。
 黒斗は地表面を魔力感知で確認しながらこれからの事を考える。
 修行が終わり、ルナとは師弟の関係ではなく友人の間柄になった。
 これからは鍛錬と色んな物事を学ばなければならない。
 ルナに直接言われたわけではないが、アトリエの皆を守る為には情報が必要なのだ。


「……」


 黒斗が徐ろに立ち止まると、自然とあおも立ち止まる。


「……あのさ。この前また良さげな場所を見つけたんだ。今度一緒に行かね?」

「ふぇ? 良さげ……?」

「うん。あおも気に入ると思う」


 二人は常に一緒に行動している訳ではない。
 あおの体調に合わせて取り止める事もあれば、錬金術に精を出したいと主張している時は単独行動だ。
 そういう日は敷地のあちこちを歩き回っている。
 黒斗は良い場所を見つける度、共に出かける事を提案しているのだ。


「……うん! 行く!」

「決まりな! ちょっと遠い所にあるし、今日の疲れもあるだろうから、明明後日くらいにしよっか。いつもより早めに迎えに行くよ」

「うん! 楽しみ!!」


 不機嫌だったあおの表情が一瞬で明るくなる。
 元気になって良かったと、自身の想いを交えた。
 気が付くとアトリエの敷地内に足を踏み入れている。
 空を仰ぐと一面の星空が見える。あと七日ほど過ぎれば満月の日だ。


「もうすぐ着くね」

「あぁ。皆が帰ってくるまでは一緒にいるよ」

「……ホント?」

「うん」

「ありがとう……」


 その後は何事もなく到着し、二人は本館のリビングでルナ達の帰宅を待つ事になった。

 ◆

 時は遡り、相変わらずルナのお説教タイムが続いている。
 ついこの間まではルナがお説教される側にいたのに、時の流れとは酷なものだと思い知らされながら、ルナは桜結みゆを睨みつけている。


「一応聞くけど名前は?」

桜結みゆだよー。《桜》を《結ぶ》って書いて桜結みゆ! 港街に住むおばあちゃんに付けてもらったんだー!!」


 桜結みゆは先程までのご機嫌ななめだったのが嘘のように前のめりになって話を続ける。


桜結みゆ、船着場で倒れていたらしくて、おばあちゃんが見つけてくれたの! 漁師さん達が運んでくれて、目が覚めたらおばあちゃんの家に居て。何も覚えてないって話したら名付けてくれたんだー!」


 ――コイツ…ベラベラ喋るなぁ……。
 ルナは苦虫を噛み潰したような顔をして一歩後ろへ引いた。
 誰に対しても距離が近い。圧倒されるのはその所為だろう。


「……で、なんで港街からここに来たの?」

「もちろん、さっきの男の子を探しに来たんだよ! 森に入ってからはずっと迷子になってたけど……」


 桜結みゆは顎に手を当て、一瞬だけ暗い表情を見せた。
 それはどちらかと言うと不思議がっているという意味での表情だ。
 そうして桜結みゆは語る。
 港街の人々は桜結みゆに優しく、目上の人には気にかけてもらい、女の子とはすぐに友達になり、男の子からは好きだと告白され、心が温まる充実した日々を送っていたのだそうだ。


「でも彼だけは違ったんだよねー……。桜結みゆの事眼中にないって感じで。皆、桜結みゆの事見つけてくれるのにおかしいなぁ? なんでだろー? って気になっちゃって。次会ったら桜結みゆが夢中にさせてやるって思って、港街の事で伝えたい事もあったし、探しに来ちゃった!」


 後ろの二人が『行動力と考え方が凄い』と小さな声で呟いているのが聞こえる。
 そして桜結みゆの話は留まるところを知らない。


「でもどうしてなんだろー? 彼もあなた達も街の人達と違うんだよねー。皆冷めてるというか」

「あー……それは多分キミの能力が関係してる」


 ルナは一つだけ確認したい事があると言い、場所を変え?為に皆を連れて移動する。
 草むらを逸れた小さな池に到着すると、木の影に隠れた一匹の狐が姿を現した。
 野生の狐は牙を剥き出しにして警戒心をあらわにしている。
 ルナは桜結みゆに狐に近付くように指示を出した。
 瑠璃と藍凛あいりが躊躇いながら後ろで見守っている。
 桜結みゆ自身は平然とした様子でズカズカと狐に近付いていった。
 一定の距離まで近付づくと、彼女の身体が淡く光り、狐の態度が一変する。
 溶けるような眼差しで桜結みゆに近付くと、撫でて欲しそうに足に擦り寄りおねだりしていた。


「あー……やっぱりそうかぁ」


 ルナは一人で納得すると大きなため息をついた。


「いい? 最初に言うけどキミは人間じゃない。人と同じ姿をした《宝石》だ」


 桜結みゆ宝石コアはローズクォーツ。
 恋愛成熟の効能を持つと言われている宝石だ。
 先程の狐の様子から桜結みゆの魔法は相手を魅了する魔法。
 けれどその魔法はルナ達には効果がない。


「つまりその能力は生命を宿した者にだけ効果がある。ボク達みたいな無機物の種族には効かないって事だと思うよ。魔石が擬態した種族だからねぇ。ま、ボクはちょっと特殊なんだけど」

桜結みゆって人じゃないの? よくわかんないんだけど…」

「そんなもんだと思うよ。目に見えてわかる違いといえば瞳孔の形と食事を知らない事、さっきみたいに魔法が使える事くらいかなぁ。人間は魔法、使えないから」

「そうなんだ…」


 桜結みゆほど恵まれてる奴は居ないだろうなぁと、ルナは嫌味を放った。
 宝石達の中で一番魔力が霞んでいたにも関わらず、辛い事に遭遇しておらず、寧ろ魅了魔法という仮初の愛情の中で暮らしていたのだから。
 そう言うと瑠璃に注意されてしまったが反省などしていない。先程の黒斗とあおへの言動を許していないからだ。


「キミは一応同じ魔石族……というより、ボクの師匠の魔力を持っている者として、仲間に紹介する必要が出てきたわけだけど、約束して欲しい事があるんだ。人間や他の生物や魔族にボク達の事、魔石族の居場所を絶対に教えないと約束してほしい」

「……もし約束出来ないって言ったらどうなるの?」

「残念だけどキミが街に帰る事は拒ませてもらう。二度と人と会えなくするよ。ボク達は人間と距離を置いて生活してるんだ。人間が入ってこられたら迷惑なんだよ」

「選択の余地がないじゃん……。わかったわよ。あなた達の生活を邪魔する理由なんてないし、桜結みゆも色々学びたいから。誰にも言わないしついて行くわ」

「魔力が安定するまでは居てね。じゃあ行こうか!」


 ルナは先陣を切って歩き出すと、瑠璃達が慌ててついて来る。
 ルナの隣りには藍凛あいりが、桜結みゆの隣りには瑠璃が寄り添って歩いた。


「ねぇルナ。いいの? アトリエに連れていって」

「んー? まぁ、浄化したおかげかこっちの話を聞くようになったし、師匠の魔力をアトリエに集めろっておばあちゃんに言われてるから様子見だねぇ。指示に従わないなら拘束するし」

「わーお……」

 藍凛あいりとの会話が一区切りつき、ルナは横目で桜結みゆの様子を伺った。
 彼女は先程まであった元気が消え去っており、落ち込んだ様子でいる。
 その後は言葉を交わすこともないまま、ただただ時間ばかりが過ぎていった。


 そうしてルナ達はそれなりの距離を歩いてアトリエに帰ってきた。
 本館の玄関扉を開けると、リビングのテレビ前のソファーに黒斗とあおが座っている。


「ただいまー」

「おかえりー……あっ……」


 ルナが声をかけるとあおは嬉しそうに振り返る。
 だが、後ろにいる桜結みゆを見るや否や、あからさまに嫌がって背中を向けてしまった。
 玄関からでは見えづらいが黒斗の袖を掴んでいるようだ。


「魔力の主はコイツだったよ。一先ず魔力が落ち着くまではここに居てもらうことにしたから」

「……そっか」


 ルナは黒斗と言葉を交わしながらあお桜結みゆの様子を伺う。
 二人とも意地を張って黙り込んだまま。桜結みゆに至っては謝るつもりはないようだ。


「今日はもう遅いし解散しよう。詳しい話は明日するね」

「わかった」


 ひと通り話が終わると、黒斗が俯いているあおの左肩に触れ、顔を上げるのを待っている。
 周りの目など気にしていないその距離の近さに、この場に居る全員が驚いていた。


「……おやすみ、また明日な」

「……うん。また明日」


 黒斗は扉を開けて別館へ帰ってしまった。
 扉が閉まるまで見送った後、ルナは桜結みゆの部屋決めとお風呂を提案し、まずは部屋決めと本館内の案内をする事になる。


「私、先にお風呂入ってくる!」


 あおは勢いよく立ち上がると、大きな音を立てて自室へ向かい、着替えを持って大浴場へ行ってしまった。
 ――今はそっとしておくしかないかぁ……。
 ルナはため息をつくと、最初に桜結みゆを二階へ案内した。
 瑠璃と藍凛あいりもルナについてくる。同じようにそっとしておくことを選んだのだろう。
 二階に上がり、ルナは間取りや部屋の説明を一通り話すと、階段を登ってすぐの左手前の部屋――つまりルナの部屋の向かいの部屋で過ごすように指示する。
 その隣りの部屋も空室だが、先程の一件もある。
 あおの部屋の隣りを避けて選んだのはルナなりの気遣いだ。


「次にこれ。衣類召喚箱だよ。魔力を注ぐから、光が収まるまではここに手を乗せていてね」

「えっ、凄い……何も無いところから箱が出てきた……。衣類召喚箱って?」

「キミに合った衣服が出てくる魔導具だよ。今日は普段着二着と部屋着一着ね。光が収まったら開けていいから、クローゼットにしまってきて!」


 そう言ってルナ達は部屋の前で出てくるのを待った。


「ねぇルナ、これからどうするの?」

「ババアを見つけるまではここに居てもらいたいけど、何よりあの二人がねぇ……」

あお桜結みゆちゃん、仲直りしてくれるといいけど……一先ずは様子見って事かな?」

「そうだねぇ。瑠璃、桜結みゆの事、お願いしてもいい?」

「うん、任せて!」


 ルナはふと部屋扉越しに桜結みゆ宝石コアをもう一度確認する。
 浄化したお陰で霞は取れたが、魅了魔法を自在に発動させる方法をこの数日で見極めなければならない。
 ――場合によっては街には帰せないかもしれないなぁ。
 ルナは大きなため息をついた。
 その後、ルナ達はひと通り案内し、風呂に入って一日を終えたのだった。
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長編小説を主軸にした一次創作活動(小説・絵・作詞作曲・歌等)を行っております。
現在連載中の「機械少女と霞んだ宝石達」のイメージソングをYouTubeに投稿中。後日再投稿予定。
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