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Episode 7 【結縁のチャームローゼ】
#54
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夕刻を過ぎ、暗闇が広がって間もない頃。
ルナ達はソレイユの魔力がある場所へ向かおうとしていた。
結局あれから颯が来る事はなかった。
頼れる相手が一人居ないだけで心細いと呟きながら、ルナを筆頭に移動が始まった。
瑠璃と藍凛が並んで歩き、更にその後ろを黒斗と碧がついて行く。
半ば強制的に行く事になってしまった碧が『むぅー』と言いながら身体を震わせて頬を膨らませている。
「……これでいいかな」
黒斗が右手を空へ翳すと防壁魔法が全員を包み込んだ。
あとは歩く速度に合わせて魔力操作で防壁毎動かしていけばいい。
アトリエの敷地全体にも防壁魔法を張っているので、現時点では外出しても問題ない。
「暗いし、危ないから掴まっとけ」
黒斗はそう言って持っていたランタンを碧に手渡すと、左腕に少しばかりの空間を作って視線を送る。
一度は碧に目を背けられたが、俯きながらも黒斗の腕を掴んでくれたので、安心して皆の後に続いた。
「……」
そんな二人の様子を、藍凛が横目で見ながら考え事をしている姿があった。
「藍凛ちゃん、どうしたの?」
藍凛は左隣りを歩いている瑠璃の腕にギュッとしがみつくと頬を擦り付けていた。
甘えるような柔らかな瞳を瑠璃に向けている。
「……暗いし、危ないから掴まってる」
藍凛にとって、瑠璃に可愛がられるのは満更でもないらしく、アトリエに居る時は姉妹のように親しい。
蛍吾と三人で居ると家族団欒という言葉が一番当てはまっていると、過去にからかわれている場面を見かける程だ。
黒斗と碧の仲睦まじさとは少し違う何かが漂っている。
それは今も変わらなかった。
ルナは一部始終をチラチラと覗きながら大きなため息をついた。
振り向かないようにしてはいるが、それでも後を付いてくる仲間達のオーラを受け続ける事になる。
瑠璃の心が一瞬にして花で満ちていく様子が手に取るように伝わってくるのだ。
――もー! 皆でイチャイチャしないでよー!!
一人だけ取り残されているというどうしようも無い心境を背負いながらも、魔力感知能力を発動させる事にした。
先日とは違い、標的はアトリエから近い場所に視える。
スピーダーを所持していれば四十分程で到着出来るだろう。
代わり映えのない森の中を更に夜が包み込むこの時間帯。
闇に飲み込まれそうな場所でルナ達は月明かりのように歩いていく。
それは皆にとっての心の支えとなっていた。
「ねぇ、藍凛は何を持ってきたの? 身を守る物って言ってたけど……」
「……これ」
ルナは藍凛がポシェットの中から何かを取り出すのを待った。
それは赤屋根倉庫でよく見る物だ。
「スタンガンよ。銃を少しばかり改造したの。実物のスタンガンとは違って弾丸に見立てた電流を放つから、当たったらショートするだけじゃ済まないでしょうね」
藍凛が手のひらより少し大きい銃を見せびらかしてきたので、ルナは小さな悲鳴を上げた。
いくつかの時を重ね、ルナ達は何事もなく目的地に辿り着くことが出来た。
そこは草むらに囲われた迷路のような場所だ。
一度入ってしまえば迷子になってしまいそうなほど、ルナ達を覆い隠しそうな草が生い茂っている。
所々に草むらの分け目が見えているのは有難いが、生憎今は夜だ。
逸れないように再度注意を促すと、ルナと黒斗は魔法感知能力を発動させ、魔力の位置を確認し合った。
二人の感知は一致している。そして、点いたり消えたりする現象も変わらない。
頭を抱えながら捜索を続けた。
捜索が難航する中、突如藍凛の身体が淡く光った。
彼女は西側を指差しており、同時に瑠璃の身体も光っている。
見つけられる予感を抱きながら藍凛の指示通りに進むと、身体を覆い隠すほどの草むらを出て少し拓けた場所に出た。
拓けた場所の更に奥には腰ぐらいの丈の草むらが続いている。
景色が見えるだけで安心感がある。
そう思った時、目の前にある草むらが大きく揺れ動いた。
ルナは悲鳴を上げながら恐る恐る近付いていく。
突如ガサガサッと大きな音を立て、標的であろう何かが勢いよく飛び出してきた。
この場にいる全員が響き渡る程の悲鳴を上げる。
内五人は知っている声。
標的は女性のような声をしている。
「………あー! 見つけたー!!」
ルナ達の目の前には少女が立っている。
静まり返った暗闇の中、ランタン越しではあるが、桃色のお下げ髪と桃色のキャミソール、桃色のスカートが特徴的な少女が黒斗を指差していた。
「君、探したんだよー!!やっと会えた!!」
全身が桃色の少女がルナを横切って黒斗の元へ向かい、両手を腰に置いて覗き込んでいる。
黒斗は碧を引き摺る形で数歩後ろに下がった。
「知り合い?」
「いや、マジでわかんない。誰……?」
黒斗の声は震えていた。それは腕を伝って碧にも伝わっているようで、心配そうに黒斗を見上げている。
アトリエで暮らすようになってからは宝石達と人間の翔平にしか会っていない。
考えられるとすれば黒斗が目覚めた港町――そこは良い思い出がない場所だ。
「桜結が声かけたら逃げていっちゃうんだもん! 逆ナンした友達も逃げられたって話してたし、町の皆も心配してたんだよ! 桜結が代表で探しに来たの!!」
「……あのさ、逆ナンって何?」
「え? 女の子からナンパする事だよ?」
「ナンパって何?」
「男の子が知らない女の子を口説くことだよ?」
「は、はぁ!?」
黒斗の背筋が凍りつき、更に後ずさりをする。
災難続きだったあの頃の記憶なんて思い出したくもない。黒斗は発狂しそうになり、頭の中で必死に振り払った。
「それはそうと、桜結は君と仲良くなりたいな! お友達から始めようよ!」
桜結と名乗る少女は一歩、また一歩と黒斗に近付いて来る。
お友達からという言葉に、桜結以外の全員が露骨に見せる程の不快感を覚えた。
黒斗はふと周りを見ると、ルナは警戒している様子で睨みつけ、瑠璃は困惑し、藍凛はポシェットの中でスタンガンを構え、碧は酷く不機嫌な顔をしている。
桜結の行動次第では拘束も否めない。
ルナから目配せを送られるが、黒斗は泣きそうになりながら必死で首を横に振る。
「ねぇ、どうかな?」
桜結はニッコリと微笑みながら手を握ろうとしたので、黒斗はそれを反射的に避けた。
心身共に距離が近過ぎる。少しばかり手が当たってしまい、恐怖がより一層膨れ上がる。
皆がいる手前必死に抑えてはいるが、既に逃げ出したくてたまらなかった。
「止めて! 嫌がってる!」
碧の手に力が入るのを左腕越しに察知する。
黒斗は我に返って碧の顔を見た。
怒りを露にした表情とは裏腹に身体の震えが黒斗の腕を伝ってくる。
碧が大声で桜結を威嚇するが、相手は動揺する事もなく睨み返している。
「桜結は今、彼と話してるんだけどなー。邪魔しないでくれる?」
「なっ……!」
挑発する言葉がこの森の中を険悪感として濁していく。
黒斗は感情に左右されそうになっている碧を止めた。
『大丈夫だから』
そう言って落ち着かせると桜結に冷たい視線を向ける。
「悪いけど、そういうのは迷惑なんで」
いつもより低い声が一帯に響く。
森の静けさがより一層黒斗の声を際立たせていた。
髪が揺れる程の風が流れる中で、桜結が予想外だと言わんばかりの驚いた顔を見せていたが、黒斗は気に止めずにルナに声をかける。
「さっきから調子悪そうだから連れて帰るわ」
「うん、気をつけてねぇ」
「碧、行こう」
「う、うん……」
黒斗と碧は振り返る事なくこの場を去って行った。
「黒斗くん、変わったなぁ……」
瑠璃と藍凛が帰宅する二人の姿を見えなくなるまで呆然と眺めている。
――さぁて。
ルナは桜結を睨みながら考える。
――こっちも退散したいのは山々なんだけど、生憎コイツなんだよなぁ。魔力の主……。
今のうちに浄化しようと魔力感知能力を発動させようとした時、桜結の頭が動き出したようで、顎に手を当てて首を傾げている。
「……え、なんで? おかしいなぁ……」
「「「……は?」」」
三人で呆気に取られている中、ルナは首を横に振り、一呼吸して魔力感知を発動させた。
桜結の宝石を視る限りでは、宝石が振動している様子はなく、真っ黒とは言えないが濃い灰色に近しい色で霞がかかっている。
今まで浄化してきた宝石の中では一番霞の濃度が濃い。
藍凛と同じ、若しくはそれ以上の期間ずっと瘴気の中に居たのならば、碧のように能力が暴走している可能性があった。
あくまで推測でしかないが、早い内に浄化しておいた方がいいとわかってはいる。
――わかってはいるけど気乗りしないんだよなぁ……。まぁ、やらなきゃいけないんだけどさぁ……。
ルナは露骨に嫌な顔を出しながら右手を桜結の宝石へ向けた。
「……愛の石、ローズクォーツ。今から浄化しまーす」
いつもより低い声が響くと、風と光が桜結を包み込み、浄化が始まる。
最後の浄化である筈なのに出会いが最悪だ。
拍子抜けしてしまった――というよりただただ残念でしかない。
それは集中力が切れてしまうほどに、だ。
「あのルナが引いてるってよっぽどだよ……」
瑠璃が呟く声がルナの耳に入った。
静寂な森が瞬く間に騒がしく眩い光が放たれ、今回は今までで一番時間がかかった浄化となった。
「え!? なになに!? 何が起こったの?」
桜結が自身の身体を目をパチクリさせて確認している。
「そこのアホピンク! こっち来い」
ルナは地べたで胡座をかいて座ると、何処から取り出したのかわからないハリセンで地面を勢いよく叩いた。
瑠璃と藍凛に視線を送ると、二人を自身の後ろへ座らせる。
ルナがここまで怒っている姿を見るのは瑠璃も藍凛も初めてだった。
威圧感を見せつけながら桜結がその場に足を崩すのを見届ける。
「正座!」
「なんなのよコイツ……わかったわよ! しょうがないなー」
反省の色も見えない桜結の言動は更にルナを苛立たせる。
ハリセンで大きく地面を鳴らすと、それを桜結に突きつけた。
「お前、いくらボクたちと同じ種族でも、次こういうことしたら蹴るからな。二度と歩けないようにしてやる」
「何の事? 桜結、何もしてないよ? お話しただけじゃん!」
「あからさまに嫌がってただろ。仲間を傷付けるやつは誰であろうが許さないから」
尖った怒鳴り声が辺り一帯を貫き、寝静まっていた生物が一斉に行動を起こす音が聞こえる。
ルナの拡張型集音器が拾う音の様子から、この場から逃げて行った者が大半だろう。
周囲を警戒しながらも、桜結に対する威圧感は緩めない。
「……ごめんなさい。嫌がってるとは思わなくて……」
少しだけ沈黙が漂うと、桜結が抑えた声で謝罪した。
ルナは大きく深いため息を吐く。
先程の聞く耳を持たない言動から最悪の場合も想定していたので、ここで謝罪してもらえる方がルナにとっても有難いのだ。
「こういう事はもう二度とすんなよ。後でちゃんと二人に謝れ」
「……はい」
桜結は物言いたげな表情を浮かべて視線を逸らしていた。
ルナ達はソレイユの魔力がある場所へ向かおうとしていた。
結局あれから颯が来る事はなかった。
頼れる相手が一人居ないだけで心細いと呟きながら、ルナを筆頭に移動が始まった。
瑠璃と藍凛が並んで歩き、更にその後ろを黒斗と碧がついて行く。
半ば強制的に行く事になってしまった碧が『むぅー』と言いながら身体を震わせて頬を膨らませている。
「……これでいいかな」
黒斗が右手を空へ翳すと防壁魔法が全員を包み込んだ。
あとは歩く速度に合わせて魔力操作で防壁毎動かしていけばいい。
アトリエの敷地全体にも防壁魔法を張っているので、現時点では外出しても問題ない。
「暗いし、危ないから掴まっとけ」
黒斗はそう言って持っていたランタンを碧に手渡すと、左腕に少しばかりの空間を作って視線を送る。
一度は碧に目を背けられたが、俯きながらも黒斗の腕を掴んでくれたので、安心して皆の後に続いた。
「……」
そんな二人の様子を、藍凛が横目で見ながら考え事をしている姿があった。
「藍凛ちゃん、どうしたの?」
藍凛は左隣りを歩いている瑠璃の腕にギュッとしがみつくと頬を擦り付けていた。
甘えるような柔らかな瞳を瑠璃に向けている。
「……暗いし、危ないから掴まってる」
藍凛にとって、瑠璃に可愛がられるのは満更でもないらしく、アトリエに居る時は姉妹のように親しい。
蛍吾と三人で居ると家族団欒という言葉が一番当てはまっていると、過去にからかわれている場面を見かける程だ。
黒斗と碧の仲睦まじさとは少し違う何かが漂っている。
それは今も変わらなかった。
ルナは一部始終をチラチラと覗きながら大きなため息をついた。
振り向かないようにしてはいるが、それでも後を付いてくる仲間達のオーラを受け続ける事になる。
瑠璃の心が一瞬にして花で満ちていく様子が手に取るように伝わってくるのだ。
――もー! 皆でイチャイチャしないでよー!!
一人だけ取り残されているというどうしようも無い心境を背負いながらも、魔力感知能力を発動させる事にした。
先日とは違い、標的はアトリエから近い場所に視える。
スピーダーを所持していれば四十分程で到着出来るだろう。
代わり映えのない森の中を更に夜が包み込むこの時間帯。
闇に飲み込まれそうな場所でルナ達は月明かりのように歩いていく。
それは皆にとっての心の支えとなっていた。
「ねぇ、藍凛は何を持ってきたの? 身を守る物って言ってたけど……」
「……これ」
ルナは藍凛がポシェットの中から何かを取り出すのを待った。
それは赤屋根倉庫でよく見る物だ。
「スタンガンよ。銃を少しばかり改造したの。実物のスタンガンとは違って弾丸に見立てた電流を放つから、当たったらショートするだけじゃ済まないでしょうね」
藍凛が手のひらより少し大きい銃を見せびらかしてきたので、ルナは小さな悲鳴を上げた。
いくつかの時を重ね、ルナ達は何事もなく目的地に辿り着くことが出来た。
そこは草むらに囲われた迷路のような場所だ。
一度入ってしまえば迷子になってしまいそうなほど、ルナ達を覆い隠しそうな草が生い茂っている。
所々に草むらの分け目が見えているのは有難いが、生憎今は夜だ。
逸れないように再度注意を促すと、ルナと黒斗は魔法感知能力を発動させ、魔力の位置を確認し合った。
二人の感知は一致している。そして、点いたり消えたりする現象も変わらない。
頭を抱えながら捜索を続けた。
捜索が難航する中、突如藍凛の身体が淡く光った。
彼女は西側を指差しており、同時に瑠璃の身体も光っている。
見つけられる予感を抱きながら藍凛の指示通りに進むと、身体を覆い隠すほどの草むらを出て少し拓けた場所に出た。
拓けた場所の更に奥には腰ぐらいの丈の草むらが続いている。
景色が見えるだけで安心感がある。
そう思った時、目の前にある草むらが大きく揺れ動いた。
ルナは悲鳴を上げながら恐る恐る近付いていく。
突如ガサガサッと大きな音を立て、標的であろう何かが勢いよく飛び出してきた。
この場にいる全員が響き渡る程の悲鳴を上げる。
内五人は知っている声。
標的は女性のような声をしている。
「………あー! 見つけたー!!」
ルナ達の目の前には少女が立っている。
静まり返った暗闇の中、ランタン越しではあるが、桃色のお下げ髪と桃色のキャミソール、桃色のスカートが特徴的な少女が黒斗を指差していた。
「君、探したんだよー!!やっと会えた!!」
全身が桃色の少女がルナを横切って黒斗の元へ向かい、両手を腰に置いて覗き込んでいる。
黒斗は碧を引き摺る形で数歩後ろに下がった。
「知り合い?」
「いや、マジでわかんない。誰……?」
黒斗の声は震えていた。それは腕を伝って碧にも伝わっているようで、心配そうに黒斗を見上げている。
アトリエで暮らすようになってからは宝石達と人間の翔平にしか会っていない。
考えられるとすれば黒斗が目覚めた港町――そこは良い思い出がない場所だ。
「桜結が声かけたら逃げていっちゃうんだもん! 逆ナンした友達も逃げられたって話してたし、町の皆も心配してたんだよ! 桜結が代表で探しに来たの!!」
「……あのさ、逆ナンって何?」
「え? 女の子からナンパする事だよ?」
「ナンパって何?」
「男の子が知らない女の子を口説くことだよ?」
「は、はぁ!?」
黒斗の背筋が凍りつき、更に後ずさりをする。
災難続きだったあの頃の記憶なんて思い出したくもない。黒斗は発狂しそうになり、頭の中で必死に振り払った。
「それはそうと、桜結は君と仲良くなりたいな! お友達から始めようよ!」
桜結と名乗る少女は一歩、また一歩と黒斗に近付いて来る。
お友達からという言葉に、桜結以外の全員が露骨に見せる程の不快感を覚えた。
黒斗はふと周りを見ると、ルナは警戒している様子で睨みつけ、瑠璃は困惑し、藍凛はポシェットの中でスタンガンを構え、碧は酷く不機嫌な顔をしている。
桜結の行動次第では拘束も否めない。
ルナから目配せを送られるが、黒斗は泣きそうになりながら必死で首を横に振る。
「ねぇ、どうかな?」
桜結はニッコリと微笑みながら手を握ろうとしたので、黒斗はそれを反射的に避けた。
心身共に距離が近過ぎる。少しばかり手が当たってしまい、恐怖がより一層膨れ上がる。
皆がいる手前必死に抑えてはいるが、既に逃げ出したくてたまらなかった。
「止めて! 嫌がってる!」
碧の手に力が入るのを左腕越しに察知する。
黒斗は我に返って碧の顔を見た。
怒りを露にした表情とは裏腹に身体の震えが黒斗の腕を伝ってくる。
碧が大声で桜結を威嚇するが、相手は動揺する事もなく睨み返している。
「桜結は今、彼と話してるんだけどなー。邪魔しないでくれる?」
「なっ……!」
挑発する言葉がこの森の中を険悪感として濁していく。
黒斗は感情に左右されそうになっている碧を止めた。
『大丈夫だから』
そう言って落ち着かせると桜結に冷たい視線を向ける。
「悪いけど、そういうのは迷惑なんで」
いつもより低い声が一帯に響く。
森の静けさがより一層黒斗の声を際立たせていた。
髪が揺れる程の風が流れる中で、桜結が予想外だと言わんばかりの驚いた顔を見せていたが、黒斗は気に止めずにルナに声をかける。
「さっきから調子悪そうだから連れて帰るわ」
「うん、気をつけてねぇ」
「碧、行こう」
「う、うん……」
黒斗と碧は振り返る事なくこの場を去って行った。
「黒斗くん、変わったなぁ……」
瑠璃と藍凛が帰宅する二人の姿を見えなくなるまで呆然と眺めている。
――さぁて。
ルナは桜結を睨みながら考える。
――こっちも退散したいのは山々なんだけど、生憎コイツなんだよなぁ。魔力の主……。
今のうちに浄化しようと魔力感知能力を発動させようとした時、桜結の頭が動き出したようで、顎に手を当てて首を傾げている。
「……え、なんで? おかしいなぁ……」
「「「……は?」」」
三人で呆気に取られている中、ルナは首を横に振り、一呼吸して魔力感知を発動させた。
桜結の宝石を視る限りでは、宝石が振動している様子はなく、真っ黒とは言えないが濃い灰色に近しい色で霞がかかっている。
今まで浄化してきた宝石の中では一番霞の濃度が濃い。
藍凛と同じ、若しくはそれ以上の期間ずっと瘴気の中に居たのならば、碧のように能力が暴走している可能性があった。
あくまで推測でしかないが、早い内に浄化しておいた方がいいとわかってはいる。
――わかってはいるけど気乗りしないんだよなぁ……。まぁ、やらなきゃいけないんだけどさぁ……。
ルナは露骨に嫌な顔を出しながら右手を桜結の宝石へ向けた。
「……愛の石、ローズクォーツ。今から浄化しまーす」
いつもより低い声が響くと、風と光が桜結を包み込み、浄化が始まる。
最後の浄化である筈なのに出会いが最悪だ。
拍子抜けしてしまった――というよりただただ残念でしかない。
それは集中力が切れてしまうほどに、だ。
「あのルナが引いてるってよっぽどだよ……」
瑠璃が呟く声がルナの耳に入った。
静寂な森が瞬く間に騒がしく眩い光が放たれ、今回は今までで一番時間がかかった浄化となった。
「え!? なになに!? 何が起こったの?」
桜結が自身の身体を目をパチクリさせて確認している。
「そこのアホピンク! こっち来い」
ルナは地べたで胡座をかいて座ると、何処から取り出したのかわからないハリセンで地面を勢いよく叩いた。
瑠璃と藍凛に視線を送ると、二人を自身の後ろへ座らせる。
ルナがここまで怒っている姿を見るのは瑠璃も藍凛も初めてだった。
威圧感を見せつけながら桜結がその場に足を崩すのを見届ける。
「正座!」
「なんなのよコイツ……わかったわよ! しょうがないなー」
反省の色も見えない桜結の言動は更にルナを苛立たせる。
ハリセンで大きく地面を鳴らすと、それを桜結に突きつけた。
「お前、いくらボクたちと同じ種族でも、次こういうことしたら蹴るからな。二度と歩けないようにしてやる」
「何の事? 桜結、何もしてないよ? お話しただけじゃん!」
「あからさまに嫌がってただろ。仲間を傷付けるやつは誰であろうが許さないから」
尖った怒鳴り声が辺り一帯を貫き、寝静まっていた生物が一斉に行動を起こす音が聞こえる。
ルナの拡張型集音器が拾う音の様子から、この場から逃げて行った者が大半だろう。
周囲を警戒しながらも、桜結に対する威圧感は緩めない。
「……ごめんなさい。嫌がってるとは思わなくて……」
少しだけ沈黙が漂うと、桜結が抑えた声で謝罪した。
ルナは大きく深いため息を吐く。
先程の聞く耳を持たない言動から最悪の場合も想定していたので、ここで謝罪してもらえる方がルナにとっても有難いのだ。
「こういう事はもう二度とすんなよ。後でちゃんと二人に謝れ」
「……はい」
桜結は物言いたげな表情を浮かべて視線を逸らしていた。
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長編小説を主軸にした一次創作活動(小説・絵・作詞作曲・歌等)を行っております。
現在連載中の「機械少女と霞んだ宝石達」のイメージソングをYouTubeに投稿中。後日再投稿予定。
よろしくお願いいたします。
【綿飴ルナ各種投稿先リンク】
《カクヨム》https://kakuyomu.jp/works/16818023211714216953
《pixiv》https://www.pixiv.net/users/89657371
《YouTube》https://youtube.com/@rapiasagi (メインチャンネル)
https://youtube.com/@rapiasagi_ameluna(歌ってみた専用サブチャンネル)
《ポイピク》https://poipiku.com/9584826/
【各種SNS】
《Bluesky》https://bsky.app/profile/rapiasagi.bsky.social(メインアカウント。普段はこちらにいます)
《X(旧Twitter)》https://twitter.com/rapiAsagi
https://twitter.com/rapiAsagi_luna (宣伝専用)
*綿飴ルナの創作物について*
綿飴ルナの創作物である音楽、動画、イラスト、小説は以下サイト《YouTube、niconico(現在非公開・投稿停止中)、デジタル配信(動画の概要欄に公開している配信先一覧リンクをご参照ください)、pixiv、ポイピク、カクヨ厶》のみ投稿しております。
即ち創作物が上記以外の場所(Xやインスタ、ブルースカイ等)で投稿されている場合、それらはわたしが投稿しているものではございません。
無断転載(再配布)に該当すると判断致しますので、見かけた場合は反応しないようご協力お願いします。
創作物は個人使用のみOK、オリジナル作品に関しましては現時点でファンアート以外の二次創作(歌ってみたやカバーも含む)は禁止とさせていただいております。
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不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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