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Episode 2 【厄廻りディフェンダー】
#11
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「……? ルナ、どうしたの?」
黒斗がテントの中に入ってから少し時間が経ち、瑠璃は落ち着いたのを見計らってテントの中に入ろうとしていた。
しゃがみこもうとしたところでふと振り返ってルナを見ると森の奥の何処かをじっと見ている。
先程までとは違い真剣な赴きで警戒しているようにも見えた。
瑠璃の視線に気付いたルナは「何でもない」と答えると中に入るように促し、それを見届けた後再度森の奥をじっと見直す。
――あの魔力、他の魔獣と比べても明らかに大きい……。何者だ?
感知した魔力は視界には入らないずっと奥にあった。
その奥から何者かの足音と視線を察知しルナは戦闘態勢をとる。
彼女の犬耳……拡張集音器はより遠くの音を聞き取れるのだ。
暫しの間静かな時が流れる。
草木のざわめきのみが聞こえるこの空間で見えない相手の出方を伺った。
――下手に動くと皆を危険な目に合わせてしまう。向こうが動かない事を祈るしか……。
どうしたものかと頭を悩ませつつも音と魔力感知に全集中力を張り巡らせる。
そうして緊張した時間が少し続いた後、相手に動きがあった。
こちらに向けられた視線は外され、大きな魔力は次第に遠のいて行く。
何事も起こらなくて良かった、とルナは安堵のため息をついた。
テントの中に入りブーツを脱いだルナは備え付けられている内側の扉を閉めた。
鍵をかけると簡易魔導テントはロックされ、第三者が入れない・雷属性の防壁により触れない・攻撃を受けない等防犯対策が整った仕様になっている。
動作しているのを確認し廊下を見ると三人が寝室の出入口で話をしていた。
「あ! ルナ、おかえり。今ね、碧が黒斗くんに部屋の説明をしてくれてて。碧ったら張り切ってるみたい。」
瑠璃は微笑みながらそう話すと「そ、そんな事ないもん!」と碧が顔を赤らめて首を横に振っている。
外で警戒している間に全ての部屋の説明をしてくれていたようだ。
ルナはお礼を言うとブーツを靴箱に入れ皆の前に行く。
「そういえばさぁ、黒斗はお腹空いてない? 何か食べた?」
「へ? 何それ?」
「やっぱり同じ種族で間違いないね。食事だよ。街で人が何かを口に入れてモグモグしてるとこ見たことない?」
「あー……あるな。」
「じゃあご飯食べてからのお風呂かなぁ。作りたい人いる?」
「はーい、はーい! 私、作りたいです!!」
碧はぴょこぴょこしながら右手を上げて主張している。
先程の張り切り具合を見ていた瑠璃は微笑み、ルナは「へぇ……。」と呟きながらニヤついた表情をしていた。
それじゃあ今日は碧にお願いしようかな、とニヤニヤしながら決めたルナはそのまま黒斗に話しかける。
「じゃあせっかくだし碧がご飯作ってる間に先にシャワー浴びてきてよ。すぐ洗濯すれば女子組の待ち時間も短くなるし。着替えと中の使い方はわかる?」
「え、あ、うん。教えてもらった。」
「あのチェスト、開けた人の性別で服が出てくる魔法がかかってるから自分で開けてね。あと着用してから脱いだら五分後に消滅するから気をつけろよー!」
衣服が消滅する事に怯える黒斗を面白そうにからかっていた。
そんな光景を横目に瑠璃は徐ろにソファーの下に何かが隠されているのを見つける。
――あれ? こんなの昨日あったっけ?
しゃがみこんでそこを除くと棒のように細長いものが置かれてあった。
ソファーの下が影になっていてハッキリとは見えない。
少し引き出してみると持ち手であろう部分が出てきた。
――何か文字が書いてある。えーっと……。
文字を読んでいたところでルナと碧が調理を始めようとしている事に気付き、咄嗟に元の位置に戻し手を洗いに向かったのだった。
黒斗がシャワールームから出てくる頃には料理が一品出来上がっており、芳ばしいベーコンの香りがテント内に漂っていた。
――いい匂いがする。
黒斗の口から無意識に声が出ていた。
そのままキッチンへ向かい、ソファー側の瑠璃の隣りに座って二人の様子を眺める。
碧が「ベーコン、少し焦がしちゃった。」と涙目で二品目の調理を進めていた。
「今日は焼きベーコンとスクランブルエッグを作るんだって。」
楽しみだね、と瑠璃は黒斗に微笑んで言った。
少し時間が経ちテーブルの上に完成した料理が並べられる。
ルナが棚をガサゴソしている間に碧は黒斗の向かい側に座った。
――あれ? 三人分しかねぇな。ルナは食べないのか?
黒斗は疑問に思い瑠璃に尋ねる。
「彼女には食事機能が付いていないみたいで食事はしないんだ」と答えていた。
「さぁさぁ食べて食べて! これつけると美味しいよ!」
そう言ってルナがテーブルに置いたのはチューブ入りのワサビとカラシだった。
多めにつけると美味しいとやたらに、特に黒斗に勧めてくる。
彼女を横目に碧は不機嫌そうに頬を膨らませていた。
「……味付けしてるからそのままで十分美味しいよ。さっき味見したもん……。」
困惑する黒斗だったが碧の気持ちを汲んでそのまま食べる事を選んだ。
心做しか舌打ちが聞こえたような気がしたが皆聞かなかった事にしている。
碧と瑠璃は黒斗が先に食べるのを静かに見守っていた。
「……旨っ!」
ひと口サイズのベーコンを口に入れ美味しそうに食べていた。
碧の表情がぱあっと明るくなり「こっちも食べみて!」とスクランブルエッグを指を差している。
黒斗は言われるままにスクランブルエッグをひと口食べると美味しそうな表情をしていた。
様子を見ていた二人も食事に手をつける。
「良かったね」と瑠璃は微笑んで言うと、碧も嬉しそうに頷いていた。
「ねぇー、これつけて食べてよー。多めにつけて食べると美味しいのにー!」
ルナは頬を膨らませワサビとカラシを差し出しながら黒斗に攻め寄る。
――食事出来ないロボットがなんでそれを美味しいってわかるんだよ!
目に見えてわかる嘘に黒斗は頑固拒否した。
それでもルナは「この美味しさを知らないままでいるなんて勿体ないなぁ」といい加減な理由をつけてグイグイ攻めて来る。
あまりにもしつこい彼女の言動を隣りで聞いていた碧はだんだんと機嫌になり、仕舞いにはルナから強引にワサビとカラシを奪い取っていた。
「そんなに美味しいんなら私が食べるもん!!」
碧は「むぅー。」と頬を膨らませながらワサビとカラシをそれぞれ一センチほどベーコンに乗せてフォークを刺していた。
「わっ! 馬鹿っ!! やめとけって!!」
「……んんんんんんんんん!!」
黒斗が止めようとした時には既に遅く、碧はそれを口の中に入れてしまっていた。
鼻に来るツーンとしたワサビの独特な風味とカラシの辛さが相まって涙が止まらなくなり顔色が青ざめていく。
黒斗は席を立ち彼女をシンクへ向かわせ水を飲むように促していた。
「予想外な展開だったけどー、イタズラ大成功ー!!」
ルナは悪戯な表情で両手を上げ喜んでいた。
次はどんなイタズラをしようかなー、と呑気に次の計画を企んでいる。
その様子を呆れて見ていた瑠璃は無言で席を立ってソファーの下にあったアレを手に取り再度確認する。
どうやらこれはハリセンのようだ。
それを怒った表情でルナに思い切り叩きつけるとルナは頭を押さえながら泣き叫んだのだった。
「いったーい!! 何するの……げっ!! なんであるの!? 捨てたハズなのに!!」
「え、コレ? ソファーの下に落ちてたよ?」
「それ危ないからポイして!! そこのゴミ箱にポイして!!」
ルナが珍しく半べそをかきながら慌てている。
ロボットなので涙は出ていないが泣いているのは確かだった。
ハリセンを持って彼女を見ている瑠璃は笑顔だ。
「……これ、ルナ専用お仕置きハリセンって書いてあるよ? 大事な物だよね?」
瑠璃は笑顔のままルナに問う。
笑顔が更に怖さを引き立てていた。
「そうそう! ボク専用!! でもこれ、危険だから捨てたの! 怪我したら危ないでしょ?」
「そっかぁ。怪我をしそうなくらい危険な物なんだね。じゃあわたしが預かっておくね。」
「え!? なんで!?」
「……ルナ、イタズラは程々にね? いくらあなたは食べられないからって、食べ物で遊んじゃダメだよ?」
――わかった?
この一言を口に出した時の瑠璃の表情からは笑顔が消えていた。
ルナには効果覿面だったようで珍しく恐怖で震えている。
どうやらこのハリセンは魔法がかけられているようで、ルナにはより強く痛覚を刺激する仕様になっているように思える。
現に彼女の身体は硬いのだ。
柔らかいハリセンで叩くだけではビクともしないだろう。
これはこういう時の為に必要な物だと瑠璃は察し手元に置いておく事にした。
油断した時に捨てられる可能性は大いにあるが、何故だか大丈夫だと思えたのだ。
「うぅぅ……。恥ずかしいところ見せちゃった……。」
碧は黒斗に見られてしまった事が恥ずかしくなり両手で顔を隠している。
席に戻った黒斗がふと右側を見ると、ルナが泣きながら震え、瑠璃がハリセンを片手に怒っている姿があった。
――なんだろう、この安心感。
黒斗は今日の出来事をふと思い返していた。
ここに辿り着くまでの間に三人は出会ってまだ数日しか経っていないという話を聞いている。
出会ったばかりなのに、自分もどこか馴染めているように思えたのだ。
災難だらけの日々が今では遠い出来事のように思えるくらい安心感を抱いている。
――色々あったけどこれからはようやっと落ち着いて過ごせそうだな。
黒斗は碧の手料理を見つめながら静かにため息をついた。
向かい側にいた碧は頭にはてなマークを浮かべた様子で黒斗を見ている。
「……食べよう。せっかく作ってくれたのに冷めたら勿体ない。」
そう言って黒斗はスクランブルエッグをひと口頬張り美味しそうに食べていた。
微笑みながら眺めていた碧も再度食事に手をつけ出す。
――食事ってなんか、いいな。
黒斗にとって初めて誰かと過ごす時。
和気あいあいとしたこの空気に居心地の良さを感じていた。
瑠璃に叱られているルナを横目に目の前の料理と碧をもう一度見る。
美味しそうに食べる彼女につられて自然と笑みが零れた。
その後、それぞれ自由な時間を過ごし寝床につく。
早朝に出発すれば昼過ぎにはアトリエに到着出来るだろうとルナは言う。
目覚めてからの疲れと室内で眠れる事への安心感から、黒斗は布団に入って間もなく眠りにつくのだった。
黒斗がテントの中に入ってから少し時間が経ち、瑠璃は落ち着いたのを見計らってテントの中に入ろうとしていた。
しゃがみこもうとしたところでふと振り返ってルナを見ると森の奥の何処かをじっと見ている。
先程までとは違い真剣な赴きで警戒しているようにも見えた。
瑠璃の視線に気付いたルナは「何でもない」と答えると中に入るように促し、それを見届けた後再度森の奥をじっと見直す。
――あの魔力、他の魔獣と比べても明らかに大きい……。何者だ?
感知した魔力は視界には入らないずっと奥にあった。
その奥から何者かの足音と視線を察知しルナは戦闘態勢をとる。
彼女の犬耳……拡張集音器はより遠くの音を聞き取れるのだ。
暫しの間静かな時が流れる。
草木のざわめきのみが聞こえるこの空間で見えない相手の出方を伺った。
――下手に動くと皆を危険な目に合わせてしまう。向こうが動かない事を祈るしか……。
どうしたものかと頭を悩ませつつも音と魔力感知に全集中力を張り巡らせる。
そうして緊張した時間が少し続いた後、相手に動きがあった。
こちらに向けられた視線は外され、大きな魔力は次第に遠のいて行く。
何事も起こらなくて良かった、とルナは安堵のため息をついた。
テントの中に入りブーツを脱いだルナは備え付けられている内側の扉を閉めた。
鍵をかけると簡易魔導テントはロックされ、第三者が入れない・雷属性の防壁により触れない・攻撃を受けない等防犯対策が整った仕様になっている。
動作しているのを確認し廊下を見ると三人が寝室の出入口で話をしていた。
「あ! ルナ、おかえり。今ね、碧が黒斗くんに部屋の説明をしてくれてて。碧ったら張り切ってるみたい。」
瑠璃は微笑みながらそう話すと「そ、そんな事ないもん!」と碧が顔を赤らめて首を横に振っている。
外で警戒している間に全ての部屋の説明をしてくれていたようだ。
ルナはお礼を言うとブーツを靴箱に入れ皆の前に行く。
「そういえばさぁ、黒斗はお腹空いてない? 何か食べた?」
「へ? 何それ?」
「やっぱり同じ種族で間違いないね。食事だよ。街で人が何かを口に入れてモグモグしてるとこ見たことない?」
「あー……あるな。」
「じゃあご飯食べてからのお風呂かなぁ。作りたい人いる?」
「はーい、はーい! 私、作りたいです!!」
碧はぴょこぴょこしながら右手を上げて主張している。
先程の張り切り具合を見ていた瑠璃は微笑み、ルナは「へぇ……。」と呟きながらニヤついた表情をしていた。
それじゃあ今日は碧にお願いしようかな、とニヤニヤしながら決めたルナはそのまま黒斗に話しかける。
「じゃあせっかくだし碧がご飯作ってる間に先にシャワー浴びてきてよ。すぐ洗濯すれば女子組の待ち時間も短くなるし。着替えと中の使い方はわかる?」
「え、あ、うん。教えてもらった。」
「あのチェスト、開けた人の性別で服が出てくる魔法がかかってるから自分で開けてね。あと着用してから脱いだら五分後に消滅するから気をつけろよー!」
衣服が消滅する事に怯える黒斗を面白そうにからかっていた。
そんな光景を横目に瑠璃は徐ろにソファーの下に何かが隠されているのを見つける。
――あれ? こんなの昨日あったっけ?
しゃがみこんでそこを除くと棒のように細長いものが置かれてあった。
ソファーの下が影になっていてハッキリとは見えない。
少し引き出してみると持ち手であろう部分が出てきた。
――何か文字が書いてある。えーっと……。
文字を読んでいたところでルナと碧が調理を始めようとしている事に気付き、咄嗟に元の位置に戻し手を洗いに向かったのだった。
黒斗がシャワールームから出てくる頃には料理が一品出来上がっており、芳ばしいベーコンの香りがテント内に漂っていた。
――いい匂いがする。
黒斗の口から無意識に声が出ていた。
そのままキッチンへ向かい、ソファー側の瑠璃の隣りに座って二人の様子を眺める。
碧が「ベーコン、少し焦がしちゃった。」と涙目で二品目の調理を進めていた。
「今日は焼きベーコンとスクランブルエッグを作るんだって。」
楽しみだね、と瑠璃は黒斗に微笑んで言った。
少し時間が経ちテーブルの上に完成した料理が並べられる。
ルナが棚をガサゴソしている間に碧は黒斗の向かい側に座った。
――あれ? 三人分しかねぇな。ルナは食べないのか?
黒斗は疑問に思い瑠璃に尋ねる。
「彼女には食事機能が付いていないみたいで食事はしないんだ」と答えていた。
「さぁさぁ食べて食べて! これつけると美味しいよ!」
そう言ってルナがテーブルに置いたのはチューブ入りのワサビとカラシだった。
多めにつけると美味しいとやたらに、特に黒斗に勧めてくる。
彼女を横目に碧は不機嫌そうに頬を膨らませていた。
「……味付けしてるからそのままで十分美味しいよ。さっき味見したもん……。」
困惑する黒斗だったが碧の気持ちを汲んでそのまま食べる事を選んだ。
心做しか舌打ちが聞こえたような気がしたが皆聞かなかった事にしている。
碧と瑠璃は黒斗が先に食べるのを静かに見守っていた。
「……旨っ!」
ひと口サイズのベーコンを口に入れ美味しそうに食べていた。
碧の表情がぱあっと明るくなり「こっちも食べみて!」とスクランブルエッグを指を差している。
黒斗は言われるままにスクランブルエッグをひと口食べると美味しそうな表情をしていた。
様子を見ていた二人も食事に手をつける。
「良かったね」と瑠璃は微笑んで言うと、碧も嬉しそうに頷いていた。
「ねぇー、これつけて食べてよー。多めにつけて食べると美味しいのにー!」
ルナは頬を膨らませワサビとカラシを差し出しながら黒斗に攻め寄る。
――食事出来ないロボットがなんでそれを美味しいってわかるんだよ!
目に見えてわかる嘘に黒斗は頑固拒否した。
それでもルナは「この美味しさを知らないままでいるなんて勿体ないなぁ」といい加減な理由をつけてグイグイ攻めて来る。
あまりにもしつこい彼女の言動を隣りで聞いていた碧はだんだんと機嫌になり、仕舞いにはルナから強引にワサビとカラシを奪い取っていた。
「そんなに美味しいんなら私が食べるもん!!」
碧は「むぅー。」と頬を膨らませながらワサビとカラシをそれぞれ一センチほどベーコンに乗せてフォークを刺していた。
「わっ! 馬鹿っ!! やめとけって!!」
「……んんんんんんんんん!!」
黒斗が止めようとした時には既に遅く、碧はそれを口の中に入れてしまっていた。
鼻に来るツーンとしたワサビの独特な風味とカラシの辛さが相まって涙が止まらなくなり顔色が青ざめていく。
黒斗は席を立ち彼女をシンクへ向かわせ水を飲むように促していた。
「予想外な展開だったけどー、イタズラ大成功ー!!」
ルナは悪戯な表情で両手を上げ喜んでいた。
次はどんなイタズラをしようかなー、と呑気に次の計画を企んでいる。
その様子を呆れて見ていた瑠璃は無言で席を立ってソファーの下にあったアレを手に取り再度確認する。
どうやらこれはハリセンのようだ。
それを怒った表情でルナに思い切り叩きつけるとルナは頭を押さえながら泣き叫んだのだった。
「いったーい!! 何するの……げっ!! なんであるの!? 捨てたハズなのに!!」
「え、コレ? ソファーの下に落ちてたよ?」
「それ危ないからポイして!! そこのゴミ箱にポイして!!」
ルナが珍しく半べそをかきながら慌てている。
ロボットなので涙は出ていないが泣いているのは確かだった。
ハリセンを持って彼女を見ている瑠璃は笑顔だ。
「……これ、ルナ専用お仕置きハリセンって書いてあるよ? 大事な物だよね?」
瑠璃は笑顔のままルナに問う。
笑顔が更に怖さを引き立てていた。
「そうそう! ボク専用!! でもこれ、危険だから捨てたの! 怪我したら危ないでしょ?」
「そっかぁ。怪我をしそうなくらい危険な物なんだね。じゃあわたしが預かっておくね。」
「え!? なんで!?」
「……ルナ、イタズラは程々にね? いくらあなたは食べられないからって、食べ物で遊んじゃダメだよ?」
――わかった?
この一言を口に出した時の瑠璃の表情からは笑顔が消えていた。
ルナには効果覿面だったようで珍しく恐怖で震えている。
どうやらこのハリセンは魔法がかけられているようで、ルナにはより強く痛覚を刺激する仕様になっているように思える。
現に彼女の身体は硬いのだ。
柔らかいハリセンで叩くだけではビクともしないだろう。
これはこういう時の為に必要な物だと瑠璃は察し手元に置いておく事にした。
油断した時に捨てられる可能性は大いにあるが、何故だか大丈夫だと思えたのだ。
「うぅぅ……。恥ずかしいところ見せちゃった……。」
碧は黒斗に見られてしまった事が恥ずかしくなり両手で顔を隠している。
席に戻った黒斗がふと右側を見ると、ルナが泣きながら震え、瑠璃がハリセンを片手に怒っている姿があった。
――なんだろう、この安心感。
黒斗は今日の出来事をふと思い返していた。
ここに辿り着くまでの間に三人は出会ってまだ数日しか経っていないという話を聞いている。
出会ったばかりなのに、自分もどこか馴染めているように思えたのだ。
災難だらけの日々が今では遠い出来事のように思えるくらい安心感を抱いている。
――色々あったけどこれからはようやっと落ち着いて過ごせそうだな。
黒斗は碧の手料理を見つめながら静かにため息をついた。
向かい側にいた碧は頭にはてなマークを浮かべた様子で黒斗を見ている。
「……食べよう。せっかく作ってくれたのに冷めたら勿体ない。」
そう言って黒斗はスクランブルエッグをひと口頬張り美味しそうに食べていた。
微笑みながら眺めていた碧も再度食事に手をつけ出す。
――食事ってなんか、いいな。
黒斗にとって初めて誰かと過ごす時。
和気あいあいとしたこの空気に居心地の良さを感じていた。
瑠璃に叱られているルナを横目に目の前の料理と碧をもう一度見る。
美味しそうに食べる彼女につられて自然と笑みが零れた。
その後、それぞれ自由な時間を過ごし寝床につく。
早朝に出発すれば昼過ぎにはアトリエに到着出来るだろうとルナは言う。
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