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Episode 2 【厄廻りディフェンダー】
#9《逃げて逃げて逃げまくるお話》
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あれから五分以上が経過している。
青年と碧は今も魔獣に追いかけられていた。
距離は少しずつ離せられているにも関わらず一向に終わる気配がない。
そろそろ疲れが出てきている。
「碧、まだいけるか?」
青年は後ろを振り向き様子を確認する。
碧は「ふぇ~……」と泣きながら首を横に振って青年に訴えかけている。
このまま逃げているだけではこちらが動けなくなってしまい、襲われるのは時間の問題だ。
――せめて隠れられる場所があれば碧だけでも……。
そう思ったが何処を見回してもそんな場所は見当たらない。
「グルルルッ……。」
後ろから魔獣の呻き声が聞こえる。
青年はもう一度振り向きそれを確認する。
追いかけてきているのは相変わらずだが先程までとは様子が違った。
まるで何かを企んでいるかのような雰囲気が漂っている。
……嫌な予感がした。
「ガウゥゥッ!!」
魔獣は走るスピードを落とす事なく何かを投げるような仕草で右手を振り払う。
振り払った手から光が現れ青年の元へ勢いよく向かってくる。
その光は後ろを振り返っていた青年の後頭部をスレスレで通り過ぎ、すぐ近くの右側の木にバンッ! という音を立てぶつかった。
光は瞬時に氷へと変化し、ぶつかった木の一部分を凍らせたのだった。
「はぁ!? 何だよアレ!? 無理だって!!!」
青年は半べそをかきながら必死に考える。
アレに当たってしまえば確実に終わる。
自分達が凍る姿なんて想像したくもない。
助かる方法なんてわからない。
――石でも投げつけてみるか?
ふと青年の脳裏を過ぎったが慌てて振り払う。
街で続いた災難続きの日々を思い返してみても、何をしてもしなくても面倒事ばかりだった。
例え石を投げたとしても逆上して危険な目に合う可能性が高い。
そう考えると何も出来なかった。
魔獣の攻撃を避ける度に森のあちこちが凍っていく。
その攻撃の一つが前方の地面に直撃する。
「わっ!!」
「ひゃあ!!」
瞬時に凍った目先の地面を避けられず二人は転倒してしまう。
全速力で走っていた分ぶつけた身体の衝撃も大きく、二人は立ち上がる事が出来ずにいた。
――どうしよう。
青年の心を焦りと恐怖が更に襲いかかる。
もうダメかもしれないと諦めそうになったが、そばにいる碧が視界に入り、それではいけないと首を横に振り気持ちを切り替える。
彼女をこれ以上危険な目に合わせたくない。
青年は「考えろ」と必死で自分に言い聞かせた。
そうこうしている内に魔獣が目と鼻の先まで来ている。
魔獣は碧を標的に右手を振り下ろそうとした。
「碧!!」
青年は無我夢中で碧の前に立とうとするも、凍った地面で滑ってしまい体勢を崩してしまった。
右膝を打ち痛みを堪えながらも手のひらを前にして右手を差し出す。
《彼女を守りたい》
その想いだけが青年を突き動かす。
襲いかかる魔獣の手に反射的に目を閉じてしまった。
「ガウゥゥ!?」
青年の手の先から淡い光が放たれる。
そこから瞬時に薄紫色の膜のようなものが青年と碧を包み込み、ほぼ同時に当たった魔獣の手をその膜が跳ね返したのだった。
何も起こらない現状に気付き青年は恐る恐る目を開ける。
目の前には自身の手を確認しながら首を傾げる魔獣の姿があった。
「え……何これ……。どうなってんの?」
青年は辺りを見渡しはしたものの現状を把握出来なかった。
右斜め後ろに座り込んでいる碧は怯えたまま魔獣と青年を交互に眺めている。
彼女も理解出来ていないようだ。
「大丈夫? 怪我してない?」と青年は碧に声をかける。
膝に痣が出来てはいたがそれ以外は平気そうだった。
「見つけたー!!」
碧がいる方向から叫び声と共に一匹の犬が勢いよく走ってくる。
ルナだ。
彼女は走るスピードを緩めることなく二人の元へ向かってくる。
魔獣がいる場所の数歩前で白い煙と共に変身を解き、本来の人型の姿で蹴りを入れた。
瞬く間に魔獣は蹴られた方向に飛ばされていく。
犬の姿で猛スピードで走ってきていたとはいえ、ルナの脚力は人間の少女のものとは明らかに違うものだった。
蹴られた魔獣は遠くまで飛ばされて行き、既に視界から見えなくなっていた。
「間に合って良かったー……。その様子だと大怪我はしてなさそうだね。」
「ルナ……!!」
「碧ー? ボクから離れるなって言ったよねぇ??」
「ふぇ!? ご、ごめんなさい……。」
「……まぁいいや。ところで……。」
ルナは青年に目を向けた。
「ひっ…。」と身を震わせて怖がる青年の魔力を視る。
彼の身体の中には確かに探していた師匠の霞んだ魔力があった。
霞んだ魔力を集中して観測し、コアとなっている宝石を探す。
くっきりと視えるのに時間はかかったがそこには黒い宝石が見えた。
「戻ってくる可能性があるから早々に立ち去りたいんだけど、その前にキミを浄化させてもらうね。」
「へ? じ、浄化?」
驚く青年に「そのまま動かないでね」と念を押し一歩前へ進む。
もう一度宝石を確認したルナは一度目を閉じ一呼吸してから再度向き合った。
「魔除けの石、オニキスよ。今からお前を浄化する!」
瑠璃の浄化の時と同様にルナの周りを光の粒子と風が舞う。
「浄化魔法」と唱えると同時に青年を光が包み込む。
瞬く間に風が吹き荒れ、それが体感二十秒ほど続いた。
風が収まり座り込んだままの青年と碧は目を開ける。
視線の先には得意気な表情で仁王立ちしているルナの姿があった。
「ねぇねぇ! 今思い付きで呪文唱えてみたんだけど、どう!? 魔女っぽく見えた??」
「ふぇ!? ……う、うん。魔女っぽいと思うよ……。」
ルナは子供のような無邪気な姿で目を輝かせていた。
思っていた以上に呪文がハマったようだ。
そんな彼女を前に青年はポカンと口を開けて固まっている。
「浄化は終わったからもう不調や悪い事は起こらなくなると思うよ!」
「えっ、なんでそれを……?」
「皆そうだったからね。詳しい話は後でしてあげる!」
会話のやり取りをしていると遠くから瑠璃の姿が見えた。
皆の姿を見つけ走って向かってくる。
「光が見えたから場所が解った」と安堵していた。
合流出来るか不安だったのが伝わってくる。
魔獣は遠くへ蹴飛ばした事と浄化は無事終わった事、ここは危険だから場所を変える事をルナは告げる。
「……立てる?」
「う、うん。」
青年と碧はゆっくりと立ち上がる。
全速力で走り続けていたせいで身体が重い。
ただ、「もう悪い事は起きない」と言われ青年は少し気が楽になっていた。
ルナは崖のある方向に少し進んで「行くよー。」と一声かけ皆が来るのを待っている。
「……大丈夫そうで良かった。」
瑠璃は微笑みながらそう言うとルナの元へ伸びをしながら歩いて向かった。
崖の上へ戻り元来た道へ戻るとルナと話をしている。
夕方まではまだまだ時間がある。
休憩と移動をもう少し繰り返すつもりでいるようだ。
「…………。」
ルナと瑠璃を呆然と眺めながら青年は何かを呟いた。
立ち尽くしている二人をルナが呼ぶ。
「早く行かないと魔獣が来るよー」と言うルナの言葉に青年は過剰に反応する。
青年と碧は顔を見合わせ後に続いた。
代わり映えしない景色の中を十数分ほど歩くと少しキツめの登り道があった。
ここを登って少し先のところで休憩しようとルナは言う。
「二人を探してた時、瑠璃ったらここの坂道で滑ってこけそうになってたんだよ。」
「ち、ちょっとルナ! それは言わない約束でしょ!?」
「いいじゃん! 面白いし!」
「……もう!」
そんな二人のやり取りを聞いて碧が「ふふっ」と笑う。
青年は前の二人を眺めつつ隣りを歩く碧を横目で見ていると、彼女は視線に気付き青年の方を向く。
「……さっきは守ってくれてありがとう。」
「え? あ、う、うん……。」
お礼を言われるのが初めてだった青年は照れくさくなり思わずそっぽを向いてしまった。
坂を登り青年と出会った切り株だらけの場所から更に奥へ進んだところまで戻ってくると、ルナはここで休憩しようと促した。
どこからともなく出したレジャーシートを地面に敷き、「疲れたー!」とその上で寝転ぼうとするルナをはしたないと瑠璃が叱っている。
時計回りにルナ、瑠璃、碧、青年が輪になって座る形となった。
「やー、一時はどうなる事かと思ったけど無事に合流出来て良かったよー。」
「えっと、その……さっきは逃げてごめんなさい。あと……助けてくれてありがとう。」
「過ぎた事だし気にしてないよ。ところでキミ、名前は? あ、ボクはルナ! こっちは……。」
「瑠璃です、よろしくね。」
青年は目の前にいるルナを見ながら先程の犬の姿を思い出す。
碧が話してくれた通り、彼女は目の前で今の人型に姿を変えていた。
先程の魔獣が放った氷も自分が放った薄紫色の何かもそうだが、未知の領域に足を踏み入れたような感覚を味わう。
あれは一体何だったのだろうと青年の脳裏を過ぎる。
「えっと、その……。実は何も思い出せなくて、名前もわかんなくて……。」
青年が答えるとルナは「ふむふむ、やっぱりそうか」と言い少しばかりの沈黙の時が流れた。
「大丈夫だよ。ここに居る二人もそうだし、思い出せないのは当たり前だから。」
「……へ?」
「キミ、本来は人間じゃなくて宝石なんだよね。オニキスっていう魔除けの石なんだけど。魔力が宿って今の姿に変化したのがキミ。今まで宝石だったんだから記憶がなくて当たり前ー! さっきキミが使ってた魔法がその証拠。人間は魔法、使えないから。」
「……え、って事は碧も瑠璃も宝石って事?」
「ご名答! 飲み込みが早くて助かるよー!」
青年は右隣りに居る碧と目の前に居る瑠璃を交互に見ていた。
自分が宝石で、彼女達も宝石。
ルナはロボット。
信じられないようで、どこか腑に落ちている部分もあった。
「じゃあ、今から名前視てみるからじっとしててね。」
「へ? どゆこと?」
「宝石には石の個性が入ってるから、それを視るんだよ。」
「……よくわかんねぇけど、お願いします。」
ルナは青年に向けて手をかざし、人で言う心臓部分にある宝石を視る。
彼女の手のひらから淡い光が溢れ出ている。
それは皆が見とれてしまうほど優しく温かい光だった。
十秒ほど経過し終わらせたルナは青年の目を見ながらゆっくりと口を開く。
「キミの名前は黒斗だ。よろしくな!」
そう言ってニカッと笑っていた。
瑠璃と碧も一緒に微笑んでいる。
――誰かに受け入れてもらえる事がこんなに嬉しい事だとは思わなかったな……。
ここに来て心の温かさに触れた黒斗はようやっと心を落ち着かせる事が出来たのだった。
「……あぁ、よろしく。」
名前を貰った事にむず痒さを抱きつつ黒斗は皆に笑ってみせた。
青年と碧は今も魔獣に追いかけられていた。
距離は少しずつ離せられているにも関わらず一向に終わる気配がない。
そろそろ疲れが出てきている。
「碧、まだいけるか?」
青年は後ろを振り向き様子を確認する。
碧は「ふぇ~……」と泣きながら首を横に振って青年に訴えかけている。
このまま逃げているだけではこちらが動けなくなってしまい、襲われるのは時間の問題だ。
――せめて隠れられる場所があれば碧だけでも……。
そう思ったが何処を見回してもそんな場所は見当たらない。
「グルルルッ……。」
後ろから魔獣の呻き声が聞こえる。
青年はもう一度振り向きそれを確認する。
追いかけてきているのは相変わらずだが先程までとは様子が違った。
まるで何かを企んでいるかのような雰囲気が漂っている。
……嫌な予感がした。
「ガウゥゥッ!!」
魔獣は走るスピードを落とす事なく何かを投げるような仕草で右手を振り払う。
振り払った手から光が現れ青年の元へ勢いよく向かってくる。
その光は後ろを振り返っていた青年の後頭部をスレスレで通り過ぎ、すぐ近くの右側の木にバンッ! という音を立てぶつかった。
光は瞬時に氷へと変化し、ぶつかった木の一部分を凍らせたのだった。
「はぁ!? 何だよアレ!? 無理だって!!!」
青年は半べそをかきながら必死に考える。
アレに当たってしまえば確実に終わる。
自分達が凍る姿なんて想像したくもない。
助かる方法なんてわからない。
――石でも投げつけてみるか?
ふと青年の脳裏を過ぎったが慌てて振り払う。
街で続いた災難続きの日々を思い返してみても、何をしてもしなくても面倒事ばかりだった。
例え石を投げたとしても逆上して危険な目に合う可能性が高い。
そう考えると何も出来なかった。
魔獣の攻撃を避ける度に森のあちこちが凍っていく。
その攻撃の一つが前方の地面に直撃する。
「わっ!!」
「ひゃあ!!」
瞬時に凍った目先の地面を避けられず二人は転倒してしまう。
全速力で走っていた分ぶつけた身体の衝撃も大きく、二人は立ち上がる事が出来ずにいた。
――どうしよう。
青年の心を焦りと恐怖が更に襲いかかる。
もうダメかもしれないと諦めそうになったが、そばにいる碧が視界に入り、それではいけないと首を横に振り気持ちを切り替える。
彼女をこれ以上危険な目に合わせたくない。
青年は「考えろ」と必死で自分に言い聞かせた。
そうこうしている内に魔獣が目と鼻の先まで来ている。
魔獣は碧を標的に右手を振り下ろそうとした。
「碧!!」
青年は無我夢中で碧の前に立とうとするも、凍った地面で滑ってしまい体勢を崩してしまった。
右膝を打ち痛みを堪えながらも手のひらを前にして右手を差し出す。
《彼女を守りたい》
その想いだけが青年を突き動かす。
襲いかかる魔獣の手に反射的に目を閉じてしまった。
「ガウゥゥ!?」
青年の手の先から淡い光が放たれる。
そこから瞬時に薄紫色の膜のようなものが青年と碧を包み込み、ほぼ同時に当たった魔獣の手をその膜が跳ね返したのだった。
何も起こらない現状に気付き青年は恐る恐る目を開ける。
目の前には自身の手を確認しながら首を傾げる魔獣の姿があった。
「え……何これ……。どうなってんの?」
青年は辺りを見渡しはしたものの現状を把握出来なかった。
右斜め後ろに座り込んでいる碧は怯えたまま魔獣と青年を交互に眺めている。
彼女も理解出来ていないようだ。
「大丈夫? 怪我してない?」と青年は碧に声をかける。
膝に痣が出来てはいたがそれ以外は平気そうだった。
「見つけたー!!」
碧がいる方向から叫び声と共に一匹の犬が勢いよく走ってくる。
ルナだ。
彼女は走るスピードを緩めることなく二人の元へ向かってくる。
魔獣がいる場所の数歩前で白い煙と共に変身を解き、本来の人型の姿で蹴りを入れた。
瞬く間に魔獣は蹴られた方向に飛ばされていく。
犬の姿で猛スピードで走ってきていたとはいえ、ルナの脚力は人間の少女のものとは明らかに違うものだった。
蹴られた魔獣は遠くまで飛ばされて行き、既に視界から見えなくなっていた。
「間に合って良かったー……。その様子だと大怪我はしてなさそうだね。」
「ルナ……!!」
「碧ー? ボクから離れるなって言ったよねぇ??」
「ふぇ!? ご、ごめんなさい……。」
「……まぁいいや。ところで……。」
ルナは青年に目を向けた。
「ひっ…。」と身を震わせて怖がる青年の魔力を視る。
彼の身体の中には確かに探していた師匠の霞んだ魔力があった。
霞んだ魔力を集中して観測し、コアとなっている宝石を探す。
くっきりと視えるのに時間はかかったがそこには黒い宝石が見えた。
「戻ってくる可能性があるから早々に立ち去りたいんだけど、その前にキミを浄化させてもらうね。」
「へ? じ、浄化?」
驚く青年に「そのまま動かないでね」と念を押し一歩前へ進む。
もう一度宝石を確認したルナは一度目を閉じ一呼吸してから再度向き合った。
「魔除けの石、オニキスよ。今からお前を浄化する!」
瑠璃の浄化の時と同様にルナの周りを光の粒子と風が舞う。
「浄化魔法」と唱えると同時に青年を光が包み込む。
瞬く間に風が吹き荒れ、それが体感二十秒ほど続いた。
風が収まり座り込んだままの青年と碧は目を開ける。
視線の先には得意気な表情で仁王立ちしているルナの姿があった。
「ねぇねぇ! 今思い付きで呪文唱えてみたんだけど、どう!? 魔女っぽく見えた??」
「ふぇ!? ……う、うん。魔女っぽいと思うよ……。」
ルナは子供のような無邪気な姿で目を輝かせていた。
思っていた以上に呪文がハマったようだ。
そんな彼女を前に青年はポカンと口を開けて固まっている。
「浄化は終わったからもう不調や悪い事は起こらなくなると思うよ!」
「えっ、なんでそれを……?」
「皆そうだったからね。詳しい話は後でしてあげる!」
会話のやり取りをしていると遠くから瑠璃の姿が見えた。
皆の姿を見つけ走って向かってくる。
「光が見えたから場所が解った」と安堵していた。
合流出来るか不安だったのが伝わってくる。
魔獣は遠くへ蹴飛ばした事と浄化は無事終わった事、ここは危険だから場所を変える事をルナは告げる。
「……立てる?」
「う、うん。」
青年と碧はゆっくりと立ち上がる。
全速力で走り続けていたせいで身体が重い。
ただ、「もう悪い事は起きない」と言われ青年は少し気が楽になっていた。
ルナは崖のある方向に少し進んで「行くよー。」と一声かけ皆が来るのを待っている。
「……大丈夫そうで良かった。」
瑠璃は微笑みながらそう言うとルナの元へ伸びをしながら歩いて向かった。
崖の上へ戻り元来た道へ戻るとルナと話をしている。
夕方まではまだまだ時間がある。
休憩と移動をもう少し繰り返すつもりでいるようだ。
「…………。」
ルナと瑠璃を呆然と眺めながら青年は何かを呟いた。
立ち尽くしている二人をルナが呼ぶ。
「早く行かないと魔獣が来るよー」と言うルナの言葉に青年は過剰に反応する。
青年と碧は顔を見合わせ後に続いた。
代わり映えしない景色の中を十数分ほど歩くと少しキツめの登り道があった。
ここを登って少し先のところで休憩しようとルナは言う。
「二人を探してた時、瑠璃ったらここの坂道で滑ってこけそうになってたんだよ。」
「ち、ちょっとルナ! それは言わない約束でしょ!?」
「いいじゃん! 面白いし!」
「……もう!」
そんな二人のやり取りを聞いて碧が「ふふっ」と笑う。
青年は前の二人を眺めつつ隣りを歩く碧を横目で見ていると、彼女は視線に気付き青年の方を向く。
「……さっきは守ってくれてありがとう。」
「え? あ、う、うん……。」
お礼を言われるのが初めてだった青年は照れくさくなり思わずそっぽを向いてしまった。
坂を登り青年と出会った切り株だらけの場所から更に奥へ進んだところまで戻ってくると、ルナはここで休憩しようと促した。
どこからともなく出したレジャーシートを地面に敷き、「疲れたー!」とその上で寝転ぼうとするルナをはしたないと瑠璃が叱っている。
時計回りにルナ、瑠璃、碧、青年が輪になって座る形となった。
「やー、一時はどうなる事かと思ったけど無事に合流出来て良かったよー。」
「えっと、その……さっきは逃げてごめんなさい。あと……助けてくれてありがとう。」
「過ぎた事だし気にしてないよ。ところでキミ、名前は? あ、ボクはルナ! こっちは……。」
「瑠璃です、よろしくね。」
青年は目の前にいるルナを見ながら先程の犬の姿を思い出す。
碧が話してくれた通り、彼女は目の前で今の人型に姿を変えていた。
先程の魔獣が放った氷も自分が放った薄紫色の何かもそうだが、未知の領域に足を踏み入れたような感覚を味わう。
あれは一体何だったのだろうと青年の脳裏を過ぎる。
「えっと、その……。実は何も思い出せなくて、名前もわかんなくて……。」
青年が答えるとルナは「ふむふむ、やっぱりそうか」と言い少しばかりの沈黙の時が流れた。
「大丈夫だよ。ここに居る二人もそうだし、思い出せないのは当たり前だから。」
「……へ?」
「キミ、本来は人間じゃなくて宝石なんだよね。オニキスっていう魔除けの石なんだけど。魔力が宿って今の姿に変化したのがキミ。今まで宝石だったんだから記憶がなくて当たり前ー! さっきキミが使ってた魔法がその証拠。人間は魔法、使えないから。」
「……え、って事は碧も瑠璃も宝石って事?」
「ご名答! 飲み込みが早くて助かるよー!」
青年は右隣りに居る碧と目の前に居る瑠璃を交互に見ていた。
自分が宝石で、彼女達も宝石。
ルナはロボット。
信じられないようで、どこか腑に落ちている部分もあった。
「じゃあ、今から名前視てみるからじっとしててね。」
「へ? どゆこと?」
「宝石には石の個性が入ってるから、それを視るんだよ。」
「……よくわかんねぇけど、お願いします。」
ルナは青年に向けて手をかざし、人で言う心臓部分にある宝石を視る。
彼女の手のひらから淡い光が溢れ出ている。
それは皆が見とれてしまうほど優しく温かい光だった。
十秒ほど経過し終わらせたルナは青年の目を見ながらゆっくりと口を開く。
「キミの名前は黒斗だ。よろしくな!」
そう言ってニカッと笑っていた。
瑠璃と碧も一緒に微笑んでいる。
――誰かに受け入れてもらえる事がこんなに嬉しい事だとは思わなかったな……。
ここに来て心の温かさに触れた黒斗はようやっと心を落ち着かせる事が出来たのだった。
「……あぁ、よろしく。」
名前を貰った事にむず痒さを抱きつつ黒斗は皆に笑ってみせた。
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