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Episode 1 【No Name】
#3
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体感十秒くらいが経過し浄化が終わった。
部屋一帯を風が舞ったせいで先程以上に散らかってしまっている。
家具は倒れる程ではなかったが、一番近くにあったテーブルだけはベッド側に動いているように見えた。
テーブル上の書類も幾つか床に散らばっているせいでますます足の踏み場を失っている。
女性の頭部付近で祈りを捧げていた碧は涙目で自身の後頭部をさすっていた。
「いったぁ…。なんか硬いのが当たった…。」
碧の後ろには先程まではなかった十センチ程の大きさの白い箱が落ちていた。
テーブルの上にあった物だ。
少し潰れているとはいえ箱の角は今も健在だ。
おそらくそれが頭に当たったのだろう。
「この子、もう大丈夫なの?」
「うん。でも早く起こしてこの森から出なきゃ。」
「そうだね。」
――もしもーし、大丈夫ですかー?
碧は女性を軽く揺らしながら呼びかけた。
浄化は終わっている上に呼吸があるのは確認している。
このまま目覚めるのを待ちたいところではあるが生憎そうも言っていられない。
ここは瘴気の中、早く脱出しなければ全員が危ない。
そう考えていたルナはとりあえずと右手に拳を作り女性に殴りかかろうとする。
「ええぇぇぇ!? ルナ何してるの!? 止めて!!!」
「いやぁ、殴ったら目覚めるかなと思って!」
「そんな『てへっ☆』って顔して言わないでよ!! ダメー!!!」
「軽くだったら大丈夫だって! きっと。」
「ダメ! ルナの軽くは全然軽くないのっ!!」
突然のルナの行動に碧は呆れていた。
救ったばかりの彼女を殴ろうとするのは意味がわからないと頭を抱えている。
二人が言い合いをしていると、その声が耳に入って来たのか女性の目がゆっくり開く。
「…声がする…誰?」
声に気付いた二人は言い合うのを止め女性を見た。
フラフラしながらも上半身を起こす彼女を碧が支える。
――良かった。
ルナは思わず言葉が零れた。
「ボクはルナ。そっちは碧。キミを助けに来たんだ。」
「わたしを…?」
女性は碧の顔を見る。
ニッコリと微笑む彼女を見ながら倒れる前の事がうっすらと頭に浮かんでいた。
窓から外を覗いたあの日に女性が見たのは間違いなく彼女だ。
――確か犬のような動物も一緒にいたような気がする。
女性がそう思い出しているところにルナが話を続ける。
「ところでキミ、名前は?ここで何してたか覚えてる?」
女性は顎に手を当て思い返している。
名前はもちろん目覚める前の記憶がない事、この家の中で五日ほど過ごし、外に出たハズが一歩も出ていなかった事を二人に話した。
「ふむふむ…。おそらく、重度の瘴気酔いで心と身体が離れた状態になっていた可能性があるな。」
「瘴気酔い?」
「うん。まぁ詳しい話は後!ちょっと待ってね…。」
そう言ってルナは彼女に手をかざし目を閉じた。
彼女の右手からは優しい光が溢れている。
十秒ほどが経ち光が収まるとルナはゆっくりを目を開ける。
「……キミの名前は瑠璃だよ。よろしくね!」
「え? う、うん。突然どうしたの?」
「キミの名前を魔法で視ていたんだよ。」
唐突に名前を告げられ瑠璃は困惑する。
ルナが言うには魔法を使って本来の名前を引き出したに過ぎないという。
――本来の名前ってなんだろう?
そう考え込んでいると「よっこらしょっと」と掛け声を出しながらルナが立ち上がった。
「そろそろ長居は危険だ。この森から脱出するよ!」
「はーい。」
隣に居る碧も立ち上がり二人は外に出ていった。
瑠璃も慌てて二人に続くが、ふと思い出した事があり「ちょっと待ってて」と急いで部屋に戻る。
ルナ達は不思議に思いながら待っていると、瑠璃が一冊の分厚い本を抱えて戻ってきた。
「本? 気に入ってるの?」
「ううん。ノートなんだけど、日記を残してて…。」
「他に思い残しはない?」
「うん、大丈夫!」
瑠璃が用事を済ませたのを確認するとルナは先頭に立ち、右の手のひらを頭上高く上げる。
彼女の右手から淡い光が空へと伸び、そこを中心に直径三メートルほどのドーム型の光の膜が現れた。
その光は半透明で地面まで降りている。
碧と瑠璃は口を開けて呆然と眺めていた。
「瘴気酔いの症状はすぐには治まらないだろうから歩いていこう。」
「ルナ、この光はなぁに?」
「ボク達は防壁魔法って呼んでるかな。人間のおとぎ話にある″バリア″ってのと似てるかも。」
「防壁魔法…? バリア…?」
「ま、自分達の身を守る魔法って事!」
二人は不思議に思いながら空を見上げその防壁を眺めた。
先程より安心感を抱いているようで、心做しか二人の緊張気味の表情が和らいだように見える。
どんよりとした空間であるのは変わらないが、防壁魔法の効果で内側の空気は軽く過ごしやすくなっていた。
「さぁー!出るぞー!!」
ルナは少しご機嫌な様子で口ずさみながら歩き出した。
役目を終えた事に達成感を抱いているようだ。
そんな彼女に続いて二人はついて行く。
遠くに見える淡い光の先には知らない景色が待っている。
そう考えると瑠璃の心は踊り自然と笑みが零れた。
――この景色を見るのも最後。しっかり目に焼き付けて日記に綴ろう。
そんな想いを胸に辺りをキョロキョロと見渡し景色を堪能している。
そんな彼女を碧は隣で微笑みながら見ていた。
出発してから十分ほどが経ち、森の出口まで後数分の距離まで歩いてきた。
先程より出口が眩く光っているせいで目を開けていられなくなる。
「そろそろ出るよ!」
ルナは出口の先を指差し、笑顔で瑠璃を見つめている。
「少し走ろう!」とルナの一言で三人は一斉に走り出す。
瘴気酔いもだいぶ治まってきていた瑠璃の身体は軽くなっていた。
――呼吸さえも苦しかったのが嘘のよう。
瑠璃は走る事さえも嬉しくて堪らなくなった。
「ゴールっ!!」
一番に抜け出したルナは飛び跳ねながら二人にピースサインを見せびらかす。
先程までの大人びた言動とは打って変わった少女の姿だ。
一位だの優勝だの一人でワイワイ騒いでいる。
二番目に到着した碧は両膝に手を置き呼吸を整えていた。
「わぁ!!」
数秒遅れて到着した瑠璃は初めて見る景色に心を奪われていた。
目の前に広がる下り坂の草原は空一面に広がる夕焼け色に染まっている。
見上げると三羽の白い鳥が同じ方向へ飛んでいた。
ただ森を出ただけなのに、まるで別次元に訪れたかのように見える。
ゆったりと流れる時間が心地良いと瑠璃は思った。
「綺麗…。」
「綺麗だね。」
瑠璃と碧は顔を見合わせて笑った。
目を輝かせながら景色を堪能する瑠璃を二人はただただ見守る。
――もう少しこのままにしておいてあげよう。
ルナはそう思いながら、先程の森での事を思い返し脳内で整理する。
───幸いそのまま入っても平気だったけれど濃度の濃い瘴気だった。
あれ以上の濃度だったら防壁魔法がないと厳しかっただろうな。
森の中に一軒だけあった家が印象深かった。
誰も居ない場所に家を建てて暮らす事自体はおかしいことではないが、やけに散らかっていたのは家主の性格からなのか、瑠璃以外の第三者が荒らした可能性があった。
仮に第三者だとしたら戻ってくる可能性は十分あったハズだ。
そう考えると瑠璃はあれ以上に危険な環境にいたということになる。
あの時、瑠璃の魔力と同時にボクは視てしまったのだ。
実際この目を通して見ているわけではなく魔力感知で大体の形が浮かび上がって視ていただけだが、あの家から七百メートルほど奥に進んだ辺りには木の枝に括り付けられているロープで首を吊っている小太りの男性の遺体が確認出来た。
その遺体を更に濃い瘴気が包み込んでいる。
この瘴気の起因はおそらくコイツだ。
この事実に関しては二人に伝えるべきではないだろう。
下手に手を出して面倒事に巻き込まれるのは御免だし、何より人との関わりは避けたい。
目的は果たせたんだ。これ以上関与する理由は無い。
一先ずこの森には二度と入らないように後で二人に伝えよう。
「よーし、アウトプット完了っ。圧縮して保存して終ーわり!」
パソコンを使っているかのような物言いで独り言を零したルナは、先程の出来事を整理し終え空を見上げた。
夕焼けが右奥へと落ちていこうとしている。
そろそろ夜がやってくる。
「二人とも、そろそろ行こうか。あっちの湖前で今日も寝よう。」
ルナが指さしたのは森の出口から斜め左を向いて丘を下った場所にある小さな湖だった。
湖の周りを木々がポツポツと疎らに囲っている。
その中に一箇所だけ周りの木々よりも少し大きな切り株があった。
あの辺りで今日は過ごすらしい。
ルナを先頭に三人は湖へと向かった。
ポンッ!
ルナは胸元で両手を小さく広げた。
両手の間の何も無い空間から白い煙が音を立てて現れる。
煙はすぐに納まり、その代わり現れたのは鋼色のシンプルなデザインをしたランタンだった。
現れたランタンを受け止め、右手人差し指をそれに向けると指先から淡い光が溢れている。
光が収まったと同時にランタンに光が灯っていた。
「わぁ!」と瑠璃は物珍しそうに言葉を漏らした。
おおよそ十五分ほど下り坂を歩く。
まだ灯りなしでも十分歩けはするが、空は段々と暗くなっている。
「暗くなる前に着いて良かった。」と、ルナは湖側に向かうと大きな切り株の上で胡座をかいた。
――ミニスカートで胡座をかいて大丈夫なのだろうか。
瑠璃は少し心配になったが心に留めておくことにした。
ランタンを中央に置いてそれを囲うように二人も座る。
一息ついたところでルナは話を切り出した。
「えーっと、何から話せばいいのかな?」
「最初は自己紹介からじゃない?」
「確かに!」
ルナは「なるほど!」と右手を左手のひらにポンッと乗せた後話を続ける。
「改めまして、ボクはルナ! パッと見わかんないかもしれないけどロボットなんだ!」
「え、ロボット…?」
「うん! 触ってみたらわかるよ。」
ルナはそう言って右手を差し出してきたので、瑠璃は恐る恐るルナの手に触れる。
左手に伝う感触は鋼のように硬い。
思わぬ感触に「硬っ!」という言葉が零れていた。
「ボクはね、魔女になる為に修行をしてるんだ!」
自慢げにニカッと笑いながら彼女は言う。
「ロボットって魔法が使えるの?」
瑠璃は疑問をルナに投げつける。
詳しい事まではわからないけれど、確か使えなかったのではないだろうか。
目覚めた時からそうだったけれど、知識だけがあるのは違和感がある。
そんな考えが彼女の脳裏を過ぎっていた。
「普通は使えないよ。師匠と出会う前まで魔法は使えなかったし。師匠が言うにはボクの体内のコアには宝石とは別の石が使われていて、そこに魔力を注いでくれたから魔法が使えるようになったんだって。」
ルナは首を傾げながら話す。
魔力はその師匠がルナに注いだそうで、そこから一年ほど弟子入りをして修行に励んでいるという。
「その師匠にこの前、『最終試練としてオレの魔力を探す事を命ずる。全てを見つけた時、お前を一人前の魔女として認めてやる。』って言われてさ。その直後に目の前で消えてったんだよ。意味わかんなくて、どうしたらいいのかわかんなかった時に碧に出会ったんだ。」
「どうも~…」と軽くお辞儀をする碧はどこかぎこちない様子だった。
話の流れで紹介された事でどう反応すればいいのかわからなくなったのだろう。
ぎこちなく微笑んでいる碧を横目にルナが本題に入ろうとした。
「じゃあ次。碧にはこの前話したけど、キミ達二人の事について話しておくね。」
──あれ、碧さんの自己紹介は?
瑠璃は疑問に思ったが、話の流れから聞き返しづらく、ひとまず話を聞く事にする。
その疑問以上に、今一番知りたい事を聞けると思うと胸が高鳴るのであった。
部屋一帯を風が舞ったせいで先程以上に散らかってしまっている。
家具は倒れる程ではなかったが、一番近くにあったテーブルだけはベッド側に動いているように見えた。
テーブル上の書類も幾つか床に散らばっているせいでますます足の踏み場を失っている。
女性の頭部付近で祈りを捧げていた碧は涙目で自身の後頭部をさすっていた。
「いったぁ…。なんか硬いのが当たった…。」
碧の後ろには先程まではなかった十センチ程の大きさの白い箱が落ちていた。
テーブルの上にあった物だ。
少し潰れているとはいえ箱の角は今も健在だ。
おそらくそれが頭に当たったのだろう。
「この子、もう大丈夫なの?」
「うん。でも早く起こしてこの森から出なきゃ。」
「そうだね。」
――もしもーし、大丈夫ですかー?
碧は女性を軽く揺らしながら呼びかけた。
浄化は終わっている上に呼吸があるのは確認している。
このまま目覚めるのを待ちたいところではあるが生憎そうも言っていられない。
ここは瘴気の中、早く脱出しなければ全員が危ない。
そう考えていたルナはとりあえずと右手に拳を作り女性に殴りかかろうとする。
「ええぇぇぇ!? ルナ何してるの!? 止めて!!!」
「いやぁ、殴ったら目覚めるかなと思って!」
「そんな『てへっ☆』って顔して言わないでよ!! ダメー!!!」
「軽くだったら大丈夫だって! きっと。」
「ダメ! ルナの軽くは全然軽くないのっ!!」
突然のルナの行動に碧は呆れていた。
救ったばかりの彼女を殴ろうとするのは意味がわからないと頭を抱えている。
二人が言い合いをしていると、その声が耳に入って来たのか女性の目がゆっくり開く。
「…声がする…誰?」
声に気付いた二人は言い合うのを止め女性を見た。
フラフラしながらも上半身を起こす彼女を碧が支える。
――良かった。
ルナは思わず言葉が零れた。
「ボクはルナ。そっちは碧。キミを助けに来たんだ。」
「わたしを…?」
女性は碧の顔を見る。
ニッコリと微笑む彼女を見ながら倒れる前の事がうっすらと頭に浮かんでいた。
窓から外を覗いたあの日に女性が見たのは間違いなく彼女だ。
――確か犬のような動物も一緒にいたような気がする。
女性がそう思い出しているところにルナが話を続ける。
「ところでキミ、名前は?ここで何してたか覚えてる?」
女性は顎に手を当て思い返している。
名前はもちろん目覚める前の記憶がない事、この家の中で五日ほど過ごし、外に出たハズが一歩も出ていなかった事を二人に話した。
「ふむふむ…。おそらく、重度の瘴気酔いで心と身体が離れた状態になっていた可能性があるな。」
「瘴気酔い?」
「うん。まぁ詳しい話は後!ちょっと待ってね…。」
そう言ってルナは彼女に手をかざし目を閉じた。
彼女の右手からは優しい光が溢れている。
十秒ほどが経ち光が収まるとルナはゆっくりを目を開ける。
「……キミの名前は瑠璃だよ。よろしくね!」
「え? う、うん。突然どうしたの?」
「キミの名前を魔法で視ていたんだよ。」
唐突に名前を告げられ瑠璃は困惑する。
ルナが言うには魔法を使って本来の名前を引き出したに過ぎないという。
――本来の名前ってなんだろう?
そう考え込んでいると「よっこらしょっと」と掛け声を出しながらルナが立ち上がった。
「そろそろ長居は危険だ。この森から脱出するよ!」
「はーい。」
隣に居る碧も立ち上がり二人は外に出ていった。
瑠璃も慌てて二人に続くが、ふと思い出した事があり「ちょっと待ってて」と急いで部屋に戻る。
ルナ達は不思議に思いながら待っていると、瑠璃が一冊の分厚い本を抱えて戻ってきた。
「本? 気に入ってるの?」
「ううん。ノートなんだけど、日記を残してて…。」
「他に思い残しはない?」
「うん、大丈夫!」
瑠璃が用事を済ませたのを確認するとルナは先頭に立ち、右の手のひらを頭上高く上げる。
彼女の右手から淡い光が空へと伸び、そこを中心に直径三メートルほどのドーム型の光の膜が現れた。
その光は半透明で地面まで降りている。
碧と瑠璃は口を開けて呆然と眺めていた。
「瘴気酔いの症状はすぐには治まらないだろうから歩いていこう。」
「ルナ、この光はなぁに?」
「ボク達は防壁魔法って呼んでるかな。人間のおとぎ話にある″バリア″ってのと似てるかも。」
「防壁魔法…? バリア…?」
「ま、自分達の身を守る魔法って事!」
二人は不思議に思いながら空を見上げその防壁を眺めた。
先程より安心感を抱いているようで、心做しか二人の緊張気味の表情が和らいだように見える。
どんよりとした空間であるのは変わらないが、防壁魔法の効果で内側の空気は軽く過ごしやすくなっていた。
「さぁー!出るぞー!!」
ルナは少しご機嫌な様子で口ずさみながら歩き出した。
役目を終えた事に達成感を抱いているようだ。
そんな彼女に続いて二人はついて行く。
遠くに見える淡い光の先には知らない景色が待っている。
そう考えると瑠璃の心は踊り自然と笑みが零れた。
――この景色を見るのも最後。しっかり目に焼き付けて日記に綴ろう。
そんな想いを胸に辺りをキョロキョロと見渡し景色を堪能している。
そんな彼女を碧は隣で微笑みながら見ていた。
出発してから十分ほどが経ち、森の出口まで後数分の距離まで歩いてきた。
先程より出口が眩く光っているせいで目を開けていられなくなる。
「そろそろ出るよ!」
ルナは出口の先を指差し、笑顔で瑠璃を見つめている。
「少し走ろう!」とルナの一言で三人は一斉に走り出す。
瘴気酔いもだいぶ治まってきていた瑠璃の身体は軽くなっていた。
――呼吸さえも苦しかったのが嘘のよう。
瑠璃は走る事さえも嬉しくて堪らなくなった。
「ゴールっ!!」
一番に抜け出したルナは飛び跳ねながら二人にピースサインを見せびらかす。
先程までの大人びた言動とは打って変わった少女の姿だ。
一位だの優勝だの一人でワイワイ騒いでいる。
二番目に到着した碧は両膝に手を置き呼吸を整えていた。
「わぁ!!」
数秒遅れて到着した瑠璃は初めて見る景色に心を奪われていた。
目の前に広がる下り坂の草原は空一面に広がる夕焼け色に染まっている。
見上げると三羽の白い鳥が同じ方向へ飛んでいた。
ただ森を出ただけなのに、まるで別次元に訪れたかのように見える。
ゆったりと流れる時間が心地良いと瑠璃は思った。
「綺麗…。」
「綺麗だね。」
瑠璃と碧は顔を見合わせて笑った。
目を輝かせながら景色を堪能する瑠璃を二人はただただ見守る。
――もう少しこのままにしておいてあげよう。
ルナはそう思いながら、先程の森での事を思い返し脳内で整理する。
───幸いそのまま入っても平気だったけれど濃度の濃い瘴気だった。
あれ以上の濃度だったら防壁魔法がないと厳しかっただろうな。
森の中に一軒だけあった家が印象深かった。
誰も居ない場所に家を建てて暮らす事自体はおかしいことではないが、やけに散らかっていたのは家主の性格からなのか、瑠璃以外の第三者が荒らした可能性があった。
仮に第三者だとしたら戻ってくる可能性は十分あったハズだ。
そう考えると瑠璃はあれ以上に危険な環境にいたということになる。
あの時、瑠璃の魔力と同時にボクは視てしまったのだ。
実際この目を通して見ているわけではなく魔力感知で大体の形が浮かび上がって視ていただけだが、あの家から七百メートルほど奥に進んだ辺りには木の枝に括り付けられているロープで首を吊っている小太りの男性の遺体が確認出来た。
その遺体を更に濃い瘴気が包み込んでいる。
この瘴気の起因はおそらくコイツだ。
この事実に関しては二人に伝えるべきではないだろう。
下手に手を出して面倒事に巻き込まれるのは御免だし、何より人との関わりは避けたい。
目的は果たせたんだ。これ以上関与する理由は無い。
一先ずこの森には二度と入らないように後で二人に伝えよう。
「よーし、アウトプット完了っ。圧縮して保存して終ーわり!」
パソコンを使っているかのような物言いで独り言を零したルナは、先程の出来事を整理し終え空を見上げた。
夕焼けが右奥へと落ちていこうとしている。
そろそろ夜がやってくる。
「二人とも、そろそろ行こうか。あっちの湖前で今日も寝よう。」
ルナが指さしたのは森の出口から斜め左を向いて丘を下った場所にある小さな湖だった。
湖の周りを木々がポツポツと疎らに囲っている。
その中に一箇所だけ周りの木々よりも少し大きな切り株があった。
あの辺りで今日は過ごすらしい。
ルナを先頭に三人は湖へと向かった。
ポンッ!
ルナは胸元で両手を小さく広げた。
両手の間の何も無い空間から白い煙が音を立てて現れる。
煙はすぐに納まり、その代わり現れたのは鋼色のシンプルなデザインをしたランタンだった。
現れたランタンを受け止め、右手人差し指をそれに向けると指先から淡い光が溢れている。
光が収まったと同時にランタンに光が灯っていた。
「わぁ!」と瑠璃は物珍しそうに言葉を漏らした。
おおよそ十五分ほど下り坂を歩く。
まだ灯りなしでも十分歩けはするが、空は段々と暗くなっている。
「暗くなる前に着いて良かった。」と、ルナは湖側に向かうと大きな切り株の上で胡座をかいた。
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瑠璃は少し心配になったが心に留めておくことにした。
ランタンを中央に置いてそれを囲うように二人も座る。
一息ついたところでルナは話を切り出した。
「えーっと、何から話せばいいのかな?」
「最初は自己紹介からじゃない?」
「確かに!」
ルナは「なるほど!」と右手を左手のひらにポンッと乗せた後話を続ける。
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「え、ロボット…?」
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詳しい事まではわからないけれど、確か使えなかったのではないだろうか。
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*綿飴ルナの創作物について*
綿飴ルナの創作物である音楽、動画、イラスト、小説は以下サイト《YouTube、niconico(現在非公開・投稿停止中)、デジタル配信(動画の概要欄に公開している配信先一覧リンクをご参照ください)、pixiv、ポイピク、カクヨ厶》のみ投稿しております。
即ち創作物が上記以外の場所(Xやインスタ、ブルースカイ等)で投稿されている場合、それらはわたしが投稿しているものではございません。
無断転載(再配布)に該当すると判断致しますので、見かけた場合は反応しないようご協力お願いします。
創作物は個人使用のみOK、オリジナル作品に関しましては現時点でファンアート以外の二次創作(歌ってみたやカバーも含む)は禁止とさせていただいております。
よろしくお願いします。
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