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18)あっけない再会
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「ユーリア、いつまで抱きついてる。」
「ああ、そうね!」
ユーリアは涙で潤んだ目をこすりイザークを見上げる。
「傷はどう?ご飯はちゃんと食べれてる?眠れてる?」
「大丈夫だから、離れろ。」
イザークはユーリアから顔を背けてぶっきらぼうに答える。
「まさか会えるなんて!うれしい。」
ユーリアは素直に答えた。ほんといつもそうなんだけど、イザークはちっともうれしそうじゃないけど。
「イザーク、私ここで皇女の女官をやってるのよ。なぜか知らないけど抜擢されて。夫のフォンラン侯爵も皇子からの申し出だから断れないし、気持ちよく送り出してくれたわ。」
「皇子とは会ったのか?」
「それが会っていないのよ。後ろ姿を拝見したくらい。だからなお不思議なの。もしかしたら何かあるのかもしれないね。」
イザークは心配そうな顔を見せる。
「でもね、王城に来れるのはまたとない機会だし、それに、」
ユーリアが手のひらを口に当てて小声で言った。
「侯爵夫人も悪くないけど、もっとステップアップできるかもしれないし。」
「確かにそうかもしれないが…。」
イザークは次の言葉を呑み込んだ。ここは王の城であり、どこで誰が聞いているか分からない。彼は何かを考えるよう瞳を下げたが、すぐにユーリアを見て言った。
「もうすぐ宴も終わる。戻らないと。」
ユーリアはハッとした。宴が終わると1番最初に退出するのは王族たちだ。口早に話す。
「イザーク、あなたまた王城にくるわよね。その時また会いましょう。ね、きっとよ。」
そう言って駆け足でイザークに手を振りながら会場に戻った。
—————
「あんなにつまんない宴に参加させといて、あなたは楽しく騎士とやっていたらしいじゃない。」
ベアトリス皇女は待女たちに足湯でマッサージをされながら、恨めしそうな顔でユーリアを見る。
「は…。イザーク•ホルスのことでしょうか?申し訳ありません。彼は私の実家であるシュナイン家からの付き合いでして…。」
2人で会ったあの場所は、周りに人の気配はしなかったが、やはり城の情報網は侮れない。後ろめたいことはなかったが、さすがに仕事中に舞い上がってしまったのはよくない。
ベアトリスは綺麗にといた銀の髪の先を指でくるくると巻いた。
「私はいいけど、城のみんなは噂話に飢えてるから気をつけなさい。それに、」
14歳の瞳とは思えない冷静な眼差しでユーリアを見据えた。
「ルキオス団の彼ていうのもよくないわ。」
「えっ、それはどういう…。」
イザークは城の従者や待女に評判が悪いのだろうか?どちらかというと騎士団の中でも若くして活躍しており、将来有望という良い話が多い。
アルザス団が嫌うなら分かるが。
「ユーリアはフランアイズナッハ王の瞳を見たことある?」
ベアトリスは父のことを父とは呼ばない。
「いえ、恐れ多いことですので…。」
何度も会ったことはあったが、頭を垂れているか、遠くで拝見するかとのどちらかなので、瞳を見る機会などない。
「兄にも第二皇子にも会ったことはないわね。」
「ええ。」
「私は基本的に噂など興味ないけど、時には信憑性があるものもあるかもしれないとは思っているわ。」
意味深い言葉だったが、ユーリアにはその時の言葉が何を意味するか全く分からなかった。
—————
「第一皇子に彼女を女官に推挙したのは私だよ。」
執務室で書類に目を通しながら、ルキオス団長は大したことでもないように話した。
「だけど最終的に決めたのは皇子だ。それに、彼は私のことを大して信用していないことは知っているだろう?ただのちゃらんぽらんな人間だと思われてる。」
イザークはそんな言葉では到底納得できなかった。ユーリアが女官になったという話を聞いてからいろいろ情報を集めた。しかしどこを探しても彼女が推挙される理由が見当たらなかった。
「フォンラン侯爵夫人は第一皇子とは面識もないはず。それなのに決めたのは団長が彼女に関する有用な情報を与えたのでは?」
「さあて、私はフォンラン侯爵家を切り盛りしているのはもはや彼女だということ。フォンラン家は第一皇子の支持者でもあるから申し分ない。あとは年齢も若く、彼女の兄はアレだが、それ以外に政治的な思想もないといった話はしたかな。…あ、あとなかなか可愛い顔をしていたことも言ったかなあ。」
「そんな女性であれば他にもいたはずでしょう。」
実際もっと第一皇子と繋がりが深い貴族は複数あるし、みんな家の繁栄のために子をたくさん作っていた。
ルキオスは観念したかのようにバサっと書類を置き、ニコニコと微笑む。
「あと、彼女がシュナイン家の出だとも伝えたよ。それが決定打だったかもしれない。」
イザークはハッとした顔をした後、みるみる眉間に皺を寄せる。
「まあ君も少し思い当たる節ががあるんじゃない?君が噂通りの人かは知らないけど。第一皇子だって気にならない話ではないだろう。」
「しかし噂は所詮噂です。」
「ふーん。君は矛盾しているね。出世すればこの事態は予想できただろう。なのにいつまでも関係ないという立場をとっている。…まあいいや。それより、」
ルキオスは両肘を机について続けた。
「今回の国境の戦いで我が団の副団長がいなくなった訳じゃない?だから昇進して階級が団の次席になった君が自動的そのポジションになることになるからね。」
イザークは予想していたことなので驚きはしなかった。それよりも話を変えられたことにもどかしさを感じた。
「これから騎士団の総長でもある王と、我が団との細かい調整は君に任されることになる。なので城には頻繁に出入りすることになるだろう。」
「すぐに出征するものだと思っていました。」
「いよいよ本格的に戦いが始まればそうなるだろうけどね。んーもうそろそろいいか?取調べみたいな話はこれ以上よしてくれ。あーあ。久しぶりに私が出征したいよ。ミラの宿に行ってやりたいことはたくさんあるのに。」
そう言いながらルキオスは空に向かって両手を広げてモミモミする。
「冗談はよしてください。」
「ハハハ!そんな嫌な顔しないで。君は僕のおかげでミラの宿で散々な目にあったもんね。」
彼は昔を思い出して大笑いをした。
イザークはそれを見てため息をついた。
「話はそれたが、立場も上がったんだ。気になるんなら、第一皇子に女官のことを自分で直接聞けばいい。」
イザークはルキオスを推し量るように見つめた。
第一皇子とはそんなに簡単に話せるものではない。
しかし、ルキオスは無責任にそんなことを言って、話が終わったのでさっさとイザークに出ていくよう手で合図した。
「ああ、そうね!」
ユーリアは涙で潤んだ目をこすりイザークを見上げる。
「傷はどう?ご飯はちゃんと食べれてる?眠れてる?」
「大丈夫だから、離れろ。」
イザークはユーリアから顔を背けてぶっきらぼうに答える。
「まさか会えるなんて!うれしい。」
ユーリアは素直に答えた。ほんといつもそうなんだけど、イザークはちっともうれしそうじゃないけど。
「イザーク、私ここで皇女の女官をやってるのよ。なぜか知らないけど抜擢されて。夫のフォンラン侯爵も皇子からの申し出だから断れないし、気持ちよく送り出してくれたわ。」
「皇子とは会ったのか?」
「それが会っていないのよ。後ろ姿を拝見したくらい。だからなお不思議なの。もしかしたら何かあるのかもしれないね。」
イザークは心配そうな顔を見せる。
「でもね、王城に来れるのはまたとない機会だし、それに、」
ユーリアが手のひらを口に当てて小声で言った。
「侯爵夫人も悪くないけど、もっとステップアップできるかもしれないし。」
「確かにそうかもしれないが…。」
イザークは次の言葉を呑み込んだ。ここは王の城であり、どこで誰が聞いているか分からない。彼は何かを考えるよう瞳を下げたが、すぐにユーリアを見て言った。
「もうすぐ宴も終わる。戻らないと。」
ユーリアはハッとした。宴が終わると1番最初に退出するのは王族たちだ。口早に話す。
「イザーク、あなたまた王城にくるわよね。その時また会いましょう。ね、きっとよ。」
そう言って駆け足でイザークに手を振りながら会場に戻った。
—————
「あんなにつまんない宴に参加させといて、あなたは楽しく騎士とやっていたらしいじゃない。」
ベアトリス皇女は待女たちに足湯でマッサージをされながら、恨めしそうな顔でユーリアを見る。
「は…。イザーク•ホルスのことでしょうか?申し訳ありません。彼は私の実家であるシュナイン家からの付き合いでして…。」
2人で会ったあの場所は、周りに人の気配はしなかったが、やはり城の情報網は侮れない。後ろめたいことはなかったが、さすがに仕事中に舞い上がってしまったのはよくない。
ベアトリスは綺麗にといた銀の髪の先を指でくるくると巻いた。
「私はいいけど、城のみんなは噂話に飢えてるから気をつけなさい。それに、」
14歳の瞳とは思えない冷静な眼差しでユーリアを見据えた。
「ルキオス団の彼ていうのもよくないわ。」
「えっ、それはどういう…。」
イザークは城の従者や待女に評判が悪いのだろうか?どちらかというと騎士団の中でも若くして活躍しており、将来有望という良い話が多い。
アルザス団が嫌うなら分かるが。
「ユーリアはフランアイズナッハ王の瞳を見たことある?」
ベアトリスは父のことを父とは呼ばない。
「いえ、恐れ多いことですので…。」
何度も会ったことはあったが、頭を垂れているか、遠くで拝見するかとのどちらかなので、瞳を見る機会などない。
「兄にも第二皇子にも会ったことはないわね。」
「ええ。」
「私は基本的に噂など興味ないけど、時には信憑性があるものもあるかもしれないとは思っているわ。」
意味深い言葉だったが、ユーリアにはその時の言葉が何を意味するか全く分からなかった。
—————
「第一皇子に彼女を女官に推挙したのは私だよ。」
執務室で書類に目を通しながら、ルキオス団長は大したことでもないように話した。
「だけど最終的に決めたのは皇子だ。それに、彼は私のことを大して信用していないことは知っているだろう?ただのちゃらんぽらんな人間だと思われてる。」
イザークはそんな言葉では到底納得できなかった。ユーリアが女官になったという話を聞いてからいろいろ情報を集めた。しかしどこを探しても彼女が推挙される理由が見当たらなかった。
「フォンラン侯爵夫人は第一皇子とは面識もないはず。それなのに決めたのは団長が彼女に関する有用な情報を与えたのでは?」
「さあて、私はフォンラン侯爵家を切り盛りしているのはもはや彼女だということ。フォンラン家は第一皇子の支持者でもあるから申し分ない。あとは年齢も若く、彼女の兄はアレだが、それ以外に政治的な思想もないといった話はしたかな。…あ、あとなかなか可愛い顔をしていたことも言ったかなあ。」
「そんな女性であれば他にもいたはずでしょう。」
実際もっと第一皇子と繋がりが深い貴族は複数あるし、みんな家の繁栄のために子をたくさん作っていた。
ルキオスは観念したかのようにバサっと書類を置き、ニコニコと微笑む。
「あと、彼女がシュナイン家の出だとも伝えたよ。それが決定打だったかもしれない。」
イザークはハッとした顔をした後、みるみる眉間に皺を寄せる。
「まあ君も少し思い当たる節ががあるんじゃない?君が噂通りの人かは知らないけど。第一皇子だって気にならない話ではないだろう。」
「しかし噂は所詮噂です。」
「ふーん。君は矛盾しているね。出世すればこの事態は予想できただろう。なのにいつまでも関係ないという立場をとっている。…まあいいや。それより、」
ルキオスは両肘を机について続けた。
「今回の国境の戦いで我が団の副団長がいなくなった訳じゃない?だから昇進して階級が団の次席になった君が自動的そのポジションになることになるからね。」
イザークは予想していたことなので驚きはしなかった。それよりも話を変えられたことにもどかしさを感じた。
「これから騎士団の総長でもある王と、我が団との細かい調整は君に任されることになる。なので城には頻繁に出入りすることになるだろう。」
「すぐに出征するものだと思っていました。」
「いよいよ本格的に戦いが始まればそうなるだろうけどね。んーもうそろそろいいか?取調べみたいな話はこれ以上よしてくれ。あーあ。久しぶりに私が出征したいよ。ミラの宿に行ってやりたいことはたくさんあるのに。」
そう言いながらルキオスは空に向かって両手を広げてモミモミする。
「冗談はよしてください。」
「ハハハ!そんな嫌な顔しないで。君は僕のおかげでミラの宿で散々な目にあったもんね。」
彼は昔を思い出して大笑いをした。
イザークはそれを見てため息をついた。
「話はそれたが、立場も上がったんだ。気になるんなら、第一皇子に女官のことを自分で直接聞けばいい。」
イザークはルキオスを推し量るように見つめた。
第一皇子とはそんなに簡単に話せるものではない。
しかし、ルキオスは無責任にそんなことを言って、話が終わったのでさっさとイザークに出ていくよう手で合図した。
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