おやすみご飯

水宝玉

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大根のそぼろあんとコンビニチキン

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さて。
閉店後のルーティンは終わり。
いそいそとナチュラルな木のお盆に自分の分の朝餉を盛り付けてカウンターで軽く手を合わせる。
「いただきます」

今日の朝ごはんはコンビニチキンと大根のあんかけに、お雑煮の残り物。

まずは暖かいうちにコンビニチキンをさくり。
ジュワッと油が滲み出て、夜勤明けの疲れた体に染みる。
このジャンク感が堪らなく良い。
ススっとお吸い物を口に含めば、出汁のふくよかな香りがホッとする。
うん、今日のお出汁も良く出来てる。疲れて店を訪れる人達がほんの少しだけホッとできる場所を作りたくて始めた店。
毎日お客様にお出しするものと同じものを少しだけ頂いて、自分の気持ちと自問自答する。
疲れた時、悲しい時、辛い時。
ほんの少しだけ、ご飯を食べて元気をもらう。
強すぎない仄かな光が癒してくれる時に、食べたいものってなんだろう。

仄かな光が体の中に入って、胃の辺りからほんわりと体を癒していくのを眺めるのが好きだ。
その人の事を考えながらほんの少しだけ味を足したり引いたり。
お節介だなぁ、なんて我ながら思ったりもするんだけど。
そのお節介で、ほんの少しだけその人が笑顔になってくれたらそれで良いとおもう。
たまにちょっとやりすぎたりしてこっそり頭を抱えることもあるんですけどね。そこら辺はほら、日々勉強です。

大根にすっと箸を入れる。
柔らかく煮えた大根はさして抵抗もなく箸を飲み込んでいく。
一口サイズに割った大根をぱくり。
うん、良く染みてる。
夜にはもっと染み込んで良い感じになるんじゃないかしら。
暑くなってきたら餡を海老に変えて冷やしてお出しするのも良いかも。
料理の事を考えているとワクワクして止まらない。
表面をパリッとするまで焼いた餅を頬張りながら料理の事を考える。この時間が好きだなぁ、と何となく思う。

「ごちそうさまでした」

ささっと食事を済ませ、ふと神棚を見ると神棚はほんわりと光っていた。どうやら今日も神様に気に入って頂けたようだ。

軽く自分用の食器を片付けているとカラン、と店のベルが鳴った。時間通りだ。

「どうもー。今日の分お届けにあがりましたー」
「いつもありがとうございます。」
すっかり顔馴染みになった配達員の重田さんは手際よく荷物を運んでくれる。
濡れた地面で冷やされた朝の空気は少し肌寒い。
荷物を運び終わった重田さんに温めておいた缶コーヒーを手渡す。
「やぁ、いつもすんません」
「いえいえ、こちらこそ」
「ははっ。今度店のやってる時にお邪魔しますんで、そんときは宜しくお願いしますねー!」
ニコニコとしながら軽く頭を下げて次の配達先に出かけていく重田さんを見送る。
朝早くでも重田さんはいつも元気だ。
届いた食材を確認する。
野菜の追加分をリストにして日付と共に書き出して一つずつしまっていく。どれも瑞々しくてとても美味しそう。
続いて魚のリスト作り。
貝が何種類かと鰆。
いくつかは味噌漬けにして今日はお刺身とシンプルに焼きにしようかな。
そうと決まれば鰆の下拵えをして本日のメニューをしたためる。
カウンターの掃除まで済ませるともう外からはザワザワと人の気配を感じる時間だ。

あとは開店前の作業で良いかな。
うーん、と伸びをして店の電気を消す。
戸締りを確認してカウンターの奥にある階段に向かう。
店の2階が私の住居だ。寝室とお風呂だけのシンプルな部屋。
お祖母様から受け継いだ家を、活かせる所は活かしてフルリノベーションしたこのこじんまりとした家と店が私のお城だ。
基本的に寝るだけの部屋と化しているが特に人を呼ぶわけでもないので特に不自由は感じていない。

お気に入りのお香を焚いている間に、予約で入れておいた湯船に浸かりのんびりとお風呂を済ませ、好きな香りに包まれてベッドに潜り込む。
シンプルな生活だけど、これが私の最高の贅沢だ。

ベッドに潜り込めば温まった体はあっという間に睡魔に襲われる。
おやすみなさい。またあとで。
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