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大根のそぼろあんとコンビニチキン
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シトシトと降る雨の音が聞こえる。
ほんの少しカウンターの中にある小窓を開けると薄らと雨の匂いがした。
お客さんはまばら。
こんな雨の日でもきてくれるのはありがたい。
少し肌寒いくらいの気温の中で降る雨は何処か優しくて個人的には好きだ。
暇な日には営業中に明日の分も仕込みを行う。
出汁作りでもするか、と鰹節を削る。
細波の様に店の中に鰹節を削る音がリズミカルに響く。
ボールに山盛りの鰹節を削って思わず満足げに息をつく。
削った鰹節を一つ摘み食い。うん、美味しい。
冷蔵庫から漬けておいた昆布出汁を取り出し、沸騰直前まで火にかける。昆布を取り出して鰹節をふぁさっと鍋に入れる。
魔法使いにでもなった気分で、出汁を作る作業はいつも楽しい。旨味たっぷりの鰹節からじんわりじんわりと旨みが溶け出してくる。
丁寧に灰汁を取り除いたら1/3はすぐに濾して粗熱を取っておく。
残りはそのまま弱火にかけて旨味をギリギリまで煮出す。開店中に出汁を取った日だけは何かしらのお吸い物をお客さんにサービスでお出ししている。わざわざお吸い物用に毎回出汁を分けている訳ではないので、こういう時だけ。
具材もその時その時の有り合わせ。
今日はたまたまお餅があったので小さく切って柚子と三つ葉を添えて、簡易的なお雑煮にした。
揚げ餅も美味しいんだけど、今日は折角だから焼きで。
でも、とりたての出汁で作ったお吸い物ってやっぱり香りが良いので、なんだかんだ皆さん喜んでくださっているみたい。
皆さん、そんな色になってる。
カラン。
「いらっしゃいませ、こんばんわ…あら、洋さん」
「お、今日出汁の日?」
「ええ、洋さんも召し上がります?お雑煮」
「あー、残念。今日飯食ってきちまったんだよなぁ。」
「あら、残念」
うーん、と何やら悩んでいる洋さんにいつものお酒をお出ししようとすると珍しく待ったがかかった。
「今日はこっち」
普段は頼まない日本酒を所望されて、ピンとくる。
「出汁割りにします?」
「分かってるねえ」
ではグラスも升じゃなくて耐熱のものにしようかな。
エイヒレの炙りと枝豆をオーダーして、洋さんはのんびりと酒を煽る。
「最近、目の調子はどうだい?」
「相変わらずですよ。頭痛もありませんし」
「そりゃあ何より」
「何かあったらよろしくお願いしますね?お師匠様?」
「ははっ。よく言う。もう何年も俺の世話になんかなってねえじゃねぇか」
「まぁ。私なんかとても本職さんには敵いませんよ」
半分程になったグラスを受け取り、出汁を注ぐ。
出汁で温められた酒から良い香りが匂い立つ。
「どうぞ、ごゆっくり」
「ありがとさん」
昔から人や物に色が付いて見えた。
生き物はそれぞれに纏う色や光があって、その端っこがその時の感情によって色が変わる。
嬉しい気持ちの時は明るい色、悲しい時は暗い色。その気持ちの強さで色の濃さが変わってくるし、強い色は段々とその生き物自身の色として混じっていく。
良い物であっても悪い物であっても、その生き物自体に影響するぐらいの強い色に長時間晒された後には酷い頭痛に見舞われた。
また、テレビに出ている様な人達は色とりどりではあるけれど大抵は強く光っていてこちらも長く見続けていると目が疲れてシパシパした。
小さい頃はそう言う物なんだと思っていたけど、どうやら普通はそうでは無いらしい、と気付いた頃に出逢ったのが洋さんだ。
目の使い方を洋さんに教わって、悪い物の簡易的な祓い方や頭痛の対処法を教わって。
もう何年も前の話だけど、こうして今でも何となく縁が続いている。
有難いことだ。
こう見えて義理堅い人だから、何かと理由をつけてはこうして気に掛けてくれている。
今日も多分、気にしてくれたんだろうな。
雨の日は悪いモノが来る事が多いから。
いくつかの野菜の下拵えを済ませ、その合間に何人かのお客様を見送る。
店先に出ると、いつの間にか雨は止んでいた。
「…ふわーぁ」
ゆっくりと一杯飲み干す頃に不意に欠伸をした洋さんを見て、ふと微笑む。
「…今日は大丈夫そうですよ。お客さんも今日はもう来なさそうですし、早めに店じまいしちゃいます。」
「なーんだお前………バァカ、そういうんじゃねえって」
洋さんは少し苦笑して、店にいつのまにか自分しか居ない事に気がついたようで、バツが悪そうに財布からお札をだした。
「ごっそさん。………まぁ、なんだ。心配してる訳じゃねえけどよう。……なんかあったらいつでも言えよ?」
お釣りを手渡すと洋さんは立ち上がって、小さい子供にするみたいにポンポン、と私の頭を軽く叩く様に撫でた。
「ふふ。頼りにしてますよ。……おやすみなさい」
うーん。私だって何時迄も小さい子供じゃ無いんだけどなあ。
見えない様に少し苦笑。
全く仕方がない人だ。洋さんの中ではいつまでも私は小さい妹みたいな存在なのだろうなぁ。
まぁ、とはいえ、私にしたってそう嫌でもないのがまた困る。
洋さんはそこら辺の匙加減が実に上手い。
下心が全く無い色をしている癖に自然にああいう事をするから、あの人は天然人たらしなんだよなあ。
洋さんの姿が曲がり角を曲がって見えなくなるまで見送って、店の札を裏返した。
ほんの少しカウンターの中にある小窓を開けると薄らと雨の匂いがした。
お客さんはまばら。
こんな雨の日でもきてくれるのはありがたい。
少し肌寒いくらいの気温の中で降る雨は何処か優しくて個人的には好きだ。
暇な日には営業中に明日の分も仕込みを行う。
出汁作りでもするか、と鰹節を削る。
細波の様に店の中に鰹節を削る音がリズミカルに響く。
ボールに山盛りの鰹節を削って思わず満足げに息をつく。
削った鰹節を一つ摘み食い。うん、美味しい。
冷蔵庫から漬けておいた昆布出汁を取り出し、沸騰直前まで火にかける。昆布を取り出して鰹節をふぁさっと鍋に入れる。
魔法使いにでもなった気分で、出汁を作る作業はいつも楽しい。旨味たっぷりの鰹節からじんわりじんわりと旨みが溶け出してくる。
丁寧に灰汁を取り除いたら1/3はすぐに濾して粗熱を取っておく。
残りはそのまま弱火にかけて旨味をギリギリまで煮出す。開店中に出汁を取った日だけは何かしらのお吸い物をお客さんにサービスでお出ししている。わざわざお吸い物用に毎回出汁を分けている訳ではないので、こういう時だけ。
具材もその時その時の有り合わせ。
今日はたまたまお餅があったので小さく切って柚子と三つ葉を添えて、簡易的なお雑煮にした。
揚げ餅も美味しいんだけど、今日は折角だから焼きで。
でも、とりたての出汁で作ったお吸い物ってやっぱり香りが良いので、なんだかんだ皆さん喜んでくださっているみたい。
皆さん、そんな色になってる。
カラン。
「いらっしゃいませ、こんばんわ…あら、洋さん」
「お、今日出汁の日?」
「ええ、洋さんも召し上がります?お雑煮」
「あー、残念。今日飯食ってきちまったんだよなぁ。」
「あら、残念」
うーん、と何やら悩んでいる洋さんにいつものお酒をお出ししようとすると珍しく待ったがかかった。
「今日はこっち」
普段は頼まない日本酒を所望されて、ピンとくる。
「出汁割りにします?」
「分かってるねえ」
ではグラスも升じゃなくて耐熱のものにしようかな。
エイヒレの炙りと枝豆をオーダーして、洋さんはのんびりと酒を煽る。
「最近、目の調子はどうだい?」
「相変わらずですよ。頭痛もありませんし」
「そりゃあ何より」
「何かあったらよろしくお願いしますね?お師匠様?」
「ははっ。よく言う。もう何年も俺の世話になんかなってねえじゃねぇか」
「まぁ。私なんかとても本職さんには敵いませんよ」
半分程になったグラスを受け取り、出汁を注ぐ。
出汁で温められた酒から良い香りが匂い立つ。
「どうぞ、ごゆっくり」
「ありがとさん」
昔から人や物に色が付いて見えた。
生き物はそれぞれに纏う色や光があって、その端っこがその時の感情によって色が変わる。
嬉しい気持ちの時は明るい色、悲しい時は暗い色。その気持ちの強さで色の濃さが変わってくるし、強い色は段々とその生き物自身の色として混じっていく。
良い物であっても悪い物であっても、その生き物自体に影響するぐらいの強い色に長時間晒された後には酷い頭痛に見舞われた。
また、テレビに出ている様な人達は色とりどりではあるけれど大抵は強く光っていてこちらも長く見続けていると目が疲れてシパシパした。
小さい頃はそう言う物なんだと思っていたけど、どうやら普通はそうでは無いらしい、と気付いた頃に出逢ったのが洋さんだ。
目の使い方を洋さんに教わって、悪い物の簡易的な祓い方や頭痛の対処法を教わって。
もう何年も前の話だけど、こうして今でも何となく縁が続いている。
有難いことだ。
こう見えて義理堅い人だから、何かと理由をつけてはこうして気に掛けてくれている。
今日も多分、気にしてくれたんだろうな。
雨の日は悪いモノが来る事が多いから。
いくつかの野菜の下拵えを済ませ、その合間に何人かのお客様を見送る。
店先に出ると、いつの間にか雨は止んでいた。
「…ふわーぁ」
ゆっくりと一杯飲み干す頃に不意に欠伸をした洋さんを見て、ふと微笑む。
「…今日は大丈夫そうですよ。お客さんも今日はもう来なさそうですし、早めに店じまいしちゃいます。」
「なーんだお前………バァカ、そういうんじゃねえって」
洋さんは少し苦笑して、店にいつのまにか自分しか居ない事に気がついたようで、バツが悪そうに財布からお札をだした。
「ごっそさん。………まぁ、なんだ。心配してる訳じゃねえけどよう。……なんかあったらいつでも言えよ?」
お釣りを手渡すと洋さんは立ち上がって、小さい子供にするみたいにポンポン、と私の頭を軽く叩く様に撫でた。
「ふふ。頼りにしてますよ。……おやすみなさい」
うーん。私だって何時迄も小さい子供じゃ無いんだけどなあ。
見えない様に少し苦笑。
全く仕方がない人だ。洋さんの中ではいつまでも私は小さい妹みたいな存在なのだろうなぁ。
まぁ、とはいえ、私にしたってそう嫌でもないのがまた困る。
洋さんはそこら辺の匙加減が実に上手い。
下心が全く無い色をしている癖に自然にああいう事をするから、あの人は天然人たらしなんだよなあ。
洋さんの姿が曲がり角を曲がって見えなくなるまで見送って、店の札を裏返した。
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