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里芋の唐揚げと、鮭の焼きおにぎり
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そうこうしているうちに気がつけばグラスの中身は空になっていた。
里芋もとっくに空だ。
もう一杯飲みたい様な。
うーん、どうしようかな。
少しだけフワッとした感じが心地良い。
お酒は割と強い方だけど。
しかも明日は休みなんだけど。
一応私も女性。そこそこ夜も更けている。
とは言え仕事柄そこら辺の男性にはそうそう負けない自信はあるし、そもそもここら辺の治安は良く、このご時世とは言えまだ人通りもそれなりにはある。だからこそ一人でも気軽に飲みに出かけられてはいるんだけど。
うーん。
「お待たせしました」
香ばしい味噌の匂いが鼻に抜ける。
手際よく空いた皿を下げ、店主がカウンターに置いたのは小降りな焼きおにぎりが三つと漬物が乗った一皿。
…………スッ。
空になったグラスを顔の近くまであげ、少し顔を傾けると店主が微笑んで軽く頷く。
無言で差し出された手にグラスを手渡す。
「同じものでよろしかったですか?」
「お願いします。あ、良かったらグラスはそのままで結構です」
…分かる。これは呑めるやつだ。
なんならこの添えてある漬物でも呑める。
お酒が来る前にまずは熱々を一口。
ザク。はふはふ。もちもちっ。じゅわぁ。
焦がした葱味噌の味が舌の上に溢れる。
そうそう。こういうの!こういうのが食べたかった!もうちょっと足りないなぁ、をちょうど充してくれるこの感じ。塩気を感じるよりもちょっと甘味の強い味噌が良い感じだ。
玄米で作られた焼きおにぎりは絶妙なおこげの固さとも相まって見た目よりも随分食べ応えがある。そして噛めば噛むほどに美味しい。
「はい、どうぞ。」
それほど待たずに店主がお酒を持ってきてくれた。
咀嚼に忙しく、コクコクと頷いて両手でグラスを受け取る。
口の中が空になって、風味がまだ残っているところに酒を一口流し込む。
ぷはあ。
さらり、と酒の香りが喉を通っていく。
口の中が幸せだ。
ああ、今日この店を選んだ私、本当にグッジョブ。
おにぎりをもう一口。
ん?味噌とは違う風味。
これは、鮭か。
鮭自体の塩気は少なめ。でも、しっとりとして全体に脂を含んだ身自体が濃厚で、味噌の味を邪魔しないのにこちらも負けじと存在感を示してくる。
ああーーーこれはもうねぇ、呑んじゃうよねえ。
自分の直感が正しかった事を確信して脳内で再度自画自賛する。よくやったぞ私。
あっという間におにぎり一つとおかわりのお酒が半分胃におさまった。
「お客様、本当に美味しそうに食べてくれますねぇ」
2個目に突入していた私にニコニコと店主が私に声をかけた。
「店主さん…これ…もう………大正解です………!」
「フフ。こちらも気に入って頂けたみたいで良かったです」
そういって店主がカウンターに小ぶりの茶碗と私の手のひらに乗るくらいの急須を載せた。
「最後の一つは、こちらでどうぞ。こちら、お出汁が入ってますので…」
オーマイガー。
「至れり…尽せり……っ」
「恐縮です」
クスクスと笑いながら他の客に呼ばれて店主が去っていく。
締めまで最高かよ………っ!
決めた。今後ここの店に通うことを。
酒と2個目のおにぎりを堪能し、漬物をパクリ。
良く浸かった野沢菜の滋味深さにほう、と息を吐く。
酒の最後の一口をグビリ。
お楽しみはまだまだ続く。
フワフワした頭が心地良い。
茶碗に出汁をほんの少しだけ注ぐ。
もうここまで来たら隅から隅まで味わい尽くしたい。
湯気の立つ出汁を口に含めば鰹の風味がガツンと薫って、ただでさえ酒でフワフワした脳が痺れるみたいだ。
あの美味しいおにぎりをこのおいしい出汁に入れてしまうだなんて。ずるい。いや、ずるいを通り越してもはや背徳感すら感じる。
ちょうど良く冷めたおにぎりを茶碗に入れて、その上からそうっと出汁を注ぎ入れる。
表面に塗られた味噌が出汁に溶け出す様子はもう、もはや愛しい。
ちょっと勿体無いけど、美しく握られたおにぎりを汁の中で崩す。
様々な旨味が溶け出した汁を一口。
あぁー。染みるぅ……………
我ながらちょっと婆婆くさい。
でもさあ、もう、反則でしょう。これは。
サラサラ、と茶碗に口をつけて出汁茶漬けを頬張る。
生きてて………良かった…………
誇張でも何でもなく、自然とそんな事を思う。
夢中で咀嚼し、最後の一滴まで飲み干した。
なんというか。満足感が凄い。
「はぁ。ご馳走様でした、美味しかったです」
軽く店主に手を挙げてお会計を済ませる。
今度来る時が既に楽しみだ。
気になったメニューもいくつかあるし、どうもその日しか食べられないメニューもありそうだ。
「おやすみなさい、お帰りお気をつけて」
小さく手を振る店主にまた来ます、と会釈を返して、幸せな気持ちのまま店を後にした。
ああ、今日は良い夢が見られそうだ。
里芋もとっくに空だ。
もう一杯飲みたい様な。
うーん、どうしようかな。
少しだけフワッとした感じが心地良い。
お酒は割と強い方だけど。
しかも明日は休みなんだけど。
一応私も女性。そこそこ夜も更けている。
とは言え仕事柄そこら辺の男性にはそうそう負けない自信はあるし、そもそもここら辺の治安は良く、このご時世とは言えまだ人通りもそれなりにはある。だからこそ一人でも気軽に飲みに出かけられてはいるんだけど。
うーん。
「お待たせしました」
香ばしい味噌の匂いが鼻に抜ける。
手際よく空いた皿を下げ、店主がカウンターに置いたのは小降りな焼きおにぎりが三つと漬物が乗った一皿。
…………スッ。
空になったグラスを顔の近くまであげ、少し顔を傾けると店主が微笑んで軽く頷く。
無言で差し出された手にグラスを手渡す。
「同じものでよろしかったですか?」
「お願いします。あ、良かったらグラスはそのままで結構です」
…分かる。これは呑めるやつだ。
なんならこの添えてある漬物でも呑める。
お酒が来る前にまずは熱々を一口。
ザク。はふはふ。もちもちっ。じゅわぁ。
焦がした葱味噌の味が舌の上に溢れる。
そうそう。こういうの!こういうのが食べたかった!もうちょっと足りないなぁ、をちょうど充してくれるこの感じ。塩気を感じるよりもちょっと甘味の強い味噌が良い感じだ。
玄米で作られた焼きおにぎりは絶妙なおこげの固さとも相まって見た目よりも随分食べ応えがある。そして噛めば噛むほどに美味しい。
「はい、どうぞ。」
それほど待たずに店主がお酒を持ってきてくれた。
咀嚼に忙しく、コクコクと頷いて両手でグラスを受け取る。
口の中が空になって、風味がまだ残っているところに酒を一口流し込む。
ぷはあ。
さらり、と酒の香りが喉を通っていく。
口の中が幸せだ。
ああ、今日この店を選んだ私、本当にグッジョブ。
おにぎりをもう一口。
ん?味噌とは違う風味。
これは、鮭か。
鮭自体の塩気は少なめ。でも、しっとりとして全体に脂を含んだ身自体が濃厚で、味噌の味を邪魔しないのにこちらも負けじと存在感を示してくる。
ああーーーこれはもうねぇ、呑んじゃうよねえ。
自分の直感が正しかった事を確信して脳内で再度自画自賛する。よくやったぞ私。
あっという間におにぎり一つとおかわりのお酒が半分胃におさまった。
「お客様、本当に美味しそうに食べてくれますねぇ」
2個目に突入していた私にニコニコと店主が私に声をかけた。
「店主さん…これ…もう………大正解です………!」
「フフ。こちらも気に入って頂けたみたいで良かったです」
そういって店主がカウンターに小ぶりの茶碗と私の手のひらに乗るくらいの急須を載せた。
「最後の一つは、こちらでどうぞ。こちら、お出汁が入ってますので…」
オーマイガー。
「至れり…尽せり……っ」
「恐縮です」
クスクスと笑いながら他の客に呼ばれて店主が去っていく。
締めまで最高かよ………っ!
決めた。今後ここの店に通うことを。
酒と2個目のおにぎりを堪能し、漬物をパクリ。
良く浸かった野沢菜の滋味深さにほう、と息を吐く。
酒の最後の一口をグビリ。
お楽しみはまだまだ続く。
フワフワした頭が心地良い。
茶碗に出汁をほんの少しだけ注ぐ。
もうここまで来たら隅から隅まで味わい尽くしたい。
湯気の立つ出汁を口に含めば鰹の風味がガツンと薫って、ただでさえ酒でフワフワした脳が痺れるみたいだ。
あの美味しいおにぎりをこのおいしい出汁に入れてしまうだなんて。ずるい。いや、ずるいを通り越してもはや背徳感すら感じる。
ちょうど良く冷めたおにぎりを茶碗に入れて、その上からそうっと出汁を注ぎ入れる。
表面に塗られた味噌が出汁に溶け出す様子はもう、もはや愛しい。
ちょっと勿体無いけど、美しく握られたおにぎりを汁の中で崩す。
様々な旨味が溶け出した汁を一口。
あぁー。染みるぅ……………
我ながらちょっと婆婆くさい。
でもさあ、もう、反則でしょう。これは。
サラサラ、と茶碗に口をつけて出汁茶漬けを頬張る。
生きてて………良かった…………
誇張でも何でもなく、自然とそんな事を思う。
夢中で咀嚼し、最後の一滴まで飲み干した。
なんというか。満足感が凄い。
「はぁ。ご馳走様でした、美味しかったです」
軽く店主に手を挙げてお会計を済ませる。
今度来る時が既に楽しみだ。
気になったメニューもいくつかあるし、どうもその日しか食べられないメニューもありそうだ。
「おやすみなさい、お帰りお気をつけて」
小さく手を振る店主にまた来ます、と会釈を返して、幸せな気持ちのまま店を後にした。
ああ、今日は良い夢が見られそうだ。
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