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里芋の唐揚げと、鮭の焼きおにぎり
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てっきり肉か魚が出てくるかと思えば、思いもよらないものが出て来た。
自分で頼んでいたら頼まなかったかもしれないな。
ゴクリ。
綺麗な狐色に揚がった里芋。
揚げた里芋を食べるのは初めてだ。
どんな味がするんだろう。
ここまで上がった期待を裏切らないものであると良いが。
そっと箸を寄せると箸の先からカリッとした感触が伝わって来た。
熱々の里芋を口に運ぶ。
サク。
「んん……っ!」
思わず顔がほころぶ。
サクッとした中からねっちりした食感の里芋が現れる。
外の衣にもややスパイシーな味付けがしてあるが、中の芋は出汁汁をたっぷり含んでいて、なんとも言えないハーモニーを生み出している。
思わずビールを煽る。
ゴッゴッゴッ……………プハーーーー!!!
半分程になっていたビールを一気に呷る。
これは…………呑める…………!
店主に声をかけようと顔を上げると、丁度店主と目が合う。客に圧迫感もストレスも全く感じさせない。この店主、できる。
軽く会釈すると店主が微笑む。
「何かお持ちしましょうか?」
「こちらの焼酎を……ロックで。」
「かしこまりました」
熱々のうちにもう少し食べたい。
でも、酒と一緒に食べたい気もする。
…………ううん。やっぱり我慢できん。
食べてしまえ。
もう一つ里芋を口に放り込む。小降りな里芋はちょうど一口で口に入る大きさで、ついつい箸が進んでしまう。小さめなのに衣は薄く、歯を立てるとパリっとすぐに割れ、すぐに里芋のねっとりとした食感の中に混ざり込んでしまう。
その癖、たまに顔を出してはこちらを楽しませる。
あっという間に口に入れた里芋を咀嚼し終わり、もう一つ口に入れてしまおうか、それとも他のツマミを頼もうか、と思っていると店主がころんとした薄張りのグラスに注がれた焼酎ロックを運んできてくれた。
「どうぞ」
「ありがとうございます。………凄い美味しいです。私、これ本当好きです」
店主の形の良い唇がにっこりと笑う。人好きのする心地良い笑顔だ。
「お口に合ったようで幸いです。他にも何かお持ちしましょうか?」
「うーん……」
確かにもうちょっと何か食べたい気がする。良質な油で満足感はあるものの、なんせお腹がペコペコだ。
「もう少し何か…欲しいとは思うんですけど。なんか、どれも美味しそうで。」
へへっと照れ笑い。でも本心だ。普段は割となんでもすぐ決める方なんだけどな。
アレもコレも食べてみたいけど、普段の自分ではあまり選ばないモノに出会って、それがこんなにも素晴らしかったら。もうちょっとだけ冒険したい様な気もする。
「あの。もう1つ、なにかオススメありません?」
突然の無茶振りにも店主はほわほわとした雰囲気を崩さない。
「うーん…そうですねぇ。まだお腹は空いていらっしゃいます?」
「そこそこ!」
「かしこまりました。少々お待ち下さい。」
軽く会釈をして店主が再びカウンターの奥へと向かう。
ちびり、ちびりと焼酎を啜りながら里芋をパクリ。うーん。
良い。
コレも良い。
一応妙齢の女性としては、ガッツリ行きたい気分でもこの時間だと鶏の唐揚げとかはちょっとだけ罪悪感があるのだけど。
何なら翌日の吹き出物を見てちょっとだけ後悔したりなんかするんだけど。
揚げ物に炭水化物とは言え芋は野菜だ。
誰がなんと言おうと。野菜。
ちっぽけな罪悪感などこの満足感の前にはあっという間に消し飛ぶ。
明日の事は明日の自分に任せてしまえ。
今はただこの幸福に酔いしれようじゃないか。
カラン。
「こんばんわ、どうぞ」
店主がそつ無く客を案内する。
少し離れたカウンターの席に無精髭の男性が座った。
ともすれば不潔そうな印象を与えそうなものなのに、男性からは不思議と嫌な感じはしない。なんならむしろ似合っている。
どこか飄々とした雰囲気のせいだろうか。
何とは無しに向けていた視線に気付いたのか男性が私に軽く会釈した。
こちらも軽く会釈を返す。
「アカリちゃん、今日里芋あんの?俺にも一つちょーだい」
男性は特に気分を害した風でも無く店主に声を掛けた。
常連さんか。
「かしこまりました。お飲物はどうされます?」
「いつものやつで」
「はぁい。少々お待ちくださいね」
見るでも無く何となく酒を飲みながら店主の動きを眺める。
無駄の無い、けれど何処かゆったりした動きを眺めているのが楽しい。
時々里芋を摘みながら酒を呑む。
ああ、良い時間だ。
升に入ったグラスになみなみと日本酒を注ぐ店主を眺めていると、日本酒も良いなぁなんて思えてくる。
ああ、でもそこまでは流石にやり過ぎかな。
この後お楽しみも待ってるし。酔い過ぎたら勿体無いか。
自分で頼んでいたら頼まなかったかもしれないな。
ゴクリ。
綺麗な狐色に揚がった里芋。
揚げた里芋を食べるのは初めてだ。
どんな味がするんだろう。
ここまで上がった期待を裏切らないものであると良いが。
そっと箸を寄せると箸の先からカリッとした感触が伝わって来た。
熱々の里芋を口に運ぶ。
サク。
「んん……っ!」
思わず顔がほころぶ。
サクッとした中からねっちりした食感の里芋が現れる。
外の衣にもややスパイシーな味付けがしてあるが、中の芋は出汁汁をたっぷり含んでいて、なんとも言えないハーモニーを生み出している。
思わずビールを煽る。
ゴッゴッゴッ……………プハーーーー!!!
半分程になっていたビールを一気に呷る。
これは…………呑める…………!
店主に声をかけようと顔を上げると、丁度店主と目が合う。客に圧迫感もストレスも全く感じさせない。この店主、できる。
軽く会釈すると店主が微笑む。
「何かお持ちしましょうか?」
「こちらの焼酎を……ロックで。」
「かしこまりました」
熱々のうちにもう少し食べたい。
でも、酒と一緒に食べたい気もする。
…………ううん。やっぱり我慢できん。
食べてしまえ。
もう一つ里芋を口に放り込む。小降りな里芋はちょうど一口で口に入る大きさで、ついつい箸が進んでしまう。小さめなのに衣は薄く、歯を立てるとパリっとすぐに割れ、すぐに里芋のねっとりとした食感の中に混ざり込んでしまう。
その癖、たまに顔を出してはこちらを楽しませる。
あっという間に口に入れた里芋を咀嚼し終わり、もう一つ口に入れてしまおうか、それとも他のツマミを頼もうか、と思っていると店主がころんとした薄張りのグラスに注がれた焼酎ロックを運んできてくれた。
「どうぞ」
「ありがとうございます。………凄い美味しいです。私、これ本当好きです」
店主の形の良い唇がにっこりと笑う。人好きのする心地良い笑顔だ。
「お口に合ったようで幸いです。他にも何かお持ちしましょうか?」
「うーん……」
確かにもうちょっと何か食べたい気がする。良質な油で満足感はあるものの、なんせお腹がペコペコだ。
「もう少し何か…欲しいとは思うんですけど。なんか、どれも美味しそうで。」
へへっと照れ笑い。でも本心だ。普段は割となんでもすぐ決める方なんだけどな。
アレもコレも食べてみたいけど、普段の自分ではあまり選ばないモノに出会って、それがこんなにも素晴らしかったら。もうちょっとだけ冒険したい様な気もする。
「あの。もう1つ、なにかオススメありません?」
突然の無茶振りにも店主はほわほわとした雰囲気を崩さない。
「うーん…そうですねぇ。まだお腹は空いていらっしゃいます?」
「そこそこ!」
「かしこまりました。少々お待ち下さい。」
軽く会釈をして店主が再びカウンターの奥へと向かう。
ちびり、ちびりと焼酎を啜りながら里芋をパクリ。うーん。
良い。
コレも良い。
一応妙齢の女性としては、ガッツリ行きたい気分でもこの時間だと鶏の唐揚げとかはちょっとだけ罪悪感があるのだけど。
何なら翌日の吹き出物を見てちょっとだけ後悔したりなんかするんだけど。
揚げ物に炭水化物とは言え芋は野菜だ。
誰がなんと言おうと。野菜。
ちっぽけな罪悪感などこの満足感の前にはあっという間に消し飛ぶ。
明日の事は明日の自分に任せてしまえ。
今はただこの幸福に酔いしれようじゃないか。
カラン。
「こんばんわ、どうぞ」
店主がそつ無く客を案内する。
少し離れたカウンターの席に無精髭の男性が座った。
ともすれば不潔そうな印象を与えそうなものなのに、男性からは不思議と嫌な感じはしない。なんならむしろ似合っている。
どこか飄々とした雰囲気のせいだろうか。
何とは無しに向けていた視線に気付いたのか男性が私に軽く会釈した。
こちらも軽く会釈を返す。
「アカリちゃん、今日里芋あんの?俺にも一つちょーだい」
男性は特に気分を害した風でも無く店主に声を掛けた。
常連さんか。
「かしこまりました。お飲物はどうされます?」
「いつものやつで」
「はぁい。少々お待ちくださいね」
見るでも無く何となく酒を飲みながら店主の動きを眺める。
無駄の無い、けれど何処かゆったりした動きを眺めているのが楽しい。
時々里芋を摘みながら酒を呑む。
ああ、良い時間だ。
升に入ったグラスになみなみと日本酒を注ぐ店主を眺めていると、日本酒も良いなぁなんて思えてくる。
ああ、でもそこまでは流石にやり過ぎかな。
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