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不思議な店
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しおりを挟む疲れた。
ぽつり、と自分の口から無意識に出た言葉を飲み込むように口に手を当てる。
いや、まだ。まだやれる。
ふと顔を上げると、ガラスに陰鬱そうな顔をした男の顔が目に入った。
一瞬ギョッとしてそれが自分の顔だということに気がついてもう一度愕然とする。
暗闇のガラスに反射して見える顔ですら、何というか、負のオーラが立ち上っているみたいだ。
「……ははっ」
何て顔してんだ。
気がついてしまえばもうダメだった。
ずるずる、と地面に引き摺り込まれるように座り込む。
はぁ。
癖になってしまった溜息。
そう言えば最近まともに飯も食ってない。
家に帰るのは大概真夜中で、コンビニの飯は美味いけど飽きた。腹は減っているような気もするけど、何となく喉を通らない。
いつまでも来ない眠気を無理矢理に手繰り寄せるように酒の量も増えた。
その割にぐっすり眠れた感覚は久しく感じていない。
酒は元々好きでも嫌いでも無いけど、ここ最近は旨いと思って飲んだ記憶はほぼ無い。
「………疲れたなあ………」
認めてしまえばもう立ち上がるのも難しかった。
しばらく道端に座り込んで、無になる。
なんにもかんがえられない。
はぁ。
もう一つ溜息。
遠くで車の音が聞こえる。
夜の風はひんやりしていて、なんだか酷く惨めな気持ちになった。
泣きたいような、なんだかどうでも良いような気持ちになって、むしろ少し笑えた。
……はぁーぁ。
3回目の溜息。
…少し休んで、立ち上がるぐらいの気力は養えたみたいだ。
いつまでもこうしてもいられない。
ぐっ…っと足に力を入れて立ち上がる。
「……っ」
立ちくらみ。
一瞬のブラックアウト。
その瞬間、ふわっと強烈に美味そうな匂いを感じる。
「……何……?」
なんだか、夢の中にいるような心地。
立ちくらみの瞬間のフワッとした脳の痺れる感覚が消えない。
疲れた足は、けれどふらふらと匂いの元に自然と引き寄せられていく。
こんな所に店なんてあったのか?
見慣れた最寄駅から家に向かう帰路の途中。
真夜中も近い時間にその店はあった。
雑居ビルの隙間に、ぽつん、とそこにあった。
暗闇の中、ふんわりと灯る灯りに誘われるように。
気がつけば俺の手は店のドアに手をかけていた。
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