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獣国編

1 新たなる地へ

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「リア!」
「いくよ 氷柱アイスツェプフェン !!」


3㍍程ある巨大熊ベアラッフェの頭上に大きめの氷柱が何本も現れ落下し突き刺さっていく、苦痛に叫ぶベアラッフェに愛剣である※《シャヌ》を構え青年は首を切り落とし、シャヌについた血を振り払い鞘に納めた
森の中、木々の合間から溢れ落ちる木漏れ日が艶やかな黒髪と耳につけているお揃いのピアスをキラリと輝かせ翻り少し離れた場所にいる『リア』と呼ばれた少女の元へと歩いていく


「リオン、怪我はない?」
「ああこれくらいなんともない」
「そっか(予想以上にリオンが強かった件…私戦闘時要らなくない?)」
「リア」
「なに?…んっ」


『リオン』と呼ばれた黒髪の青年は『リア』と呼ばれる少女、マリアンの元へ辿り着くと手を伸ばし優しくマリアンの頬を撫で額に口付けをした後、軽くリップ音がなるように唇を重ねた


「どうした?」
「ううん…リオン怪我したらすぐ教えてね?」
「ああ…リア…」
「あ、え、リオン…ちょっと待って…っ!……ん!……ふ……ん!」


リオンはどこか遠くを見て何か思い悩んでいるマリアンに問いかけるが応えないのに少し不満を感じるが、直ぐに自分のことを気遣うマリアンに愛しさが増し顔のいたる所に唇を落としもう一度自分の唇をマリアンの唇に重ねた。逃げられぬように腰と後頭部へ手を回し更に深く口付けていく、静まりかえった森林の中に聞こえ始めた水音と小さく漏れる甘い声、それが長く続きそうになりそうなときサクサクと軽音な足音が聞こえ始めた。
小さな黒い生き物がリオン達の元に辿り着くと軽々とマリアンの肩に飛び乗りいまだ口付けを交わしているリオンの顔をプにプにの肉球で叩き始めたのだ


「ん……っ……はぁ、リオン駄目だって…ば」
「ちっ…セバス…」
(ここは隣国へと続くガロウ森林ですよ坊っちゃん、イチャつくならばここを出てからにしてください)

    
リオンはいまだペチペチと顔を叩いてくる生き物…黒猫の肉球…否、前足を掴み遠くに放り投げてから先程の魔獣の魔石を回収しに向かうためマリアンから離れていった。そう今マリアン達がいるのは次の目的地である獣国ヘと続くガロウ森林にいる、そしてこの森林はマリアンにとってある意味がある場所だ。ゲームの続編[獣国編]で断罪され国外追放された悪役令嬢マリアンはボロボロになりながら何とか獣国へと辿り着く、そして冒険者としてその日食べていけるか程度の生活をして過ごしていたある日、聖地へと行くための手がかりを探すために訪れたリオンとヒロインを見かける、それだけならばよかったのだがそのヒロインの周りにはリオンとは別にこの獣国の美獣男(攻略対象)に囲まれチヤホヤされ幸せそうに笑っている所を見かけ嫉妬と憎悪に駆られる、そしてある日ヒロインが一人で町を出歩いているところを見かけた悪役令嬢は後を付け森に1人になった所を狙い亡き者にしようと魔術を使い襲う…だが魔術がヒロインを襲う寸前に颯爽と現れたリオンに防がれてしまう。そしてヒロインを攻撃した悪役令嬢マリアンを憎んだリオンに魔術で残酷に殺されるのだ、その森というのがいまマリアン達がいるこの[ガロウ森林]である。
最初マリアンは獣国へ行くのを止めようと思っていた、だが賢者マオに託されたについて調べるため向かうことになり入ったこの森…その為、先程からふとした瞬間ゲームの第2弾が始まろうとしていること、強制力が働いてしまっているのではないかと思い不安と恐怖に襲われ考え込んでしまっていた、そんなマリアンをリオンは心配してこうして接触し声をかけたりしてくれる。


「リア、大丈夫か」
「ぅん…」
「なにかまた考え込んでいないか?」
「大丈夫、なんかあったような気がしだけだから」
「そうか」
(マリアン様、もしなにか少しでもみたりしたら教えてください)
「分かったわ、セバスさん」


またボーとしてしまっていたのだろう、いつの間にか肩の上に乗り頬に頭をこすりつけながら声をかけてくれるセバスさんに少し癒されながらリオンの顔を見ながら答える少し納得していなそうな感じのリオンの顔が見えるが視線を逸らし肩に乗っている黒猫…セバスさんの喉元を優しく撫でればゴロゴロと小さく聞こえてくる音についつい頬が緩み微笑んでしまう、そんなマリアンの姿にリオンは安心と嫉妬が混じった表情で見ていた。
この黒猫は賢者マオが召喚した守護獣で獣型、獣人型、人形に変わることができる、獣型は黒猫、人形はダークスギライトの髪色とムーンストーン色の瞳でリオンの執事でリオンに負けず劣らずかなりのイケメンだ、そして獣人型…この姿は私もまだ見たことがないから見てみたい…
そこで、ふと思い出したことがあった。
それは賢者マオの召喚獣はゲームでは聖地の守護聖獣として第3弾も聖地編で出てくる隠し攻略キャラなのだ。
ゲームでは聖地にずっと住んでおり賢者マオと暮らした家と聖樹をずっと守っているキャラで、リオンとヒロイン(攻略済みキャラ)が共にその家に辿り着くと守護聖獣(黒豹)が現れ話しをすることになり、力を示せと聖樹へと近付くために戦うことになるラスボス的存在なのだ、ただし!!?このラスボスである黒豹は隠し攻略キャラで、隠しキャラとしてのルートを開くには、戦闘時味方は誰1人死んでいない状態で上手く黒豹のHPを1に残した状態で2分間キープするというかなり鬼畜設定な方法だった、これには攻略本が出て知り挑戦した私も何度コントローラーを投げたことか…やっと…やっと出来た時はついついガチ泣きしてしまったほどに…
その為、本来なら今ここに一緒にいるのはおかしい状態なのである、聖地にいるはずのが今はリオンとマリアンのとして共に旅に出ている。そして学園でヒロインと何度か出会っていたようだけど、ゲームとは全然違う状態だからかヒロインセバスさんが隠しキャラとは気づかなかったみたい、気づいていたらセバスさんと仲良くしようとするはずだし「このモブが!!」なんて言葉でないはずだもの…
私も最初気付かなかった、疑問を持ったのは獣化した事と属性の多さからそこから話す内容や接し方から疑惑から確信に変わり賢者マオに真実を聞いたことから確実になった。
あれからセバスさんの事を注意深く見ていると長く生きてきたからか魔術や戦闘の仕方私達の分からない地理や文明について教えてくれる、このガロウ森林についてもゲームでは入り組んでいるし、ボスとして有名アニメZIB●RIのモロの灰色版が出て倒さないと森を抜けられない筈なんだけど…
セバスさんが「少し話して参りますね」と黒猫姿で1度離れて帰ってきたとき「もう大丈夫です、通っていいそうです」と言われた後、遠目だったけどボスが見えた気がしたし森林に入ってから感じていた違和感が消えたのは気のせいでは無いと思う、リオンはそんなセバスさんの様子をあきれた感じで見ていたけどね…
そんな事を考えながら足を進めていれば私達は森の出口まで近づいていたのか前が開け、木々の向こう側か溢れる光と青空が見えてきていた


「リア、もうすぐ獣国につく」
「うん」
「調べるなら1度、王家が保管している資料も見せてもらわないといけないな」
「そうね、一般では記されてない書物があるはずだし」
(マオ様はこの国とは殆ど関わっておりませんが勇者様は国の立ち上げ時幾つか手を貸していたはずです、なので何かしらあるかと思われますが)
「そうか、めんどくさいが王にあうか」
「リオン…ありがとう」
「俺も詳しく知りたいからな、気にするな」
「うん」
(行きましょうマリアン様、坊っちゃん)
「ええ」
「ああ」


森を完全に抜けると…
久々に感じる体を照らす太陽の光と全身を撫でていく心地良い風、どこまでも続く青い空、そして見える先は獣国の城壁とそこへ続く道
旅へ出て1月がたちガロウの森林を抜けようやく見えた獣国とそこで起きるかもしれない獣国編第2弾の壁に不安と恐怖を感じながらも共に歩んでくれるリオンの手を取り1歩1歩を踏み出し歩んでいく
だから…この時、私達は自国で何が起きているのか知らなかった
ヒロインとセルティックがいつの間にか牢獄から脱走していた事や魔獣が強くなっており騎士団が多く戦いに出ていることなど…エイザル様から連絡がくるまで知らなかったのだ




ーーーーーーーーーー

※《シャヌ》…護拳の付いた曲刀。魔石が付いておりの媒体(杖代り)として魔法を使うこともできる、剣自体も硬度で威力が高い。
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