上 下
65 / 95
第六章 多々良さん探し 開始

小菊さんとさきっちょだけ(5)

しおりを挟む

 たくさんの、質問を続ける。

「小椿さんの起こした事件を、あなたは知っていますか?」
「いいえ」


 「小椿さんは、目にまつわる何かを起こしたことはありますか」
「……はい」


「自殺を止めたことはありますか」
「いいえ」

「自殺をしたことはありますか」
「はい」

「僕の事、好きですか?」
「うん」


 「ね、もうお昼休み終わっちゃうよ?」


  まるでイケナイことをしている時のように、悪戯っぽく小菊さんは言う。たくさん質問をしてもいい、と言ったのに。時間制限付きだなんて聞いていない。けれど、どっちにしろ、次の質問で最後にするつもりだった。


 「小菊さんが自殺するとしたら、理由はなんですか」


  口元に一指し指を当て、少し首をひねった後で、小菊さんは。


 「きっと、ボクは弱い人間だから、逃げ出したいなって強く、強く思ったら自殺する。死ぬっていうのは、すべてのことの最期の手段で、だからこそ、もう、どうしようもなくなったときの飛び込み先なんだと思うから。死んで、幸せになるの」


  座っていた場所から小菊さんは立ち上がる。


  まぁ、多々良姉妹が、簡単に口を割ってくれるとは思っていなかったけれど、ここまでとは思っていなかった。もっと、生卵を扱うかのように優しく接して答えまで導いてくれると思っていたのに……は言い過ぎだけど。


 「ま、もー少し、自分で考えてみるんだねー」

 「今度はいつ、『取引』をしてくれますか」

 「ボクに「まいった」って言わせたら、かな。とかね! いや、あの、その、微妙に手を蠢かせるのは止めてね」

 右手の指をぐにゃぐにゃと動かすのを止め、小菊さんと同じように立ち上がる。
 見えない、顔。

  認識できない、顔。
  風を切るような音が、瞬間、僕の真横で聞こえた。すぐさまそれはガラスが割れる音に変わる。音の下方向を見れば、割れた小瓶と、透明な液体がこぼれている様があった。
  

 投げられた? これを?
 
 僕の足元には、その液体が少々かかっていた。
 
「これ、もし危ない薬品とかだったら、シャレになりませんよね」


  冗談で言ったはずなのに、小菊さんは何も答えない。口を半開きに指せたまま、声を出すことができない状況みたいだった。


  唖然としているようだ。

 「小菊さん?」

  僕の真横に落ちた小瓶。言い換えるならば、小菊さんの横でもあった。
 これは、彼女を狙ったものなのか?
 
 ……最近、意味の分からないことばかり、周りで起きる。
 
 小菊さんは僕の影に隠れるように寄り添い、服の袖を掴み

「あのさ、今日、一緒に帰ってくれない?」
  
 そう言った。
 
「まいった、って言ってくれたら一緒に帰っ」

 「バカ」


  短く悪態をついて、けれど小菊さんは僕の影から退くことはない。廊下の奥、小瓶が投げられた方向を、じぃっと見つめていた。

  今見えるのは、突き当りにある教室と、その前を伸びる廊下、それから大きな柱。昼間の日の光をもってしても、うす暗い場所だ。


 「……もしかして、小菊さんって、僕と同じく目が悪かったりしますか?」

 「え、えっと、そうだね。メガネをかけるほどじゃないけど、少し悪いかも」

  ならば見えないはずである。

  廊下の奥に見えた、人物のことを。
  小瓶をこちらに―――小菊さんに向かって投げてきた、シャーペンを常備している人物のことを。

 「次郎丸三郎って奴を知っていますか、小菊さん」

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【R15】アリア・ルージュの妄信

皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。 異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

港までの道程

紫 李鳥
ミステリー
港町にある、〈玄三庵〉という蕎麦屋に、峰子という女が働いていた。峰子は、毎日同じ絣の着物を着ていたが、そのことを恥じるでもなく、いつも明るく客をもてなしていた。

マクデブルクの半球

ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。 高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。 電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう─── 「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」 自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。

旧校舎のフーディーニ

澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】 時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。 困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。 けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。 奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。 「タネも仕掛けもございます」 ★毎週月水金の12時くらいに更新予定 ※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。 ※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。 ※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。

処理中です...