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第六章 多々良さん探し 開始
小菊さんとさきっちょだけ(5)
しおりを挟むたくさんの、質問を続ける。
「小椿さんの起こした事件を、あなたは知っていますか?」
「いいえ」
「小椿さんは、目にまつわる何かを起こしたことはありますか」
「……はい」
「自殺を止めたことはありますか」
「いいえ」
「自殺をしたことはありますか」
「はい」
「僕の事、好きですか?」
「うん」
「ね、もうお昼休み終わっちゃうよ?」
まるでイケナイことをしている時のように、悪戯っぽく小菊さんは言う。たくさん質問をしてもいい、と言ったのに。時間制限付きだなんて聞いていない。けれど、どっちにしろ、次の質問で最後にするつもりだった。
「小菊さんが自殺するとしたら、理由はなんですか」
口元に一指し指を当て、少し首をひねった後で、小菊さんは。
「きっと、ボクは弱い人間だから、逃げ出したいなって強く、強く思ったら自殺する。死ぬっていうのは、すべてのことの最期の手段で、だからこそ、もう、どうしようもなくなったときの飛び込み先なんだと思うから。死んで、幸せになるの」
座っていた場所から小菊さんは立ち上がる。
まぁ、多々良姉妹が、簡単に口を割ってくれるとは思っていなかったけれど、ここまでとは思っていなかった。もっと、生卵を扱うかのように優しく接して答えまで導いてくれると思っていたのに……は言い過ぎだけど。
「ま、もー少し、自分で考えてみるんだねー」
「今度はいつ、『取引』をしてくれますか」
「ボクに「まいった」って言わせたら、かな。とかね! いや、あの、その、微妙に手を蠢かせるのは止めてね」
右手の指をぐにゃぐにゃと動かすのを止め、小菊さんと同じように立ち上がる。
見えない、顔。
認識できない、顔。
風を切るような音が、瞬間、僕の真横で聞こえた。すぐさまそれはガラスが割れる音に変わる。音の下方向を見れば、割れた小瓶と、透明な液体がこぼれている様があった。
投げられた? これを?
僕の足元には、その液体が少々かかっていた。
「これ、もし危ない薬品とかだったら、シャレになりませんよね」
冗談で言ったはずなのに、小菊さんは何も答えない。口を半開きに指せたまま、声を出すことができない状況みたいだった。
唖然としているようだ。
「小菊さん?」
僕の真横に落ちた小瓶。言い換えるならば、小菊さんの横でもあった。
これは、彼女を狙ったものなのか?
……最近、意味の分からないことばかり、周りで起きる。
小菊さんは僕の影に隠れるように寄り添い、服の袖を掴み
「あのさ、今日、一緒に帰ってくれない?」
そう言った。
「まいった、って言ってくれたら一緒に帰っ」
「バカ」
短く悪態をついて、けれど小菊さんは僕の影から退くことはない。廊下の奥、小瓶が投げられた方向を、じぃっと見つめていた。
今見えるのは、突き当りにある教室と、その前を伸びる廊下、それから大きな柱。昼間の日の光をもってしても、うす暗い場所だ。
「……もしかして、小菊さんって、僕と同じく目が悪かったりしますか?」
「え、えっと、そうだね。メガネをかけるほどじゃないけど、少し悪いかも」
ならば見えないはずである。
廊下の奥に見えた、人物のことを。
小瓶をこちらに―――小菊さんに向かって投げてきた、シャーペンを常備している人物のことを。
「次郎丸三郎って奴を知っていますか、小菊さん」
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