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第六章 多々良さん探し 開始

恋は盲目事件(5)

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 衝動に突き動かされた僕は、立ち去ろうとしたツバキさんの腕をつかむ。

 「僕は、多々良さんのことが好きなんです。大好きなんです。だから、たとえ小学生であろうと、男であろう
と、猟奇的な事件をおこそうと、好きなんです」


  はてさて、自分でも何が言いたかったのだろうか。分からない。けれど、なぜだかこれだけは伝えておかなく
てはいけないような気がした。


 「多々良さんじゃない、姉妹のことは、嫌い?」

 「好きです。みんなこんな僕に優しくしてくれて、温かくて」

  僕の欠点を真っ直ぐ見てくれる。誰一人として、僕に欠点のレッテルを張り付けない。

  やさしい完璧な姉妹。だけど。


 「でも、一目ぼれをしてしまったのは、あの多々良さんなんです」

  小雨が降り、桜の花びらが濡れて散る、あのデパートの屋上で。


  そうだ、僕は。


  一目ぼれをしたんだ。

  今、理解できた。僕は彼女が好きで、だから顔が見たくなった。完璧だから好きだとか、顔が見えなくて興味が出たとかも―――正しいのかもしれない。けれど、違う。


  難しい事をごちゃごちゃと感じる前から、僕は、あの、屋上から足を踏み出せなかった彼女のことが好きだったんだ。

  少しの沈黙の後、ツバキさんの腕はするりと僕の手から逃れ、上に行く。夕焼けになっていた空が隠れたのは、ツバキさんが僕の両目を覆ってしまったから。


  ヒンヤリと冷たい指が僕の瞼の温度を奪っていく。

  真っ暗闇の、中、吐息と僕の心臓の音が大きく聞こえた気がした。


 「あなたの状況を一言で表す言葉があるわ」

  ツバキさんは、くすり、とそれはもう素敵な音色で笑い、言った。




 「恋は盲目」

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