上 下
38 / 95
第六章 多々良さん探し 開始

小椿さんと、うさぎのお世話(1)

しおりを挟む
 

 校庭の隅にあるウサギ小屋に来ていた。
 緑色の大きなゲージに入れられた三匹の白いウサギは、形容しがたいほどに可愛かった。
  
 弱い動物というのは、あたり構わず可愛らしさを振りまいて、動物の庇護を得ようとするものなのだろうか。真偽はともかくとして人間に対し、それはとても有効に働いている。
  
 鼻をヒクヒクと動かし、時折水を飲みにひょこひょこと動く彼らを三角座りで見つめていた。
 警備員さんや他の人間の目から隠れるため、ウサギ小屋の裏、校舎からも見えない場所にいるので、誰も僕を見つけることはできないだろう。
  
 保護者達が校門へと向かう時を見計らって、同じようについていこうと言う算段だ。
  
 校舎の門をもう一度、その他の保護者にまぎれることなくくぐるのは、僕のメンタルではできっこないのだ。警備員さんと気まずい空気になるのは嫌だ。
 
「みつけたー」

 「今、誰にも見つからないという設定なので、遠慮してもらっていいですか、多々良さん?」

 「マリちゃんと呼んで。多々良小手毬こでまりの、マリちゃん」

  なにくわぬ顔をして、僕の隣に腰掛ける小学生の多々良さん―――通称マリちゃん。

  高校二年生の男が「マリちゃん」と小学生に呼びかけるのはいささか犯罪臭がする。


 「マリ、ちゃん。授業はどうしたんですか?」

 「先生が、保護者を追いかけなさいって。授業を中止するわけにもいかないから、私は放置されたの。私立学
校って適当よね」


  そうだね、と適当に相槌を打った。

 「なんで逃げたの?」

 「マリちゃんがとんでもない事を作文したからですよ」

  『私の婚約者について』。九割九分九厘、その婚約者とやらは僕のことである。

 「事実だよ? 婚約者でしょ? あなた」

 「マリちゃん、僕、記憶が割とあやふやになってますが、婚約者を作った覚えはないと大脳君が主張してます。
変な記憶を刷り込まないでください」


 「ちぇ。良く書けたのに」

  唇をとがらせて、手元にあった石を、グラウンドめがけて投げたマリちゃん。あきらめの早いものだ。
 もし流されてしまっていたら、小学生の婚約者ができる所だったのか。光栄なのか、不幸なのか。

 「じゃあさ、覚えてる? このウサギ、私が風邪ひいた時、話したウサギだよ?」

  脳みそは応答せず。
  僕が黙っているとマリちゃんは、頬を膨らませてから、肩を落とした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【R15】アリア・ルージュの妄信

皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。 異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

港までの道程

紫 李鳥
ミステリー
港町にある、〈玄三庵〉という蕎麦屋に、峰子という女が働いていた。峰子は、毎日同じ絣の着物を着ていたが、そのことを恥じるでもなく、いつも明るく客をもてなしていた。

マクデブルクの半球

ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。 高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。 電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう─── 「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」 自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。

旧校舎のフーディーニ

澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】 時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。 困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。 けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。 奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。 「タネも仕掛けもございます」 ★毎週月水金の12時くらいに更新予定 ※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。 ※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。 ※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。

処理中です...